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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
22/23

ペリドット

 その後、詩乃は予定?通りに356個のアクアマリンを造り上げ、女神像は無事完成しパガイさんに納品された。木工部の棟梁・組合長は、皆の一冬分の頑張りが無駄にならずにすみ、良かった良かったと嬉し涙を滂沱と流し子供たちに囃し立てられていた。


『・・ゴネてすいませんでしたね、悪かったね』


でもさぁ本当に売れるのかな~、大丈夫?在庫の買取は致しませんよ~。

大層懐疑的な詩乃である。

だってお守りと言っても、常日ごろの行いが大事なのであってだな。

不幸にも海難事故が起きてしまって、遺族が怒って謝罪と賠償を求めて来たらどうしよう・・と、詩乃は内心ビクビクしていたのだが、組合長はじめ木工部の皆は何故か絶対の自信を持っていた。


 ノアさんは冬の手仕事の清算に辣腕を振るい、商人としての素質を開花させ、満開の花の様にその魅力と能力を振りまいていた。

誠に良きかな良きかな・・である。

敏腕商人のパガイさんは、そんな有望で美人商会員+奥様になれそうなノアさんを先物買いしたくって、熱い視線をビームのごとく発射していたが・・結果は思わしくなかった様だ(笑)。

ノアさんに熱い視線を感じる余裕が無かったのか、はたまたパガイさんの腹黒そうな所が敬遠されたのか・・真相は闇の中である。



 そんなこんなで日々が過ぎ、流氷が去り海が開き次の季節がやって来た。


漁師たちは揃いのピーコートを着て、張り切って新造船で海に繰り出し。

雪が溶け春を迎えた山々には、林業組合の者達が冬に荒れてしまった森を整える為にと、揃いの団栗のレリーフが入ったボタンを付けて出かけて行った。

トデリは長い冬を乗り越え、春を迎えた喜びで溢れかえっていた。


   ****


 今日も今日とて、詩乃は水瓶巡りの旅である毎日坂道を上ったり下ったり。

健脚商売なんちゃって「おはよ ござす」と声をかけ、フッと振り返って見上げた其処には・・詩乃は驚いて息が止まった。


「あぁ、綺麗だろ?シャアクーラって言う名前の花さ、春のちょっと暖かくなった頃に沢山花を付ける木でさ、薄いピンク色が可愛い花だろう?雨季の前には小さな赤い双子の実が生って、それが甘酢っぱくて美味しいんだよ」


しばらく佇み、ジッと見上げていた詩乃だったが。


「おばさ、そこ 落ちてる 花、貰って いい?」

「そんなもの、いくらでも持っておいきよ。ちょっと、シーノンちゃん泣いているのかい?どうした?大丈夫かい?お腹でも痛いのかい」


おばさんが大きな声で騒ぐものだから、ギャラリーが何だ、どうしたと沢山集まって来て恥ずかしかった。そうして、街中を回って帰宅した詩乃の家の裏口に、誰が持って来てくれたのか・・シャアクーラの花がこんもりと山のように置かれていたのだった。


『皆、優しいんだよね、ぶっきらぼうの筋肉さんなんだけどさ』

嬉しくなった詩乃はその日、覚えていた春の歌をずっと歌っていた。


   ****


「シーノンの歌は綺麗だけれど、ちょっと悲しそうな歌が多いね」

「春 別れ 旅立ちの 歌 多い トデリ 歌 教えれ?」


店の中ではもうすぐ開かれる、<春の女神を祝うお祭り>の衣装作りで、女の子達が大わらわになっている。


 詩乃がアクアマリンの代金として受け取った、現物支給の分・・パガイさんが持って来たのは沢山の上等な布地で、それが女の子達の羨望の的となったのだった。詩乃的には、食べ物が良かったのだが、ぶぅ~何で布地?


