日常は日常の繰り返し
本も読まずに本を書き、
唄も知らずに唄を書く
酔狂な人間はいつの時代もいたもので
これはそんな阿呆達の生涯を描く
平成物語である。
平成2x年
♩♩〜♩♫、♫〜
ここは田舎でもなければ都会でもない街のライブハウス、ここのJC(JC-120というギターアンプ、要約するとスピーカー)はゲインを上げた訳でもないのに歪みやがる。意味わかんねえと毎回思うよ、ホント。
ま、嫌いじゃないんだけどさ。
「おつかれーっす」
「うぃっす、今日もバリバリっすね。ハイドレ。」
「当たり前っしょ!なにぃー?まーちゃんもうバテてんのー?今日打ち上げ止めとくー?」
「行くに決まってんじゃないすか」
ライブ終了後のハコの入口前でタバコをプカプカ、知らん人から見たらDQNかヤンキーか。
少なくともまともな人間には見られないんだろうね。
ハイドレって言うのは今日対バンした先輩のバンド名で正式名称をハイレグお姉さんをドレインしましょう。
って言う童貞臭漂う名前で活動しているバンドさんだ。
でもそんなバンド名に似合わず上手い。
めっちゃ上手い。
ギターの人はなんか玄人っぽいし、バン○パかよってくらい渋いフレーズ使ってくるし。
ボーカルの人はチャラチャラしてるけど歌が上手い。この前行ったカラオケでは広○香美とか歌ってた。絶好調ですか、さいですか。
ベースは一番まともそうに見えて実際は6弦買おうか本気で悩んでるアホだし、ドラムはマッチョ。
つまり色々すげーバンドだ。
そのボーカルギターのユートくんがなんと大学3年生(4回生)へ進級すると言う記念ライブに俺たちも誘われた訳だけど気乗りはしなかった。
自分たちの実力に合わない。
そう感じていたんだ。
所変わって打ち上げ。
近所の280円で色々飲み食いできる居酒屋である。安い=正義。金ないからね、バンドマンは。
「まーちゃんさぁー、お酒飲んでる時はめっちゃ面白いんだからさライブ中ももっとお酒とか飲んでやっちゃえばいいんじない?」とユートくん。
「いやぁー、流石にそんなハッチャケた曲やってるんでもないんで引かれると思うんですよねー。」
「またまたー、Endとかめっちゃキレキレじゃん!あのギターどうやってやってんの!?」「あれは歌いながら作ったんで、、、」
「そんなんどーでもいいから!そんな事より!さっさと!もっと!いい曲書けよ!」とはハイドレベースの基地外(仮)さん。
いい曲ってねぇー。簡単に言いますけども。俺みたいな普通の人間が普通の経験して非凡な曲がポンポン出てきたらそりゃぁ天才な訳で。
「あんまウチのボーカルイジメんといて下さいよぉー。こう見えて小心者なんですから。」
と慰めてるのか貶してるのかよくわからん事を言うのがウチのベースの美緒ちゃん。どっかのアニメで聞いた事ある名前だよな。
こう見えてって言うのは俺のナリが金髪ロン毛で眉毛まで脱色してるって所から来てるんだろう。
やり過ぎちゃう痛い子って奴ですな。残念。ちょっと、いや、大分後悔してます。
「でも、こいつの歌好きなんですよねえー。」と言ってくれる輩がいればいいんだけども。
「なんて思えたらバンド辞めてソロで歌えって言いますわ!笑」とぬか喜びさせてくるのはウチのドラムの脇役くん。間違えた脇詰くん。このバンドからソロへのネタは最早鉄板らしい。
「まぁ毎回ライブの度にナインティーンのラスサビ歌えなくなるからねー。」
美緒ちゃんがさらに貶める。ナインティーンと言うのは俺たちの曲。大好きなバンドの名前と作った時の年齢を文字って作った。
「俺はあの曲好きだよー、切なさと青臭さマックスで。あと早いし!」ユートくんが早いし。という所にポイントを入れたのはメロコアが好きだからなんだろう。そうですよ。早けりゃ良いと思う時期もあったんですよ。
繰り返しのコード進行と早いドラムに気持ち良いメロディ。それだけあればカッコ良い。
