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15-1.霧の向こうからの使者

 魔王サマワートに山ほどのゲームソフトを土産として持たせ、魔界にむりやり送り返したクラヤミ総帥は、広間の玉座につくと深くため息を吐く。

「魔王のやつめ、問題だけ山積みに置いて帰っていきおった。悪魔のような男だ」

「それはまあ、魔王なのですから、仕方ないのでは?」

 傍らに立つ参謀の夜野が、愛想笑いでフォローを入れる。

「いや、あやつはあれでも〝善良なる王〟として国民には愛されているらしい。〝悪い魔〟も居れば〝良い魔〟も居るということであろう」

「そうですね。閣下も悪の首領ですが、私たちにとっては悪い総帥ではありませんよ」

「それは貴様が悪の参謀だからだ。そして、わしにとっては掛け替えのない優秀な右腕でもある」

 夜野は少し頬を赤らめると、ゴホンと大げさに咳払いをする。

「……閣下のそういったところは、もう少し自重していただきたく思います」

「〝そういったところ〟? 一体、何のことを言っているのだ」

「あ、申し訳ありません。通信が入りました。少々失礼します」

 夜野はこれ幸いとばかりに、クラヤミから目を逸らして耳にはめたインカム型の通信機にそっと手を添える。

 彼女は〈SILENT〉の参謀として、組織内のあらゆる情報の中心地点に居る。まず彼女が情報を受け取り、整頓したあとで首領であるクラヤミに届けられる。

「――はい、わかりました。では、総帥に伺ってみます」

 通信機を切った夜野は、どこか神妙そうな顔つきで隣のクラヤミに振り返る。

「閣下……また、来賓のようなのですが」

「ふむ、今日はアポ無しの来客が多いな」

 もっとも、魔王に限っては事前に約束をしてから会いにきたことは一度もないが。

「それで、今度は一体どこの誰だ? まあ、おおよそ見当はつくが」

 曲がりなりにもここは秘密結社の本拠地だ。場所を知っている者など、この世にそう多くは居ないはずだ。

 だが、夜野が口にした名前は驚きに値するものだった。

「その……閣下には、吸血鬼のお知り合いはいますか?」

「吸血鬼、だと……?」

 クラヤミは信じられないとでも言いたげに驚きの声を上げる。

 もっともそれは、吸血鬼という存在が信じられないわけではない。驚いた理由は、全く別のところにあった。

「連中は20年前に滅びたはずだ。まだ生き残りが居たのか? いや、生ける屍を相手に生き残るという表現は、あまり適切ではないが」

「少なくとも本人はそう名乗っています」

「この本拠地の場所は誰から聞いた?」

「自分たちの諜報能力で突き止めたと当人は話しています」

「ふむ……本当に吸血鬼か否かはさておくとしても、〝この基地の所在を突き止められるだけの能力を持った存在〟というだけで、十分に脅威的だな」

 そして、もしも本当に吸血鬼なのだとしたら、その脅威度は更に跳ね上がる。

 思い悩むクラヤミに、夜野は恐る恐るといった様子で問いかけた。

「あの……総帥。それで、お会いになりますか?」

「ふむ。恐ろしいから会いたくないと言えば腰抜けだが、丸腰で会いに臨んでは無能者だ。影内は基地内に居るか?」

「はい。先ほど控え室で漫画を読んでいるのを見かけました」

「では影内をここに呼び出してくれ。それと、工作部隊の隊員から、特に戦闘能力が高い人員を2名ほど選んで一緒に来させろ」

「超能力者を3名も護衛につけるのですか?」

「その来客が本当に吸血鬼だったとしたら、備えておくに越したことはない。何せ連中は、28ヶ月間だけとはいえ、日本を支配下に置いた実績を持つ本物の征服者だ。悪の組織の先達として、敬意を持って畏怖するのが当然だ」

