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月と星と、僕らの放課後  作者: 吉月和玖
2/7

第2話 月と星との昼休み

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


月奈と星奈が転校してきて、二日目。


昨日まで和幸と信也の二人だけだった学校生活に、月と星が少しずつ入り始めます。


まだ「いつもの四人」と呼ぶには早い。


けれど、昨日とは確実に何かが違う──


そんな小さな変化を楽しんでいただければと思います。


第2話「月と星との昼休み」


それでは、どうぞお楽しみください。



翌朝──


「おはよう、長尾君」

「おはよう。月奈さん、星奈さん」


教室へ入ると、先に登校していた双子から声を掛けられた。

昨日転校してきたばかりだというのに、二人の周りにはすでに何人かのクラスメイトが集まっている。

まあ、あれだけ目立つ双子だ。

こうなるのも当然か。


「ねえ、長尾君」

「ん?」


月奈さんがニヤリと笑った。


……何だろう。

ものすごく嫌な予感がする。


「昨日の美人なお母さんとは、その後どうだった?」

「ぶふっ!?」


危うく何も飲んでいないのに吹き出すところだった。


「朝一番でそれ!?」

「だって気になるじゃん」

「気にしなくていいよ!」

「でも、大好きなんでしょ?」

「大好きだけど!」

「認めるんだ……」


星奈さんが呆れたように呟く。

いや、そこは別に隠してないからね?


