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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
23/23

ファントムクリスタル

あれから4年経ちました。

 詩乃は衣装を着ると、<空の魔石>で造った鏡に全身を映し、にっこり笑ってクルリと回った。今日は皆が楽しみにしていた<春の女神を祝うお祭り>の日だ。


お祭りの日の装いは、4年前に皆に作って貰ったトデリの民族衣装だ。

北欧のブーナッドによく似ている可愛らしい衣装である、北国の感性は似るモノなのだろうか?白いブラウスは立ち襟で、襟の先と袖口には小さなフリルが付いている。フリルの部分には小さなベリーの赤い実と緑の葉が丁寧に刺繍されていて大層可愛らしい、空色のベストにはカロチャ刺繍の様にびっしりとシャアクーラの花が刺繍されている。


「どんだけ好きと思われてんだか・・」


あの日、花を見上げて泣いた時から、シャアクーラは詩乃の花となった。

スカートは黒で、これにも裾にシャアクーラの刺繍がこれでもかと入っている。

この世界のスカートの長さは、子供は膝丈、成人するとふくらはぎの丈、結婚すればくるぶし丈と決まっているのだが。


「む~ん、今年もピッタリだ」

解せぬ・・・4年前と少しも変わらない。


詩乃の身長は推定158センチから、ミリとも伸びなくなった。

元の世界なら平均身長クリアな数値なのだが、トデリでは子供扱いだ何とも悔しい事である。小母さん達は親切にも、丈が短くなったら仕立てなすよ・・と、毎年言ってくれるのだが。残念!今年も必要なさそうだ・・ジャストフィット!


「シーノンって、背が伸びないね?」


皆には不思議がられてはいるのだが、まぁシーノンだしね~と流されている。

年齢はまだ秘密だ、いまさら恥ずかしくて公表できない。


スカートの上に、これまた裾に刺繍が入った白いエプロンを付け、太い帯を締め横に垂らす。詩乃は帯だけはさおり織りの要領で、白地に赤の水玉模様を入れて自作していた。某国国旗風のドット模様だ、可愛いよね水玉模様って、こんなところに日本人・我は此処なり・・の気分だっ!それに刺繍入りのポシェットをぶら下げれば、<春の女神を祝うお祭り>の正装の完成。うん、満足!



「シーノン支度出来た~?行くよ~」


外からリーが呼んでいる声が聞こえた、3階の窓から下を覗くと、リーが赤ちゃんを抱いて旦那君と立っている。


そう、リーは計画通り<ニヤッと悪い顔で笑った訳ではないが>16歳で成人するとすぐ結婚し、今では一児の母である・・凄いな異世界。

旦那君は、なんと!あの色男の新米兵士だ。

お母さんが急に亡くなったと、一時期トデリから姿を消していたのだが、何か吹っ切れた様子で戻って来た。新米が言う事には、詩乃の護衛を依頼して来たのはボコール公爵様(親切なのかな?)だったのだそうだ。しかしトデリなどに行きたくは無い傘下の下級貴族達は、こぞって護衛仕事を盥回しにして、断り切れなかった立場の弱~い男爵が新米兵士の父親だったのだそうだ・・ご愁傷様です。父親はA級平民のメイドとの間に子供を儲けてはいたが、貴族籍になかなか入れてやらないでいた。おまえ、貴族になりたかったら、トデリに数年行って働いてこい・・と、屋敷を追い出されトデリにイヤイヤやって来たのが新米兵士だったのだ。


そりゃぁ、態度も悪くなるってもんだ。


お母さんが是非にと望むから、貴族になるつもりでいたのだが・・亡くなってしまった今は、もうどうでもいい!と思ったそうで、さっさと屋敷を飛び出してトデリに逆戻りしてきたのだ。母親の違う子供がいがみ合ってギスギスしている貴族の屋敷と、貧しいながら助け合って暮らす平民とを比べたら、どっちが良いか比べるまでもないそうだ。

リーを熱心に(手のひら返したように)口説き落とし(リーが良いなら別に反対もしないが)、リーパパの<パン屋になる為の100の熱血指導?>にもよく耐え、今では可愛い嫁と娘、厳しくも厳しい舅と影の薄い姑と共にパン屋を盛り立てている。


「今行くよ~」


返事をして階段を駆け降りる、バタバタ走っても注意されない、何故なら今はまた一人暮らしなのである。

寂しいがノアさんは昨年の海開きと共に、領都に嫁いでいった。

お相手はパガイさん?残念でした~違います~、ビアロさんが攫って行った。

ビアロさんとは手仕事組合の仕事でお知り合いになり、彼の誠実な人柄に絆されてお付き合いが始まり、結婚に至ったと・・誠に良きかな良きかな。

腹黒は策に溺れるんだよね、パガイさんはお兄さんと二人で、面白くなさそうな顔をしてノアさんの結婚式に臨んでいた。かなり笑えた。


「待たせ した、すまぅ」


詩乃言葉にはもう誰も突っ込まなくなっていた、慣れって凄い事だと思う。

リーの家族はお揃いで小麦色・・パンのこんがり焼けた色のベストを着ていた。


「新米兵士 ベスト ボタン付けすぎ」・・リーの心使いなのだろう。

「俺の名前はロブだ、お前いい加減覚えろよ、俺はもうパン屋さんなの!」

「そのうち な、たぶん な」仲が良いね~と、リーがケラケラと笑う。


トデリの人は皆ボタンが大好きだ・・誰のせいだか知らないが、厄除けになると信じて身に着けている。お守りの石を着けている人もいる、それはパガイさんの<計画通り>だ。



 2年前だか、パガイさんは<空の魔石>を船一杯運んで来て、詩乃にお守りを造れと迫って来た。でも詩乃は、今までは相手の人の望みを共に考え、この人にはこれが必要だ!と思った石を造ってきた、完全オーダーメイドだったのだ。

それなのに・・知らない人の、知らない望の物など造れない。

そう抵抗したのだが、誰にも似たような望みが有るだろう、ファジーな感じで望みを叶える既製品を造れば良いと宣う。


えぇ~~??

