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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
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オブシディアン

 あはは・・・うふふ・・・と恋バナに花を咲かせる少女を前に、詩乃は少しばっかり暗い目をしていた。自分より15センチは背が高く、アンマン並みのお胸を持つ少女たちが3歳も年下とは、恐れ入り谷の鬼子母神。

寒い国の人はデカいね、なんかね・・!いろいろとね!




 彼女たちが色々とトデリのローカルルールを教えてくれたのだが、それによると平民の子供達は7~10歳くらいで家事や家業を本格的に手伝い始め、13歳になると他の家に見習いとして働く為に通う様になるそうだ。

住民のほとんどが顔見知りな小さな街<トデリ>であるからして、働き先は親同士が友達だったり、幼い頃から可愛がってくれた家に行くそうなので、江戸時代の丁稚奉公ほどの苦労はないらしいが・・小さなうちからご苦労な事ではある。

トデリは冬場は港が凍結する為に漁業は出来無くなるのだが、他に林業なども盛んなのだそうで、冬場の仕事先は家具などの木工品を作る工房や船を作るドックなどもあるらしい。工房関係の部品を造る様な下請け的な家内工業風な仕事とか、女の人には家族に着せる為の布の生産(機織り)や裁縫など、何かと仕事は有り冬は冬で忙しいとの事。


「仕事には不満も不安も無いんだけどね、そんな事よりも大変なのは・・」


彼女達が抱える悩みは生活や仕事の事では無かった、更に大きな就職的な身の振り方問題・・そう、結婚問題が最重要課題なのだった。

恋バナよりも現実的な、良いお相手が見つかるか!

果たして結婚相手を無事にGetできるか?が最大の関心事だ。



 薄茶色の髪で茶色い目をしたそばかす少女がアンさんで、そばかす少女=アンの公式は異世界でも通用するらしい。アンのお父さんがこの店の改修工事を手伝い、2階の床板材等を運んで来たそうだ。

アンの家の家業は林業寄りなので、林業組合には独身の若い衆がまあまあいるので、選り好みをしなければ結婚相手は見つかるだろうと踏んでいるそうだ。


『アンの目が、キラキラと肉食女子の様に輝いている』


13歳から婚活しなくてはならないとは・・この世界は大変だ。

適齢期が成人後16歳~18歳だからか(男は少し遅く18~20代前半との事)早くアタリを付けとかないとここトデリの街では行き遅れになってしまう、それは由々しき事らしい。


 ほう一方の赤毛で緑の目のリーさんはパン屋の一人娘。

その為、彼女のお相手は家業を継いでくれる事が必須条件なのだが、トデリではパン屋を含む料理人希望者の男性は少ないらしい。子爵様のお屋敷近くが所謂山の手になるのだが、そこに有る同業者の高級パン屋の娘さんは今年で21歳になるのにまだお相手が見つかっていない。


「お金持ちの家だし、彼女も結構可愛い方だと思うのよ?

それなのに・・ねぇ」


・・・とアンさん、自分の婚活にかなり危機感を持っている。


『げ21歳でその言われようじゃ、現代日本はどうなるのじゃあ~』


と心の中で絶叫したが、ほんの90年前ぐらいは日本も似たようなもんだったらしいね・・・まあ。


とにかく!

リーは若いうちに(って、まだ十分若いし~)早くお相手を見つけて、さっさと婚約し、とっとと結婚まで持ち込みたい。小さい街だけれど住み慣れている、友達や家族のいる此処トデリを離れたくないとの事だ。

まぁ、その気持ちは解らないでもない。

いつもいると気にならないしウザい時も有るけれど、離れると寂しれくて会いたくなるのが<家族>ってものだろうから。


『お父さん・お母さん、脳筋な兄や爺ちゃん婆ちゃんは元気だろうか?

