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孤独

作者: 七宝
掲載日:2026/02/05

「うぎっ!」


 一緒に歩いていた先輩が急に止まった。うぎってなんだ? うさぎのさ抜きバージョン? さぬき⋯⋯うどん? なぞなぞ的な話?


「ちょ、踏んでる、どいて!」


「えっ!? すいません!」


 どいたけど、なんもない。


「何もないじゃないですか」


「あるだろ。よく見てみろよ、お前が踏んでたから痛かったんだぞ」


 屈んで見てみるも、特に何もない。


「何もないじゃないですかPart.2」


「いやあるだろ、毛が」


「毛?」


 見てみると、確かに毛があった。それは長くてクネクネしていて、目で追っていくと先輩のズボンの裾にたどり着いた。


「は?」


 意味が分からない。


 試しに引っ張ってみよう。


「痛だっ! なにすんだ!」


 股間を押さえながら怒る先輩。


 ⋯⋯チン毛ってこと?


 激長のチン毛なの? こんな伸びるの? 1本だけ? キモっ⋯⋯








 ブチィ!


「ギャアアアア!!!!! パイパンになっちゃったああああああ!!!!!!」


「波平?」


「波平は横にもあるぞ」


「波平は横にもあるぞって言葉おもしろいですね。これだけ見たらなんのことか分からない」


「いや、波平に横の毛があるって説明はわりとメジャーだぞ? さっきのだけ見ても『ああ、また波平が1本だけだと思ってる世間知らずがいたのね』って思うだけだぞ」


「波平の頭って世間なんだ」


「うん、常識。だって『波平描いて』って言われた人が描いたのがツルッパゲに1本だったら恐れおののくだろ?」


「恐れおののく」


「でさ、いつまで俺のチンモウ持ってるんだよ」


「チンモウ!?」


「えっ、なに?」


「チン毛はチンゲって読むんですよ!」


「えっ、じゃあ陰毛はインゲなの?」


「いや、インモウです」


「じゃあチンモウだろ!」


「チンゲです」


「Why!? Japanese people!!!?」


「チンゲです」


「うるさい!」


「うるさくてもチン毛はチンゲなんです!」


「うん。チンゲってことにしとくから、はやく返して?」


「しとくからじゃなくて、これが公式なんですってば」


「国語辞典に載ってるの?」


「多分載ってないです」


「じゃあ分かんなくない?」


「べつに公式って国語辞典だけとは限らないですし」


「限るだろ」


「じゃあ先輩の名前は国語辞典に載ってないから、好きな読み方で読んで呼べばいいですか? 鳥山(ちょうざん)でいいですか?」


「よくないよ。国語辞典には載ってないけど市役所には載ってるから。チン毛は市役所に無いだろ?」


「あったらヤバいでしょ。『チン毛の読み方はチンゲ』っていう公式の文書があるの?」


「ないんだよ。だからチンゲじゃなくてチンモウだって言ってんのグハッなにすんのお前」


 ヤバい、あまりにも分かってくれないから殴っちゃった。


「まあいいんだけどさ」


 いいのかよ。


「で、チンゲ派とチンモウ派で1対1だけど」


「10億対1ですよ」


「日本の人口より多いのはおかしいだろ。しかも俺の方1人だし」


「先輩さっき厚切りジェイソンの真似してたじゃないですか」


「真似ってほどでもないけどな」


「日本人なのに英語知ってるでしょ? だからチン毛も10億人くらいは知ってるはずなんですよ」


「その計算方法は? 先進国の中で親日家の人を割り出したらこうなった的なこと?」


「いや適当ですけど」


「適当で多数派を捏造したのか!?」


「適当ですけど捏造じゃないです! 絶対チンゲ派のほうが圧倒的、いや超激極ウルトラウルトラマン多多多圧倒的ですよ!」


「じゃあ命賭ける?」


「小学生?」


「賭けるかって聞いてんだよ!」


「余裕で賭けますよ」


「じゃあ俺も賭ける」


「なんで!?」


「50%で俺が勝つからだよ。さっきも言ったが俺たちは今1対1なんだぞ」


「50%じゃないですってば。先輩のその白と黒しか存在しない確率論やめた方がいいですよ。この前も降水確率90%だったけど降らなかった日に『雨か晴れだもんな。50%だもんな』って言ってましたよね。アレ50%じゃなくて90%ですからね。あと雨か晴れじゃなくて雪も雷も曇りもありますからね」


