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1.悪の実が落ち芽吹くまで

「ワシな、世界征服するの夢だったんじゃよ」

 それは黒間無音(くろまなおと)がまだ幼かった頃のこと。

 そして彼の祖父、黒間遍音(あまね)がまだ生きていた頃のこと。

 病院で長い間入院していた祖父が久しぶりに家へ帰って来てくれた日の夜、二人で縁側に座りながらスイカを食べていると、ふと突拍子もなくそんな言葉が無音のもとへ飛んできた。

「へー。やっぱりすごいよね、おじいちゃんは!」

「そうじゃろ? ワシってば超天才科学者じゃからな」

「うん。おじいちゃんなら、絶対にできたよ」

 幼い無音は、その突拍子のない言葉を当たり前のものとして受け止めてしまった。

 祖父が世間から〝知性の怪物〟と叫ばれるほどの人物であることは、物心ついたばかりの無音にも実感として理解できていた。

「でも、なんでやらなかったの、おじいちゃん?」

「なんか嫁出来て、息子生まれて、孫生まれて、研究の仕事続けて、のーんびりしとったら、なんかやるの忘れてしもうとった」

「おじいちゃんすごい人なんだから、今からでも絶対世界征服できるよ」

「うーん、そうさな。さすがのワシでも、今からじゃちょっと間に合わんかな」

「そっかあ。おじいちゃんでも、できないことはあるんだね」

「そうさな。無限のエネルギーとかアホみたいな研究する暇あったら、不老不死の薬でも研究しとけばよかった。歳には勝てんて」

 肉親である無音の目から見ても、遍音は〝普通の人間〟ではなかった。

 それこそ、死という概念すら超越してしまうのではないかと思わせるほどに。

 無音はただ、純粋に心から思った言葉を、素直に口に出してしまう。

「でもなんか、もったいないね」

「ほう……〝もったいない〟と来たか。さすがはワシの孫、血は争えんな」

「え? ぼく、そんなに変なこと言った?」

「いや、それが普通なんじゃ。なにせ、ワシの孫なんじゃからな」

 祖父の目がぎらりと妖しく光ったような気がした。

 スイカ片手に縁側で座る孫と祖父がするには、あまりに現実離れした会話を、二人はただ淡々と続けている。

「そうさな。夢ってやつは、若いうちに見にゃいかん。というわけで、こいつをやろう」

「なにこれ、パズル?」

「まあ、見た目はな。だが中身は違う。普通じゃないぞ」

 優れた科学者だった祖父は、日曜大工感覚でとんでもない発明品を無音にオモチャとして押しつけてくることが度々あった。

 これもまた、そういった思いつきグッズの一つだろうと思いつつ、無音はそれを受け取る。

「もしお前がどうしてもこの世界に納得できんくて『この世界を自分の好き勝手にしてやりたい』と本気で思ったら、こいつを解いてみるといい」

「えー? そんなこと、ぼく思わないよ」

「そうじゃな。ワシは、別にそこまで思わんかった。ワシはなんでもできちゃうスゲエ爺じゃからな……ただ、覚えといたらええ。世界の真実を開く鍵ってやつは、いつもお前の中にあるってことな」

 思い返してみれば、結局その言葉が、祖父から聞いた最後の言葉だった。

 その翌朝、遍音は――決して死ぬことのない怪物とすら思っていた偉大な科学者は、自宅の布団の中で、ひっそりと息を引き取っていた。死因はただの老衰だった。

 ただの玩具だと思われたパズルは、祖父が無音に託した遺品となってしまった。


 そしていつしか、世界の真実を開く鍵となることを、幼い無音は未だ知らない。


第2部スタートです。

今回から悪の組織要素がちょっと多めになります。

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