詩乃も会いたいよ・・』



 ちなみにトデリで結婚相手が見つからないと、親戚や知人やらの伝手を頼って他の街に行くしかないらしいが、親同士が話し合ってあれこれ決めるのが習わしのこの世界では、後見が親戚になると一段低く見られ、それが知人ともなると身売り(気分的に)に等しいらしい。

乙女の矜持として、それは絶対許せない事なのだそうだ。大変だ。


恋愛成就か、うん、ローズクオーツでよさそうだね。

別名ラブストーンだし、自分自身を愛し魅力を引き出すパワーがあるそうだから。


「この石 恋愛関係が得意 それにリーの可愛い所引き出す

リー自分好きになる いつもニコニコ 可愛い 可愛い子 恋愛上手くいく 

この石 名前 ローズクォーツ 恋愛成就 任せなさい 石です 」


値段は1000ガル・・この世界で1000ガルは子供には大金だ、それでは彼女には手が届かない。


「お金1000ガルです。 

リー100ガル いま買う 好きな人できる 200ガル払う 

婚約する300ガル払う 結婚する 残り彼氏払う いい? リー パン屋さん 残るパン お金代わりいいよ。」


交渉が上手く通じる自信など無かったのだが、説明が理解できたのか、はたまたどうしてもローズクォーツが欲しかったのかリーが満面の笑みで頷いた。


「この石 力の強さリーちょうどいい。

希望叶える いつもニコニコ 笑顔大事。

お父さんお母さんお客さん、達みんな大好き 心いつも持つ大事。」


『解ったかな~心掛けも大事なのよ?ほんと頼むよ?』


詩乃はツンと澄まして、店の奥から何やらお道具を取り出して来た。

何が始まるのかと、アンとリーは興味津々に詩乃を見守っている。


「こほん」


詩乃は1センチ位の白い<空の魔石>を手に取ると、2人によ~く見せつけてから両手に包み込み心を込めて願いを込め始めた。


『<空の魔石>よローズクオーツとなれ。

リーの望む、明るく楽しく健やかな未来が彼女に訪れますように』


すると<空の魔石>を包んだ詩乃の両の手が、ボウッと淡く光りだした


『リーが幸せな花嫁になれますように、彼女を守り導いて・・・』


<空の魔石>にリーの<願い>を押し込んでいく、ローズクオーツをイメージして。





 詩乃がそっと手を開くと、白かった<空の魔石>は半透明で薄い柔らかなピンク色をしたローズクオーツになっていた。

詩乃はうやうやしく切子模様にカットされた美しいクリスタルのボールの前に立つと(聖女様から餞別に贈られた物だ、王宮に居た時に光り物が好きな詩乃が、いつもうっとりと見ていたのを知っていたらしい)手をかざした。すると眩い光と透き通る水がクリスタルボールの底から溢れ出してきた、少女達は驚き息をのんで見守っている。


『ごめんなさい、これ生活魔法です、貴族ならE級レベルの難度です』


そのボールの水の中にローズクォーツを入れ、ボールの縁を少し水で濡らして指をそっと滑らす。すると不思議な音が細く、響くように奏でられる。


フワ~~~ンフワ~~~~ンフワ~~~~ン~~~~~~


『ごめんなさい、これ演出です。石の効果には影響などミジンコもありません』


でもでも演出は必要だよね、神秘の魔女っ子的には。

反省はしていない、あやまるけど、プラシーボ効果ってやつ狙いだ。


少女たちはそれはもう感激して、ちょっぴり涙までこぼしていた。

詩乃はちょっぴり良心が痛んだ、後は組紐を使って、さっき見ていた物と同じ様なペンダントに細工して手渡した。


=お仕事終了、お買い上げありがとうございます=


 「リーに石のご加護がありますように」


少女達はご機嫌で帰っていった達は、詩乃も初めての営業に達成感と虚脱感に包まれ幸せに浸っていた。

そう、ドアが乱暴に開けられ、オブシディアンで作ったドアチャイムがシャラシャラ派手な音を立てるまでは。


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