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7.人類最強の中卒


「やっぱり総帥(ボス)って絶対、何か超能力(スキル)持ってると思いません?」

「アアン? 何の話だそりゃ」

 工作部隊員の影内は、突然の後輩からの問いに、思わず首を傾げる。

「最近、工作部隊の中で話題になってるんですよ。総帥がもし能力持ちだとしたら、一体何の能力者だろうって」

「あー。確かに、頭いいやつは普通、無能力者のフリするもんな。オレらと違って」

 影内は納得したように首を縦に振る。

 雑に染めた茶髪頭に、首元の伸びきったシャツとくたびれたジーンズ。

 彼を見た者は誰もがこう思うだろう。「何の変哲も無いヤンキーだ」と。

「今の所、オッズが一番高いのは〈未来余地(プレコグ)〉ですね」

「オッズってお前ら、それ賭けでやってんのか?」

「ただのゲームですよ。だって、真相確かめる方法ないじゃないですか。総帥本人に『何の能力者ですか?』って尋ねて、答えてくれるわけないですし」

「そりゃそうだ。今まで持ってないフリしてたんだったら、聞かれただけで答えるわけがねえ」

 影内はケタケタと楽しそうな笑いを浮かべている。

 〈SILENT〉という組織は様々な部署によって成り立っており、当人の能力に応じて様々な部署に配属される。

 会計に心得があるものは経理部に。科学技術に素養がある者は技術部に。格闘や戦闘に心得がある者は戦闘部隊に、といった具合だ。

 だが、本当に戦闘に優れた者、特に超能力のような技能を持つ人間は、戦闘部隊に配属されはしない。防諜、密偵、破壊工作など、高い個人戦闘技能が求められる危険度の高い仕事を専門にこなす部署に配属される。

 それが、工作部隊という部署であった。

「ちなみにお前は何に賭けてんだ?」

「そりゃあやっぱり〈催眠術(ヒュプノ)〉でしょう。あの人の半端ないカリスマ性の秘密は、絶対超能力だと思ってるんで」

「じゃあオレらも実は、催眠術であの人のこと信じさせられてるってことか?」

「あっれえ、ほんとだ!? いや、俺は総帥のこと本気で信じてるつもりっすけど、でも超能力とかじゃなきゃここまで大きな組織作れるわけないし……っかしいなあ」

「お前、オレよりもアホなんじゃねえか?」

「そりゃあ俺は影内さんと違ってそもそも高校行ってないっすからねえ」

「バーカ。オレ様だって高校中退なんだから、同じ中卒に変わりはねえよ」

 影内は臆面も無くきっぱりと言い切る。

 工作部隊に所属する隊員たちは全員が高い戦闘能力を有する、組織の中でも選りすぐりの人材(エリート)たちによって構成される部隊だ。

 だがその実態は、超能力という生まれもった才のせいで、歪んだ少年時代を過ごしてきた若者たちの集まりだ。超能力者はここ数年で急増した人種だ。超能力者を集めて部隊を作るとなれば、自然と若者ばかりが――それも、社会と馴染めない異邦者たちの集まりとなってしまう。

