クリスタルクラスター
あはは・・うふふ・・と楽し気なお客様の笑い声が響いている。
こんにちは、パワーストーン(以下略 パワ石)のお店<カルサイト>の店主で、巻き込まれ召喚で異世界にやって来た<オマケの役立たずのチビ>こと大西詩乃で御座います。
あれからひと月経ちまして、お陰様で常連の客様も出来ました。
リーやアンが連れて来てくれたんだけどね、やはり友達と言うのは有難い、あぁ・・ありがたや、ありがたや・・。
この世界の平民の皆さん的には、やはり<魔力や魔石>に並々ならぬ忌避感があるのか、陰険針金執事のクソ予言通りに<空の魔石>を使って造ったパワ石のアクセサリーの売れ行きは頗る良く無かった。
しかしご安心ください、儲けは出ているのだ。
意外な物に人気が集まった、その一つが<つまみ細工>である。
あれだ、七五三の晴れ着のお嬢ちゃんとか、成人式で御振袖に身を包んだ光り輝くお嬢さん達を彩っている和風の細工物・・結い上げた頭や帯などに飾られる和装のアクセサリーだ。
<つまみ細工>は、綺麗な布を形よく花びら型に折り込み、のり(ここでは膠だけれど)付けして花の形に纏め、飾り物に仕上げる日本の伝統工芸品だ。
詩乃は中学校の手芸クラブでその作り方を習っていた、う~ん?芸は身を助けるとはこの事なのか?クラブの顧問だった高桑亜美先生、お元気でしょうか?
お陰様で詩乃は何とか生きております、ありがとうございます合掌。
つまみ細工自体は作品をよ~く観察すれば、器用な人などすぐ作れるようになるし、思ったより簡単に作れてしまう小作品もあったりする。大事なのはチマチマと続く細かい作業に負けない根気と、最後までやり通す強い根性だ。
まぁそれが大変だったから手芸クラブでは大量の脱落者が出たのだが、中学生の集中力などそんなモノか?他に楽しい事が沢山あるしね。
・・ところがだ、此処異世界は違っていた。
自分や家族の服は自ら糸を紡ぎ、布から織って仕立てるのがこの世界の女子力だ、半端ない恐るべき女子力・・此処は素直に尊敬して降参してしまおう。
だからなのか、つまみ細工はすぐ真似されるようになってしまった。
・・だが、しかしである。
詩乃が細工に使っている布は残り物の端切れながら、聖女様や王妃様・王都住みの高位の女性貴族(王妃様派の)様から下賜された一品なのであった。原材料が高級品なので、作品の出来栄えが全然違って見えるのだ、そう月とスッポンほどに。
お店の素敵な商品が欲しい、だけど買えるお金がない・・そんな苦悩に悶々としている女の子達のために、詩乃は端切れを使いやすいようカットして<素材>として売りだす事にした。
その他にも、パッチワークで造ったポシェットやカバンなど、パターンの見本と共にお店に飾ってみたりした。すると皆、目新しい手芸に大喜びして真似っこしてくれたのだ。
『うちは手芸屋さんじゃないんだけど、パワ石屋さんなんだけどぉ』
<素材>の値段は完成品の半分以下だから、大幅な値下げになって女の子達の手にも届く商品になった。また、お金だけでなく季節のお野菜などでの物々交換もOKとしたのでお母さん達も喜んでくれた。詩乃も珍しい野菜や加工食品をGetできて嬉しかったし、その食べ方なども教えて貰えたのでウィンウィンな良い関係になれたのだ。
また性別・年齢層に関係なく、一番ウケたのは魔石で造ったボタンだった。
服の前を閉じるのには、ヒモで結ぶか木製のボタンを使うかしかない世界だったせいなのか、色とりどりで形の変わった可愛い詩乃のボタンは喜んで受け入れられた。
女性に人気なのは、いろいろな花や四つ葉の形を模したボタン・・色は原色からパステルカラーまで取り揃えて。
男性は錨のマークのお馴染みのアレが大ウケした・・海近いしね、街には海の男も多いのだろう。勿論、色は金・銀・ブルー・白、形も大・中・小と各種取り揃えてございますですよ。
色々とバリエーション揃えちゃうのは、日本人のサガなのかもしれませんねぇ、選べるって楽しいし。
実はこのボタン、皆が苦手にしている<空の魔石>で造ってんだけどね?
