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10.少女が幕を開いたら

 金色のツインテールを後頭部からぶら下げた少女、梔子鳴矢は学校近くの洋服店で男物のジャケットをじっと見つめていた。

 肩までかかる長さの青髪の少女、アスィファが鳴矢の背後からそっと近づいてささやきかけるように声をかけた。

「無音先輩には、そっちの黒い方が似合うと思いますよ。鳴矢先輩」

「そうなんだけど、あいつ黒しか着たがらないから、たまには違う色も……うわあっ!?」

 台所で黒い虫に出くわしたかのような、大げさな悲鳴を上げて鳴矢が飛び退る。

 暴走した超能力によって、髪の毛が猫のように逆立ってしまうほどの驚き様だ。

「べべっ、別にそんなんじゃないわよ! 自分用に選んでただけよ!」

「でもここ、男性向けのコーナーですよ?」

「ほら、男ものでも着てみたい服ぐらいあるじゃない!?」

「じゃあ、私が無音先輩の為に服を選んでいくことにしますね」

「ちょっ! なんでそうなるのよ!?」

 しれっと言い切ったアスィファが店内を楽しそうに物色し始めるのを、鳴矢は焦りを露わにしながら慌てて追いかける。

 しばらくしたところで、スイファは自信満々な表情で一つのジャケットを手に取った。

「あ、ほら。この服なんてどうです? 無音先輩に似合いそうだと思いませんか?」

「いや、それは絶対にないと思う……」

 表面は黒い革張り、背中には趣味の悪い髑髏柄のペイント。そして全体に鎖やシルバーアクセサリーがジャラジャラと垂れ下がっている。

 まるでデスメタルバンドとか悪役プロレスラーが着ていそうな悪趣味っぷりだ。

 アスィファは異世界から来た人間だからなのか、魔界の王族だからなのか、理由は分からないが美的センスが常人と決定的にずれていると鳴矢は考えている。

「そうですか? 無音先輩、意外とこういう服も似合うと思うんですけど……」

「服が強烈すぎて服に着られるのがオチよ。本人のイメージと合ってなさ過ぎるわ」

「でも、かえってこういう服を着てみたら、そのイメージに引っ張られて無音先輩自身も強気な性格になれるかもしれないじゃないですか」

「だったらもっと、明るい色の服にするべきよ。例えばええっと――」

 男物の服を必死に物色し始めた鳴矢は、五分も経ったところで、ふと我に返って大声で叫んだ。

「って、ちがーう! なんで無音(アイツ)の服を選ぶ話になってンのよ!?」

「え、違ったんですか?」

「アタシたちは、自分の着る服を選びに来たの!」

 鳴矢は手に持っていた大量の男性用の服を手近な棚の中にぐしゃっと一挙に押し込む。

「ていうか言い出しっぺはどこ行ったのよ!!」

「あ、蓮花先輩なら、あっちの子供向けの服のコーナーに居ましたよ」

「まーた、あんんんっのバカは……!!」

 鳴矢はぶつけ所の見つからない怒りの矛先を、子供向け洋服のコーナーでTシャツを物色する背の高い赤髪の少女、緋色蓮花へ向かって思いっきりぶつける。

「アンタ今度は何してんのよ!?」

「何って、黒間君にどんな服が似合うかって話をしてたんでしょ? 私なりに、着てみて欲しい服を幾つか選んでたんだけど……」

「アンタそれ、全部小学生用じゃない!?」

 というのも、蓮花が両手いっぱいに抱えているのは、胸にヒーローのイラストがプリントされた子供向けのTシャツばかりだ。

