その男 桃太郎
処女作です。
第二次世界大戦時「桃太郎」と呼ばれる日本兵がいた。
名を一之瀬誠と言う。
軍刀片手に戦場を駆ける姿は味方に勇気を、敵に恐怖を与えた。
正しく一騎当千。
その姿に日本兵は過去の桃太郎の姿を見たと口にする。
……
…………
………………
油断した。と誠は心の中で毒吐く。
人々に恐れられた桃太郎の最期はあっけないものだった。瀕死となった某国兵が最後の足掻きと放った弾丸が誠の額を貫いたのだ。
彼は17歳でその生涯を終えた。
次に彼が目を覚ました時、彼は所謂白装束で身体中に鎖を巻かれていた。周囲には人は居らず、目の前には人骨で装飾された妙に大きい扉が。
やはり地獄に来てしまったか。と彼は力なく笑う。あれだけの人を殺したのだ。
戦争とはいえ自分の命を守るためとはいえ、許される事ではない。
覚悟はしていたのだ。どうせなら地獄を楽しんでやろうと前を向きなおす。
扉がゆっくりと開いていく。門の先では……
「もう嫌だこの職場ブラック過ぎるだろ!有給休暇使わせろよな!」
「閻魔様、今日はあと1人ですから耐えてください。」
「断る。私はもう働かないと決めた。」
「…はぁ。今月のボーナス無しな。」
「お、横暴だあ!」
見上げるほどの大男が少女に駄々を捏ねていた。
「あ、ほら。もう来ちゃってるじゃないですか。」
大男と話していた少女が誠に気づく。
「あー、お見苦しいところを見せてしまいましたね。失礼いたしました。」
「いえ……大丈夫です。」
本当に此処は地獄だろうか? と誠は首を傾げる。
「あっどうも。閻魔です。」
「一之瀬誠です。」
やはり此処は地獄であっているようだが緊張感が全くと言っていいほどにない。
「ん? んん? 一之瀬誠ってピーチボーイの?」
閻魔の目つきが鋭くなる。そのあまりの変わりように誠はたじろいでしまう。
「ふぅん、君がねぇ……。小夜、閻魔帳持ってきて。」
「……こちらに。」
小夜と呼ばれた先程、閻魔と喧嘩していた少女が彼女の背丈ほどもある巻物を渡す。
それに目を通した閻魔の顔つきが更に険しくなったが、急に笑い出す。
「ちょっ、小夜ちゃん見てこれ! ク、クフフッ。誠君まだチェリーだよ!ピ、ピーチボーイが未だチェリーボーイだなんて、ブフッ。」
ーーチェリーボーイが何を意味するかはわからないが馬鹿にされてるのは分かった。ーー
と、今すぐ殴りたい衝動に駆られる誠だったが負けるのは目に見えてるので睨むだけに終わっている。
最も、身体には鎖が巻き付いたままなので殴りかかることは不可能なのだが。
誠の視線に気づいたのか閻魔は気まずそうに咳払いをして会話を続ける。
「き、気になったところは他にもあってね。君さ、魔力を保有してるんだよね。」
「魔力? 」
「簡単に言うと君には陰陽師が使う力を持ってるんだよ。」
「なんとなくわかったような……。」
「それで君ね、無意識のうちに魔力を使って身体強化してたワケ。で、それって要はズルなんだよね。本来この世界には魔力なんて無いんだから。」
「いや、そんなこと言われても……。」
「まあ、そうだろうね。本来ならここで魔力を没収すれば済む話なんだけど、君は偶発的に魔力を得たから生まれ変わってもまた手に入れるだろうね。」
「じゃあ、どうすれば……。」
「なに、簡単な話だよ。魔力が存在する世界に行けば良いじゃない。」
「…………うん? 」
「だ〜か〜ら!君はもう地球にいられないから、魔力溢れる世界に生まれ変わってもらうの!」
「あの、具体的にはどんな世界なんですか? 」
「簡単に言うと剣と魔法のファンタジー溢れる世界!未来の子供達が一度は憧れるであろう世界に行けるんだよ!」
「ファンタジーと言うのがなんなのかはわかりませんが地球と大分違うと言うことはわかりました。
……それで、今すぐ生まれ変わるんですか?」
「いや、君にはあっちの生活水準を少しでもいいから上げて欲しくてね。終戦後の一般教養や少しばかり専門的な知識を学んでから生まれ変わってもらう。
……ということで小夜ちゃん、あとは任せた!」
言うだけ言うと閻魔はドロン!という効果音と煙と共に姿を消してしまう。
唖然とする誠を尻目に小夜は「後でお仕置きですね…」と小声で呟くと、誠の方へ向き直し、
「それでは改めまして誠さん小夜と申します。時間が勿体無いので早速、勉強を始めたいと思います。」
こうして一之瀬誠の異世界転生物語は始まったのだった。
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なるべく間隔を空けずに投稿したいと思いますが不定期更新となります。