【文学】大先生、ほえる
おじいちゃん先生は、ちょっといかれたドクター。
拙著『ゆるいまんげつ』所収の一編です。
パート勤めの美弥子は、定期健診のため、近所の病院へ行った。
窓口で、「では、最初に尿をとってきてください」と言われ、検尿用の紙コップを渡された。
トイレでがんばったが、尿は一滴も出なかった。家を出てくる前に排尿してしまったのだ。
しかたなく、「すみません。出ないんですけど」と窓口で告げると、となりの診察室のドアが乱暴に開いた。
「なんじゃとおお、けしからーん」
一九〇センチ強の白衣の老人が、足音を響かせて近づいてきた。
「貴様ぁ、それでも大和撫子かあ」
老人はごっつい手で美弥子の手首をつかむと、引きずるようにして診察室にひっぱっていった。
窓口のおばちゃんがあわてて小窓から顔を出し、美弥子の背中に叫んだ。
「ああ、今日は若先生、小学校の予防注射に行ってまーすのよおー。そのかたは、お祖父様の剛蔵様でーすのよおー」
診察室の奥につれていかれた美弥子は、そこにいた二人の看護婦によって、たちまち素っ裸にひんむかれた。
「ひさしぶりじゃのう、うっひょっひょっ」
剛蔵はにやりと笑い、壁を覆っている赤いカーテンを勢いよく引いた。
そこには、X型の十字架があった。鉄製で黒光りしている。
美弥子は抵抗むなしく、十字架に押し付けられると、手首と足首を革バンドで拘束された。
剛蔵は壁にたてかけてある槍を手にした。三メートルほどある。
美弥子のすぐ前でよこをむき、槍を水平にかまえ、きゅっきゅっとしごいたあと、
「エイッ! ソレッ! ダアアーー!」
と三度、前後させた。
剛蔵は槍を垂直に持ち、美弥子を真正面にみた。
五歩さがり、槍を水平にかまえた。
美弥子はふるえていて、声も出せない。
「覚悟はいいな。いくぞお」
からだを沈め、槍をちょっと引いた。
「エイヤアアーー!」
槍の穂先は、美弥子の、みぎ脇腹よこ三センチの壁に突き刺さった。
美弥子の内腿を、黄色い液体がつたっていった。
そばにいた看護婦がすばやく、美弥子の股間に紙コップをあてがった。
「アッハッハ。出た出た」