幸せの夢
私はこの状況に混乱していた。暗闇の中に見えるのは、三つの赤い光。ここは獲物を食らうための蜘蛛の巣のようで、私はその餌なのかもしれないと、本能的に感じた。
私は最も愛する大好きなかずまに、焦りながら尋ねた。
「かずま! これはどういうこと?」
「今からお前はこの邪神に捧げられる。光栄だろう?」
この邪神って、三つの赤い目を持つこの不気味な生物のこと? 嘘っ、かずまが私を殺すわけない。
だったら、もしかして、
「まさか、高道が言っていたことは本当だったの? かずまはかずまじゃないの?」
「何を言っている? 私は和馬だ。春香とは幼稚園から幼馴染の和馬だよ」
かずまじゃない人は私の腕を掴んできた。
私はその腕を引き剥がし、一人階段を上っていく。暗闇の中では下もかろうじてわかる程度だった。私は何度も足をぶつけながら、全力で走る。
「痛っ、もう、暗すぎっ!」
今は文句を言っても仕方がない。早くアイツから逃げないと。背中がジリジリとした圧迫感で押されているみたい。暗澹たる闇が私を覆いつくす、そんな恐怖を感じた。
でも、多分後ろには誰もいない。なぜなら、人の足音は私のものしかない。この階段を駆けているのは私一人しかいない。だから、アイツは追いかけてきていない。
……、それならこの悪寒はなんだろう。1歩上る度に感じる、死の恐怖、畏怖の感情。背中に粘液がへばりついて離れてくれないような、悍ましさ。
もう限界。心も、身体も。
そんな中、やっと光が見えた。私にとっての希望が見えた。
私はアイツから逃げ出せると信じ、闇の外側に這い出た。
私は光に包まれていた。目に映るものはたくさんの観衆。その中には先生や委員長、クラスメートたちがいた。
煌びやかなステンドグラスの窓に、聖なる十字架。
そして、隣には愛しのかずま。
私はウエディングドレスを着ていた。今日はかずまとの結婚式。永遠に忘れられない、私の一番幸せな日。
高道が私たちを祝うスピーチをしてくれて、神父が誓いの言葉を口にした。
「和馬さん、貴方はこの女性を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」
「誓います」
「春香さん、貴方はこの男性を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も、悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」
「はいっ、誓います」
「では、指輪を交換してください」
かずまは私に左手の薬指に指輪を嵌めてくれた。私もかずまに指輪を嵌めた。
「では、誓いのキスを」
私たちは見つめ合い、かずまの瞳が近づいてくる。抱かれるように私の唇は奪われた。最高の時。このまま時間が止まってしまえば、この幸せが永遠に終わらなければいいのに。
誓いのキスは終り、かずまの暖かさが私から離れていく。
でも、ずっと一緒だよね、かずま。
「ああ、もちろんさ」
ねぇ、かずま。私、聞きたいことがあるんだ?
「何かな?」
何で私の心が聞こえるの?
「それは君のことを愛しているからさ」
そうなんだ、嬉しい。でもね、まだあるんだ。
何で高道君が生きているの? 保健室で死んだはずだよね。私が殺したはずだよね。
それに私って……
「そうだ。僕も君に聞きたいことがあったんだ?」
「なあに?」
「君の頭、少し欠けているよ」
かずまはあまりにも当たり前という風に、冗談を言った。
私は真に受けたわけじゃないけど、頭を触ってみる。
そしたら……
かずまの言った通り、頭蓋骨の一部が無くて、赤くて豆腐のような柔らかいものが露出していた。
そっか、私は……
「ね、欠けているでしょ」
「うんっ、欠けてるねっ。ふふっ、ふフフ、アはハハハハハハハハハハハハ、あはハハハハハハハ、あハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、アヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ、ハハハハハハハハハ、アはっ、」
私は笑顔で答えた。