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13-1.アタシが正義で居られる場所

長くなってしまったので分割更新

今回はいわゆる回想パートです

後半の本編は明日の同じぐらいの時間に上げます

 あれは確か――自分がまだ高校に入ったばかりの、一年生だった頃の話だ。

 初めて会った名前も知らない同級生達は、皆自分のことを知っていた。

 世界でたった百人、神に選ばれた――或いは悪魔に見出された、人を超える力を生まれながらに持つ少女。

 Aランク超能力者〈念動力(テレネキシス)〉使いの梔子鳴矢。

 誰もが皆、自分のことを一方的に恐れ、排斥し、そして孤立していた。

「まあ、ヘタに手出してこられるよりは、この方が楽よね」

 鳴矢は誰も居ない空き教室で、諦めたように独り言を漏らす。

 中学の頃まではずっと、異端者として、イジメや嫌がらせを受けてきた。

 だが高校に上がってからは、直接的な嫌がらせはなくなった。

 その代わり、腫れ物に触るように自分のことを避け、露骨に自分の存在無視をする消極的な疎外へと変化していった。

 だが鳴矢は、決して超能力を報復の道具にしたり、不良に道を踏み外したりすることなく、果敢に耐え続けてきた。

 耐えてこられたのは、いじめられ体質の幼馴染み、黒間無音が傍に居てくれたからだ。

 彼の存在が、辛うじて自分と世界とをつなぎ止めていた。

「高校も、アイツと一緒のクラスだったら良かったな……」

 鳴矢はいじけたような口調で呟きを漏らす。

 この線を越えてくる人間など、誰も居なくても良い。

 唯一の理解者、黒間無音以外には、一人も――

「あなたね! 超能力がつかえる梔子さんって一年生は!!」

「……何よ、うるさいわね」

 突然バーンと大音を立てて開かれた教室の扉の方をじろりと睨む。

 鬱陶しいぐらい長い髪に、目にぎらぎらと焼き付く真っ赤な髪。そして、いかにも意思が強そうな堂々とした表情。腕には風紀委員の腕章が撒かれている。

 一目見て分かった。自分が一番苦手なタイプ――正義感の奴隷みたいな人間だと。

「風紀委員が何の用? 私が超能力で何か悪さしたとか疑ってるわけ?」

「えっ!? 梔子さん、何か悪いことしたの?」

「するわけないでしょ。鬱陶しいわね」

「そうなの? よかったー。梔子さんが悪い人じゃなくって」

「……アンタ、少しは人を疑ったら?」

「あはは。それ、お父さんにも友達にもよく言われる……梔子さんって、やっぱり噂ほど悪い人じゃないみたいね」

「今の会話のどこに、そんなこと思う要素があったのよ」

「だって皆、私を心配して『人を疑え』って注意してくれてるんだもの。今初めてあったばかりの私のこと、梔子さんは心配してくれた。だから、良い人だなあって」

「……バッカじゃないの」

 鳴矢はムスッとした表情で顔を背ける。

 一体、なんなんだこの女は。

 こんな図々しく、前向き思考で、堂々とした馬鹿は初めて見た。

 自分とは違った意味での〝異端者〟だと鳴矢は確信した。

「大体、珍しいものよね。私みたいな超能力者を人間扱いするバカが居るなんて」

「えっ、それってどういう意味?」

「アタシみたいな超能力者がなんて呼ばれてるか知らないの?」

「えっと……もしかして梔子さん、何か嫌なあだ名とか付けられてるの?」

「人外の化物、人ならざる異形、天成の犯罪者、生ける災厄……その他様々って感じかしら」

「そんな……梔子さん、そんなひどいこと言われてるの!?」

「アタシだけじゃないわ。超能力者なんて、皆そんなものよ」

 梔子鳴矢がこの世に生を受けたのと、ちょうど同じ年。

 ある一人の超能力者が、海の向こうのとある国で死んだ。

 その男は、世界で初めて確認された〈瞬間移動〉を生まれ持った能力者――つまり、人類最初のAランク能力者だった。

 そして、神に与えられたともいうべき奇跡の能力を、男は悪魔のような所業に費やし続けた。

 最初はただの窃盗や空き巣といった、軽犯罪にその能力を利用していた。

 だが、自分が持つ能力の本当の恐ろしさを自覚し始めた彼は、段々と犯罪のスケールを拡大していった。

 警官が追いかけても、〈瞬間移動〉であっという間に逃げおおせてしまう。手錠を掛けてもすり抜ける。牢屋に入れても意味が無い。銃を撃っても簡単に避けてしまう。

 男の肥大化する悪意は止まることを知らず、数百人の民間人と警官を殺しながら男は逃げ続け、〝たった一人の超能力者〟は〝前代未聞の災厄〟にまで膨れあがった。


 だが、この世に悪が栄えた試しはない。


 彼の悪行に終止符を打ったのは、同じAランク超能力〈精神感応〉を持つ超能力者だった。彼は〈精神感応〉によって突き止めた犯人の潜伏場所を国に伝え、国は直ちに軍隊へその一帯を航空機で爆撃するよう命令した。

