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幕間.雪と墨

 自分が住んでいるマンションの一室に帰ってきた無音は、懐から個人用として使っている携帯電話を取り出す。

 中に入っているアドレスは、蓮花や鳴矢、スイファたち学校で親しくしている三人。

 あとは実家に残してきた祖母と――そしてもう一人、血の繋がった家族の一人の名前が登録されている。

 無音はそのアドレスを呼び出すと発信ボタンを押し、耳に押し当てる。

 一度目のコールが半分も鳴らない内に、通話が繋がった。

『もしもし、お兄様ですか!?』

「ああ、有希。相変わらず、電話に出るのが早いね」

『はい! お兄様からいつ連絡をいただいてもいいようにと、毎日片時も手放さず電話を握り締めてお待ちしておりますから!』

「あはは……有希は大げさだなあ」

 無音が電話をしている相手は、黒間有希(ゆき)。一つ年下の実の妹だ。

 普段は全寮制の女子校に通っているため、無音と直接会う機会は滅多にない。

 だが、こうしてときたま連絡をとりあったり、個人的な頼み事をするだけだ。

『ああ、お兄様から連絡をしていただけるなんて、有希は本当に果報者です……!!』

「あはは。大げさだなあ、有希は」

 無音も有希も、早くに両親を亡くしている。そのため、幼い彼女の世話をするのはもっぱら無音の役目だった。

 そのせいか、彼女は少々自分に甘えすぎているところがある――と無音は考えている。あくまで、平均的な兄妹に比べて少し距離が近すぎる、という程度の認識だ。

『離れて暮らすようになってからというもの、お兄様に変な虫がついたりしてはいないかと、有希は毎日心配で心配で……』

「心配ありがとう。けど、そこそこ元気にやってるよ」

 彼女を一人で女子校に通わせようと言い出したのも、元はと言えば無音であった。

 あまりに四六時中自分にべったり張り付いてしまうので、これでは妹のためによくないと、別々の高校に進むよう彼女に勧めたのだ。

「虫と言えば……この間の〈生態科学研究所〉の件、ありがとう。大変じゃなかった?」

『いえ、とんでもありません。あの程度の下賤な輩、お兄様のためならば百でも二百でも刀の霜にして差し上げます』

「あはは。有希は頑張り屋さんだなあ」

 そして、黒間有希は無音にとってただの妹ではない。

 クラヤミの影の協力者、通称〝黒雪〟の正体なのだ。

『私もできることなら是非お兄様の組織に加えていただきたいのですが……』

「ダメだよ、有希。お前は学生なんだから、勉強や部活の方を優先しないと」

『はい! お兄様の言いつけ通り、模試の成績は常に全国一桁を守っております。剣道部の活動も、一年で試合に出していただけることになったんです。偉いですか?』

「い、いやあ。有希は偉いなあ……」

『ありがとうございます! 有希は嬉しいです!!』

 いくら何でもそこまで頑張れと言ったつもりはなかったのだが、と無音は少々背中に冷や汗を流す。

 有希は自分の妹とは思えないほど、文武両道の才色兼備という完璧っぷりだ。

 しかも彼女は、無音が頼めばその有り余る能力をやり過ぎなまでに発揮してしまう。

 〝黒雪〟の存在は、無音にとって非常に扱いが難しい存在だ。

 頼りにはなるが、力の加減を知らない。

 その上、彼女自身が自分の血縁者である以上、組織の面々と気安く引き合わせることができない。自分の正体に気づかれるリスクを増やしてしまう。

 そうした事情から、〝黒雪〟はクラヤミにとって諸刃の刃なのであった。

『ではお兄様。困ったことがお有りでしたら、いつでもこの有希を頼ってくださいね』

「そ、そうだね。いつも頼ってばっかりで悪いけど……」

『とんでもありません! お兄様の苦しみが私の苦しみ、お兄様の喜びが私にとっての喜びです。お兄様の野望を、有希は心から応援しております!!』

「あはは、ありがとう。それじゃあまた……」

『はい。いつでもご連絡くださいね、お兄様』

 無音は苦笑いを浮かべながら携帯のボタンを押す。

 いよいよとなれば、彼女を組織に加えることも考えなければいけないだろう。

 だが今はまだ、そのときではない――。

実は有希の存在については人物紹介のところで存在だけ示唆されていたけど

出すタイミングがいつになるか決めてなかった計画性のない作者だ

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