ローズクオーツ
ヘイトさん登場
詩乃は最高に興奮していた、大切で大好きな自分のお店に、初めて可愛らしくて本物のお客様らしい少女達が来てくれたのだから。
開店初日にやって来たのは後見人のマルウム子爵様で、お供を大勢引き連れての御来訪だった。
貴族にしては人の良い子爵様(王室関係者比)は高い背をかがめて、詩乃の顔をのぞき込んで目じりに皺を盛大に寄せて笑っていた。この世界の人は全体に老け顔で、実年齢は見当もつかない。
子爵様曰く、詩乃は公爵様からの大事な預かり物で、自分の子供同然なのだそうだが・・愛妻との間にはまだお子様はまだ居ない・・詩乃のお父さんよりだいぶ年下の様だ。もしかしたら兄の方が歳は近いかも知れない。
「やあ、かわいらしい店が出来たねえ。
でもどうかな?少し狭いようにも思えるが、シ~ノン殿にはちょうどいいか?サイズ的には。」
「そうですね、シ~ノン殿は誠にお小さくて、狭いところでもスルスル入り込めそうですし。お困りになられる事も無いでしょう。」
機嫌よく子爵様とその執事が話している、執事と偉そうに言っても若干1名の、何でもこなす側用人だ。この執事は貴族崩れ(魔力が低くて平民に落とされた者)のせいか、むやみやたらとプライドが高くて詩乃とは反りが合わない・・トデリでの天敵と言える人物だ。
『はあ?ゴキ〇リかい!私は!小さい小さい言うな!おまえ等がでかいんじゃ!シ~ノン言うな、バカっぽいんじゃ!』
なぜだかこの世界の人は、詩乃と発音する事が出来ずにシ~ノンと言う。
美人のち聖女様の亜里沙様には亜里沙様と発音できるのに。
・・・・・解せぬ。
詩乃は召喚されたその日から、彼ら貴族の対応にかなりムカついていたので、うっかり心の声が出そうになってしまった。
日本でも小柄で学校の朝礼では常に先頭に立っていた詩乃だったが、この世界はまずい!かなりまずい環境だったのだ。そう詩乃的には。
『ここは何処?オランダ?噂に聞くオランダなの?』
そのぐらいの勢いで周りの人々が大きかった。
女官さんでも180センチがざら、男性で騎士様ともなれば2メートルオーバーの巨漢も煮るほどいて、王城で何回踏みつぶされそうになったことか!彼らは大事な聖女様に注意を集中するのが仕事なので、足元に居る詩乃にまで気が回らないし回さないのだ。シベリアンハスキーの群れに放り込まれたチワワの気分がよく分かった気がする。頑張ろうぜチワワ・・・。
『いけないいけない、もう過ぎた事・・忘れろ、忘れようぜ黒歴史』
詩乃が自分に言い聞かせている間にも、視察という執事による粗探しは進行している。
子爵様の執事は陰険針金男だった、名前もセバ〇チャンじゃないし・・良い所が見当たらない、名前を聞いたような気もしたが忘れた。面倒臭いのでまた聞く気にもなれない、この世界の貴族の名前はやたら目ったら長ったらしいので、必要最小限短縮して覚える事にしている。
この物件を探してきたのも陰険針金執事だった、その昔一人暮らしの老婆が孤独死した事故物件だそうだ。ちょっとビビったが、この世界の人は皆自宅で生まれそして死んでいく、建物はどれももれなく事故物件なのだ。大きな地震も無いこの国では築3百年クラスの家がほとんどだ、いちいち気にしてはいられない。
店内をくるりと見回した陰険針金執事は馬鹿にした様に鼻を鳴らした、いちいち動きが癪に障る針金なのである。執事は魔力を使い切った空の魔石、詩乃的にはパワーストーンの作品達を見て。
「平民が貴族の真似をして石を飾るとは、あまり関心出来る事では無いと思いますがねぇ。はあ~プークに魔石は無様でしょうに。」
と、豚に真珠的な悪口を言ってきた。
「賢い平民だったら貴族に係わる様な面倒事には近寄らず、こんな店に石を買いに来ることもないと思いますがねぇ。あなた、手持ちのお金が無くなっても、子爵様に取入るような真似はなさらないで下さいね。」
陰険針金執事が陰険と言われる所以は、御主人の子爵様の気が他に逸れている隙に、周囲の3名ぐらいの仲間内だけに聞こえるように悪口を囁く囁くところだ。クスクス笑うその他のモブお供達、執事の覚えも目出度い腰巾着どもが。
詩乃は誰にも気が付かれないよう、そっと心と物理の涙をぬぐった。
こんな奴らに、泣き顔なんか絶対見せるものかと。
そんな様子も気が付かない、ある意味能天気で人の好い子爵様は満足した様子で、新築・引越し祝いとして詩乃に豪華お布団セットとベットを贈ってくれた。
子供用だと言う所が一言多い気がするのだが。
「しっかり働いたら、ぐっすり眠れるだろうから寂しい事を思い出す暇もないだろう。頑張れよ、これは暖かい良い品だからな、裸で寝ても大丈夫だぞ。ガハハハハ。」