「お前ら、朝から何の話してんだ」


後ろから聞き慣れた声がした。

振り返れば、鞄を肩に掛けた信也が立っている。


「おはよう、武田君」

「……おはよう」


昨日より返事が早い。

おお。

成長したじゃん。


「武田君」

「何だ?」

「長尾君って、いつからお母さんのこと好きなの?」

「知らん」

「親友でしょ?」

「だからって、こいつの初恋の時期まで把握してるわけないだろ」

「初恋って決めつけるなよ!」

「違うのか?」

「…………」

「何で黙るんだよ」


僕はそっと視線を逸らした。

信也がため息を吐く。

月奈さんは楽しそうに笑っている。

星奈さんまで口元を押さえていた。


……おかしい。

昨日まで僕の朝は、もう少し静かだったはずなんだけど。


「それより」


僕は無理やり話題を変える。


「二人とも、もうクラスに馴染んでるんだね」

「まあね」


月奈さんが周囲を見る。


「みんな話しかけてくれるし」

「まだ名前は全然覚えられてないけどね」

「転校二日目なら普通でしょ」

「長尾君は覚えた?」


星奈さんに尋ねられる。


「二人の?」

「うん」

「それはもちろん」


僕は二人の髪を見る。

右側に三日月の髪留め。

左側に星の髪留め。


「月の髪留めが月奈さん。星が星奈さん」

「…………」

「…………」


何故か二人が黙った。


「え、違った?」

「合ってるけど」


月奈さんが自分の髪留めへ触れる。


「やっぱり、そこなんだなぁって」

「?」

「私たち、昔から髪留めで見分けられることが多いから」


星奈さんも星型の髪留めに触れながら、小さく笑った。


「髪留め外したら、長尾君も分からないかもね」

「いやいや」


僕は二人の顔を交互に見る。

月奈さん。

星奈さん。

月奈さん。

星奈さん。


「…………」


同じ。

めちゃくちゃ同じ。


「……今のところ自信ないです」

「正直!」


月奈さんが吹き出した。


「じゃあ、武田君は?」

「え?」


話を振られた信也が二人を見る。

数秒。


「……分かるけど」

「「「えっ?」」」


僕と双子の声が重なった。


「髪留めなくても?」


星奈さんが尋ねる。


「たぶん」

「何で!?」


思わず僕が食いついた。

信也は面倒そうに僕を見る。


「何でって……」


そして、さも当然のように言った。


「顔は同じでも、表情が違うだろ」

「…………」


月奈さんと星奈さんが揃って目を丸くする。

僕も信也を見る。


こいつ。

学校じゃ僕以外とまともに喋れないくせに。

何でそういうところだけ妙に人を見てるんだよ。


「……例えば?」


月奈さんが興味深そうに身を乗り出す。


「何が?」

「私と星奈の違い」

「言っただろ。表情」

「だから、具体的に」


信也が露骨に面倒そうな顔をした。


こいつ、こういうところなんだよなぁ。


「月奈はよく表情が変わる」

「うん」

「星奈は月奈より変わらない」

「…………」

「…………」


終わった。


「それだけ?」

「それだけ」


月奈さんがガクッと肩を落とす。


「もっとこう……あるでしょ?」

「知らん」

「髪留めなくても分かるって言ったじゃん!」

「分かることと説明できることは別だろ」

「何それ!」


言いたいことは分からなくもないけど。

僕は改めて二人を見る。

月奈さんは、信也に文句を言いながらコロコロと表情を変えている。

一方、星奈さんはその隣で困ったように笑っていた。


「……あ」


確かに。


「言われてみれば、ちょっと違うかも」

「でしょ?」


月奈さんが僕を見る。


「じゃあ長尾君も分かる?」

「髪留め外してみて」

「今?」

「今」


月奈さんと星奈さんが顔を見合わせる。

そして二人同時に髪留めへ手を伸ばした。

三日月と星。

それぞれの髪から、唯一と言っていい目印がなくなる。

二人が僕を見る。


「「どっちがどっち?」」

「…………」


右。

左。

右。

左。

同じダークブラウンの長い髪。

同じ琥珀色の瞳。

同じ顔。

……いやいや。

信也が分かるんだぞ?

