11話 最終
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その昔、この地は度々土砂崩れや凶作、疫病に見舞われていた。村には問題が多く、進んで村長をやろうとするものはおらず、仕方無しに村長の家系が代々継いでいた。
ある時、美しい女が村に1人でやってきた。彼女の妖気を纏った美しさは人間離れしており、細身の見た目に反してたった1人で山賊の出る山を越えて来たという話と相まって、人々はただならぬ者の雰囲気を感じ取った。
彼女は村長たちの前で歌い舞った。すると強い風が吹き、獣の断末魔のような音が辺りに響き渡った。風と音が収まると清らかな空気が周囲を満たした。
彼女は自らを神だと言い、丘の上に神社を建てるように指示して姿を消した。
彼女が再び姿を現したのは神社が出来てから。彼女は女の歌を好み、歌う女を連れてくることとそれを聞くための舞台を作るように指示して再び姿を消した。丘に苗木を植えさせると、翌朝には森になって神社を囲んでいた。その森の一部を木材にして舞台を作らせた。
舞台が出来た後は村人や旅芸人がそこで歌うようになった。そして彼女が神社に住み着いてからというもの、土砂崩れは無くなり、凶作や疫病は滅多に起きなくなった。
村長の子供の一人が神主を務め、ある時、夢の中でお告げを聞いた。
いくつかあるが、そのうちの一つが、歌う者が自分よりも目立つことは許さないという規則。著名な歌手に歌わせてはならず、大々的に人を集めてはならないという。ただし神楽の披露は人を集めてよい。人々に神への畏敬の念を知らしめる役割を担うものであるから。
しかし、この規則は何代も後で破られて悲劇を起こす。上手い人を求めて有名な歌手を呼んで行ったところ、人々も集まり、大盛り上がりしたのだが、突如地割れが起きて舞台ごと地面に飲み込まれて死傷者が出た。
その神の本名は誰も知らない。呼び名が無いと不便なのでいつしか邪馬依様と呼ばれるようになった。
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平日の夕方、歌雁が神社の舞台で歌い踊っていた。周囲には数人の人がいてそれを聴いていた。
歌雁は歌い終えて衣装は巫女服に戻った。
「空橋さーん。こっち向いてー!」
歌雁のクラスメイトの女子生徒たちが両手を振って居場所をアピールした。
「ボク?」
ここには空橋という苗字の者はお爺ちゃん、お婆ちゃん、四姉妹の6人いる。
「もちろん」
歌雁が舞台を降りていくと女子生徒たちが駆け寄った。
「本当に巫女さんだ。かっこいい」
「ここで歌ってるって話は本当だったんだ。次はいつやるの?今度もっと友達連れてくるからさ」
「神様に見せるもので人に見せるものじゃないよ。神様が見たければ見てもいいよと特別に許してくれているだけ。予定は決まってないし、人を集めちゃいけない。神楽以外はね」
「固いこと言わないで。他の人には秘密にするから」
「私すっかり空橋さんのファンになっちゃった。また見たいよ」
「お賽銭沢山入れるから」
「駄目ったら駄目」
歌雁は強く拒否した。
「じゃあ別の場所でなら歌ってくれる?」
「言っておくけど目立つようなのは出来ないよ。カラオケや事前に告知なく歌うのならいい」
「ええー…。じゃあそれで我慢する…」
「一応確認するけど、撮影したり配信したりしてないよね?」
歌雁は禁止の立て看板を指さした。
「えっと…、ちゃんと守ってるよ」
「そうだよ。どこの馬の骨とも知れない人に空橋さんのことを知られたくない」
「そ、そう…。それならいいけど…」
その後、歌雁は仕事に戻り、クラスメイトたちは神社を出て坂を下りて行った。
「実はこっそり撮っちゃった。かっこいいんだもん」
「あんた、あれを撮ったん?」
「不味いよそれ…」
「堅いこと言わないでよ。送ってあげるから」
「駄目よ。祟られる!」
「ううー…」
彼女は不本意ながら迷う指で操作して写真を消し、彼女たちはそれぞれ家に帰っていった。