そんなのは限られた才能がある人にしか作れない、簡単に言えば幻想だ。
俺たちが真似をすれば何かしらのメロコア風って言われて終わってしまう。そもそも、真似を、って言ってる時点で終わってる。
自分の歌いたい事がその曲でなければ意味がないのに。
でも、だからこそナインティーンには特別な意味があった。
大人になりきれず、子どもでもない。それでいて自分の中でかなり背伸びをして作った曲だ。
ボーカル的な意味でもラスサビで転調してキーが上がりこれでもかと高い声を張り上げ、ドラムはワンバスとは思えない連打とコンビネーションで気持ち良く終わる。
そんな曲。
でも20歳になり、大人って何なのか尚更わからなくなってしまった。
大学は休みっぱなしでその分バイトとバンドと空いた時間で遊び。
つまらん。
そんな気持ちが胸を埋め尽くしてしまっているものの、何か別の事をやるかと言えばそうでもなく。
「お前ホントいつもつまんなそうだよな。」基地外(仮)さん。この人はどんな所でもズカズカと入ってくる。土足厳禁って貼り紙に書いてあっても無視した挙句、その紙に落書きでもするタイプだ。
「そうっすか?歌ってる時と飲んでる時は割と楽しいんですけど。」
「だってお前らの曲つまんないじゃん。バンドでやる意味ないよ。」相変わらずこの人は言う事が極端だ。
「そりゃぁハイドレに比べたらそうかもしれないですけど、、、」「比べたらって何だよ、別に比べなくて良いんだよ。お前が楽しいのかどうかって話だろ」
やべ、この人酔っ払うとこういう感じだったっけ。
「はいはい、良いから飲もうねー!それ一気ー、それ一気ー」ドラムのマッチョくんが助けてくれた。いや、殺してくれた。あんた、それ日本酒だろう。しかも徳利じゃねえか。ま、良いか。
「俺が 飲んだら 誰が 飲む!?」
というコールとも呼べないコールに煽られて俺が飲む。20歳になってからこんな事ばっかりだ。
俺の大脳新皮質は活動を停止してるに違いない。
翌朝
「ゔゔうぇー」気持ち悪。てかここどこだよ。昨日百種の本望亭でラーメン食った所までは覚えてるけど、、、
「くさっ」外を見たら、というか既に外だ。路上だ。どこぞの公園の青いベンチだ。匂いの元は道沿いのゴミだな。カラスがゴミを漁って中身がぶちまけられてやがる。そら臭いわ。
ケータイのやり取りを見返すとどうやら終電で帰れなかったから二次会三次会まで行って死んでたらしい。
「あー、、、」今日何かする事あったっけ?あ、大学のレポートか。まぁ同回生に写してもらえばなんとかなるだろうしそれはいいや。ゆっくり寝たい。
直後ケータイが鳴る。
「大丈夫ー?看病代は後できっちり貰うんではあと」と美緒ちゃん(鬼畜)からのメールが届いた。看病されてたのか。だったらそのまま部屋にでも置いてくれればいいのに。
「お兄さん何してるの?」と話しかけてきたのはいかにも仕事中の女性OL。自分で言うのもなんだけどこんな格好してる奴に話しかけるのはどうかしてると思うぞ。いや、ちょうど起き上がったらお姉さんが真向かいのベンチにいた訳か。
「今は大学生とバンドマンしてます。」「、、、最近のバンドマンってそんな風にねるもんなの?」と引き笑い。
これは色んな事情ってのがあるんですけども、説明するのも面倒だし、くさいし。
「お姉さんこそ何してるんですか?仕事ですか?」「そそ。正確には仕事の合間に副業をねっ。」
社会人って本業の他に副業もするんですか。やだなぁ、お金稼ぎまくりじゃないですか、分けてくださいよ。
「副業って言ってもまだ一銭にもなってないけどね。」「もしかして、ツボ売ったりする奴ですか?俺見たらわかる通り金持ってないんで。」
「あたしもどーせツボ売るならお金の無さそうなバンドマンじゃなくて中年の恰幅のいいおじさまに売ります。」
でしょうね。副業って言うとFXとか?でも出歩く必要は無さそうだし、、、ネットワークビジネスか!!
