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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
13/23

ラピスラズリ

 「知らない天井だ」


すいません、つい出来心で言ってしまいました。

異世界召喚もののお約束ですもん、ちょっと言ってみたいよね。

知ってる天井でした、子爵様の館の客間ですな。


下町に詩乃の家が整うまで、居候していた部屋でした・・逆戻りかい?全然嬉しくないんだけど。


 

 ふらつく足でよたよたと窓辺に寄って外を見ると、天気は回復したようで空が綺麗な青色だった、海も凪いで鏡の様に輝いている。


『良かった、嵐は過ぎ去ったんだ』


嵐の後の空って、なんでこんなに穏やかなんだろう。自然の営みに文句を言っても仕方がない事だが、理不尽さを感じるのは狭量ってなモノなのだろうか。


『さて、今は何時頃だろう?』


 あれからどうしたのか記憶がサッパリ無い、光がドバっと溢れた所までは覚えているのだが。腹時計は・・うん、空いているね、だいぶ時間がたっている様だ。

此処は子爵邸・・そう勝手知ったる他人のお家、専属料理人のボフおじさんに何か食べるものでも貰おうかな。そう思ってドアに向かったらノックも無しに、いきなりバンッと開いた。

~~~鼻打ったぁ~~~(涙)。


「あらら御免なさいね、シーノンちゃん。

まぁまぁ、鼻が赤くなってしまって・・ホッペは青いし大変だわ」


謝っているのに悠然としていて、全然悪かったと思っている様に見えない、奥様はやっぱり貴族サイドの人だ。


『ポッペが青い?・・そういえば痛いような気がする。ってか、痛!』


段々と体が目覚めて来て、異常が感知されてきた。

そういえば殴られたんだ!陰険針金無能執事に!罵倒語が増えたぞ!


あの事故?事件の後・・子爵様に連絡が入ったのは、随分と時間が経ってからの事だったそうだ。

連絡を受け、慌ててトデリに戻った来た子爵様が見たものは、壊れた門とヘバって寝込んでいる詩乃、怒れる領民と縛られて項垂れている執事だった。


『一体全体、何が有ったのだ?』




 子爵は顔を腫らして寝ている詩乃を見て、大慌てて癒しの魔術(初級)を施したそうだが・・弾かれてしまった。詩乃が付けている石のせいかと思い、奥様が外そうとしたら・・これまた盛大にバチッバチッと弾かれた。

無理やり外す訳にもいかず、無治療のまま現在に至る・・と。酷!


「2日も眠っていたのよ、夫も心配していたわ」


子爵様は、この件の事情聴取が忙しく、今は見舞いに来れないらしい。

盛んに恐縮していたそうだ、子爵様らしいね・・許さないけどね。


あの日・・大嵐が来て詩乃と執事が<導きの輝き>を使ったと言う事後報告は、嵐の収まった後に随分と遅れて領都の屋敷(賃貸)に届いたのだそうだ。

しかも子爵様の留守を預かる執事からではなく、兵士と街の世話役の両方からだ。

詩乃が魔術具を起動したあの時、執事は・・あの陰険針金無能傲慢執事は、怒って怒って我を忘れる程怒って。そうバーサーカー状態になって、倒れている詩乃に襲い掛かり、なんと殺そうとしたのだそうだ・・冗談だろ?マジか!


「この小娘ぇめが、殺してやるぅ!!」


と叫んだ・・と、オイの証言が有るらしい。


『えぇ~私、気を失っていて良かった?怖い思いをしないで済んでいた?』


慌てて新米兵士が執事を羽交い絞めにして止めたところで、驚いてパニックになったオイが泣きながら塔の出窓から


「助けてーー!!!シーノンが殺されるーーー!!!」


と叫んだものだから大変な騒ぎになった。

2人を追って子爵様の館の前まで来ていた街の衆が・・ほとんどが漁師の小母さん達だが、門をぶち壊して館内に雪崩れ込んで来たのだそうだ。


『ええっと・・なんか、いろいろスイマセン?』


よく壊れたな門、オイが何度もぶち当たってもビクともしてなかったが?

腕っぷし自慢の漁師の小父さん達を、尻に敷いてチラッと視線を送るだけで黙らせているのは小母さん達だ・・弱いはずがなかったよ、物理的にも。


そんな暴挙の折り、館を守る兵士達はどうしてたのか?


・・・兵士達は・・見て見ぬふりを決め込んでいた。


だって、あの執事と小母さん達だったら、味方をしたいの小母さん達だ。

彼女達を怒らせて嫌われてしまったら、この街で暮らしていける気がしない。

飲み屋だって、出入り禁止になってしまう・・それだけは嫌だぁ!

小母さん達は実に礼儀正しく押し入ってくれたようで、壊されたのは門だけだったそうだ・・子爵様からは特に御咎めは無いそうなので詩乃も安心した。



「まあ、そんな訳で夫は忙しくてね、でも夕食は一緒に食べようって」


奥様はニコニコとしている、奥様も内心あの執事を苦手にしていたからザマアミロの気持ちなんだろう多分。


陰険針金(以下略)は、いま地下牢につながれているそうだ。