歌雁は無人の本殿に入り、修理中の天井を見て確認した。応急処置が施され、工事の準備が施されていた。
『おぬし、随分と目立っているようじゃの』
歌雁が声の方を向くと、白いワンピースを着た若い女が段差に座っていた。洋服を着ているが直感でここの祭神だと歌雁は感じ取った。
「いえ、そのようなことは…」
『おぬしに限らず四歌の巫女たちが随分目立っているようじゃ。あちこちで人助けもして。わらわに取って代わるつもりかえ?』
「そんなつもりは…。ボクはただ邪馬依様のために…」
『それでわらわより目立っては背信もいいところじゃ。おぬしらに力を与えたのは失敗だったかのう』
「どうかボクの話を聞いてください」
邪馬依神は不服そうに頬杖をつき、目を伏せて小さく頷いた。
「ボクたち人間には寿命があります。歳を取れば衰えます。今みたいに歌い踊れるのもおそらく後十数年。その頃には次の代が必要です。次代が人が集まる神社にしなければならないのです。ある程度目立つのは止むをえないことなのです」
邪馬依神はゆっくり目を開けて頬杖をやめ、歌雁を見た。
『外から取る必要はない。おぬしらの子が引き継げばよい』
「しかし存続が見込めない神社となってしまえば、沈む泥舟に婿は来ません。信心が集まらないのは邪馬依様としても困ることでしょう」
『だからといって神社を盛り上げようとおぬしらが目立ち、わらわへの信心に繋がらないのであれば神社が潰れるのと変わらぬ』
「全員は邪馬依様の偉大さが分からず10人に1人が理解者だとしても10人より20人や30人の方が信心が多く集まり良いではありませんか?」
『おぬしは強情じゃの。10人対1人よりも、30人対3人の方が不利なものよ』
歌雁は上手く言い返せず悩んでから口を開けた。
「もし1000人対100人なら、100人は無視できない数になるかと…」
『そう集められるかの?わらわはそうは思わん』
「では邪馬依様の存在をよりアピールします。ボクたちが目についたとしても、仕える神は誰か、どのような神か、気になるように…」
『もうよい。もう語ることはない。この警告に従わぬのならたとえ我が子といえど容赦はせぬ。リーダーのおぬしに伝えたからの。おぬしから他の3人にもよく言っておくように』
邪馬依神は姿を消し、残った歌雁は緊張の糸が切れてぺたんと座り込んだ。
ボクは邪馬依様のためと言ったけど、本当にそうだろうか?いや、本当にそれだけだろうか?ボクはこの家や神社が好きだ。家族が好きで失いたくないし、大変な思いをさせたくもない。神社を栄えさせたいのはボク自身のためなんだ。邪馬依様のためでもあるからと直視せずにいた。警告を無視して死んでは元も子もない。
それでもやっぱり神様の望みもボクの我儘も両方を取りたい。
その夜、歌雁は姉妹を集め、邪馬依神との話を伝えた。
「…という訳で説得ができなかった」
「命を取られることなく話ができるくらいには冷静だったみたいだね」
「嫉妬に狂って歌雁が殺されなくて良かったよぉ」
千果紅は歌雁に抱き着き、歌雁は慣れた様子で頭を撫でた。
「聞いていた話とは少し違うわね。千果紅の言う通り嫉妬して残酷な目に遭わせるのかと思いきや、意外に冷静で警告をしてくれるなんて…」
実奈萌は顎に曲げた指を当てて考え始めた。
「ボクもそこが気になった。ボクのことを我が子と言っていたから特別甘かったのかも」
「それは邪馬依様の子供ということ?」
「分からない。比喩かもしれない。この神社や街の人たちは皆我が子という感じの」
「そっか。まあどちらでも次は容赦しないのだから同じことか。とにかく邪馬依様に分かってもらわないとね」
「存在をアピールするから大丈夫です!と」
「うん。それにまだ他にも伝えたいことがある」
神楽で機嫌を取るのがいいのか。それとも…。
「あたしたちが得意な方法で伝えよう!」
「そうだよ。四歌の巫女らしく」
「私たちの思いを乗せて」
「皆…。分かった。皆一緒にやろう!」
4人はその後、文献を読み返したり、様々なことを話し合ったりして、約一週間後に神社の舞台に立った。
「邪馬依様。ボクたちの思いです。どうか聞いてください」
