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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
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ハウライト

鬱っぽい話です。

詩乃はビビッて毛が逆立ったナウ〇カ状態になっていた、凄く驚くなど感情がはじける時には髪の毛も立つらしい、そう言えばサムイボが立つ様に腕の産毛も逆立っていた。


『あれは演出じゃなかったマジだったんだ、凄いな監督!』


背中に嫌な冷たい汗が流れる。


ここら辺のドアは内側に開くのだが(雪が積もった時にもドアが開けられるようにだ)開ききったドアの外に首なし男が立っている。


『このドアって2メートル以上はあるよね、どんだけデカいの~!』


心の中で絶叫中である。

硬直する詩乃の前に、ドアを潜り男がのっそり入ってくる。


「・・・いらっしゃいまあせ~~~(涙目)」


よく見るとその大男は、先程リーに売ったばかりのローズクォーツのペンダントを手に下げていた。


「ククゥリングオォオフゥはぁ、おぉっけえ~~よおぉう?」

「はあ?何言ってるのか解らん、落ち着け。」


と、ドスのきいた声を持つ大男は赤毛で緑色の目をしていた。

丸太の様に太い腕と白いエプロン、ズボンに付いている白い粉・・パン屋さんかい。リーの父さんか!リーの父さん(たぶん)は、ぶっ太い眉毛の下の緑の目をギョロっとさせて詩乃を睨んだ。


「あんたか、こんな物をリーに売ったのは」


ローズクォーツのペンダントが、寂しそうに揺れている。

リー父さん(確定)ご足労頂きまして恐縮至極でございます、商品のご返品ですか?


「平民に魔石を売るとはどういう了見だ、平民に魔石は毒だろう、俺の娘を害するつもりか」


「毒 ない 大丈夫。

リーに合う作った、石の力 ちょうどいい塩梅。

リーの 気持ち大事 願い叶える手伝う する石。

リー願い パン屋 結婚して 彼氏とお父さんと一緒 やるしたい。

家族一緒 良いこと 気持ち解る 私 だから 手伝う したい思う」


通じたかな~?解って~睨まないで。お願いします拝みます。


「石の力が使えるって、あんた貴族か?魔力を扱えるのか、それにしては言葉がトンチキだが。」


『トンチキ・・(怒)』


意外なようだが詩乃にも魔力はある。

召喚された当時、美人さんと一緒に魔術師長に色々と検査されて判定されていたのだ。



     ******



 検査の結果、召喚された御本人の美人さんは強力な魔力持ちだと判明した。

特級スペシャルデラックスランクに認定され、厳かに聖女様にジョブチェンジされたのだ。彼女は速やかに神殿に迎えいれられ、崇めたてまつられ君臨するに至った。

また王宮においては嫁にしたいナンバーワンに躍り出て、貴公子達の暑苦しいモーションに囲まれたのだ。おめでとうございます、イケメンほいほいの逆ハー状態ですね。

まあ、元の世界でもそんな感じだったのだが。


一方の詩乃と言えばEクラス、生活魔法(水や光・風など起こす、家電扱いの下級の魔術師)を使うのがやっとだった。E・Fクラスの魔力者達は貴族位に留まる事が出来ず、ほとんどの者が平民落ちして、高位貴族に仕えて執事や家政婦長になったりするそうだ。


「魔力はともかく、その言葉使いではな。

聖女様の傍に置くわけにもいかぬし、貴族の引き取りも無いだろうよ」


判定を下した魔術師長(お約束の様に銀色の髪だった)は、物憂げにつぶやいた、さてどうしたものだかと。

ついでに平民用の魔力測定検査も受けたのだ、判定結果はBクラス。

これまた微妙なランクだった、平民のAクラスなら下働きとして貴族に仕える事ができた。それは平民としてはエライ出世の仕事先らしく、みな喜んで貴族に仕える為王都にやって来るらしい。その為地方の街にはAクラス平民など存在しないらしい。

平民の平均魔力はFクラス、ほぼ魔力無しである。

Eクラスの魔力の人は、ちょっと運のいいヤツ扱いされるぐらいだ。


「まあ、魔力を持たない平民の街ならBクラスでも何かと重宝されるだろうが」


その言葉を聞いた時、詩乃の中で今後の方針が決まった。


<鳥頭になるとも牛糞になる事なかれ>

おかん派の漫画家さんも言っていたではないか!


