閻魔さんの裏事情
「小夜さん!短い間でしたがお世話になりました!」
「……まさかこんなに時間がかかるとは思いませんでした。」
ほぅ。と溜息を吐きながら小夜は自らの上司である閻魔の事を思い出す。
閻魔は事前に小夜に頼みごとをしていた。
一つ
誠に戦後の教育を受けさせること
一つ
誠の願いを叶える事
小夜は二つ返事で了承してしまった過去の自分を殴りたくなる。
依頼自体は簡単なものだった。
もともと賢かったのであろう誠はすんなりと戦後の義務教育までは理解できていた。
何か願いは無いかと聞けば少し考え料理が出来るようになりたいと言う。
問題は閻魔である。
彼は事あるごとに邪魔をしてきたのだ。
少しでも小夜が目を離せば誠にライトノベルを読ませファンタジーとは何かを教えていた。
更には卓越した技術の化学兵器なども教えだす始末。
これには小夜も呆れることしか出来なかった。転生する直前の誠は異様に腕の立つ平成あたりの高校生という言葉が一番しっくりくるだろう。
……小夜が閻魔への恨み辛みを思い浮かべているうちに、無事誠は転生したようだ。
その事を報告するため閻魔の元へと向かう。
……それだけでは無いのだが。
「閻魔様、無事一之瀬誠が転生しました。」
「そうかい。彼は何に生まれ変わったんだい?」
「……幽鬼族です。」
「なるほどねぇ。確かに幽鬼族なら彼の器に丁度いいね。地球で魔力を創り出すほどの逸材だ。これからが楽しみだね。」
そう言い何度も頷くと閻魔は小夜にもう帰って良いと手で合図する。
しかし小夜はそれを無視し会話を続ける。
「少しお聞きしたいことがあるのですが。」
「ん? なんだい?」
「なぜ彼を地球に転生させなかったのですか?」
「誠君に話していたのを聞いてなかったのない? 本来地球には存在しない魔力を創り出してしまった誠君はもう地球に転生する事は出来ない。よって魔力が存在する世界へと行ってもらったんだ。」
「いや、それ嘘ですよね。何回か地球で魔力を創り出した存在はいましたけど全く問題なかったじゃないですか。」
小夜の言葉にビクッと閻魔は肩を震わす。
「それに彼にわざわざ知識を与える必要はありませんでしたよね? 本来転生した時に地獄でのやり取りを含め前世の記憶は無くなるのですから。」
「そ、そそそ、それは、ホラ。なんとなくって言うか。その場の勢いって言うか。」
「そういえばこの間、可愛らしい幼神が来てましたね。なんでもあの世界創った神らしいじゃないですか。」
小夜の口撃にビックゥウウ!! 更に震え上がる閻魔。
「あの幼神に何言われたんですか?」
「い、いや。ちょっと強い人欲しいなーって言われて……つい……。」
「……誠さんに生活水準上げて欲しいとか馬鹿なこと言って、反省してますか?」
「すみましぇん……。」
「ま、バレバレだったんでそれとなく誠さんに伝えておけた事は僥倖ですかね……。」
苦労の絶えない小夜であった。
次回から本編が始まります。
近いうちにこの話は一話とまとめる予定です。