〇天候の急変を、すぐに子爵へ報告しなかった罪。

〇操作を禁じられていた魔術具を、子爵の了承も得ず勝手に動かした罪。

〇操作の不手際で、平民たちの命を脅かした罪。

〇善意の協力者を排除し、怪我をさせ殺そうとした罪。

〇以上の件を、平民たちを脅し子爵に隠匿しようとした罪。

〇その他、香ばしい余罪が盛り沢山・・・との事で。


なんか、もう庇う気も致しません・・この数日で海も陸も大騒ぎだ。


「シ~ノンちゃんは、彼をどうしたい?一番の被害者で功労者ですもの、意見を言う権利はあるわ。」


魔力がものを言うこの世界に貴族として生まれ、魔力が弱く生まれてしまった執事は色々辛い目にも、理不尽な思いもして来たのだろうけど。

・・私だってそうだ、理不尽な目に遭った人選手権が有ったらブッチギリで優勝出来る自信がある!


「私思う 執事 仕事子爵様のサポート 民守るのこと 私手伝う言た ひつじ無視した」


弱い者が更に弱い者を虐め、溜飲を下げる・・反吐が出そうだ。


「自分のプライドの為に、平民の命を危険に晒すような人はトデリに居て欲しく無いです。ご隠居の所へでも追っ払ったら如何でしょう」


どうせ・・平民の命など些細な事と片付けられるのだ、今回の一番の罪は子爵への命令違反となるのだろう、目の前から消えてほしい。


「まあ、シ~ノンちゃん。滑舌が良いわね、かなり怒っているのねホホホ」


・・よくお分かりですね奥様・・その通りです。



   ****



 子爵夫妻との食事の後で、詩乃は執務室に呼び出された。

さっさと帰ろうと思っていたのに、ちっ。


執務室には子爵様が一人でいた、あの針金が傍にいない事がへんな感じだ。

奥様も、お茶を入れると下がってしまった・・何気に居心地が悪い。

子爵はお茶を一口飲むと、詩乃を見つめて切り出した。


「今回の嵐は、かつて無いほど酷かった。漁船の半分は沈んでしまったし、残念なことに犠牲者も出てしまった」


人が亡くなったと聞いて、詩乃はまた喉が詰まった様な嫌な感じを覚えた。


「シーノン殿を責めている訳ではない、むしろ・・魔術具を起動してくれた事を含めて感謝しているのだ」


そう言って子爵様は、何かをコロンとテーブルに転がした。


   『・・・・ボタン・・・・・?』


詩乃が<空の魔石>で造り、店で売っているボタンだった。


「今回、命を存えたのは、このボタンを身に着けていた者だけだった。

揺れた船に体を打ち付けて気絶し、海に落ちた者でさえ岸に流れ着いて助かっている。逆に沈まなかった商船で、低体温で亡くなった者が出たが、その者はボタンを付けていなかった。

いったい君は何をした?君も聖女様の様に、何か特別な力が有るのではないのか?これは大変な事だろう」


子爵様の目が、真剣な光を帯びて詩乃を見つめて来る。


「私、確かにボタン造った。

 何か造る時、いつも買う人が幸せになります様に思い・・造る」


ボタンを買って行った人は女性ばかりだ。

旦那さんや彼氏さんに、恰好良くなる様にプレゼントするって笑いながら言っていた。プレゼントする時は嬉しいし、皆この幸せが長く続く様に祈るだろう。

だって海に危険は付き物だ、何かがあっても自分は助けに行く事が出来ない。

出来る事はただ祈るだけ、どうぞ無事に無事に帰って来れます様にと・・・。


「私造ったけど・・思いを込めて・・祈った 女の人達。

祈り上手くいった 助かった それはとても良かった。嬉しい事だ。

でも、私・・何もしていない 私 凄い 無し」


今更、聖女なんちゃらなんて御免被る。


「貴族の街には腐るほど優秀な魔術師が居るし、私など必要ないでしょう?

私はトデリに居ます、ここで生きて行くと決めて来たのです。

今回の嵐で、私が街の人の役に立てたのなら、これほどの幸せはありません。

聖女様はただ一人、それは私ではないし、紛い物のB級なんか必要ない」


それだけ一気に喋ると、詩乃は失礼しますと挨拶して執務室を飛び出した。



    *******



 子爵様の館を出ると(確かに門は派手に壊されていた 笑 )詩乃は海に向かってドンドンと坂を下って行った。

早く家に帰りたい安心できるあの家へ、坂道を転がる勢いで下っていたその時だ。


「何急いでいるの、危ないよ?帰るのなら家まで送ろう」


声がかかった・・あの新米兵士だった。

ハァハァと息を弾ませながら、詩乃は都合よく現れる不思議な兵士をじっと見た。

訝しそうに首をかしげて詩乃を見ている兵士・・・薄い金髪に青っぽい目?



そう、ラピスラズリの様な青い目の中に、金色の光が輝いて見える。

不思議な目・・どこかで見たような・・こんな目をした人に会った事がある。

それも沢山だ・・どこだったっけ・・王都?


『王都でか!こいつ、貴族?!!』

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