17-1.正義の華、咲き誇るとき
・キャラクター紹介ページの【緋色蓮花】【アスィファ=ラズワルド】のイラストを修正版と差替えました。
・【ライブリー・ブルー】の紹介文を新たに追記しました。
天を支えるかのような巨大な炎の柱が、突如その光景の中に現れた。
振り下ろされた〈チャリオット〉の大鎌は、燃え盛る炎の中で焼かれ、再生能力を発揮する間すら与えられず蒸発していく。
剣を折られ、絶対絶命の窮地かと思われたライブリー・レッドの姿は、その炎の柱の根元に在った。
刃を失い柄だけの姿となった〈炎刃・花一匁〉の先端から、本体の大きさを遙かに超える膨大な量のエネルギーが溢れ、炎の形を為して顕現しているのだ。
「熱っ……!!」
距離を置いて後方からその光景を見守っていたアスィファの帽子が、熱風によって吹き飛ばされてしまう。
だが、吹き飛ばされた帽子を追おうともせず、呆然と立ち尽くしたままアスィファは怯えたような声で呟く。
「なんて凄まじい炎……【火の塔】に所属する魔法使いでも、これだけの炎を扱える方はいません。かの炎帝でも、ここまでは――」
「ブルー、驚くなら後にしときなさい!」
鳴矢は自分の武器である弓を、盾のように正面で構えながら叫ぶ。
「このままだとあのバカ、自分で出した炎に炙られて焼け死ぬわよ!!」
「それはなんというか、ある意味レッドさんらしいですね……」
「うん、それはアタシも思った」
鳴矢は急に真顔になってうんうんと頷く。
自身の中に秘めた正義という名の炎に自ら焼かれるなど、いかにもあの正義感の奴隷みたいなリーダーにはお似合いだ。
「だから、私達が手助けしてやらないとね」
「ほんとうに、世話の焼ける困ったリーダーさんです」
「そうね。こっちの手が焼ける前に、あいつの頭を冷やしてやらなきゃ」
杖の窪みに【雨天の書】を装填し詠み込みを終えたアスィファと、弓の両端から光の翼を展開した鳴矢の二人は、声を揃えて同時に叫ぶ。
「「【戦闘陣形・天の羽衣】」」
二人がそう唱えたのと同時、蓮花の周囲を霧雨のような水蒸気と、〈念動力〉による力場が同時に覆い包んでいく。
魔法で発生させた雨によって蓮花の身体を炎の熱から守り、そして水蒸気として気化した水分を鳴矢の展開した翼が覆い包むことで循環させる。言わば、一種の水冷機関を魔法と超能力によって作り上げているのだ。
それは決して、武器になるような技でも、敵を倒すための力でもない。
〝選ばれぬ者〟である緋色蓮花を、二人が支えようとする意思そのものだ。
「ちなみにアタシ、多分あと十分で力使い切って気絶する予定だから、後のことよろしく頼んだわよブルー」
「あの、実は私も多分、この付与で魔力が尽きてしまいそうです……でもそのときは、イエローさんを見習って、この杖で殴りかかってでも戦いますから!」
「ふふっ……やっとアンタも、〈ライブリー・セイバーズ〉の戦い方ってものが分かってきたみたいね」
臆さず、怯まず、顧みない。
それが、正義の武装自警団〈ライブリー・セイバーズ〉のリーダーが身を以て体現しようとしている信念だ。
蓮花は、柄の先端から吹き出す炎の勢いに負けそうになりながらも、その炎の激流を必死に小さな身体で支えている。
堰を切ってあふれ出す濁流のような勢いは、止まることを知らない。
事実、その通りなのだ。
〈炎刃・花一匁〉とは、〝異次元からエネルギーを無限に抽出する〟ことで威力を生み出す装置に、剣の形状を与えているに過ぎない。
そのシステムの根幹は柄の部分にあり、その刃は〝放出されるエネルギーを制御するための装置〟――いわば調節弁の役割に過ぎない。
緋色蓮花にとって、刃という武器すら、自身の内に秘めた炎を押しとどめるための鎖にしか過ぎないのだ。
「今度こそ、私は自分の力に負けたりしない……!!」
調節装置となる刃を失ったことで、無限に放出されるエネルギーそのものを刃とした、巨大な炎の剣。
これこそが〈炎刃・花一匁〉の真なる姿なのだ。
燃え上がる炎の剣を頭上に高く掲げながら、緋色蓮花は息を吐くように唱える。
「【秘剣・緋衣草】」
巨大な炎の柱が、まるで断頭台の斧のように〈チャリオット〉へと振り下ろされる。
体長10メートルを越える巨大なカマキリの怪物であっても、天を貫く巨大な炎を前にしては、為す術も無く身を焦がされるしかない。
数キロにも及ぶ巨大な炎の剣は、アスファルトの舗装を溶かし、周囲のビルを灰燼へと変えながら、目の前の光景の全てを見る間に焦土へと変えていく。
その中には、〈チャリオット〉の大鎌によって破壊された建造物もあれば、辛うじて無事に残ったものもある。
だが、躊躇という鎖を自ら捨てた蓮花は、あらゆる全てを区別無く、憎むべき悪と諸共に吹き飛ばしていく。
全てを灰へと変えた後。
振り下ろした炎の刃を再び頭上高く掲げながら、蓮花は静かに宣言する。
「――世界が正義に満ちるまで、もう二度と、私は立ち止まったりしない」
眼前に何が立ちふさがろうと、決して止まることは許されない。
その決意が果たして、世界を照らす光となるのか、正義に狂える者の末路なのか、その問いに答えられるものは誰も居ない。
世界を焼き焦がさんばかりに燃える炎の刃は、火の粉を花びらのように散らし続けている。
その赤々とした姿は、まるで鮮やかに咲き誇る緋衣草の花のようだった。
前回「次の更新で第一部完」と言いましたが、思ったより長くなってしまったのでまたも二回に分けての更新です。
本文はほぼ出来上がっているので残りの後半は明日にも上げます。