僕にだって。


「右が……月奈さん?」

「私、星奈」

「ごめんなさい」


即座に頭を下げた。


「早っ!」


月奈さんが吹き出す。


「いや無理だって!昨日会ったばっかりだよ!?」

「武田君は分かるのに?」

「こいつがおかしいんだよ!」

「俺のせいにするな」


信也が呆れたように言う。

星奈さんは外した星の髪留めを付け直しながら、クスクスと笑っていた。


「でも、ちょっと安心した」

「何が?」

「長尾君の反応」

「間違えたのに?」

「うん。普通だから」


普通。

どういう意味だろう。

聞こうとしたところで、教室の前方から担任の声が飛んできた。


「ほらー、席つけ。ホームルーム始めるぞー」

「あ、やば」


月奈さんが自分の席へ戻っていく。

星奈さんもその後を追った。


「じゃあね、長尾君」

「うん」


二人を見送って、僕も席へ向かおうとする。

その途中。


「和幸」

「ん?」


信也が小声で呼び止めた。


「何で分からないんだ?」

「お前、ちょっと黙ってろ」


本気で不思議そうな顔するな。


◇◇◇


午前の授業は、昨日までと大して変わらなかった。

……はずだった。


「じゃあ、この問題を……そうだな。転校してきたばかりで悪いけど、信濃。解いてみるか?」


二時間目の数学。

教師が黒板に書かれた問題を指しながら言った。


「先生」


月奈さんが手を挙げる。


「ん?」

「信濃だと二人いるんですけど」

「あ」


教室から笑いが起こった。

教師が気まずそうに頭を掻く。


「悪い悪い。じゃあ……姉の月奈」

「はい」


指名された月奈さんが席を立つ。

黒板の前へ向かい、チョークを手に取った。

問題そのものは、昨日習った内容の応用。

僕も解けないことはない。

少し考えれば、たぶん。


「…………」


月奈さんの手が止まった。


一分。

二分。


「……先生」

「どうした?」

「転校初日ということで見逃してもらうことは?」

「昨日転校してきたことと、この問題は関係ないな」

「ですよねー」


教室から再び笑いが起こる。

月奈さんも苦笑い。

……どうやら数学は得意じゃないらしい。


「分かるところまででいいぞ」

「はーい……」


月奈さんが黒板へ向き直る。

そのまま数式を書いていくものの──


「そこから違う」


ボソッ。


隣から聞こえた。


「信也」

「何だ」

「聞こえるって」

「独り言だ」

「嘘つけ」


案の定。


「武田」


教師が信也を見る。


「はい」

「分かるなら代わってやれ」

「…………」


信也が僕を見る。

だから知らないよ。

自分で蒔いた種だろ。


「ほら、武田君」


月奈さんがチョークを差し出す。


「学年一位のお手本お願いします」

「……面倒くせえ」

「武田」

「行きます」


教師に睨まれ、信也が渋々立ち上がる。

黒板の前へ。

月奈さんからチョークを受け取ると──


カッ、カッ、カッ。


迷いなく数式を書き始めた。

速い。

途中式を書き、そのまま答えまで。


「はい、正解」


教師が頷く。


「さすがだな」

「どうも」


信也はそれだけ言って席へ戻ってきた。

月奈さんも自分の席へ戻る。

その途中、僕たちの横を通りながら信也へ小声で言った。


「……あとで教えて」

「嫌だ」


即答。


「何で!?」

「面倒だから」

「そこは普通『いいよ』って言うところでしょ!」

「何で俺が」

「学年一位だから!」

「理由になってない」

「ケチ!」


朝より普通に喋ってるじゃん。

僕は思わず信也を見る。

昨日なんて二人に話しかけられただけで英単語帳へ逃げていた男が、今日は月奈さんと言い合っている。


「何だよ」


僕の視線に気づいた信也が眉を寄せる。


「いや」

「気持ち悪い」

「何も言ってないだろ!」


◇◇◇


そして四時間目。

今度は英語だった。


「じゃあ信濃星奈。この文章を訳してみて」

「はい」


指名された星奈さんが立ち上がる。

教科書を手にして英文へ目を落とす。


「えっと……」


最初こそ順調だった。

しかし途中で言葉が止まる。


「…………」


長い沈黙。


「分からないか?」

「……すみません」

「じゃあ途中まででいい。座って」

「はい……」


星奈さんが少し恥ずかしそうに腰を下ろした。

なるほど。

月奈さんは数学。

星奈さんは英語。

双子だからって、得意不得意まで同じってわけじゃないらしい。

当たり前といえば当たり前なんだけど。

見た目がここまで同じだと、ついつい何でも同じだと思ってしまう。

そんなことを考えながら授業を受け──

昼休み。


「和幸」

「ん?」

「飯」

「分かってるよ」


僕は鞄から二つの弁当箱を取り出す。


一つは僕。

もう一つは信也。


「今日のおかず何だ?」

「生姜焼き」

「卵焼きは?」

「入ってる」

「ならいい」

「お前、日に日に図々しくなってない?」

「気のせいだ」


絶対違う。

二人でいつもの食堂へ向かおうとした──その時。


「長尾君!」


後ろから声。

振り返らなくても、何となく誰か分かった。


「月奈さん」

「今日も食堂行く?」

「行くけど」

「じゃあ一緒に行こ」


月奈さんの隣には星奈さんもいる。


「いいよ」

「和幸」


信也が僕を見る。


「何?」

「俺は許可してない」

「別にお前の席じゃないだろ」

「…………」

「それに」


僕は少し笑う。


「昨日より話せるようになったんだから、いいじゃん」

「何の話だ」

「こっちの話」


信也は怪訝そうな顔をした。

月奈さんと星奈さんが僕たちの横に並ぶ。

昨日までは。

昼休みになれば、信也と二人で食堂へ向かう。

それが当たり前だった。

今日も場所は同じ。

食べるものだって、ほとんど同じ。

だけど。


「ねえ長尾君、今日のお弁当何?」