「そもそも自分の趣味の服を無音に着せたいだけじゃないのアンタは!」

「だって、本当は私が自分で着たいけど、小さすぎて着られないんだもん……」

「いじけんなこのバカ!」

 確かに小柄な無音なら着れなくもないだろう。

 だが、女子にしてはかなり背が高くスタイルのいい蓮花では、胸から下が丸出しになってしまう。

「ていうかアンタ、自分で着たいってそれ本気で言ってんの?」

「えっと、着たいというか、着てみたことがあるというか……」

「きっ、着たの!?」

「えっと、その、前に試着してみたことがあるんだけど、胸のところが破れちゃって、結局お店の人に弁償することになっちゃって……お恥ずかしい限りです」

 気恥ずかしそうに苦笑する蓮花の胸元を、鳴矢はじいっと見つめる。瞳の奥に、深い闇を宿して。

 蓮花は「襟が伸びた」でも「裾が裂けた」でもなく、「胸の部分が破れた」と確かに言った。つまり、その部分に最も大きな負荷がかかったという意味になる。

 鳴矢は突然何の前触れもなく、蓮花の胸の膨らみを掌でむんずとわしづかみにした。

「ひゃんっ! な、何するの梔子さん!? 理由無き暴力は正義の味方としてご法度よ!!」

「理由ならある。けど教えてやるつもりはない」

 問答無用で言い切った鳴矢は、静かな怒りを称えた表情でその膨らみを絶妙な力加減で揉みしだき始める。

 状況が飲み込めず戸惑う蓮花は、遠くに見えるアスィファに助けを求めて叫んだ。

「ラズワルドさん助けて! 梔子さんが乱心しているの!!」

「この件に関しては全面的に蓮花先輩に非があると私も思いますので、申し訳ありませんが助けて差し上げることはできません」

 貼り付けたような笑顔で、小柄な少女アスィファはよどみなく言い切ると深く頭を下げてから静観を決め込む。

「どうして誰も私を助けてくれないの!?」

「それはアンタが悪いからよ」

「はい、蓮花先輩が悪いからだと思います」

「私は清く正しい正義の味方なのに!!」

 たとえ正義の志を持っていても、強すぎる力はときにまた別の悪へと変じてしまう。

 大きすぎる胸が少女達の嫉妬心を煽り、同性に敵視されてしまうのもまた似ているようなそうでもないような、とにかくそんな話だった。

「あ、ちょっと待って梔子さん! 携帯、携帯が鳴ってるから取らせて!!」

 胸を揉みしだかれながら、困ったようなくすぐったいような表情で戸惑う蓮花は、ポケットに入れた携帯が震えていることに気付いて大声を上げる。

 全力で八つ当たりして満足した鳴矢は大人しく蓮花を解放してやることにした。

 蓮花は取り出した携帯を耳に当て、声を落ち着かせてから話し始める。

「あ、もしもし。お父さん、どうしたの? 今日は帰りに友達と買い物に行くって、ちゃんとメールしたわよね」

『すまない蓮花。今は博士と呼んでくれないか』

 芝居がかった父親の言葉に、蓮花もまた表情と口調をキリっと真剣なものへと変える。

「……出撃の要請ですか、博士?」

『ああ。至急、〈ライブリー・セイバーズ〉に出動してもらわなければならない。すぐ近くの都市部に〈SILENT〉が放った怪物が表れた』

「怪物? 怪人ではないんですか」

『今は情報が錯綜しているが……とにかく、今までにない甚大な被害が出ているようだ。怪我人も大勢出ている。怪物を倒せとは言わない。至急現場へ向かい、救助活動の応援に向かってほしい』