 いくら瞬間移動能力者といえど、半径数キロ圏内を火の海にされては逃げ場が無い。

 たった一人の男を殺すために、数百発の爆雷が使用され、結局その犯人はこの世から肉片一つ残すことなく葬り去られた。

 だが男の肉体は消滅しても、彼の悪意は世界中全ての人間の心に一つの爪痕を残した。


 超能力者は法で縛ることのできない、人の形をした災厄なのだ――と。


 彼の死後、人々の恐怖は「〝正義の為に〟Aランク超能力者は赤ん坊の内に抹殺すべきだ」という法律が制定される寸前にまで膨れあがった。

 Aランク超能力者の梔子鳴矢が生まれ育ったのは、そんな時代の最中だった。

「そんなのひどい! 私も怪力女とか正義の奴隷とか呼ばれることあるけど、そんなのってひどすぎるわ!!」

 だから鳴矢には、全く理解できなかった。

 どうして目の前に居るこの女は、自分を恐れることがない――それどころか、本気で怒って同情までしてくるのだろうか、と。

 赤髪の女は自信満々な笑みを浮かべながら、パンと手を叩いて言い放った。

「そうだ! それならあなたに、もっと素敵な名前を私がつけてあげる!」

「……素敵な名前?」

「正義の武装自警団〈ライブリー・セイバーズ〉のライブリー・イエロー!! それが今日からあなたが世間に呼ばれるときの新しい名前よ!!」

「…………は?」

 口をぽっかりと開けて機能停止している鳴矢を差し置いて、赤髪の女は更に続ける。

「あ、もしかして黄色は嫌だった? 確かに戦隊モノの黄色って、伝統的にコメディ色の強いポジションだったり三枚目だったりするものね。でもあなたは金髪だから、やっぱり黄色ってイメージだし。でもリーダーの赤は、私絶対に譲れないし……」

「色の話とかしてんじゃないないわよ! 何よその、正義のナンタラって」

「ほら、自警法って法律あるでしょ? 私、それの認定試験に合格して、正式に武装自警団として活動することが許可してもらえたの」

「ふーん……それで、今は仲間捜しの途中で、超能力が使えるから『ちょうどいいコイツは使える』ってアタシに声掛けてきたわけ?」

「ええ。実は、その勧誘をしたくてあなたと話に来たの。どうかしら?」

「……アタシ、そんな戦隊ゴッコなんかに付き合う気ないわよ。そういうのは、仲の良い友達とでも誘って楽しくやってれば?」

 鳴矢はうんざりとした表情でため息を吐く。

 自分の能力を恐れて近づいてこない連中も、自分の能力を目当てに近づいてきたこの女も、結局は同じ人種だ。

 皆、自分の能力のことしか見ていない。

 梔子鳴矢という人間は、この世界のどこにも存在しない――そう思いかけたときだった。

 赤髪の女は、鳴矢の手を取って一方的に握手を交わしてきた。

「それじゃあ、まずはお友達から始めましょう!」

「……アンタ、自分が何言ってるかわかってんの?」

「私は本気よ! なんとしても梔子さんと仲良しになって、〈ライブリー・セイバーズ〉に入ってもらうんだから!!」

「アタシは超能力者なのよ? アタシは……文字通り、思うだけで人を殺せる能力があるの。それが怖くないの?」

「そんなの、武器を持てば誰だって同じ事ができるわ。私だって、あなただって、それは同じよ。でもあなたは、超能力で人を傷つけたり、悪さをしたりする人じゃない。あなたは、自分の中の悪に負けない強さを持ってるのよ」

「……自分の中の悪、ね」

「私が仲間になって欲しいのは、あなたみないな、心の強さを持った人よ」

 固く握り締められたその手を、鳴矢はふりほどくことができなかった。

 勿論、それは人並み外れた握力を持つ蓮花にがっちりと両手で掴まれてしまったからでもあるのだが、決してそれだけではない。

 気が付けば自分からも、その手を握り返してしまっていた。

「……アタシ、〝正義〟って言葉がこの世で一番嫌いなの」

「えっ、そうなの!?」

「だけど、アンタの言う〝自分の中の悪に負けた奴〟っていうのが、アタシはもっと嫌い。正義の味方になんてなる気はこれっぽっちもないけど、敵の敵ってことなら味方かもしれないわね」

「本当!? なんかよくわかんないけど、とにかく歓迎するわ!! 梔子さん!」

「ちょっと抱きつかないでよ、このバカ! 鬱陶しいわね!!」

「梔子さん、さっきから私のことバカって言い過ぎよ! 私、一応上級生なのに!」

「じゃあ、なんて呼べばいいのよ。アタシ、まだアンタの名前も知らないんだけど」

「あっ、ほんとだ! 話に夢中で、名乗るのも忘れちゃってた。私の名前は――」

 歯に噛んだように笑って、その赤髪の女は、自分の名を口にする。

 鳴矢はきっと、この日のことを決して忘れることはないだろう。


――こんなバカの誘いなんて、受けるんじゃなかった。


 一生経っても拭い切れない後悔と共に、決して忘れることはない。

 それが、緋色蓮花という〝敵の敵〟に初めて出会った日の記憶だった。

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