「生姜焼き」

「えっ、見たい!」

「いいけど」

「俺のは見るなよ」

「何で武田君が拒否するの?」

「俺の飯だから」

「作ったの長尾君でしょ!」


賑やかな声が二つ増えた。

たったそれだけなのに。

昨日まで当たり前だった昼休みが、少しずつ別のものになっている。

悪くない。

むしろ──


「和幸」

「ん?」

「ニヤニヤしてるぞ」

「してないよ」

「してる」

「してないって」

「気持ち悪い」

「お前今日それ二回目だからな!?」


前を歩いていた月奈さんと星奈さんが同時に振り返る。

そして二人揃って笑った。


やっぱり。

こういうのも悪くない。


◇◇◇


昼休み──

昨日と同じ食堂の席に、僕たち四人は座っていた。

僕と信也は弁当。

月奈さんと星奈さんは、今日も食堂の日替わり定食だ。


「美味しそう……」


月奈さんの視線が僕の弁当へ突き刺さっている。


「見る?」

「いいの?」

「見るだけなら」


弁当箱を少し月奈さんの方へ向ける。

今日のメインは生姜焼き。

あとは卵焼きに、ブロッコリーとポテトサラダ。


「本当に自分で作ったんだよね?」

「そうだけど」

「……一個ちょうだい」

「見るだけって言ったじゃん」

「ケチ」

「何で僕が悪いみたいになってんの?」


向かいでは、信也が我関せずといった様子で生姜焼きを食べている。


「武田君」


月奈さんが今度は信也を見る。


「何だ」

「数学教えて」

「嫌だ」


即答だった。


「早くない!?」

「面倒くさい」

「学年一位なんでしょ!?」

「学年一位になったら他人に勉強教えなきゃいけない校則でもあるのか?」

「ないけど!」


月奈さんが頬を膨らませる。


「まあまあ」


僕が間に入る。


「数学だけ苦手なの?」

「…………」


何気なく聞いただけだった。

なのに。

月奈さんが僕から目を逸らした。


「月奈?」


星奈さんがジトッと姉を見る。


「……数学も」

「『も』?」


嫌な単語が聞こえた。


「国語は?」

「ちょっと苦手」

「英語」

「苦手」

「理科」

「苦手」

「社会」

「…………ちょっとだけ得意じゃない」

「全部じゃん!」


思わず突っ込んだ。

月奈さんがムッとする。


「赤点はそんなに取ってないもん!」

「そんなに?」

「……前の学校では、毎回一個か二個くらい」

「取ってるじゃん!」

「ギリギリ助かる教科も多いから!」


胸を張ることじゃない。


「…………」


信也が箸を止めた。


「月奈」

「何?」

「お前、数学を教えても意味ないぞ」

「なんで!?」

「一教科だけどうにかする段階じゃない」

「酷くない!?」

「事実だろ」


相変わらず容赦ないな、こいつ。


「でも星奈はちゃんと勉強してるよ」


月奈さんが妹を見る。


「私と違って真面目だし」

「月奈と比べないで」


星奈さんがため息を吐く。


「じゃあ星奈さんは成績いいんだ?」


僕が尋ねると、


「…………」


今度は星奈さんが目を逸らした。


あれ?


「星奈さん?」

「勉強は……してるよ?」

「うん」

「宿題もちゃんとするし、テスト前も勉強してる」

「うん」

「でも……」

「でも?」

「五十点とか、六十点とか……」

「あー」


なるほど。

赤点の心配こそ少ないけど、点数はあまり伸びないタイプか。


「長尾君は?」

「僕?だいたい六十後半から七十点くらいかな」

「…………」


星奈さんが落ち込んだ。


「え!?何で!?」

「私より上……」

「いや、落ち込むほどじゃないでしょ!?」

「長尾君、勉強普通って言ってたのに」

「普通だよ!」

「私、普通以下なんだ……」

「そういう意味じゃなくて!」

「星奈」


信也が口を開いた。


「何?」

「点数だけじゃ分からない」

「え?」

「勉強してその点数なら、やり方が悪い可能性がある」


星奈さんが目を瞬く。


「やり方?」

「ああ」


そして信也は月奈さんを見る。


「こっちは、まず勉強するところからだが」

「何で私だけ扱い違うの!?」


食堂に月奈さんの声が響いた。

僕は思わず笑ってしまう。

昨日出会ったばかりなのに。

こうして四人で話していることが、もう少しずつ当たり前になり始めていた。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


第2話「月と星との昼休み」、いかがだったでしょうか。


月奈と星奈が加わったことで、これまで和幸と信也の二人だけだった昼休みも、少しずつ賑やかになってきました。


そして今回は、信也の意外な一面も。


人付き合いは苦手なのに、髪留めがなくても月奈と星奈の違いに気づく信也。


一方の和幸は──見事に間違えました。


このあたりも、これから四人で過ごす時間が増えるにつれて少しずつ変わっていく……かもしれません。


さらに、月奈は全教科で赤点ラインとの戦い。

星奈は真面目に勉強しているものの、なかなか結果に結びつかない。


学年トップの信也と、ごく平均的な和幸。


勉強一つを取っても、四人それぞれの違いが見えてきました。


まだ出会って二日。


それでも少しずつ、二人だった時間が四人の時間へ変わり始めています。


「この四人をもう少し見てみたい」

「続きが気になる」

と思っていただけましたら、お気に入り登録や評価をしていただけると、今後の執筆の大きな励みになります。


感想も大歓迎です!


月奈、星奈、和幸、信也。

現時点で気になっているキャラクターがいましたら、ぜひ教えてください。


次回、第3話「月と星の光」。


月と星がやってきて一週間。

今度は四人の放課後にも、新しい変化が訪れます。


それでは──


また、次の放課後で。



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