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四歌の巫女  作者: Ridge


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1話 火の巫女、歌雁

全部で10話程度の予定です。

 ボクの名前は空橋そらはし歌雁かがり、高校一年生。邪馬依やばい神社で巫女をやってる。その巫女というのが少し特殊で、詩歌しいかの巫女という歌を捧げる巫女だ。この神社の神様は女の子の歌と踊りが好きな荒神で、その神様をもてなすためにこの役職がある。ちなみに、その方は嫉妬深い女神様で、歌は好きだけど自分よりも目立つと機嫌を悪くするし、かといって下手でも機嫌を悪くすると言われている。その昔、有名な歌の上手い人を連れてきて歌を捧げたところ、自分よりも目立つのに腹を立てて地割れを起こして舞台ごと沈めてしまったという。面倒なお方だね。


 おっと、悪口を言っているとボクも酷い目にあわされちゃうかも。話を変えて…ボクたちは四姉妹で全員が詩歌の巫女だから、四歌しいかの巫女とも言われる。

 四姉妹は誰が姉で誰が妹かは分からなくて皆が互いを名前で呼ぶ。姉は存在しないけど、リーダーは存在する。それがボク。僕が先頭に立って皆を導いていくよ。

 ボクの目的にして四歌の巫女の目的はこの神社の存続。そのために強固な組織作りと人助けで名声を集めていくよ。


 そして今回、うちの神社がお祓いの仕事を受け、ボクは山の近くの工事現場にやって来た。



 山の背の空き地に新しく施設を建てる予定で、今はその前に地質の調査を行われている。企業秘密なので詳しくは教えてもらってないが、倉庫や実験場とする予定らしい。


 依頼主の白部さんの話では、地質調査で少し問題が発生しているとのこと。どうやら有毒ガスが少量検出されているらしい。今のところ、空気を入れ替えれば問題ない程度の濃度のようだが、もしかするとどこか発生源に穴が空いて繋がると一気に濃度が高まる可能性があるから気を付けるようにと言われ、避難経路の書かれた紙を渡された。


「その毒ガスの対処法はあるんですか?治療法じゃなくて、毒ガスそのものを消してしまうような方法は…」

「今回検出されたものは燃やしてしまえば無害な水と二酸化炭素にできます。工場のフレアスタックみたいにね。まあそんな設備も燃料もここにはないから逃げるしかありません」

「フレアスタック…?」


 歌雁は小首を傾げた。


「工場の煙突を見てみると、先端から火が出ている煙突もあります。それにはフレアスタックが付いているのです。燃焼…つまり酸化させて無害な物質に変えるわけです」

「成程…そんなものがあったのですね」


 白部の仕事仲間らしき人がやってきて「白部、ちょっと」と手招きした。白部は「少しお待ちを」と言い、歌雁はその場で立ち止まって待ち、白部と仕事仲間は向こうを向いて何か話しだした。

 白部が頷いて歌雁の方を向いて戻って来た。


「すみません、ちょっとトラブルでまだ入れないようです。そこのプレハブでお待ちいただけますか?私もこれから行かなければならなくて」

「分かりました。ところで」


 歌雁は車のシートに座って周囲の岩場をぼんやり眺めている少年に目をやった。小学校高学年くらいの男の子だ。


「あの子供はどうしてここに?大丈夫なんですか?」

「あれは息子の周斗です。最近元気が無くて気分転換になればと思い連れて来た次第です。お祓いなんて滅多に見られませんから」

「そうでしたか」


 現場をうろつかれると危ないから車の中にいるようだ。夏はともかく今は冬だから問題なさそう。


「そうだ、よろしければ息子の話し相手になっていただけませんか?」

「と言ってもボク、小学生と何を話したら分からなくて…」

「そう難しく考えないで。大丈夫、綺麗なお姉さんと話せたらそれだけでも嬉しいですよ。この状況では一人にしておくのも心配で…」

「そうですか、じゃあ…」


 言い回しのせいか見た目しか価値ないみたいに聞こえるけど、励ましている気持ちは伝わったからいいか。お世辞か本心か分からないけど、綺麗と言われて悪い気はしない。ボクってば単純。


 歌雁は車の鍵を受け取って車の側に行き、車の中の少年に話しかけた。窓が少し開いていて声は聞こえた。


「こんにちは、周斗君。ボクは空橋歌雁、巫女をやってる。君のお父さんに呼ばれて来たんだ。よろしくね」

「えっ、あ…はい。白部周斗です。よろしくお願いします」


 少年は警戒して車から出ようとせず、シートに座ったままお辞儀した。歌雁は鍵をポケットに入れたまま、車にもたれかかった。開錠すれば車内に入れるが、それでは余計に警戒させてしまうだろうと思ってやめ、外にいるまま向こうを向いて話をすることにした。