そこで私は閃いた、漢字の国の人だもの。


家内安全・交通安全・工事安全・海上安全・山行安全の安全シリーズ

健康第一・病気平癒・安産祈願・子宝成就の保健シリーズ

商売繁盛・学業成就のお仕事シリーズ


空の魔石をクリスタルに変えて、それぞれの思いを石に込めてみた。

3Dプリンターで量産はしない、一個一個丁寧に造る、元々の石の性質に違いでもあるのか、同じ願いでも色に変化が出て一点物になった。

その結果、安全シリーズは青~紫色系のバリエーションに。

保健シリーズは若草色~新緑~濃い緑まで、緑系の色に。

お仕事シリーズは白~黄色~黄金色~茶系の色にそれぞれなった。

対象が曖昧な分、効果が薄くなるかと思ったが、そこは<言魂>のが有る国の出身者。四文字言葉自体に魂が宿っているのか、そこそこの効果は有る様だ、形はやっぱり勾玉だこればかりは譲れない。


パガイさんには恋愛系のお守りも造れって言われたけれど、異世界のお約束<魅了>の何かに引っ掛かると嫌なのでお断りした。

詩乃のお守りは、他人を案ずる気持ちを込めて・保って・拡大するものだ、人を操ったり自分の欲の為に使うものでは無い。実際、自分で買ったお守りより、他人にプレゼントされたお守りの方が効果が高いとパガイさんの追跡調査の研究によって確認された。

一匹狼には厳しいお守りだね・・ガンバ!

パガイさんは、王国内隅々まで売りまくるぞっ!って張り切っていた。

彫りの深い、バタ臭い顔をした人達が勾玉を下げているのが可愛い。



あれから4年、トデリは随分と変わった。


事故で死ぬ人が無くなったし、豊漁続きで豊かになった。

詩乃の水で塩分摂取が減ったせいか、怒りん坊さんも少なくなった・・かな?

子爵様ご夫婦にも、可愛らしい坊ちゃまが誕生されたし。

そうそう、結婚された聖女様も王子様に恵まれた、今は第2子をご懐妊中だって。

・・頑張るねぇ王太子。

順風満帆とか、こんな感じを言うのかな?ふふふ・・・。


     ******


 子爵様の館の前の広場には、10メートルくらいある、大きな冬の王の像が藁で作られ立っている。

その王の像を中心に円になって歌い踊り、供物を捧げ冬を無事に越せた事を感謝し、夜に火をつけて燃やし炎となった冬に街から立ち去って頂くのだ。


・・けっして火あぶりではない、そう見えるけれど。


翌日にはその灰を森に撒いて、1年の森の恵みと安全を願う。

素朴で、楽しいお祭りだ。


今年で4年目だし、踊りの振り付けはもう完璧に覚えたぞ!詩乃はウキウキしていた。

子爵様の館の前はもう住人達で溢れ返っていて、素人音楽隊もチューニングに余念がない、チビッ子達はすでに踊り出している。若い衆は着飾った女の子をどう誘おうかと騒いでいるし、筋肉さん達はモモウの半身のバーベキューやお酒に貼りついている。隅にある沢山のテーブルの上には、各家々で持ち寄ったご馳走が並んでいる。詩乃も数種類のパイやピザを焼いて提供していた。美味しいよ。



まだかな、まだかな、皆ワクワクと待っている。


子爵様がバルコニーに現れて、お祭りの開始を宣言する!

「歌え踊れ、春がやって来た、春の女神のお祭りだ」

わあぁ、と大きな歓声があがった!!お祭りの始まりだ!!!


音楽が流れ出し皆が歌い踊りだす、どの顔もお祭りの喜びでいっぱいだ。

詩乃もダンスに混ざろうと、歩き出したその時・・誰かがそっと詩乃の肩に手を置いた。不思議に思って振り返り見上げると、悲しい顔をこらえて微笑んでいる奥様がいた。


奥様が静かに目線を館の門の方に向ける。

其処にいたのは・・かつて王宮に暮らしていた時の、詩乃の天敵。

第2王子の狂犬と呼ばれた、魔術騎士・・詩乃の大嫌いな男だった。


「シ~ノンちゃん、ごめんなさいね」


売られたのか奥様に・・・。


せめて、トデリの為だと思いたい。

リーやリーの可愛い赤ちゃん、アンは新婚さんで妊娠中だ。

奥様には、可愛らしい坊ちゃまがいるのだから、守りたいのだろう。

今のこの暮らしを、手の中に有る・・この幸せを。

詩乃がいなくなって、石の効果が続く保証は無いのだが・・・。


詩乃はポシェットに手を入れて、常備していた<空の魔石>を握りしめる。


『<空の魔石>よファントムクリスタルとなれ、私の傍にいて見守っておくれ、挫けぬように、あきらめない様に』


狂犬が詩乃に近づいて来る、詩乃はトデリの楽しい生活が終わるのを悟った。

『実行!』


挿絵(By みてみん)


ファントムクリスタル・・精神と肉体の成長を守り、逆境を乗り越え、新たな飛躍を遂げるよう導く石。

B級聖女の日常はこれでお終いです。拙い話をお読みいただき、ありがとうございました。

書き足りなかった分は、小話集を書けるといいなぁ・・・。


次は、詩乃が巻き込まれ異世界にやって来て、王宮を出るまでのお話を、題名を変えてR15?で

書きたいと思っています。よろしくお願いします。

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