布地がいっぱい有っても(手芸屋の癖に、いやいや家はパワ石の店です)しょうがないし、詩乃は<詩乃の分の衣装も手分けして作ってくれること>を条件に安値で販売したのだった。民族衣装は慣れている人の方が上手に作れるし、着慣れていない余所者は気恥ずかしいからね。


衣装の出来上がりを楽しみにしているのだが、まだ見ないで~ないしょ~、との事で見せてもらえない。お祭りまで後10日なんだけど、ホントに出来上がるのかな?そう聞いたら、サイズが小さいから楽勝だと言われた。う~ん複雑な気分・・いや、まだいける、まだ背は伸びるはずだ!



自問自答していたら、子爵様の奥様からお茶のお誘いの言付けがきた。

詩乃はちょうど良かったと、伝えに来てくれた小僧さんに40センチ四方の木箱を持ってもらい、子爵様の館に出向いて行った。



「シ~ノンちゃん、よく来てくれました。私冬中ず~っと、社交で領都や王都にいましたのよ」

『うわぁ、ストレスが実体化して動いてるようだね』


心の声は出してはならない。


「奥様、変わりなく 恐悦至極なんぜ?」

筋肉さん+ノアさん言葉である。

「ふふふ・・シ~ノンちゃん言葉も、だいぶ上達してきましたわね。あぁ、お茶を入れたら人払いをお願いね」

『おおぅ、秘密のお話か?』


夏の嵐の事件の後、気が付いたら陰険針金執事と共に能面メイドもトデリから消えていて、今奥様のお傍に付いているのは子爵様の乳母だったと言うお婆ちゃまだ。

お茶を一口含んだ奥様が、ふぅ~とため息を吐いて話し出した。


 王都や領都の冬の社交界では、子爵様夫婦は通常懇意にしてもらっている、上級貴族の晩餐会や舞踏会のご招待しか出席しないし、自分達は財政難を理由にお茶会しか主催しない、末端の(ど)貧乏貴族などそんなものなのだそうだ。

でも貴族である以上は、嫌でも王家主催の舞踏会には出席するしかない。

ひっそりと影の様に壁に貼りついて過ごすのが常だそうで、今回も王家の方々に最敬礼で挨拶を済ませればお役御免・・適当な時間を見計らってサッサと退散する予定だったらしい。それが・・。


「王家の方々と一緒に聖女様がおられたの、黒目・黒髪がお綺麗な見目麗しい方でそりゃぁ素敵だったわ。ご挨拶した私のネックレスを見て、目をほんの少しだけれど動かされたのよ?シ~ノンちゃんの作品って解ったのかしら?と思っていたら、とても素晴らしいアクセサリーですわねって、お声を掛けて頂いたの。私もう、鼻高々よぅ~。悔しがっていた上級貴族の奥様が沢山いたわ、弱い魔石だと散々馬鹿にした目で見てくれたけれど、聖女様にお声をかけて頂けたのは私だけですもの」

『いやいや、そこはアクセサリーにでしょう?』


それだけではなく、後日聖女様から極秘のお茶会に招待されたそうだ。


「出向いて驚いたわ、聖女様と第2王子が一緒におられたのだもの」

『そうか、第2王子は順当に勝利を収めたか。嫁取りレースの賭けのオッズはどのくらいだったのだろう、波乱の展開や大穴は無かったのか、つまらん・・庭師の皆はれ少しは儲けたのかな?』

「聖女様はすぐにシ~ノンちゃんの作品と解ったそうよ、あちらの方が好む意匠だそうね。とても素晴らしいとお褒め頂いたわ。あれは元気にしているか、体は壊していないか?なんて、王子様からも質問が有ったわよ?お優しい方ね」

