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四歌の巫女  作者: Ridge


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3話 地の巫女、千果紅

 神社横の空橋家、そのリビングには大きな食卓テーブルがあり、その椅子の1つに少女が座っていた。

 少女は自作のプリンを食べながら考え事をして過ごしていた。


 あたしの名前は空橋そらはし千果紅ちかく、高校一年生。邪馬依やばい神社で巫女をやってる。四姉妹の中では一番元気だと思う。でもリーダーをやるにはちょっとアホで、歌雁を差し置いてやるほどじゃない。そもそもあたしはリーダーをやって神社の跡継ぎになる気もない。


 今の神主は私たちのお爺ちゃんがやっている。お爺ちゃんと言っても血の繋がりは無いんだけどね。お爺ちゃんとお婆ちゃんの間には息子がいて、その息子夫婦には子供もいた。その息子さんが次の神主をやる予定だった。だけど、事故で息子夫婦と孫が皆死んでしまい、神主を継ぐ人がいなくなった。


 その事故から約一か月後、お爺ちゃんたちは夢に邪馬依神が出た。そして朝の準備をしようとお堂に行くと赤子がいるのを見つけた。それが毎日、4日間続いた。それがあたしたち四姉妹。皆は神が遣わしたと言うけど、多分捨て子だと思う。百歩譲って最初の1人は本当に神が遣わしたのかもしれないけど、他は便乗した捨て子だと思う。


 あたしたちはお爺ちゃんとお婆ちゃん、それから地域の人たちに育てられた。誕生日が分からないから、誰が姉で誰が妹かは分からなかった。どの順番で見つけたかも教えてくれなかった。邪馬依神が夢の中でそれを禁止したからと言っていた。あの荒神様が言うなら仕方ないとあたしたちはそれ以上聞かなかった。


 神主の後継者はこのままいけばリーダーの歌雁かその婿。考えたくないけど歌雁に万が一があったとしても、次は実奈萌にその役が回ってくると思う。あたしじゃない。

 神社に入り婿なんてハードル高いから恋愛が難しくなりそう。あたしは巫女を続けるにしても、リーダーじゃないから他所に嫁いでも大丈夫。少しでも結ばれる成功率が高いに越したことないね。


「ただいまー」


 実奈萌が扉を開けてリビングにやってきた。学校の帰りで制服は着たままで何か飲みに来たのだった。


「おかえりー」

「さっき栗山さんに会ってみかんを頂けることになったわ。お供えにって。着替えたら栗山さん家に行ってくるわ」

「栗山先輩の家?はいはい!あたしが行く!」


 千果紅は手を上げてぶんぶん振ってアピールした。


 憧れの栗山先輩の家に合法的に行けるチャンス!桃先輩みたいに隣に住んでいるわけじゃないからこういう機会じゃないと行けない!


