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いつかの悪魔

作者: 大間知偽然

いつもの朝、布団から顔を出すとそいつはそこにいた。

朝一番に肺に新鮮と思われる空気をいっぱい溜めた。そして、その空気で大きなため息をこぼした。

「叫び声をあげてもいいのか?」

目の前にいる黒スーツの男に問いかけた。

本当は今にでも警察を呼んでこの不審者と二度と会わないようにしたいのだが、執行猶予を与えても仕方ないと夏の大会の負けと決めつけた後の監督の温情采配並みの優しさを僕はコイツにぶつけてやった。

「そんなことをしてもよろしいのでしょうかねぇ? 交渉があって私はここにいるのですが……」

不思議と話を聞いても悪くないと思わせる、業者にも似たセリフだった。というよりは、黒スーツだからセールスマンというべきか?

と脳内にある烏龍茶のCMの2.5頭身キャラを思い出していた。

っと、交渉か……。どーせ、ろくでもないもんなんだろうな。

「そう、お考えですよね。『くだらない商品なんか買わせる気だろう』」

先読みされたのか、二つの声が違和感なく重なった。

……きっと偶然だろう? 読唇術だろう?

「違いますよ。第一、私はあなたの唇を見ていないじゃないですか。」

喋ってもいないのに、コイツは思っていることを当てた……。

何だコイツは? 本当にナニモンだ?

嫌悪感と興味が入り混じった感情がまるで洗濯機の中に放り込んだかのような感じで心をとらえていた。

「あまり、からかっていても仕方ないですね……。今回ここにいる、あなただけに見えているのは〔悪魔〕ですよ。」

画面で例えるなら、その画面は一瞬にして白くなっていただろう。フラッシュアウトというべきか? 無理もないだろ? 厨二じゃあるまいし、ましてや社会人の出で立ちだ。そんな人間が信じられないことほざいてんだぜ? ゆとりの極みか?

「いえ、分かりやすい概念の話ですよ。そんなセフィロトどうこう言っても仕方ないでしょ? まぁ、聖書の研究家なら説明しても大丈夫だと思いますが、落ちこぼれているあなたにはそんなことはあり得ないと決めつけて、あえて説明しませんよ。だから、悪魔とでも天使とでも呼んでください。」

これは夢か? 否、夢ならここまで現実っぽいものなのか? ここは日本だよな?

果てしなく、現状に混乱を覚えたところで、ふと糸が切れたような気がした。あぁ、もう考えても仕方ない。どこか数字では表せない次元のことが目の前で話されているんだった。そう思い込むことにした。

「そうです、もう割切っちゃってください。考えたって無駄なことだってあるんですからね? 感覚ダイナモーションですよ。して、話というのは簡単に言い切りますね。あなた様は明日死にます。」

そうか、俺は明日死ぬのか。……死? deth?

それは大胆にそれでいてしなやかに俺の心に突き刺さった。コイツは本当に俺の心を惑わす悪魔だった。

「それで、あなたに一つお力を貸そうと思います。」

力があっても死は免れない。そういう約束なんだろう。

空が飛べるようになるのか?

幼い微熱を下げられるようになるのか?

「そんな素敵な歌詞通りではないんですがね……。なんでもいいですよ、死なない以外なら、どんな能力でも。私のかなえられる範囲内で。」

それなら決まっている。答えは一つしかない。なぜか即答できるぜ? 万札かけてもいいさ。

「ほぅ、それでいいんですか? なんとも呆れた人ですね?」

自称悪魔はさっきと同じく心の中を読み取ったのか、にやにやといやらしさがある笑みを顔に張り付けていた。

うすら気分が悪いのは気のせいか?

「これじゃ、当分会えそうにないですね……。では、またいつか。」

一瞬、満足したと言いたげな笑みになったかと思うと、顔の近くで手を軽く降った。そして、最初からいなかったかのように自称悪魔は消えていた。

そう思ってすぐに、意識は遠く遠くどこかへ飛んでいた。 そんな感じだった。


それから、あの自称悪魔には会わなかった。そう考えている今は、あれから一週間後である。

なぜか死ななかったし、あれは夢だったのだろうか。

その疑問だけ残して目の前からは消えた。だが、記憶の片隅にアイツは今もいる。

「ちゃんとした、名前。聞いときゃよかったのかも……」


物語はどこかにいった。


 これはちょっと昔のお話。


~その頃~

「神様、見ました? あれほど、がっつく欲のない少年は初めてですよ……。 賭けは私の勝ちですね? おっと、覚えていないは無しですよ? ちゃ~んと約束しましたからね……。 だめです、泣いても約束は守ってもらいます。 私の座を返してくださいね。もうルシフェルは悪魔ではないのですから……。」

文明の利器を片手に銭湯の煙突に立つ男は笑っていた。まるで、たまにはいいことがあると言いたげな、そんな笑顔である。そして、まだ声のする機器のボタンを一度押したかと思えば、次の瞬間には両手には何も持っていなかった。

少しだけ遠くを見渡していた目がとまったかと思うと

「私の名前はルシフェルですよ」

いたずらっぽく中性的な笑いをし、今度こそ本当に悪魔は消えた。


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