 戦闘部隊の方はそれなりに年嵩を経たものが多く、控え室も均整の保たれた体育会系の部室のような雰囲気を放っている。

 だが工作部隊の控え室は、菓子の空き袋や漫画雑誌、そのほかワケの分からないガラクタで雑然とした、ヤンキーの集会所のような雰囲気を醸し出している。

「でもよ、もしあの人のカリスマが超能力だとしたら〈催眠術〉ってよりは〈魅惑術(チャーム)〉の方って感じしねえ?」

「おー! さすがA級超能力者の影内さん!! やっぱ、そういう細かい能力の違いとかって分かるもんなんすね!!」

 外部からは一見、雑然として無法地帯に見える工作部隊員たちだが、その内部にも曖昧だが確かな上下関係は存在し、尊敬される人間も居る。

 その環境を支配するもっとも大きな法則は、やはり純粋な〝強さ〟だ。

 超能力を生まれ持ったからこそ、総帥は彼らに危険な任務を任せてくれる。

 生まれ持った能力によって人生を歪められてきた彼らだが、だからこそ、自分たちの能力だけが唯一の誇りであり、もっとも重く価値基準を定めるものだ。

 だからこそ、世界で百人も居ないと言われる、一千万に一人の逸材。A級超能力を有し総帥からの信頼が最も篤い影内は、同僚達の誰もが認める「超能力者界の英雄」だった。

 また、普通の人間社会をドロップアウトした人々が多いこの組織では、無能力者達からも「中卒の星」という栄誉なのか否かよく分からない評判を呼んでいたりもする。

「そりゃあ、この最強の超能力者であるオレ様が惚れ込んじまうほどのお方だからな。〈魅惑術〉でも使ってなきゃ、オレのこの溢れ出る忠誠心に説明がつかねえよ」

 工作部隊の後輩は、急に声を潜めると小指を立てながら影内に問いかける。

「……あの、影内さんって、やっぱり〝ソッチ〟なんですか?」

「そっちじゃねーよ! お前、次それ言ったら刻むかんな!?」

「ふふふ、どうですかねえ。俺の〈透明化(ステルス)〉を見破れるんでしたら、いつでもやってくれちゃっていいですよ」

「……嫌だ、めんどくせえ」

「まあ、俺の能力は逃げ特化ですからね。影内さん怒らせたら地の果てまで逃げるしかなくなっちまうし、影内さんは地の果てまで転移で追っかけられる。どっちもめんどくさいだけですね実際」

 粗っぽくてけんかっ早い若者の集まりと思われがちな超能力者たちだが、彼らの間で諍いが起きることは驚くほどに少ない。

 超能力を武器として単独で戦うことが多い彼らにとって、自分の能力と相手の能力を正しく評価し、有利か不利かを見極めるセンスは生き延びるための必須技能だ。

 勝てない相手とは争わない。

 不利な条件では戦わない。

 能力を無駄遣いしない。

 それが〈SILENT〉に入ったその日、雇い主であるクラヤミ総帥から言い渡された守るべきルールであり、その規則の下彼らは優秀な工作員として仕事を行う。

「んでさっきの話ですけど、あと多いのは〈精神感応(サイコメトリ)〉って予想ですね」

「…………だな」

「あんまり現実感ないんで言葉には出さないですけど、そう思ってるやつ多いですよ」

「まあ……それが一番、納得の行くやつかも知れねえな」

 他の能力とは一線を画す人智を越えた能力者。それがA級と呼ばれる者たちだ。

 A級に分類される超能力は確認されているだけで三つ。その内の一つが影内の持つ〈瞬間移動〉である。

 もう一つは〈念動力〉。これは、使ったときの見かけが派手なので、世間でも広く認知されている。

 しかし最後の一つ、〈精神感応〉だけは他二つとは事情が違う。

 本人が「使える」と言い出さない限り、他人からは決して能力の有無を判断することができないし、目に見える効果が現われないので、自称しても証明がしづらいのだ。

 だが、自分たちが信じる総帥が最強と呼ばれる超能力者の一人――という結論は、能力に誇りを持ちながら組織の為に戦う彼らにとって、どこか納得しやすい仮説だ。

 逆に言えば彼らは、自分たち超能力者を正当に評価し力を発揮させてくれるクラヤミに、自分たちと同じ超能力者であってほしいという微かな期待も持っていた。

「まあ、あの人は心が読めるっていうより、単に人を見る目がすげーくて、ちょっとした能力のレベルに匹敵してるってだけだろ」

「じゃあ、実はもっと戦闘向きな能力とか持ってたりするんですかね。あの鎧の機能が凄すぎるせいでよくわかんないですけど、普通に戦ったら実はめちゃ強かったりして」

「ああ、そりゃもうやべーよあの人」

 影内は仕事着である黒ずくめの忍者装束を身に纏いながら、何気なく言う。

「だってオレ様、総帥に喧嘩売ったことあるぜ?」

「えっ、ええええええええ!? 影内さん、ボスと戦ったことあるんですか!! ていうかそれ、勝ったンですか!?」

「そうだなあ……これ恥ずかしいからあんま人に話したことなかったんだけど、まあ今回だけこっそりな。任務までまだ時間あるし、ちょっと話してやっか」

 影内は楽しそうに笑いながら、後輩に向き直ると言葉を続ける。

「いや、スゲーんだよ。ビックリした。最強の能力者とか言われてんのに、オレ様負けちまった」

「負けたってマジですか!? やっぱ総帥って半端ねえ……」

「あれはオレ様とあの人が、初めて会ったときの話だ。ありゃあ言ってみれば、もう一目惚れのきっかけって感じだったな」

 影内は自分が戦って負けたという本来忌むべきはずの逸話を、まるで自分自身の武勇伝を語るように、楽しそうな様子で話し始めた。


影内くんは初登場の回でブックマークと評価やたら伸びてたから実は隠れた人気キャラなのではないかという疑いがある

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