ボタンだと平気なんだ?ふ~ん?そうなんだぁ~。
あえて原材料は言わないけどね、表示義務も無い事だし?企業秘密って奴だ。
皆は詩乃が王都から持って来た商品だと思っているみたいだった。
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そんなお店の中に有る小さな空間、日当たりが良くて明るい中庭にテーブルとイスを配置して、本日も手芸教室オープンである。
初めは椅子が4脚だけの小さな集まりだったが、お客様達の熱い要望によって・・今ではテーブル2台・椅子10脚にグレードアップしている。
通って来るお客様も様々で、家事手伝いから見習いの若い女の子達から、仕事をしている女の人達、ベテラン主婦や杖をついているお婆ちゃんまで。各々の空き時間を利用して、入れ代わり立ち代わりカルサイトにやって来て手芸を楽しんでくれている・・バリエーション豊富な・・女の園だ。
お客様達はお菓子を持ち寄り、ぺちゃくちゃとお喋りしながらスイスイと手を動かす。女の人にはこんな時間が必要なんだよね、こればかりは何処の世界でも共通な現象だ。
詩乃も街の情報とかをいろいろ教えて貰って助かっている、肉を買うならゴンザさんの店が良いとか、街はずれの湧水は街中の井戸より美味しいだとか。
なかでも話題に多く上がるのはやっぱり恋話で、皆興味津々に話し込んでいる。
街が小さいせいでネットワークが容易なのか、はたまた適齢期の年齢が低くて婚活が盛んなせいなのか、ちょっと解らないが、街中の独身者の情報が小母さん達に筒抜けになっている。
なんか・・ちょっと怖い、叔母さん達は敵に回したくないものだ。
「諦めが悪いのかねぇ、いまだに子爵様の館にパンを配達に行ってるらしいよ、山の手のパン屋の娘さんは」
「ははは、そんな仕事は見習いのやる事じゃないかね。大物狙いだから事ねぇあの娘さんは、細い美男子がお気に入りだとさ。ははは・・・」
『子爵様の所の大物ねらい?大物って誰よ?
・・・・・そんな人いたかねえ?・・気になる、だれ・・だれ?』
「ああ、執事のエバンジェリン様だろ、良い男だものねえ~」
「ぶぅぎょえええぇぇぇぇ」
喉から変な音が出てしまった、皆が呆れた目で見てくる・・恥ずかしい。
『しかし・・良い男?あの陰険針金執事がかぁ?・・解せぬ』
良かった、お茶飲んでいたらマーライオンになるとこだったよ!ぴゅ~だ。
心底どうでも良い情報にビックリしていたら、ドアチャイムが鳴って誰かが来たみたいだ。
「おぉぅ、いらっしゃるませ~」
お客様をお迎えする為に店先に出たら、子爵様の館で顔を合わせた事が多々あった能面メイドが不機嫌そうに立っていた。
この人は詩乃の事を嫌っているからねぇ・・勿論詩乃の方も好きでは無いのだが・・何で来たし。
お互い睨みあっていたら、能面メイドを押しのけるようにして小柄な(異世界比、それでも身長が170cmオーバーだ)女性がにこやかな笑顔で出て来た。超絶グラマーなトデリのビーナスこと、子爵様の奥様・・その人がである。
「シーノンちゃん、久しぶりねぇ~。
ちっとも館に遊びに来てくれないんだもの、寂しかったわ~。
うふふ、だからこっちから遊びに来ちゃったの」
どうやら話し相手(愚痴聞き係)の詩乃が館にいなくなって、ご不満が堪っているらしい。急に営業時間に来られてもなぁ・・ええ~と、御客様がぁいるしぃ・・困ったなぁ・・と考えながら振り返ると、中庭のテーブルにはもう人っ子一人いなくなっていた。早っ!
