恋する少年と流れ星
「お疲れ様でしたぁ。……ふぅ。」
バイト先を出て、公太はため息をついた。
「もうすぐ夏休みかぁ…… なーんもおきないんだろうなぁ。」
独り言を呟きながら、家に向かって歩き出す。 高校はもうすぐ夏休みを迎える、公太は楽しみと同時に不安があった。おもむろに携帯を取り出し、画像フォルダを開いた。 そこには笑顔でこちらにピースしている可愛らしい女の子が写っている。
「浜岡さん…… ぜっってぇ彼氏出来ちゃうよなぁぁぁ……」
浜岡さん、とは公太が高校入学時から片思いをしている女子である。 一方的な片思いを続けて1年程、未だに進展ゼロである。
「はぁぁ……」
少し泣きそうになりながら、何気なく空を見上げた。 綺麗な夜空、無数の星が輝いている。
不意に流れた、空を切り裂く流星。
「あ!」
咄嗟に公太は立ち止まり、目を閉じてその場で願いを唱えた。
浜岡さんと付き合いたい、浜岡さんと付き合いたい、浜岡さんと付き合いたい‼︎
ゆっくり目を開き、空を見上げる。 流星は消え、綺麗な星たちが変わらず光り続けている。
「間に合わなかったかなぁ……」
叶うはずはないと分かっていても、思わず願ってしまった。 公太は少し恥ずかしくなり、急ぎ足で家へと向かった。
……ィィィィン。
「ん?」
ふと、足を止める。 何か音がする、何処か遠くで、何かが鳴っている。 しかし、周りを見渡しても田んぼしかない田舎道だ。 不思議に思いながらも、公太は再び歩き出した。
……キィィィィィン。
公太は再び立ち止まる。 また聞こえた。いや、正確には今も聞こえる。 さっきよりも音が大きくなっている。 しかし周りを見渡しても何もない。
音は徐々に近づいてる。 そして公太は音の出処を理解した。
「うえ?」
……見上げた空。 距離など分からなかったが。
公太に向けて、光の塊が向かって来ていた。
キィィィィィン‼︎
「い、いんせきぃ⁉︎」
驚いている間にも、光の塊は公太目掛けて飛来してきている。 公太は来た道を全力で引き返す。 それでも音はどんどん大きくなる。
キィィィィィン…… ドーン‼︎
公太は後ろからの衝撃で、転んでしまった。
「いってぇ…… いったい何がーー」
立ち上がりながら、公太は後ろを振り返る。 土煙が徐々に晴れーー 公太は言葉を失った。
白タイツが、刺さっている。
……正確には。白タイツを着ている人の形をした何か、その何かの恐らく頭であろう部分が地面に突き刺さっている。 いわば逆立ちしている状態だ。
公太が呆然としていると、その白タイツが動き出した。 公太は自然に身構えてしまう。
「あー! いってぇっての! ったく、もうちょい柔軟性つけろよこの土! 土が! この石も、この石! 石! 」
全貌を表した白タイツに、公太の思考は停止した。
突き刺さっていた頭の部分、そこから出て来たのはーー おっさんの顔。 そしてそのおっさんは、安っぽい星型の被り物を着けている。星型の中央から顔が出せるタイプだ。
(空から……白タイツのおっさん降ってきた……)
「おい少年。 君だな、依頼人は?」
星の被り物したおっさんは、何事もなかったかのように公太に話しかけて来た。 訳も分からず、公太は首を傾げる。
「あ、の。 な、なんのこと、でしょうか?」
「えー? だって君お願いしたでしょ? 浜岡とか言うやつと付き合いたいって。」
その言葉に公太は顔を赤くした。 なんで初対面の変な人がそんなこと知ってるんだ、公太は驚きで声が出せなくなった。
「あのねぇ、おじさん少年のせいでこんな痛い思いしてるんだからね? 本当嫌になっちゃうよ、ダ○ソンの掃除機並みの吸引力かよ! ってくらい君の願い強すぎだし! 必死に玄関扉にしがみついたけどおじさん握力限界で強引に地上に連れて来られた訳なのよ。」
公太にはさっぱり理解できなかった。 ダ○ソン? 吸引力? 願い……
そこで、公太は震えた声で白タイツに話しかけた。
「あ……の。 あ、あ、あなたは。 な、なんなんです、か?」
「ん? おじさんはね、流れ星です。」
その言葉は、16歳の少年の夢と理想をぶち壊すには十分であった。