『嫁さん(予定)の前では、相変わらず良いカッコしいだぜ、あの王家ブランド殺しめが』

「今度の春の女神の祝いの前夜祭で、正式に立太子の宣言と聖女様との結婚を発表なさるそうよ。王子様は出来るだけ早く結婚なさりたいのですって、ふふ・・お若いのね」


『ふぅ~~ん』


「聖女様 幸せ そう かよ?」

「そりゃぁ、もう。あたし砂糖吐きそうだったわ」

『お、奥様あぁぁ・・素が・・素が~~~ぁ』

「コホン。それでね、結婚式には是非シ~ノンちゃんにも出席して欲しいのだそうよ。聖女様のたっての希望だって?どうする、シ~ノンちゃん。及ばずながら私達夫婦も付いているから、泥舟に乗った気持ちで王都に行ってもらって宜しくてよ」

『正直ですね、大船じゃないんですね・・って、泥舟かよ!』


詩乃は笑いながらゆっくりと首を振ると、小僧さん運んでもらった木箱の蓋をそっと開けた、中に入っていたのは王族には必須のアイテム。


挿絵(By みてみん)


ティアラだった・・それは、先日街の皆に貰ったシャアクーラの花をそのまま<空の魔石>でUVレジン風にコーティングし、薄いピンク色の桜の花を重ね合わせて造ったティアラだった。ピンクトルマリンやルビーなどの小さめの石をアクセントに散りばめて、中央には第2王子の目の色の深い藍、大きなサファイアを卵型にカットした物を取り付けた、年若い聖女様に相応しい明るい爽やかな作風の一品だ。


詩乃より3歳年上の聖女様には、そろそろお輿入れイベントも有る頃じゃない?と、シャアクーラの花を見た時に思いつき、何となく用意していたものだった。

我ながら、絶妙なタイミングだったね。


「これ 結婚 祝い、私から 渡して ですぜ。あと、花嫁衣装の飾り なるよう、UVレジン風に加工した花も一杯 ある、好きに使う 良い。

それから、私 元気 暮らして 心配ない、聖女様の幸せ 遠く 空 下 祈ってる 伝えておくれだです?」

そう言うと詩乃は自慢そうにやや寂しい胸を張った。


「そう残念だけれど、仕方がないわね~。まぁ~、素晴らしい作品ね。

聖女様もお喜びになられるでしょう、ちゃんと伝えるから安心してね」


余裕の様子で微笑んでいる奥様だけれど、また王都へとんぼ返りれするのだと思うと、正直ウンザリしてるのだそうだ。大昔の様に船で何日も揺られる事無く、王都まで魔術陣でひとっ飛び出来るのだが。奥様は魔力が弱いからその分魔石の補助が必要で、それに大層なお金が掛かるそうだ。


「そのうち、シ~ノンちゃんに貸してもらうかも~ほほほほ~」


『奥様ご冗談を、借金ダメ!絶対!!この世界は貸金法などないし、過払い金が戻ってくる事も、弁護士事務所のCMなど無いのだから』


ちなみに、詩乃は王都~ボコール公爵領~トデリと、此処にたどり着くまで、ず~~っと船旅だったのだが・・体幹が鍛えられたぜぃ。



    ******



 詩乃は聖女様のティアラを造るに当たって、葉の部分にペリドットを使った。

シャアクーラの花は、花の散った後から葉が出てくるから、実際には葉は無いのだが。花のピンク色に映えるレモンイエローがかった若々しい黄緑色が欲しかったのだ。それにだ・ペリドットの石言葉は。


 ペリドット・・・たとえ落ち込む事があったとしても、心に明るさと希望をもたらし、向上心を復活させてくれる逞しい石。


聖女様の心身の健康の為、魑魅魍魎が巣くう王宮には必要な石だろう。

眠っている魅力を引き出し、異性を引き付けるパワーも有る石だそうだから、第2王子はせいぜいキリキリとするがいいんだ。・・ヘッ。



 詩乃は、ちょっとした意趣返しのつもりだったが・・・。

後日、ティアラの飾り・・シャアクーラ<桜>の花を見て、思わず涙した聖女様の儚い可憐さを見て、ギャップ萌えした第2王子が溺愛・束縛大魔王になるのは・・また、別のお話だ。


桜は、ピンク色より白い方が好きです。

桜餅は葉っぱも食べるタイプです。

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