歌雁が宣言すると、実奈萌が先陣を切って歌い始めた。もう後ろからついて来るだけではない。
彼女たちが邪馬依神に伝えるために選んだ方法は神楽ではなかった。邪馬依神社の神楽は神聖さや畏敬の念を表現するものであり、歌雁たちが伝えたいことはそれではなかった。ゆえに神に奉げる神楽はあえて選ばず、自分たちの歌を選んだ。
4人は1つの歌詞を代わる代わる歌い上げ、歌詞を歌わない間はコーラスで支えあった。詩よりも口語的で語り掛けるような歌詞だが、コーラスのリズムに乗せて歌として成立させた。
彼女たちは歌を通じて、邪馬依神への感謝と好意を伝えた。この地域をずっと守って来たこと、そして自分たちをこの世界に生み出し、人を助けられる大きな力を与え、多くの人との出会いを可能にしてくれたことに感謝した。時々離れたくなることがあっても、それでもやっぱり心の底から嫌いにならない、ずっと変わらずに好きだと歌で示した。
前日
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「もし邪馬依様が自分より目立つのを禁止している理由が嫉妬ではないのなら、それは命に係わるからじゃないかしら」
「命に…?」
「邪馬依様は他所から来た神様。以前いた場所では目立つことを許して失敗したのだと思うわ。生きるために人間との関わりが必要だけどそれができなくなった」
「目立つことを許していたら取って代わられて忘れ去られたということ?」
「ありうるね」
「そうね。あるいは忘れられるのではなく、討伐対象になって故郷を追われた可能性もあるわ」
「確かに荒神は見方によっては邪神だもんね」
「そこまで悲観的なことがあったかは分からない。けれど、ボクたち人間が忘れられるのとは比べ物にならないほどの命の危機なのかもしれないね」
「女の子の歌が好きで聴くというのも、私たちにとっては娯楽の一つでも、邪馬依様には食事のように無くてはならないものなのかもしれないわね」
「でもそれなら嫉妬とか女の子の歌好きとか伝わっているの?」
「その方が分かりやすく話題性があって残ったんじゃない?想像でしかないけど…」
「あー…成程」
「話が通じると考えるのは驕りかもしれない。でもボクは説得できないと諦めたくない」
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クライマックス、4人は羽衣を纏い合唱した。その華やかな舞は花の香りが漂ってきそうで、辺りは幸福な雰囲気に包まれた。
歌い終えると幽世と繋がり、邪馬依神の目の前に出た。
『おぬしらの気持ちは分かった。しかし気持ちだけで実力が伴っていなくてはならぬ。本当に上手くいくのか?』
「失敗はあると思います。まだ未熟で至らない部分も多いでしょう。しかし必ず最後には成功させてみせます。どうか信じてください」
邪馬依神はフッと笑った。
『正直者じゃの。失敗しませんとは言わぬのか』
「神様に嘘は良くないと思いまして…」
『いいじゃろう。信じてみたくなった。やり方はおぬしらの好きにせよ』
「はい、頑張ります!」
4人は現世に戻り、衣装も元に戻っていた。
千果紅が嬉しさで姉妹たちに抱擁し始め、4人で抱き合った。
「やったー!上手く伝わった!大成功!」
「まだ説得に成功しただけだよ」
「言うなれば入試に合格、入学後が本番ね」
「ボクらならできるさ。これからも力を合わせて頑張ろう!だけどその前に回復を…」
4人は家に帰ると疲労から眠りに就いた。気を張っていたことと全力で歌い能力を使っていたためだ。
翌朝、寝坊した4人は慌ただしく仕度をして家を出た。お爺ちゃんとお婆ちゃんが境内の掃除をしており、「行ってきます」と言い、大急ぎで学校に向かった。
この物語は終わるが、彼女たちの人生はまだ続く。
完結です。
属性イメージからまだ色々作れそうですが、キリがいいのでこれで。
性格の違う4人ともそれなりにかわいい子たちにできたと思います。
邪馬依神の子供は一人か複数人か、そもそもいないのかなどは想像に任せます。