「お引越しのお祝いにお茶のセットを贈ろうと思ってね、シ~ノンちゃんのお店も見たかったしね。気に入ってくれれば嬉しいわ~」
そう言う事ならと中庭に案内し、可愛いクッションを置いて簡素な椅子を勧める。その間に能面メイドが木箱を開け、中からお祝いの品を取しテーブルの上に並べだした。小花模様の可愛いティーセット。
平民が柄入りの食器など、とてもとても使う事が叶わないこの世界で、これは破格の贈り物と言って良いのだろう。
「有難うございます、とっても嬉しいですぅ、奥しゃま」
「あぁ、あなたはお茶入れたら、下がっていていいわ」
こんな狭い店の中で下がっていられる場所など無いのだが、外で待っていろと言う事なのか?困ってオロオロしていたら能面は乱暴にドアを開けて外に出て行った・・相変わらずの態度だねぇ。
能面を下がらせると、奥様は店を見まわして楽し気に感想などあれこれ話し・・やがて押し黙った。
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愚痴タイムの始まりだな・・何が出るかな、何が出るかな、今日の愚痴は何かな?例のメロディーを脳内でリフレインしながら詩乃が黙って待っていると、奥様はため息を深くつき話し始めた。
「冬の社交界の準備をしなくてはならない時期なのだけれど・・」
王都の社交界か・・大変そう。
奥様は今でこそ貴族然として、優雅にふるまっているけれど出自はA級平民なのだそうだ。
魔力が多い事を見込まれて、王宮の侍女としてスカウトされたハズだったのだが。実際は手のかかる王族の我儘御婆に仕える人員が悉く逃げだしてしまったので、この際出自は問わない・・誰でも良いから連れて来い!な、人身御供的なブラック人事だったのだそうだ。
毎日毎日、我儘な御婆に振り回され、胃薬の手放せない状況が続き、心身とも疲れ果てしまっていたと言う。それなのに同僚である落ちぶれ貴族の侍女達は、奥様が平民出だと馬鹿にして意地悪をして仕事を押し付けてくるし、馬鹿な男達はセクハラを仕掛けて来るしで散々な目に合っていた。
本当にもう倒れる寸前まで追い込まれていたのだそうだ。
穏便に職を辞するには寿退職しか方法が無いのだが、平民出の自分にはそんな当てもない。そんな崖っぷちな状況の時に、顔見知りだった子爵様がプロポーズしてくれた。まさに地獄に仏・・この世界には仏様は居ないだろうが・・天から救いの手が差し伸ばされた心地で<秒>で求婚を承諾し、速攻で王宮を脱出しトデリにやって来たのだと言う。
命の恩人の子爵様には感謝しか無いし、何より誠実な人柄と逞しさに王宮時代から惚れいたとかいないとか・・セクハラから庇ってくれていたんだってさぁ・・なんだ両想いじゃないか・・ご馳走様。うえっぷ、甘~~~い!!
子爵様は子爵様で、こんな辺境に来てくれる様な酔狂な貴族娘なんかいなかったから、奥様と結婚出来て万歳!だったわけで・・。
な~んだぁ、只のノロケの様だ。
お互い王都を抜け出せて良かったぁ・・だったのね。
お似合いの御夫婦だと思いますよ?幸せですよね・・今?
リア充だよね、ご馳走さまです、もうお腹一杯です。
それでも、抜け出したつもりでも・・ついて回るのが貴族の義務のあれこれで、社交と言う名の派閥争い・・マウントの取り合いの傍観者として嫌でも参加しなければならないのだろう。
『貴族って面倒くせ~、王都なんか行きたくない~社交界なんか出たくない~って事ですね』
「ドレスは良いのよ、地味目なそれなりの型落ちしていない品を着ればいいのだから、プロポーションは負ける気はしないしね」
だいぶストレスが溜まっているようだ。
問題はアクセサリィー。
アクセサリィーには魔石を使う、だからその人物の魔力量と魔石への耐性を誇示するステイタスとなる。強い魔石を使えば高位貴族に生意気に映って難癖つけられる恐れが有るし、弱い魔石だとこれまた馬鹿にされる・・どうすりゃいいねんって話なのだろう。
奥様はA級平民の出だから、そこのところは特に気を遣うしナーバスにもなる。
大好きな子爵様に恥を掻かせたくは無い、女の意地もだまっちゃいない・・かといって魔石は高価だ、トデリの財政は何時でも厳しいし、強い魔石など領民には毒になって良い事など無いのだから。
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ふ~む、これは重症だねぇ。
詩乃が思うに、強い魔石って全然綺麗じゃないのだ。
透明感もないし、色は濁っているしチープな感じ、そう!プラスチック製のお子様ビーズに似ている。石のカットや彫金の技術もお粗末で、王妃様がアクセサリーを付けているのを始めて見た時には本当にビックリした。だってあの王妃様がトイザ〇スで売っている様な、お子様の<お姫様コスプレ用>のティアラを頭に乗っけている感じがして、笑いそうになったのを必死で堪えた覚えがある。
笑ったらマジで殺されていたかもしれない・・王妃様怖いからな。
とにかく、この世界のお貴族様は、魔石に思い入れが有る堪えた為か、彫金とか加工に考えが及ばないのかも知れない。デザインがダサすぎる!
「奥しゃまドレス 子爵様の目 色着る?緑 素敵」
この世界はカップルの色を纏う事で、ラブラブ振りをアピールする鬱陶しい習慣が有る。だから奥様のアクセサリィーの魔石は子爵様の目の色、ちょっと暗めの緑色が良いかもしれない。そう、セラフィナイトがいいだろう。その他には、災厄を除け浄化するクリスタルクラスターも使いたいな。
「アクセサリィー 私 造る 任せてくらしゃい。
大丈夫 強い いばる違う 綺麗 素敵 ネックレス わたし造る」
私 頑張るよ!!
そう大威張りで請け負うと、奥様は泣きそうな顔をしながら笑ってくれた。
セラフィナイト、深緑色の石に絹糸光沢のある綺麗な石。
天使の加護が有って、邪悪な者から身を守り人生に平穏をもたらす癒しの石だ。