後半で台無しだ、これだからセクハラ脳筋男は・・・。
「どうだ、この飾りはおまえに似合うんじゃないか?」
店内をウロウロ歩き回った(そんなに広くも無いが)子爵様は、地味目な石を使った男物のブローチを見つけて針金執事の胸元に押し付けた。
「このくらいの薄い魔力なら、おまえにも負担にならんだろう?」
針金執事の口元がひくっと歪む。
強い魔石は貴族にとっては何て事も無く、かえって自分の魔力の底上げになる喜ばしい物だが、平民にとっては健康を害する恐ろしい力となる。
貴族と平民との決定的な違いは、この魔力の有無によるものだ。
だから魔力の耐性は身分差別の有るこの異世界で、何も持っていない平民がのし上がっていく為の重要な条件になる。現に第2王子の筆頭文官は、魔力の強さを見込まれた平民の出らしい。
その逆も然りで貴族に生まれた者でも魔力の耐性が弱ければ平民落ちしするしかない、陰険針金執事の様に他の貴族に仕えるか、商人になるか・・自分で自分の生きる道を探さなければならない。
針金執事は男爵家の長男だったが、弟に爵位を譲って(奪われて)子爵様に拾われたらしい。
執事が殊更詩乃に冷たく接するのも、いろんな鬱憤が溜まっているせいなのだろうか・・そんなの詩乃には関係ないし・・いい迷惑だ。
その後ブローチをお買い上げ下さり、機嫌よく子爵様は帰って行ったが針金の背中は煤けて見えた。
お買い上げ誠に有難うございます・・生きろ、針金!詩乃の見えない所でな。
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・・でも、それから7日間お客は一人もこなかった。
『もげろもげろもげろもげ・・・』
脳内一人黒ミサをしている詩乃に女の子が声をかけて来た。
「ほんとに綺麗ね、キラキラ光っている、これなんていうの?」
『はっ、いけない。
心が暗黒面に落ちるところだった、こんな事では石に曇りが出てしまう』
詩乃は憧れの店主さんを意識して、努めて優雅に神秘的に見えるよう返事をした。
「そは、ステンドグラス言いますよ、色ガラスで綺麗造って、魔石溶かして固めやるできる。綺麗いいね。」
「こは、サンキャッチャー言いますよ、お日様の光、届ける、暗い悪い溜まる、消すしますう。」
ネックレス・ペンダント・ブローチ・リング・イヤリング・ブレスレット・花のつまみ細工などなど。
此処に有る商品はどれも、詩乃が王宮で監禁され、不自由を強いられ暇を持て余した時に作った物だった。
王宮の中でもう廃棄されそうな、まだまだ使えそうな<空の魔石>やドレスの端切れを見て、勿体ない精神を発揮し、王妃様に直談判してゲットした中古品でせっせと作った作品達だ。
いずれ忌々しい王宮を去って、一人独立してお店を開店する時に並べようと・・誰かが喜んで手に取ってくれるのを夢見て作った可愛い可愛い子供のような作品達だ。
『どうぞどうぞ見てください、可愛いでしょう素敵でしょう』
「面白いしゃべり方~。ふふふ、怖そうな人じゃなくて良かった。うちのお父さんがね、このお店の改装工事の材料とか運ぶお仕事してね、今度面白そうな店ができるみたいだよ~って言っていたの。お金持ち専用のお店だったら入れないけど、そうでもなさそうだし?入れない事もないんじゃないかな~って言っていたから、勇気だして来てみたの。来てみて良かった~。初めて見るのばかり。あなた王都から来たんでしょ?王都ではこんなモノが流行っているの?」
詩乃のヒヤリングはかなり拙いが、好きな物の事なら魂で解り合える。
自分の作った大好きな作品を、誰かに喜んでもらえるのは涙が出るほど嬉しかったし、詩乃は切実に欲しかったのだ・・この世界でも友達が。
彼女たちはあれこれキャッキャッと見ていて、確実に作品の虜になっていったが・・如何せん値段が高かった。この値段設定は魔石モドキのアクセサリィーを平民に広める事を良しとしなかった、陰険針金執事が言い出した価格だ。
味方と思っていた子爵様も「儲かった方が良いだろ~」と脳筋発想で、勝手に値段を決められてしまったと言う経緯があった。
どうにかできないかなぁ・・と詩乃が考えている目の横で、真剣な眼差しでペンダントをガン見している少女がいた。
3ブロック離れたところにあるパン屋さんの娘らしい、名前はリーさん平民の名前は短くて良い。
「その石 リー 心が 惹かれる? そは ローズクオーツ 言う。恋人 愛 大事造る石ね。」
少女は、ハッとして詩乃に振り向いたが、その顔はローズクオーツみたいに頬がピンクに染まっていた。
友達百人出来るかな?




