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13-2.アタシが正義で居られる場所

キャラクター紹介に【ライブリー・イエロー】の項目を追加しました。

また、【梔子鳴矢】のイラストを新規のものに差替えました。

 戦闘と呼ぶことすらできない一方的な〈チャリオット〉の蹂躙は尚も続く。

 ぐったりと萎れた花のように横たわったまま動かないでいる蓮花に、鳴矢は必死に叫び声を上げ続ける。

「ちょっと蓮花! バカリーダー!! アンタ生きてるの!? 返事ぐらいしなさい!!」

 いつもなら、どんな攻撃を受けても、彼女は平気で明るい表情で、「正義の味方は不滅よ」とか「正しいから死なない」だとか、わけの分からない理屈を吐きながら立ち上がってくる。

 理由なんて適当でいい。なんだっていい。

 ただ、生きていて欲しい。

 そう願いながら叫ぶ。

「あっ……」

 ぴくりとも動かなかった蓮花の身体に、ふと小さな動きが起きた。

 まるで、生まれたばかりの雛鳥が羽を動かすように、小さく右手が持ち上がった。

 小刻みに腕を振わせながら、親指を立ててグッドサインを作って示している。

 『私は大丈夫だ』とでも言うつもりなのだろうか。

――やっぱりバカだアイツは。

 拳を握ることすらやっとの人間が、何を強がっているんだ。

 鳴矢は苛立ちに歯をギリっと噛みしめながら、蓮花の元に向かって駆け出した。

「だ、だめです鳴矢さん! 危険です!!」

 背後からアスィファの声が遠く聞こえる。

 だが目の前では、倒れたまま動くことのできない蓮花に向かって、巨大カマキリ〈チャリオット〉が大鎌を高く持ち上げようとしている。

「この虫けら……っ!」

 断頭台の刃が振り下ろされようとした、まさにその瞬間。

 蓮花を庇うように立ちふさがった鳴矢は、手に持った弓を盾のように正面で構えた。

「うちのリーダーがこれ以上バカになったらどうしてくれんのよ!!」

 鳴矢が叫んだと同時、弓の両端から、巨大な光の幕が広がった。

 弓のしなりに沿って大きく広がっていく光は、まるで巨大な鳥が翼を広げるかのようだ。

「【久遠流弓術秘技・鶴翼(かくよく)】!!」

 その光の翼は、鳴矢が〈念動力〉によって生み出した強大な力場が視覚化されたものだ。

 振り下ろされた〈チャリオット〉の大鎌が、〝光の翼〟の表面に触れた瞬間、振り払われるように横へと逸れていった。

 正面から怪物の攻撃を受け止めるほどの防御力はない。

 だが、力の方向を受け流すことで攻撃を逸らす程度のことなら可能だ。

「いギっ……!?」

 だが、ただ受け流しただけに過ぎずとも、人を越える力を使った代償は一人の少女の身が受けるには余りに大きい。

 突然鼻の奥にツンとした痛みが走り、そのまま電流のように目の奥を駆け抜け、そして頭の前半分に罅が入ったような激痛が奔る。

 いくら超能力とはいえ、無限にエネルギーが生じるわけではない。

 鳴矢は苦しそうな呻きを漏らし、マスクの上から自分の鼻に手を当てる。

 そこには、布が生温かい液体を含んでべっとりと湿った感触があった。

「やっば……なんか脳の血管とか、2,3本切れちゃったのかも、これ」

 おびただしい量の鼻血が溢れ出て止まらなくなっていた。

 鳴矢は口元を覆っていた布を、解いて鼻の下にべったりと着いた血を拭い取ると、その布を邪魔とばかりに背後へと投げ捨てた。

 背後から、アスィファの切羽詰まった声が耳に届く。

「イエローさん! 大丈夫ですか!?」

「大丈夫なわけないでしょ!? それよりブルー、アンタは民間人の避難! 急いで!!」

「っ……は、はい! 【風天の書・疾風】簡易起動!!」

 アスィファはまるでバイクに乗るような前傾姿勢で杖にまたがる。

 ふわりとした風と共に、杖にまたがったアスィファの身体が宙へと浮き上がる。

 風の魔法を利用した飛行能力だ。

 アスィファは自分にできることを冷静に判断し、行動に移してくれた。

 瓦礫の下敷きになって気を失っている少女を引きずり出し、自分の杖に乗せると、そのまま攻撃の手が届かない遠くへと飛び去っていく。

 彼女の飛行能力では、一人を運ぶのが限度だ。彼女は躊躇なく、自分と蓮花のことを置いて、民間人の要救護者を安全な場所に運ぶという役割をこなしてくれた。

 鳴矢は背後の蓮花を庇うように立ちふさがりながら、自分に言い聞かせるように言う。

「かかって来なさいよ、この虫けら。耳ついてないから聞こえてないでしょうけどね」

 正義の味方なんて、始めなければ良かった。