 クラヤミの慎重すぎる態度に納得いっていないのか、夜野は微かに不満げな表情を見せつつも、通信機を介して指示された通り工作部隊から影内たちを呼び出す。

 ほどなくして、2名の工作部隊員を引き連れた影内が広間に現れた。

 後ろの2名はきちんと戦闘服を着込んでいるが、影内はラフな私服の上から、戦闘時に着る黒い忍者装束をポロシャツのように羽織っただけという適当な格好だ。

 いまいち状況を理解していないのだろう。

「なんっすか、総帥。今日オレ、非番だと思ったんっすけど。もしかして、シフト間違えてました?」

「いや、緊急の業務だ。これから、とある来客と会うことになった」

「えっ、そいつをぶちのめすってことですか?」

「違うわ馬鹿者。貴様達三人は、わしの護衛が任務だ。もし客人の目的が話し合いでなかった場合に備えて、貴様らは広間内で隠れて待機していろ」

「あー、なるほど……話は分かったんっすけど、何で三人も呼んだんすか? そもそも総帥だってクソつえーんだし、いざとなったら自分でなんとかできちゃうと思うんすけど」

「相手がただの人間なら、わしもここまで警戒しとらん。客人は自分を吸血鬼だと名乗っておるのだ」

 言葉を聞いた影内は、きょとんと目をしばたかせると、平然とした口調で問いかける。

「え、吸血鬼って、学校の授業で聞いたことあるアレっすよね? 本当に居るんすか」

「本当だったら困るから貴様らを呼んだのだ。何度も言わせるな」

「でも、いまいちピンと来ないんすけど……それに、そんな強いんすか?」

「〝吸血鬼〟と言うと現実感がないだろうが、生物学的に言えば彼らはVウイルスと呼ばれるRNAウイルスの〝克服者〟のことだ」

「あーるえぬえー? えっと、なんすかそれ? DNAの親戚っすか?」

「うむ。実はその認識で間違ってはおらん」

 本人は適当にその場凌ぎで言ったつもりかもしれないが、DNAの親戚という表現は間違ってはいない。つくづく勘だけは優れている。

「RNAウイルスには、人間のDNAを書き換える能力を持つものがある」

「え、DNAって書き換えて大丈夫なんっすか?」

「もちろん大丈夫ではない。DNAは生物の設計図だ。めちゃくちゃに書き換えてしまえば、めちゃくちゃな細胞が生み出されて生命に支障をきたす。実際、100%近い致死率を持つウイルスも数多い」

「え、感染(うつ)ったら確定死亡ってヤバくないっすか!?」

「もちろんヤバイ。だが、確実に死ぬはずのウイルスにかかったにも関わらず、極稀に生き延びる適正を持った人間が居る。99%の致死率という死の淵から蘇り、人でありながら人と異なる遺伝子を獲得してしまった新人類。それが吸血鬼と呼ばれる者の正体だ」

「……つまり99%死ぬような風邪にかかってるのに、普通に出歩いてるからヤバイってことっすか?」

「ああ。噛み付かれればまず命は無いと思った方が良い。それに、遺伝子が人間から変質してしまった結果、超常的な能力を獲得してしまっているのも特徴の一つだ」

「それってつまり、オレら超能力者みたいなものってことっすか?」

「しかも、噛み付かれればほぼ即死攻撃という反則っぷりだ」

 クラヤミは不快ため息を吐いてから、真剣な表情で影内を睨み付ける。

「わしがこの〈SILENT〉を立ち上げたとき、絶対に敵に回したくないと警戒していた存在が二つある。一つはA級超能力者、そしてもう一つが吸血鬼だ」

「ははっ! だったら総帥、オレが敵じゃなくってマジでラッキーでしたね」

 影内は適当に羽織っていた装束を整え、帯をきつく締めて戦闘準備を整え始める。

 寝起きの人間がやっと目を覚ましたかのように顔つきが変わっていく。

「今から会う吸血鬼も、できれば敵でないことを願うばかりだがな」

「だからって、味方に引き込むのもナシっすよ。総帥の懐刀ってポジションは、オレだけで間に合ってんですから」

 影内は気楽にも、厳然と迫る脅威を、自分の立場を脅かす敵として捉えている。

 しかしクラヤミには、そんな楽天的な態度を心強く感じられてしまうのだった。

吸血鬼の設定についてあれこれ一生懸命考えてて時間かかってたんですけど、気づいたらこれバイオハザードのTウイルスのパクリでした(絶望)

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