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15-1.立ち上がれヒーロー!



 刀身の折れてしまった大剣を構えながら、緋色蓮花はふと思う。


――私は、どうしてこんな所に居るんだろう。


 まるで夢遊病者のようなおぼつかない足取りで、蓮花は前へ前へと進んでいく。

 目の前にそびえるのは、巨大なカマキリの怪物〈チャリオット〉の壮大な姿。

 後脚の一本を鳴矢の一撃によって吹き飛ばされ、体勢を大きく崩してはいるが、その圧倒的な存在感に依然として変わりは無い。

 まるで巨大な建造物を相手にしているかのような、スケールの違いだ。

 唯一の武器を打ち砕かれてしまった少女と、4本ある脚の1本だけを失った巨大な怪物。

 絶望的なまでの力の差を理解していないのだろうか。或いは本当に、大鎌の一撃をまともに食らったときの衝撃で、頭を打って理性が消し飛んでしまっただけなのか。

 蓮花は、そんな絶望的な状況を前に、戦いを止めようとはしていなかった。

 一歩踏み出す度に、体のどこかから、地面に血が滴り落ちる。

 額が切れたのだろうか。骨が折れたのだろうか。

 どこから出ている血なのかも分からない。

 体中の至る箇所が、悲鳴を上げるように軋み、燃えるように痛む。


 自分がどうして、立ち上がることができたのか。

 何が自分を、前へと進ませているのか。

 何度も自身に問いかけるが、答えを考えるよりも先に、体が動いている。


 ただ、それでも――どこからだろう。

 自分のことを呼ぶ声が、確かに聞こえてくる。

 〝ヒーロー〟を求めて、救いを求める誰かの叫びが、蓮花の耳にだけは届いていた。

 その叫びに引き寄せられるように、蓮花は判然としない意識のまま、折れた剣を手に挑むべき敵へと向かって進み続ける。


「バカリーダー!! いい加減、目覚ましなさいよ!!」

「早く逃げてください! でないと私もオバカレッドって呼んじゃいますよ!!」


 2人の叫びを耳にして、蓮花はハッと我に返った。

「私、一体、どうして――」

 蓮花が自分の状況を理解した頃には、もう何もかもが全て遅かった。

 敵は一切の躊躇も手加減もない。片方の鎌をアスファルトの地面に突き刺して体を支えながら、〈チャリオット〉は崩した体勢を再び持ち上げる。

 そしてもう片方の大鎌を高く掲げ、無慈悲に振り下ろした。

 鳴矢にも、アスィファにも、助けに入るだけの余力は残されていない。

 あまりにも遠すぎる。手を伸ばすことすら叶わない。


 死。


 その結末を、誰もが確信した、そのときだった。

「えっ……」

 振り下ろされた〈チャリオット〉の大鎌が、蓮花の目の前でぴたりと止まっていた。

 否。突然目の前に現われた何者かが、振り下ろされた鎌を受け止めていたのだ。


 それも、たった1本の腕だけで。


――そんな、有り得ない。

 蓮花は、ただ冷静にそう思う。

 あの鎌が持つ強大な威力は、自分が身を以て体感している。

 それはもう、トラックに跳ね飛ばされたときのような衝撃だった。いや、実際トラックに轢かれたことはあるが、そのときの何倍も強い衝撃だった気がする。

 そんな攻撃を、まるで倒れかかってきた木の枝を掴むような容易さで受け止め、自分のことを絶体絶命の窮地から救い出してしまったのだ。

「そんなの、有り得ない……」

 蓮花が呆然とした口調で呟いたのと同時、その人影は受け止めた鎌を両手でグッと握り締めると、その両腕を無造作に高く持ち上げる。

 すると突然、十メートルを越える〈チャリオット〉の巨体が、まるで重さを失ったかのように軽々と持ち上げられてしまった。

 そしてゴム風船の人形でも放り投げるかのように、遠くへ向けて投げ飛ばす。

 宙へ舞い上がった怪物の巨体が、地面に激突し、衝撃でアスファルトの地面が弾け飛び破片が噴火のように飛び散った。

 その重量は決して失われてはいない。ならば、今この人間が行った所業の数々は、一体何だというのだろう。超能力でも魔法でも説明が付かない。

「私は、絶対に認めない……」

 蓮花には、決して認めることなどできなかった。

 自分がいかに無力かを思い知ったことで、〝ヒーロー〟を名乗ってきた自信と誇りを打ちのめされてしまった。それも、受け入れられない理由の一つだ。

 だが、それ以上に、蓮花には受け入れがたい真実が目の前にはあった。

 颯爽と自分の窮地に現われた男は、怪物の攻撃から身を挺して守っただけでなく、それどころか一瞬で怪物を圧倒する力を見せつけた。


 まるで、自分が理想とする〝ヒーロー〟の姿そのものだ。

 それなのに――


「どうして……なんで、あなたなの!?」

 助けられたはずの蓮花は、怒りに打ち震えながら、感情の任せるままに叫ぶ。

 闇よりも深い色をした黒色の外套(マント)を翻し、その男は音も無く振り返った。

 全身を漆黒の鎧で覆い、目元には黒く禍々しいデザインの仮面。

 その姿は、まるで悪の首領そのものだった――いや、悪の首領その人なのだ。


「幕を下ろす時が来たのだ、ライブリー・レッド……いや、緋色蓮花よ」


 悪の秘密結社〈SILENT〉の首領。

 クラヤミ総帥は、ただ静かにそう言い放った。

やっと主人公(蓮花)のターンと見せかけて主人公(無音)のターン!

果たして誰がこの作品の真の主人公なんだ!

作者ももはやよくわからない!

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