「本当?お願いしていいかしら?」

「もちろん!」

「それじゃあお願いね」

「はーい!」


 千果紅はプリンの入っていた空のガラス瓶とスプーンを台所の流しに置いて水を張り、リビングを出た。すぐ洗面台に行って歯を磨いた。


 ただ取りに行くだけだけど、何かの拍子にキスすることになったりして…。綺麗にしないとね。


-------

「千果紅ちゃん、目を閉じて」

「栗山先輩…」

 栗山は千果紅の顎に指を当て、顔を近づけた。千果紅は頬を紅潮させ、唇を突き出して目を閉じた。

-------


 あはぁ。いけない、夢ってた。ちゃんとしなきゃ。


 千果紅は口をゆすいで鏡を見て髪形を整え、自室に戻ってバッグを持ち、玄関の前にかかっている自分のコートを着て靴を履いて家を出た。


 外に出ると境内でお婆ちゃんのかかりつけ医を見つけた。


「あ、先生。こんばんは。いつもお世話になってます」


 千果紅は医者に深々と頭を下げた。


「千果紅ちゃん、こんばんみゃー。皆、礼儀正しいいい子たちだみゃあ」

「えへへ」

「どこか行くのかみゃ?」

「はい。お供えものを貰いにちょっと行ってきます」

「ふうん…」


 医者は彼女の浮かれた様子からそれだけではないことを感じ取ったが、特に言及せずに微笑ましいものを見るように優しく笑った。


「それじゃ、頑張ってみゃあ」

「はい!」


 千果紅は軽い足取りで栗山邸へと向かっていった。



 坂を下り、住宅街へ入って歩き、栗山家の前に着いた。一軒家で、今は屋根付きの駐車スペースには車が出ており、その向こう側の庭に果樹が何本もあった。


 千果紅は家の前で拳を握って胸に手を当て、大きく息を吐き、強く吸って気合を入れた。


「よし!」

「あれ?千果紅ちゃん?」

「ひゃい!」


 下校中の制服姿の少年が横から話しかけた。


「どうしたの?僕ん家に何か用?」

「く、栗山先輩!こんばんは!お供えのみかんを頂けると聞いてやってきたでありざんす!」


 千果紅は緊張して変な喋りになり、慌てて顔を真っ赤にした。


「みかん?ああ、そんな時期だものね。母さんが言ったのかな?」

「多分、そうでしゅ!実奈萌がそう聞きました!」

「そうか…」


 栗山は浮かない顔で門の鍵を開けて千果紅を敷地内に招き入れた。


「どうしたんですか?」

「それが今年は不作であげる余裕は…。いや、こういう時こそ神頼みで貢ぐべきか」


 栗山は皮肉めいた言い方にハッと気づき、口を手で覆った。


「いや、いけないね。巫女さんの前でそんな不信心なことを…」

「いえ、信じるも信じないも自由ですから。それよりも先輩、なんだか元気ないですね」

「はは、ちょっと疲れ気味かもね。部活も引退して、勉強ばかりで単調で飽きて来たんだ。勉強の環境は整っているのに贅沢な悩みだね」

「そうだったんですか…」


 先輩は来年受験生だものね。じゃあ気分転換にデートに誘ったら喜んでくれるかな?遊んでいる余裕なんかないって言われるかな?


「千果紅ちゃんはいつも元気だね」

「はい、あたしはそれが取り柄ですから!いつもワクワクキラキラ、それからドキドキ。そうだ、ドキドキですよ。あたしの元気の源は恋愛のドキドキです!」

「恋愛か…」


 栗山は面倒そうに呟いた。


「姉妹で恋愛に興味あるのはなぜかあたしだけなんですよ。聞いた話では、昔は恋愛至上主義だったけど、今は数ある要素の一つに落ち着いたと。支配的な存在でなくなったとしても、いいものですよ」

「世界一じゃなくなっても依然として上位先進国の一つみたいなものか」

「そうです!」


 千果紅はよく分かってないが合っている気がしたので自信満々に同意した。


「ドキドキか…恋人が要らないという訳ではないけど、僕は一緒にいてドキドキするよりも、落ち着いたり、安心したりといった安らぎがいいかな。ごめんね」


 姉妹たちも似たようなことを言う…ドキドキは疲れるからいいって。でもへこたれない!これは退屈している先輩をドギマギさせるチャンス!


「ただいま。母さん、いる?」


 栗山は玄関を開け、千果紅を招き入れた。


「おかえり。あら、千果紅ちゃんこんばんは。千果紅ちゃんが取りに来てくれたのね?」


 栗山母が廊下横の部屋から出て来て挨拶をした。


「は、はい!ありがとうございます。いただきます」

「柿彦、早速取って来て。ハサミと箱持ってくるから」

「え?もう用意してるんじゃないの?」


 栗山は靴を脱ごうとしたのをやめ、母に尋ねた。


「ええ、柿彦に頼もうと思ってて。千果紅ちゃん、ちょっと待っていてくれる?お茶いれるわ」

「いえ、そんな私だけ悪いですよ!私も先輩と取りに行きます!」

「そう?じゃあ…」


 栗山母は道具を取りに部屋に戻った。


「あれ?どこに置いたかしら…?」

「ああ、もう、僕がやるよ」


 栗山は靴を脱いで家に上がった。


「千果紅ちゃん、先に庭に行ってて。僕もすぐ行くから」

「分かりました!」


 千果紅は玄関を出て庭に回り、みかんの木々の前に来た。どの木にも実が少ししかついていなかった。木の様子も元気が無さそうにも見えた。

 少ない…本当に貰っちゃってもいいのかな?


