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B級聖女の日常  作者: さん☆のりこ
10/23

ルビー(後編)

アクションシーンは難しい(>_<)

 魔獣のくっさい息が、鼻先に掛かった様に感じられた。


『やばいよ やばいよ、食べられちゃうよ』


咄嗟に詩乃はべりーの入っている籠を手に取ると、魔獣の顔めがけて思い切り投げつけた、ルビー色の血の様なベリーの赤が一面に散らばった。


「爆竹!中華街!旧正月!実行!」


大声で叫んだ。


バンバンバババババ・・・バチバチバチバチ・・・籠に<冷却材>と願いを込めて気休めに入れておいた、数個の<空の魔石>が爆竹に変化したようだ。


火薬の煙はモウモウと立ち昇り、突然の大きな音であたりは騒然となった。


「何だ!何が起きた!」「魔獣だー!逃げろー!」


女子供を非難させ、兵士や数少ない男たち(爺たち)が魔獣に向かって走って来る。


ごほごほごほ、煙が凄くて詩乃は何が何だかわからない。


『魔獣はどうした?逃げてくれたか?』


煙が目に沁みて、涙で顔はグッチャグッチャで酷い有様だ。

次の瞬間、急に体が浮き上がり、誰かに持ち上げられてその場を離脱したのを感じた。生涯初の抱っこが、お姫様のそれではなく俵担ぎで爆走とはこれいかに。助けて貰って文句言える立場じゃないけれど、何かに負けたような気がする、肩がお腹に当たって地味に痛い。


喧騒から離れて、地面に下されホッとした詩乃は、E級魔術で水を出して顔をあらった。硝煙のせいで顔と目がチクチクと凄く痛かったのだ。


誰かが小さく・・魔術と呟いたのが聞こえた・・。


「1人にしていて御免なさい、恐かったでしょう、私のせいだ~」


リーとアンは、詩乃を一人にしていて悪かった、襲われたのは自分のせいだと泣いて謝ってくれたが、そんな事は無いと思う。3人でいても危なかったと思う、怪我人が出ないで何よりだ。




 その後無事に魔獣は兵士によって討伐された、魔獣も煙で目と鼻をやられて動けなかったようだ、楽な仕事だったと兵士達が小自慢をこいていた。


魔獣を倒した兵士達は、平民の中では強い魔力を誇る選ばれた人達だ。

戦いの魔術具を扱えるくらいの魔力が有るのが兵士になれる条件だ、もちろん運動神経や体力面も重要視されるだろうが・・顔の善し悪しに関しては解らない。

みんな普通な顔だと思うけどな、リーの憧れの兵士さんも~~ん、普通よりやや上くらいのご尊顔ではなかろうか?


その娘さん達の憧れ、新しく赴任して来た兵士のお兄さんが今回詩乃を救出してくれたヒーローなのだった。カッコよく活躍した事で、更に人気を呼び、リーのライバルが増殖したに違いない。


頑張れリー、ローズクオーツも応援しているぞ?


 その恐ろしかった魔獣は青熊といって、かなり魔力の強い厄介な生き物なのだそうだ。けれども死した今は、毛皮や肉・血までも素材として利用出来る優れもので、一頭狩るとかなりの儲けになるそうだ。倒した者に報酬の権利が有るそうで、今日付き添いで来ていた兵士達はウハウハだ。

解体すると血の匂いが流れて達、また新たな魔獣を集めてしまう。

危険との事で、青熊の処理は女子供を街に返してから行われる事となった。報酬の権利から外された新米の兵士を護衛に、詩乃たち女子供は街へと戻っていった。


詩乃が苦心して集めたベリーは魔獣に投げつけた為、騒動で踏みつぶされて無くなってしまったが、しょんぼりとする詩乃に良い囮なったからと皆が少しずつベリーを分けてくれた。


「ありかと、嬉し」



    *******



 泣いてボロボロになった顔で帰って来た娘と詩乃を見て、リーパパは驚き激怒して髪を逆立てていたサ〇ヤ人みたいだった。その後リーの説明を聞いてやや沈静化したのだが、リーの話を聞いても怒りは収まらなかった様だ。

ブスくれた顔をしたリーパパは、大きなため息をつくと

「疲れただろう]と言って、でっかい手で詩乃の頭をグリグリと撫でてくれた。


リーパパの撫で撫では痛くて、顔も怖かったので心地よいとは言えなかったが・・心配してくれる気持ちが嬉しくてついニヤついてしまったのは仕方がない事だと思う。リーのお母さんは何か言いたげで、手を握ったり開いたりしていたが、これまた深くため息をつくとリーを抱きしめていた。


「ごめんさい お昼パン まじゅう~ ビックリ 落とまった」


申し訳なさそうに詩乃が言うと、そのお腹が盛大に鳴った。


ぐううううう~~・・・昼飯抜きだったからね・・みんな黙って詩乃のお腹を見下ろした、見るなよ恥ずかしい。詩乃が気まずくなっていたら、爽やかなアルトが割り込んで来た。