『地方の街に出て平民になろう!平民だったらお情けで、貴族に恩着せがましく嫌な顔されながら飼われている必要もない!これ以上言葉が変だと馬鹿にされたり、背の低さを笑われたりしたくは無い。余計なお世話なんだコンチクショウ~めぃ』


それから成人して王宮を出るまで、平民として生きる魔術を学んでいた詩乃だった(下っ端の魔術師に)。後半、ほぼ自習だったけれど・・下っ端ほど偉そうなのは何なんだろうか?お約束か?



    *****



「ふん、訳ありか。ここではよくあることだ。トデリに喜んでくる貴族様などいないからな。」

「そうなん?子爵様、いるよ 笑ってるよ?」

「子爵様は爺様の代からトデリの代官職だ、何でも爺様が王都で偉いさんをぶん殴って左遷されたのが始まりらしい」


・・・・代々脳筋なのか・・・・そうなのか。


「まあ、そんな事はどうでもいい。あんたは以前にこの家に住んでいた女の話を知っているのか?」


詩乃は首をかしげた、針金執事からは先の住人が一人死んだ事しか聞いていない。


「この家に住んでいたのは貴族の出の女だった、かなり昔の話になるが・・この俺が子供の頃の事だ。何があったのか知らんが、女が一人で王都から引っ越してくるなんざ、まずありえん話だ。体の線の細いか弱そうな女だったよ、歳も20代半ばくらいで若く綺麗だった。家事もした事が無かったんだろう、白い綺麗な手をして驚いたもんだ。初めのうちは下働きの婆がいたが、ある日金目の物を奪ってトンズラしたよ。・・良くある話だ。面白くも無い。」


その後もその女の人は一人で家に住んでいたらしい、魔力が弱いながらもあったらしく、失せ物が出た時など占ってもらうと不思議に見つかったりしたそうだ。

たまに王都から荷物が届くと珍しいお菓子を振る舞ってくれたり、字を教えて本を読んでくれたりして、随分と子供達に慕われていた優しい女の人だったそうだ。


「ごべんなされ・・それ わたし 無理」

「話していれば解る、気にすんな」


・・・(黙)


「この家は魔道具が沢山あるだろう、竈とか水桶とか暖をとる床とかな、魔石を使って動かすブツだ。平民には使えない代物だが貴族様なら使えるだろう?それがあったから生活力の無い女でもどうにか一人暮らしが成り立っていたんだろう。

だが・・そのうちだんだんと王都から荷物が届かなくなってきた、屋敷も代替わりして女と面識のない奴が増えるにつれ忘れ去られていったのだろう。それでも子爵様とか俺ら街の者は気にかけ、差し入れなどして見守っていたんだ。

 あれは雪が3日も吹き荒れて、やっと止んだ寒い日だった。

俺は親父に言われてパンを持ってこの家に来たんだよ、ドアの鍵は開いていた。ドアを開けて声を掛けても返事が無い、嫌な予感がして奥に入ると家の中が凍えるように寒いんだ。家の中だと言うのにあちこち凍っていて尋常じゃなかった、探しても姿が見えない。あちこち探したら女はベットの中で死んでいたよ・・長いまつ毛に氷が付いていたのを覚えている。

使える魔石が無くなり暖をとれなくなったのだろう、最後まで貴族の女だったな・・自分で火を熾す事さえ思いつきもしなかったんだろうよ」


そこまで一気に話すと、リーのお父さんでパン屋さんの親父は詩乃の顔をジッと怒るように見つめた。


「お前はこの街でどう生きる、お前を支えてくれる奴が王都にいるのか?