「お待たせ」


 栗山は箱とハサミ、軍手を持ってやってきた。


「いいんですか?先輩たちの分が…」

「いいよ、無くたって死ぬわけじゃないし。僕の家がそれを商売にしてる農家だったら困るけど、そんなことない会社員の家だから」


 千果紅は開いた手を突き出して栗山を遮った。


「どうしたの?」

「…このままじゃ受け取れません。私に任せてください」


 千果紅は天を見上げて腕を上げて口ずさみ始めた。腕を振り下ろしてピースサインをし、ウインクすると、衣装が一瞬で変わった。


 彼女の歌う甘く幸福感のあるラブソングに呼応するように周囲の草木は瑞々しく色めき始めた。彼女は満面の笑みで腕を振ったり跳ねたりして溢れる幸福を辺りにまき散らした。


 クライマックス、千果紅は飛び上がって両腕を広げると、その身が光り輝く羽衣に包まれた。腰の後ろでリボン結びされた帯が伸び、2つの尻尾のようにひらひらと揺らめきながら地上に降り立った。

 両腕を広げてから抱きつくようにそっと腕を曲げ、目を閉じると、彼女を中心にキラキラと輝く波動が生じた。その波動を受けて周囲の木々は刺激され、次々と鮮やかな果実が実った。


 栗山は強烈な刺激を受け、彩度の失われた世界に彩りが戻っていくのを感じた。


「ハァ…ハァ…へへ」

 千果紅は力を抜いて肩を揺らして息をすると、羽衣が消えていき、元の衣装に戻った。後には元気になった木々にたわわに実る果実が残った。


「千果紅ちゃん、すごく良かったよ。ありがとう」

「えへへ、ありがとうございます」


 返歌は?しないの?さっきの恋歌だよ?


「沢山実がついたね。いっぱい持って行って」

「はい、いただきます」


 栗山はミカンのヘタをハサミで切り、千果紅が持つ箱に入れて行った。


「多すぎても困るしこんなものかな」

「こんなに沢山!ありがとうございます!」

「千果紅ちゃんのおかげだよ」


 栗山は元気を取り戻して明るく微笑み、千果紅は頬を紅潮させて下に目を逸らすも上目遣いで顔を覗き見た。


「ただいま、柿彦。何してるの?」


 向こう側から女の声がして栗山は振り返った。


「桃、おかえり」

「桃先輩!?あれ?隣の家じゃ…?ただいまって…?」


 制服姿の少女は栗山家の鍵を手に家の前に立っていた。


「千果紅ちゃん、こんばんは」


 桃は鍵をポケットにしまい、千果紅たちの前にやって来た。


「昨日から両親が出張で、昨日今日と夕飯をご一緒させてもらってるの」

「そ、そうなんですか…」


 ま、まあ…家が隣だし、そういうこともあるかなって。


「昨日は全部私に任せてなんて言ってたのに焦がしちゃって。今日はリベンジ戦だね」

「もう、後輩の前で恥ずかしいこと言わないでよ。昨日だけよ。いつもは美味しく作ってるでしょ?」

「あはは、そうだね。ごめんごめん」


 桃は拳を握った両手で栗山の広げた手をぽこぽこと叩いた。


「アッ……」


 桃も栗山も本気で嫌がっているわけではなく、気を許した仲同士の軽口だった。


「あ、あの、あたし、帰ります。みかんありがとうございました」

「家まで送るよ」

「いえ、お構いなく!では!」


 千果紅は逃げるように走り去っていった。

 そんなぁ~。あんなの勝てないよ~。


 こうして千果紅の力によって豊穣をもたらし、笑顔も取り戻した。

 これが四歌の巫女が一人、地の巫女、千果紅の力。

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