「チンモウ返してよ」


「チンゲだっつってんだろが!」


「先輩には敬語を使いなさい! そしてチンモウを返しなさい!」


「チンゲアンチにチン毛渡せるか!」


「渡せよ俺のなんだから」


「渡しません。チンゲに改めるまで返しません」


「お前それ泥棒だぞ?」


「だったらどうなんですか」


「110番するぞ? そしたらお前、どうなるか分かってんのか?」


「想像もつきませんよ」


「強盗でブタ箱だよ!」


「いや普通に怒られて終わりでしょ。先輩が」


「俺が!?」


「例えば愛知県では去年だけで68万件ぐらい通報があったそうなのですが、そのうちの22.3%が不要不急の通報だったというのです」


「ソースは?」


「テレビで見ました。1日あたり1880件って言ってた気がする」


「ふーん」


「先輩もこの22%ですからね」


「じゃあお前は?」


「ん?」


「お前は何パーセントなんだよ! 78%なのかよ!」


「僕は通報したことないです」


「俺もねぇよ!」


「なんの話?」


「お前が俺のこと22%とか言うから、悔しくて!」


「悔しいとは?」


「22%って、ほぼ5分の1だぞ!? 少ないだろ! 俺はそんな小さい人間じゃない!」


「誰も大きさの話なんかしてない!」


「俺も大きさの話なんかしてない!」


「はい?」


「人間としての大きさの話をしてるんだ」


「何をどうすり替えてその話題になったのか」


「ドーナツが食べたい」


「ミスド行きましょ」


「その前にチンモウを返せ!」


「ミスド入るなら捨てましょうよ」


「だめ! かえして!」


「4歳児?」


「お前それどこに捨てるつもりだ? まさかミスドのゴミ箱に捨てるのか?」


「いやその辺に捨てますけど」


「不法投棄じゃねーか! 人のもの勝手に捨てて! 極悪犯罪者め!」


「静かにしてくださいよ。もうあと10分で休憩終わっちゃいますよ? あとなんか人いっぱい集まってきてるし」


「ほんとだ、めっちゃ囲まれてんじゃん」


「けっこう前からいる人もいますよ」


「ずっと見てたんだな」


「せっかくなんで、チン毛の読み方を聞いてみましょうか」


「お前それ不審者だぞ?」


「ずっと見てた人なら分かるでしょ。ねぇそこのおにいさん!」


「チンモウですね」


「えっ」


「ほら、俺が合ってた」


「いや、まだ2対1ですよ。そこのお姉さん、聞いてましたよね? チンゲでしょ?」


「チンモウですし、マンモウです」


「ほら」


「いや、みんなふざけてるだけですって」


「は?」


「話聞いてたから、わざとチンモウ派になって楽しんでるんですよ」


「そんなこと言い出したらお前無敵じゃん。現にチンモウ派が多いのに、そんなのズルいよ」


「とにかく、オフィスに戻ってみんなに聞いてみましょ!」


「ちっ、めんどくさいやつだぜ」


「こっちのセリフですよ!」


「いや、俺のセリフだね。人のチンモウ引っこ抜いて、その上多数決で負けたのに認めない。どっからどう見てもヤバいやつだろ」


「ほんとだ⋯⋯でも、ここ以外なら僕勝てるんで! ⋯⋯って先輩! 歩きスマホやめてくださいよ!」


「俺ゆっくり行くから、先行っていいよ」


「ゆっくりでもダメだってのに⋯⋯もう、先行きますわ!」




 僕がオフィスに戻ってから、3分くらい遅れて先輩が来た。


「歩きスマホで帰ってきたんですか」


「ナメクジの速度だから許して」


「ナメクジだって捕まるんですからね?」


「そうなの?」


「適当言いました」


「さっきも適当に10億対1って言ってたし、キミ良くないね」


「うるせっ」


「態度悪っ! お前の態度悪すぎて1年くらい前にサンドイッチ握り潰されたの思い出したわ」


「それは先輩が人のカツ丼で温まってるくせに調子乗ってたからでしょ。それより、まず安藤さんに聞いてみましょうか」


「うん。でも俺は嫌だからな? 同僚にチン毛の読み方聞くなんて」


「僕が聞きますよ。ズルされても困りますからね」


「酷い言い様だ」


「安藤さん、かくかくしかじかボーボーで⋯⋯」


「チンモウだね」


「マ?」


「マ」


「そうですか⋯⋯」


「どうだった?」


「ちょっと部長に聞いてみますね」


 部長のデスクへ歩く。


「どうした佐々木」


「ボーボーで⋯⋯」


「チンモウ」


「!?」


「どうだった?」


「経理の加藤さんに聞いてみます!」


「え? チンモウだけど?」


「吉田さんに聞いてみます!」


「チンモウ以外なくない?」


「森さんに!」


「チンモウ」


「岡田さんに!」


「チンモウ」


「どうなってんだああああああ!!! 高木さんはなんて読んでるんですかあああ!!!」


「チンモウ」


「終わった⋯⋯」


「と言えと言われてるけど、チンゲだよ」


「どういうことですか?」


「鳥山くんがLINEグループに通達を出してたんだ。佐々木くんが聞いてきたらチンモウって答えて欲しいって。答えてくれたらエンゼルクリーム奢るって」


「それでも高木さんは揺るがなかったと」


「エンゼルクリーム1個でうそつきにはなりたくないからね。⋯⋯エンゼルクリーム1個でうそつきになりたくないからね!!!!!!!!!!!」


「みんなに聞こえるように言い直した⋯⋯」


「鳥山くんを殺そう」


「え?」


「人を買収して自分のために嘘をつかせようとするなんて許せないだろ」


「だからって殺すのはさすがに⋯⋯」


「殺そう。必ず殺そう。略して必殺」


「ということは、一撃で倒せない必殺技は必殺技とは呼べないということですね」


「そう」


「うーん」


「どうした?」


「僕もエンゼルクリーム食べたいな⋯⋯」


「え?」


「チンモウでもいいかな⋯⋯」


「何言ってんの!? 佐々木くんがそうなったらダメだろ!」


「でも所詮チン毛の読み方の話ですし」


「所詮!? キミ、こだわりはないのか!」


「ないと言ったら嘘になりますが、エンゼルクリームのほうが上です」


「ぼくはフレンチクルーラーのほうが上だ」


「そうなんですね」


「そうだ」


「さようなら」


「ああ」


 終業後、僕たちは高木さん以外全員でミスドへ行った。仲間外れみたいで忍びないけど、みんなに合わせられないっていうのはよくないもんね。こだわりを捨てるのも大事だよね。


 と思ったけど、高木さんLINEグループの話してたよね。もしかして僕以外全員のグループがあったりするのかな。


 やだなぁ。

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― 新着の感想 ―
 根回しこそが真実を決める。  しかし実態はどうでもよいことの場合が多くどっちもどっち。  ブラックユーモアだ……。
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