王都からの魔石を頼って生きていくつもりか、お前をずっと支えてくれる者が居るのか?何を生業に生きていくつもりだ、その程度の魔力で、こんな店でやっていけるのか?」


よく考える事だ、死にたくなかったらな此処の冬は甘くはない。

そう言うとリーの親父は店を出て行った。




 真剣にヒヤリングしたので頭の中がガンガンする、疲れた体の芯が冷えて固まってしまった様な気がする。夕方になり影が店の中にも入り込んで来たが、詩乃は動く気になれずジッとしていた、店の隅に座り込んでうずくまる。


「考えが甘かったのかな・・・」


とにかく王都が、周りの人達が嫌で嫌で、あそこに居たくなくて、逃げたくて詩乃は此処まで来た。どうすれば良かったのか・・目の奥が熱くなる。 

  




 そんな時、シャラシャラシャラシャラ・・・ドアチャイムのオブシディアンが鳴って誰か入って来た。ビクッとした詩乃が振り返るとリーが店内に入って来るところだった、リーの胸元にローズクオーツのペンダントが揺れている。


「シーノンどうしたの?座り込んじゃって、大丈夫?

うちのお父さんの顔が怖かったからビックリしたの?いきなり押しかけてホントにごめんね~。でも、ほらペンダント返してくれたのお父さん。それから代金の代わりだって、パン持ってけって。ほら見て、美味しいよ~うちのパン。えっ!えっ!なに泣いてるの?お父さんそんなに怖かった???」


詩乃は泣きべそかきながらパンを受け取った、


「あでぃがとぅ~」


残り物ではない、焼きたてのほかほかパンだった。


「ううううう~~~~」


一度溢れた涙は止まらない、此処には詩乃を心配してくれる人がいる。


かつての王宮でも聖女様は詩乃を気にかけてくれて、優しく接してくれたが・・その分要らぬ嫉妬や陰口が酷く心の休まる時などなかったのだ。


『大丈夫!平民になって良かったんだ、自分の決断は間違ってなんかいなかったんだ』


「泣かないで、泣かないで。もう!お父さんのせいだから!」


困ってオロオロするリー。


『知り合いを増やして、この街の一員になれるよう頑張るんだ。この街で、トデリで生きていくと決めたんだから』


リーとアンは友達!異論は受け付けません!!リーパパさんはカミナリ親父枠だぃ。リーは詩乃が泣き止むまでずっと背中を擦っていてくれた。



   *****



 その晩遅く・・。


前の家主の使えそうも無い荷物は、とりあえず屋根裏部屋に入れておいたからと、大工さんに言われていた事を思い出した詩乃は、恐る恐る屋根裏部屋に入ってみた。

小さな窓から月明かりが入り込み、木箱がいくつも重ねて置いて有るのが見えた。その暗い影が何か墓石の様に見える、影が黒々として胸が重苦しくなってしまう。

そのうちの一つを開けて覗き込んでみたら、そこには沢山の<空の魔石>が入っていた。彼女が魔術具を使う為に使った魔石のカラだろう・・かなりの数が有る。

濁った白い骨みたいな<空の魔石>、何だか悲しい石だと思った。


「ええっと・・初めまして見知らぬ前の家主さん、あなたはトデリに来て楽しかったと思えた時もありましたか?私も此処で暮らしていきます。どうぞよろしくお願いします」


詩乃は空の魔石を一つつまみ上げてみた。


『白いからハウライトみたいだね・・・』


詩乃は石を両手で包んで鎮魂の思いを込めた。


「空の魔石よハウライトとなれ・・悲しみや怒りを鎮め、心を清らかに保つ石となれ。悲しき女性に安らかな眠りを、聖なる場所へといざないたまえ」


パッと光ると手の中には不透明な繭のような白い石、ハウライトが出来上がっていた。

それから詩乃は次々に<空の魔石>をクリスタルのクラスター(水晶の原石)に変えると木箱の上に置き、その上にハウライト乗せて窓辺へ移動した。

石に月の光を当てるのだ。


「パワーストーンは月の光で浄化するんだって聞いたけど、この世界は月が3っもあるからバッチリだね」


こんな事しか出来ないけれど、ちょっとだけ自分に似た境遇の<誰かさん>の慰めになればいいなと・・そう思った詩乃だった。


挿絵(By みてみん)


ハウライト・・・悲しみと怒りを鎮める、純粋な無垢な石。


リーは詩乃の事を年下だと思っているので、良いお姉さんしたくて (一人っ子だから)たまりません。

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