と思案した所でお姉さんの鞄の中に封筒が入ってるのが見えた。
「その封筒が関係してるんですか?」「おっ、よくわかったじゃん。そそ、仕事の合間に本書いてるんだけどこれが全然ダメでねー。20社くらい回ったのにこれが全然。なんか就活してた時みたいで、結構ヘコんじゃってねー。」
就活ってそんなに大変なんですね。まぁバンドマンの仲間に聞いてても思うけど就職するのはなかなか大変らしい。
面接にメッシュ入れてアシメの髪型で行ったら帰れと言われたとかなんとか。
ピアスを外していったのは良かったけども穴が大きすぎて指摘されたとか。
まぁ、色々前提から可笑しいとは思うけど、なかなか大変らしいですな。
で、なんだっけ?
本。あぁ俺とは全然縁のないアレですね。主を信ずれば救われるとかいう奴。お金の無い奴も救ってくれるんですかね。
「本って言っても聖書とかではないよ。」なるほど、そうですか。あ、なるほどって相槌は失礼にあたるらしいですね。バンドマンの俺も怒られた事があるんでそこら辺は知ってますよ。
じゃあ神は死んだって奴ですか。
「哲学でもありません。普通の小説。日常の中で些細な幸せを見つける2人のラブストーリー。ありがちかなぁー?」
かなぁー?と言われても反応に困る。何せ読書なんて高校生の時に教科書に載ってた夏目漱石を読んで以来まともにした事がない。
読むといえば好きなラノベとバンドスコア位だ。とても読書と呼べる程ではない。まぁ、それでも意見を求められているんだ、答えておくべきなんだろう。
「ありがち、なのかもしれないですねー。俺が読む話だとそんな日常を壊す様に巨人が襲ってきたり、異世界からキャラがきたり、逆にゲームの世界に行ったりして美少女と出会う所から始まりますけど。」
するとOLさん(メガネ)はキツめの表情で答え始めた。「でたよ、ラノベ厨。そんで、とりあえず主人公の周りにはハーレム作って誰とひっつく訳でもなくどっちつかずな展開で進めていけば良いって言いたいの?」
いや、そこまで言っては。と言い返す間もなくOLさん(キツめ)の攻勢は続く。
「でもそんなのももう既に出尽くしてるっつーの!ありがち!キャラが立ってない!設定が微妙!面白みがない!じゃあ日常には面白みはないのかっ!!ないんでしょうね!!もう少し捻りがあればねぇ〜。社会人なんだしもうちょっとそういった経験から活かせるものないですかー?ってそんな貴重な経験してたら書いとるわ!!」
あーぁ。ストレス溜まってんだろうなぁ。きっとこうやって文句も言えない社会的弱者(今回は俺)を見つけては意見を言わせて否定してるんだろう。
、、、でも、なんとなく重なる部分もあった気がした。キツ目さんが言った事はまさに俺が言われてる事に違いなかったから。
だからだろうか、つい味方をしてあげたくなってしまった気がする。あくまで気がした、だけだが。
「、、、日常にも良い事あると思いますよ。」「例えば?」「綺麗なお姉さんのパンツがたまに見れる。」「○ね」
そう、向かいの席に座ってるキツめさんの下着が見えてしまいそうだったのだ。自己申告した俺偉い。まだ見えてないからね?冤罪ですよ?
「まぁあんたみたいなのと話すのもたまにはストレス発散になって良いのかもね。ありがと。そろそろ仕事に戻らなきゃ。」「はーい、学生はゆっくり家に帰ります。」「○ね」
こうして、キツめさんと俺のファーストコンタクトが生まれてしまった。日常の中で幸せを見つけられない2人が出会ってしまった。なんか書き方が良くない事の様になっているが、事実良くない事であったので問題はないだろう。