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8.ペリオンの励まし

『なるほど……そんな事が……』

「うん……」


 優しい表情を見せ続ける御曹司ペリオンのお陰で、混乱し続けた気持ちがようやく収まったはづきは、彼が現れなかった間に起きた夢や現実の出来事を洗いざらい話しました。『歯周病』と言ううんざりするほど聞き続けた病気が実はとんでもなく恐ろしい胃存在であったこと、それなのに自分はわがままで執事ブラッシュやお母さんに文句を言ってしまった事、そしてどうやって謝ればよいか分からず、ずっと悲しんでいた事を。

 そんな彼女に、傍にいていられなかった事をペリオンは謝りました。決して彼女を困らせるために身をくらましていたのではない、と付け加えながら。勿論、彼の謝罪をはづきは快く受け入れましたが、その次に出た言葉を聞いた彼女は驚きました。彼女がわざわざ彼らに対して反省の意思を示す必要は無い、と告げたのです。


『だから、気にする事はないと思うよ』

「え、で、でも私……」


 そんな彼女の頭を再び暖かい手で撫でながら、ペリオンは言いました。確かに『歯周病』と言う病気は非常に恐ろしいものかもしれないが、それに気づけたのは執事ブラッシュのお陰でもお母さんのお陰でもなく、はづき自身の成果ではないか、あのような厳しく責めるような口調で言われて納得できるか、と。どんな正論でも厳しい言葉で言われてしまうとなかなか納得しようとしない彼女の内面を、この御曹司は見抜いていたようです。

 

『それに……思い返してみな。今まで君は『歯周病』になった事はあるかい?』

「な、無いけど……」


 そして、医者と言うのは大概あのような煽りが得意なものだ、とペリオンは少し怒ったような口調で告げました。はづきのように心配する人々につけこんでは、どんな軽い病気でもおおげさにその危険性を説明し、自分たちの病院に通わせては金を稼ごうとする連中ばかりだ――まるで義憤を感じているかのように、彼ははづきのやっている事は正しい事だ、と胸を張ったのです。

 それでもなお心配な気持ちが収まらない表情の彼女を見たペリオンは、もう一度笑顔を見せて言いました。君は絶対に何も間違えた事はしていない、今は辛くても絶対後で良い事に繋がる、と。

 

『だから心配しないで。僕がいつまでもついてあげるから』

「……ペリオン……」


 確かにここは夢の中、彼女の思い描く幻想に過ぎないかもしれません。それでも、自分の悩みを真摯に受け止め、そして優しく励ましてくれる御曹司に、はづきは嬉しさを溢れさせました。ありがとう、と言う彼女の短い言葉には、彼女の感謝がたっぷり込められていたのです。勿論、ペリオンも嬉しそうな表情を彼女に見せていました。


『さあ、元気が戻ったところで、一緒にお菓子を食べない?』

「うん……そうだね!」


 彼の誘いに乗ったはづきは、早速美味しいお菓子をたくさん食べ始めました。お菓子会社のお嬢様と言う立場の彼女は、自分が思い描いた美味しいお菓子を思う存分食べる事が出来るのです。勿論、歯磨きなんてする必要は一切ありません。何しろここは『夢の中』なのですから。

 豪快な食べっぷりだ、とペリオンに言われてしまうほどでしたが、それは彼女を馬鹿にする嫌味ではなく、チョコレートのように甘い褒め言葉でした。お菓子を美味しそうに食べる女性は美しい、と言う言葉を添えられたはづきは、照れ臭さでつい顔を真っ赤にしてしまいました。


『……ふう、ごちそうさま』

「ごちそうさまでした」


 チョコレートにクッキー、煎餅にパイ――たっぷりお菓子を堪能したはづきは、ふと喉の渇きを覚えました。夢の中とはいえ、飲み物を欲しがりたくなる感覚は辛いものです。そんな彼女の様子を見計らったかのように、ペリオンは小さなティーポットを用意し、はづきのお洒落なカップに飲み物を注ぎました。


『はい、オレンジジュースだよ♪』

「ありがとう、ペリオンは気が利くね」


 どういたしまして、と言う返事を聞きながら、カップに入っていた『オレンジジュース』を飲み干した、その時でした。


「……あ、あれ……なんだか……」


 夢の中にもかかわらず、突然はづきの全身を強烈な眠気が襲ったのです。急にテーブルに伏してしまった彼女を見て、慌ててペリオンは毛布を取り出し、彼女にかけました。


「ご、ごめん……」

『君はきっと疲れたんだ。気にせずおやすみ、お嬢様』


 膝の上でも良い、と言う彼の提案は照れ臭いと断ったはづきでしたが、次第にその意識は朦朧となっていきました。そして、彼女はテーブルに体を伏せながら、眠りに就いてしまいました。


 その時のはづきは、全く気づいていませんでした。

 彼女が意識を失い、ぐっすり眠ってしまった直前、ペリオンの顔が、まるで嘲り笑うような『悪魔』の表情を見せた事を……。

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