「ああ、俺もお嬢さんに貰って食べました。肉を挟んだモノのと卵のマヨ?パンですか、凄く美味かったです有難うございました」


色男の新米兵士よ・・此処までついて来たんかい。

その一言にリーの顔がパアアッと輝いた、どうやら胃袋はガッチリ掴んだようだね、ミッションクリアだ。


「・・シ~ノン疲れただろう、夕飯食ってけマヨのレシピ代だ。ついでにあんたもどうだ、余ったパンだが」


ついでって・・お父さん、リーのディフェンスは堅そうだね。

新米兵士さんは、大変残念なのだが隊に報告しなければならないと言って兵舎に帰っていった。

リーの方が残念そうだった、リーは彼の姿が見えなくなるまで見送っていた。

リーパパは面白くなさそうにフンッって鼻を鳴らしていたが、内心動揺していたのか、店に入る時に扉に足の小指をぶつけて悶絶、お母さんに笑われていた。



夕食は店で余ったパンと具だくさんのスープ、それからソーセージを茹でたものだった、ソーセージも自家製だと言う、大変に美味しかった。

1人じゃ無い夕食はそれだけで楽しかったし、りーが新米兵士の活躍が如何にかっこ良かったかと、身振り手振りで再現して見せるのは非常に面白かった。


・・・主に、リーパパの表情が。


あの時、詩乃を俵担ぎにして魔獣から遠ざけてくれたのは新米の彼だった。

詩乃を軽々と材木担ぎにして、ダッシュで走ったのが素敵だったそうだ。

俵でなくて、この世界では材木ですか、そうですか、名前はロブさんと言うのですか・・初めて知ったよ。お母さんはおとなしい人の様で、黙ってニコニコして見ていた。


その後、夕食のお礼にリーと2人で食器を洗って片づけをして、おやすみなさいと挨拶をし、詩乃は自宅へと帰っていった。




「ねえ、シーノンは魔術を使えるよね?貴族じゃないの?なんであんな小さいのに一人で住んでいるの?

この前、子爵様の奥様がお店に来ていたし、綺麗な物をいっぱい持っているし、魔術具も使っているのに変だ。貴族はみんな、大金持ちで召使に大事にされて優雅に暮らしているんじゃないの?」


シーノンはいろいろ教えてくれる親切な良い子だし、良い何より私の友達だ・・変な風に扱われているのは悔しい気がする。


「俺たちが預かり知れない、貴族様の事情だろう。あの子が自分から話してこないって事は、俺たちが知らない方が良いと判断してるんだろうさ。余計なことに首を突っ込まないのが身のためだ。あの子が心配なら、この辺の暮らしの事を教えてやれ。ここの冬の越し方も知らんだろう、無事に春を迎えられるようにな」


・・・そう言うと、リーパパは明日のパンの仕込みに為に店に入っていった。



   ****



 詩乃の小さな家に明かりが灯った。


「疲れた~色々ありすぎだよ、異世界のバカヤロー」


もう動く元気もないが、かなり汚れてバッチイので風呂の支度をする。

洗濯物を魔術具に放り込み、洗濯・乾燥・アイロンと念じ実行する。

それから大事にしている、召喚される前に買っていたサンストーンのネックレスと、左右のブレスレット計4本を外す。


召喚されたあの日、詩乃はジャラジャラと沢山の石を身に着けていたのだ。

新しい石を迎えた日だったし、ついでに前に買った石の様子を店主さんに診てもらって、アドバイス的な話をして貰ったり、気?を注入してもらう(有料)為にだった。


詩乃は懐かしい元の世界で買って、一緒にこの世界にやって来た石を常に身に着けている。大事な思い出の品たちだし、お守り的な効果も期待して。それにブレスレットは母方のお婆ちゃんの形見だ、貴族なんかに取り上げられたらたまらない。


風呂に溜まったお湯に体をそっと浸す。


「いやあああ~あちこち、沁みてピリピリするぅ~」


小さな擦り傷があちこちに有るようだ。


そばにあった<空の魔石>を握りしめ念じる


「傷を治せ」


・・・治らない。

何でか知らないが、<空の魔石>を使える時と使えない時があるのだ、その法則が解らない。それに今日は、魔石を握り込んで念を込めなくても、願いを叫んで投げ実行しただけで魔石が爆竹に変化した。


「もう、訳わかんないよ・・」


おかげで助かったには、助かったのだが。





深夜、トデリから王都の某所へ魔術通信が入った。


「小さな黒が、おかしな術を使いました」




オニキス・・黒々と光る、悪意を跳ねのける石。

            自己主張を貫く、決意を授ける石。


誰が誰にチクっているのでしょう?

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