近藤和馬
平成23年11月20日
3年後、世界は滅びる。それまでに、やっておかなければならないことがある。私が学校という、不特定多数の人間が集まる空間を作ったのには理由がある。その一つ目は、魔術的な素養が高く、品質の良い生贄を探すため。二つ目は、私に合う次の入れ物を探すためであった。そして、絶好の獲物を見つけた。
近藤和馬、現在中学二年生。
奴の内包する魔力は私を遥かに凌いでいた。
この身体さえあれば、私がこの世界を支配することは、もう誰にも止めらないものになるだろう。
そうだ。この日記の最後を飾るこのページは、一応魔術的な措置をしておこう。私以外にこの校長室に入るものはいないと思うが、もしかしたらということもある。
さて、世界を救うための準備をしようか。
3年前のあの日。俺は消えた。
体育祭の日、俺は導かれるようにクラスを離れ、校長室へと向かっていた。自分の意思はうまく働かず、校長室に行くことだけしか頭になかった。
校長室のドアを開けると、当然のように校長が椅子に座っていた。
「まあ、座りたまえ」
「ぐ…」
俺は校長の命令の意のままに、その場で正座する。抗おうとしても無駄だった。
「私は感謝しているんだ。君のような才能のある人物に出会えたことをね」
「な…ら、何で、こんな、こと、を、する」
「おお、まだ意識を持ち話せるか。素晴らしい」
校長は感嘆し、拍手をする。まるで、道化を褒める観衆のように。
「さて、出会ってそう時間は経っていないが、お願いがある。君の身体を私にくれないかね」
「ぐ…、こと、わる」
「聞いて何だが、君の意思は関係ないがね」
「くそ、が」
校長は俺に近づく。逃げることはできない。話すことすらやっとなのだ。
校長は俺の頭に手を当てると、呪文のような文言を唱え始めた。
脳を犯されるような強烈な頭痛と異物感に俺は吐き気を催した。まるで全身の臓器が侵されていくような感覚に、次第と意識は薄れていった。
俺が次に目を覚ましたのは、ふらふらと浮く怪物の中だった。
怪物は少女を追いかけていた。数体の怪物は、無数の触手で少女を襲った。だが、俺の意識は怪物の行動を必死で食い止めた。例え怪物の身体になっても、そんな非人道的なことだけはしたくなかった。
しかし、少女は触手に捕らわれ、真っ赤な純血を啜られた。少女が気を失っても怪物は血を啜り続け、やがて、少女は動かなくなった。
そこで、俺の意識は途切れた。
そして、今、俺は少女に取りついている。少女の脳を借り、俺はそれなりに自分のことと、この怪物の事を理解することができている。だが、この学校からは出ることは叶わなかった。
どうやら、俺は現実と異なる世界との狭間の空間に閉じ込められていて、普通の方法では脱出する術はないようだった。それに肉体の半分は外なる世界の生物なので、もう普通の世界では生きられない。
全ての原因は俺の肉体を奪ったあの男。
殺してやる。絶対に殺してやる。
俺はふらふら校舎の中をうろつき、奴を探した。