み つ る さ ん と さ よ り さ ん
「ねぇ。充さん。あのお肉脂がちょうど良さそうよ。買って帰りましょ?」
「そうだね。でも、僕は君の方がつくべきところの脂と肉の比率が良さそうで、食べたいと思うよ。」
「それって、褒めているの?」
「僕としては最大級の褒め言葉さ。」
「やっぱり、変わっているのね。」
「仕方ないよ。僕に出来る愛情表現は食べることだから。」
「でも、そんなところも含めて大好きよ。充さん?」
「僕も、食べたいくらい好きだよ。沙依?」
何気ない買い物の会話。彼も彼女も歪んでる。
「ねぇ。充さん?」
「どうしたんだい?」
「今日は病院へ行ったのよ」
「どこか悪くしたの?」
「ううん。違うの。」
「それじゃあ、一体どうしたってんだい?」
「あのね。赤ちゃんができたの。」
「僕と沙依の赤ちゃん?」
「そう。私と充さんの赤ちゃん。」
「そっか。赤ちゃんはお肉がやわらかそうだな。」
「私よりも先に赤ちゃんを食べちゃうの?」
「いいや。君を食べてからにするよ。」
「よかった。私、愛されてるのね。」
「うん。とっても愛してるよ。」
こんにちは。赤ちゃん。きっとあなたも歪んでる。
「ねぇ。充さん?」
「沙依。どうしたの?」
「赤ちゃんの名前決めたわ。」
「へぇ。教えてもらってもいい?」
「うん。えっと..男の子なら『優太』、女の子なら『優海』ってどうかしら?」
「うんうん。由来とかは?」
「人に『優』しく出来る子になって欲しいと思うんだ。安直すぎるかな?」
「いや。素敵だと思うよ。...ねぇ。沙依。僕はおかしいのかな?」
「どうして?」
「沙依をいつか食べるっていう話をしたら、みんな顔をしかめるんだよ。それは愛じゃないって。」
「...そんなことがあったのね。大丈夫よ。愛情表現は人それぞれなんだから。私は充さんに食べられたいわ。」
「うん。ありがとう。沙依。」
家族の団欒は歪んでる。
「ねぇ。充さん?」
「どうしたんだい?」
「今日は優太の入学式よ?」
「そういえば。」
「パパは見に来てくれないの?」
「うん。ごめんね。パパはお仕事なんだ。」
「いつかちゃんと食べてくれるの?」
「もちろん。優太への愛はママへの愛と変わらないよ?」
「うん!」
「さぁ。優太。ランドセル背負ってお外で待ってて?」
「はぁーい。」
「充さん。今日も大好きよ。」
「うん。僕も。今にも食べたいくらい。涎が止まらないよ。」
ほら。息子も歪んでる。
「ねぇ。充さん...」
「うん。」
「病院で再検査になったわ。」
「入院するの?」
「そうみたい。...どうしよう。怖い。」
「母さん..」
「優太..。」
「ママ。僕がいるよ。ひとりじゃないよ。」
「パパ...」
「元気になるための入院なんだ。元気に帰っておいで。そしたら、ママを食べるよ。」
「俺も...父さん。俺も食べたい。母さんが...好きだから。」
「優太は高校生になってますますパパに似てきたわ」
「それは褒めてるの?」
「もちろんですとも。貴方ほど素敵なパパはいないわ。」
家族の絆は歪んでる。
「ねぇ...充さん...」
「無理しないで?」
「あのね。あのね。もう、ダメだって…」
「ダメだったの?...そっか...そっか...。」
「泣かないで充さん。優太も。余命半年からここまで来れたことが奇跡よ?」
「母さん...母さん!!」
「あの、ね...充さん。今。」
「今?」
「今食べて...」
「沙依...」
「今食べてもらいたい。病気より貴方に殺されたい。食べられたい。」
「...うん。」
「今日の夜にドレスを着て待ってるわ。私を美味しく食べて」
「うん...うん。」
「それと、一つだけお願いがあるの。」
「もちろん。僕に出来ることなら。」
「目だけはずっとそばにいたいわ。目なら優太の成長も見られるもの。」
「わかった。」
「じゃあ、お願いね。」
「ねぇ。沙依。」
「あの時の君は今までで1番愛おしかったよ。」
「人間の肉は豚肉のようっていうけど、君の肉は極上の肉だったよ。」
「その目玉は優太と僕がうつってる?」
「優太には子供が出来たよ?」
「もう僕もおじいさんになったんだ。」
「君はいつまでも美しいね。」
「少し、少しだけ、寝てもいいかな。」
「ごめんね。すぐにそっちに行くから。」
「ずっと愛してる。」
「また、またあとで」