 こんなバカの言うことなんて真に受けなければ良かった。

 そうすれば、こんな恐ろしい化物を相手にすることなんかなくても済んだ。

「私の名前は梔子鳴矢。〈念動力〉使いのAランク超能力。あんたと同じ、世の中から化物と恐れられ、疎まれてきた存在――」

 素顔を晒して、身元をバラして、自警団なんて馬鹿げたこと、金輪際辞めてやる。

――私は決して正義の味方なんかじゃない。

 だけど、友達を見捨てて逃げるような悪にだけは、絶対になりたくはない。

 決心した鳴矢は、言葉の通じない怪物に向かって言葉をかけ続ける。

「そして今は、〝正義の味方の味方〟。〈ライブリー・セイバーズ〉のイエローよ」

 鳴矢はそう言い切ると、再び光の翼を展開し、身を守るように自分と蓮花を覆う。

 防御するだけでも命懸けだ。脳みそが焼き切れる前に、なんとしても勝機を見出さなければならない。

 焦る鳴矢の背後から、控えめな声と共に稲妻の閃光が奔った。

「ぶ、ブルーだって居ますってば!!」

 〝魔法によって放たれた〟雷撃を身に浴びて、〈チャリオット〉が痺れたように僅かの間動きを止める。

「スイファ!? アンタ、どうして戻ってきたのよ!!」

「ご心配なく。気絶していた要救助者は、きちんと他の自警団の方にあずけてきました」

「そうじゃなくって……このバカに付き合うのはアタシだけで充分だって言ってんの!」

「【雨天の書】簡易起動」

 強がる鳴矢に対し、アスィファは突然、杖の先端を向けて呪文を唱える。

 小さな雨雲が鳴矢の頭上に出現し、ザバッと雨が降り出した。

 まるでバケツの水をひっくり返したみたいに、鳴矢の身体をずぶ濡れにする。

「ちょっ、スイファ! 何すんのよ!?」

「まず頭を冷やしてください。お馬鹿なのと無謀なのは全く違うお話です。こんな強敵相手に、お一人で勝てると思っているんですか? それと鼻血、まだお顔にこびり付いていましたので、洗い流しておきました」

「……アンタも言うようになったじゃない」

「私だって、今は〈ライブリー・セイバーズ〉の一人です」

「ああもう! ほんとアタシの周りはバカしかいないわね!!」

「ええ。この世界には、『類は友を呼ぶ』という素敵な言葉があると無音先輩に教えていただきました」

「ふん。アンタも良い感じにこっちの色染まってきたじゃない」

「でも私、勝ち目がない戦いに挑むほど愚かになる気はありません」

 アスイファはそう言って、杖の先端を〈チャリオット〉の後肢へと向ける。

「さっき、上空からあのカマキリさんを見下ろしてみて気が付いたんです。いくら規格外の怪物とは言っても弱点ぐらいはある、ということでしょね」

「弱点って、もしかして……アレのこと?」

 鳴矢はそれが指し示す先に目を凝らし、何かが鈍い光を放っていることに気づいた。


 〈チャリオット〉の甲殻の隙間に、一本の苦無が刺さっているのだ。


 おそらく、他の自警団があの怪物と戦ったときについた傷跡なのだろう。

 つけいる隙は、まだ残されていると鳴矢は気が付いた。

 自分たちにもまだ、戦う術がある。

「でもあの苦無、どっかで見たような……」

「それでイエローさん。問題は、どうやってピンポイントであの部分を狙うかです」

「そうね。確かに、いつもなら後ろで寝てるコイツに任せるところだもんね」

 普段は大剣使いの蓮花に前衛を任せて、後衛として後方に控えているはずの弓使い鳴矢と、魔法使いのアスィファ。

 二人は引きつった笑顔で笑い合いながら、正面に立ちふさがる巨大な怪物に対してそれぞれの武器を構える。

「ブルー。リーダーが前に言ってた【戦闘陣形(フォーメーション)攻撃】ってやつ覚えてる? あの手なら、多分いけるわ」

「は、はい……それなら確かに行けると思います。でもイエローさん、ただでさえ限界を超えて能力を使っているのに、リスクがあまりに大きいのでは――」

「前にも言ったはずよ、ブルー」

 鳴矢はふと、自分の背後で横たわったまま動かないでいる蓮花の姿を振り返る。

 口を開いているときは騒がしくってムカツクが、口を閉ざしたまま動かないで居る姿を見ているのは、その何倍も腹が立つ。

「アタシが超能力を上手く使うための条件はたった一つ……このバカが、余計なこと喋らないで黙ったままでいるってことよ」

 鳴矢は静かな怒りを声に乗せて、力強く言い切るのだった。

Q.主人公って誰だっけ?

A.群像劇は全ての登場人物が主人公です俺ん中ではな

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