「……二人とも、今の聞いた?」

 出撃の要請と聞いて携帯のスピーカーボタンをすぐさま押していた蓮花は、背後で話を聞いていた鳴矢とアスィファの二人に向かって問いかける。

「あーあ、ろくに買い物してる時間もないじゃない……正義の味方なんて引き受けるんじゃなかったわよ、まったく」

「残念でしたね鳴矢先輩。無音先輩に似合う服を選んであげられなくって」

「だ、だから違うって言ってるでしょ!!」

「私は鳴矢先輩の普通の女の子らしい一面が見えて、今日はとても楽しかったです。さ、それでは行きましょうか鳴矢先輩」

「ちょっとスイファ! アンタ大人しそうな顔して実は性格悪いわね!?」

 言い合いを繰り広げる二人を尻目にして、蓮花は洋服店の中にあるはずの、とあるものを探し始める。

「あ、店員さん! ちょっと試着室借りますね!」

「お客様? えっと、構いませんけど……」

 目的のもの――カーテンで仕切られた簡易型の試着室を見つけた蓮花は、その中に勢いよく飛び込む。鳴矢とアスィファの二人も、隣の空いている二つに入っていく。

 三人が試着室に飛び込んでから、数分経った頃。

 三つの垂れ幕が、同時に勢いよく開かれた。

 訝しげな表情で試着室を外から見守っていた店員の女性が、目を見開いて驚きの声を上げる。

「あ、あなた達!? 〈ライブリー・セイバーズ〉!!」

 制服姿で試着室に飛び込んでいった三人の女子高生は、全く見違える姿となって――まさに変身と言わんばかりの変容を遂げていた。

 大剣を握った少女が、最初に試着室から外へと歩み出る。

 目元を黒いバイザーで隠し、全身にはぴったりと肌を覆うスーツと硬質なプロテクタ。そして、手に握るのは巨大な剣〈炎刃・花一匁〉。

 武装自警団〈ライブリー・セイバーズ〉の自称リーダー〈ライブリー・レッド〉だ。

「さ、いくわよ。イエロー、ブルー!!」

「つられてノリで着替えちゃったけど……現地までこの恰好で行くつもり?」

 口元をマスクで隠し、身に纏うのは弓道着を模した意匠の戦闘服。

 身の丈ほどもある長弓を手にした金髪の少女、〈ライブリー・イエロー〉はうんざりとした様子で次に試着室から外へと出る。

「私は杖で飛べるので、別に問題ありませんよ」

 つばの広い三角帽子で顔を隠し、身に纏うのはドレスのような長いスカートの衣装。

 そして、軽々と片手で振るうのは、身の丈の倍もあろうかという、まるでSF映画に出てくる光線銃のような見た目の〝魔法杖〟。

 異世界からやってきた〝嵐〟の魔法を使う魔法少女〈ライブリー・ブルー〉だ。

「お二人も飛ぼうと思えば飛べるんですし、そうされたらどうですか?」

「確かに〈念動力〉で飛ぼうと思えば飛べるけど、無駄に体力使うから肝心の戦闘のときバテてたら意味ないじゃん」

 梔子鳴矢――改めイエローは、言葉に真剣な色合いを滲ませて言う。

「それに今回は……なんだか、嫌な予感がする。体力は温存しといた方がいいかも」

 張り切った様子の緋色蓮花、改めレッドは張り切った調子で問いかける。

「あら、イエロー。〈念動力〉だけじゃなくて〈予知能力〉まで身についたの?」

「こんなのただの勘よ。むしろ、アンタが鈍感すぎるだけじゃないの?」

「な、なんですって!?」

 言い合う赤と黄色の二人の間に、青が小柄な体で割って入る。

「まあまあお二人とも。それでは、今日は徒歩での出撃ということで」

「むう……徒歩で登場なんて、正義の味方にあるまじきかっこ悪さね」

「だったらあんた、現地まで私服で行って公衆の面前で着替えればいいじゃない」

「うーん、正義の味方として、公然わいせつ罪はどうかと思うけど、下着姿までなら一応セーフだしアリかも……」

「真面目に考えんな! 少しは女として恥じらいを持ちなさいよアンタは!!」

 三人の少女は、文字通り姦しく言い合いながら店を出て歩き始める。

 そして、遙か遠くの景色の中に、微かに映る前代未聞の巨大な怪物――カマキリ型の生物兵器〈チャリオット〉の存在を認め、一様に言葉を失うのだった。

キャラクター紹介ページに【ライブリー・レッド】を追加しました。


※デザインは今後、若干の修正が入る予定です。

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Kindleを利用して前半部分のまとめを電子書籍として販売はじめてみました
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