「ちょっとトラブルみたいで待ち時間が出来ちゃった。だからボクとお話しよ。あ、敬語はいいよ。ボク、子供とは普通に喋りたいな」

「は、はい。そうしま…そうする」

「うん」


 歌雁は優しい声で相槌を打った。


「周斗君、何か運動やってるの?見た感じそんな気がする」

「サッカー…でももうやめようと思う」

「そうなんだ…。どうして?」


 周斗は無言で俯き、歌雁は気になって後ろを向いて少年を見た後、また前を向いて車にもたれかかった。


「大丈夫、ボクに言ってごらんよ。なんていったってボクは神に遣える巫女様だよ」

「個性を大切にしないといけないから…」

「個性…何の関係が?」

「僕は勝負で勝ちたいと思う、負けたくないと思う。そうして優劣を付けてしまう。でも駄目なんだ、優劣を付けちゃ。個性を大事にして、人に優劣を付けちゃ駄目だって皆が言う。でも試合をすれば勝ちたくなってしまう。勝負から離れないと悪い心が湧いてしまう…」


 周斗は横に体を倒して窓の下に頭を置いてもたれかかった。


「うーん、個性を尊重するのと優劣がつくことは分けて考えていいんじゃないかな?勝ちたいと思うことは悪いことじゃないよ。力の強い人、頭のいい人、美しい人、話が上手な人…その他にも色々あるけど優れているものを持つことが個性でもあるんじゃないの?」

「いいのかな…?」

「それに、勝負から離れるなんて無理だと思うよ。例え協力したとしても、それはグループ内での話。外ではグループごとの競争があるのだから。必ず勝者と敗者が出て優劣がつくよ」


 歌雁は体を起こして周斗の方を向いて拳を握って微笑みかけた。


「大丈夫、ボクも負けず嫌いだし、一番を取りたいと思うことも多いよ。順風満帆とはいかないまでも、多くのことで姉妹や友達と仲良くやっていけているよ。だから周斗君も大丈夫」

「じゅんぷうまんぱん?」

「物事が全て思い通りに行くってこと」

「へー…。お姉ちゃん、なんで難しい言葉を遣うの?」

「そんなつもりはなかったな。うーん、どうしてと言われると、楽だから?」

「楽?」


 周斗は予想外の言葉に驚いて歌雁の顔を見た。


「そうだね…サッカーで言うなら、足でボールを何度も蹴ってボールを運ぶ動作と言うのは大変だけど、ドリブルと一言で言えば楽だよね?それと同じだよ」

「そういうことか…」

「そう、短い言葉に多くの意味を込めるのは普通のこと。それでも言葉だけでは伝わりきらない」

「……」


 周斗君は迷っているみたいだ。言葉で伝えるのって難しいな。


「毒ガスが出たー!」

 突然、遠くから叫び声が聞こえた。

 

 歌雁が工事現場の方を見ると何人かが逃げ出して駐車場に向かっていた。そのうちの一人に白部がおり、血相を変えて走ってきたのが見えた。


 白部は歌雁の前で止まり、喋ろうとしたが息を切らして下を向き、まず呼吸を整え始めた。


「どうしました?毒ガスが出たと聞こえましたが本当ですか?」

「そうだ、それも大量に。早く離れなければ…。空橋さんは私の車に。このままでは有毒ガスが街に広がりかねない」

「毒ガスを何とかしないと街の人たちも危ないのでは?」

「そうだ。しかし我々にできることはない。逃げることしかできない。キーを出してくれ」


 歌雁はポケットに手を入れて車の鍵を掴んだ。


「確か燃焼させれば無害化するんですよね?」

「そうだが、簡単なことじゃない。自然発火しないから大量の燃料が必要だがそんなものはない。不可能だ」

「……」


 歌雁は1秒ほど目を閉じ、瞬時に解決法を考えた末、目を開けた。


「…ボクがやる。持っててください。キーは上着のポケットの中です」


 歌雁は上着と鞄を白部に預け、穴に向かって走って行った。


「おい、何してる!戻ってこい!」

「ボクは大丈夫!」

「くそっ」


 白部は追うか一瞬迷ったが、無理だと思い車のキーを探し出した。


「お父さん!お姉ちゃんを置いて行かないで!」

「そうしたかったが…」


 歌雁は穴の前に立ち、歌を口ずさみ始めた。

 すると彼女の周囲にチリチリと火の粉が舞い始め、腕を振り上げると衣装が変わり、辺りにいくつもの火柱が上がった。


 彼女の燃えるような熱唱に呼応して炎は勢いを増し、手の振りに従うように炎は揺らめいた。彼女が横に伸ばした手を体を捻らせて後ろから前へ振れば、後ろの火柱は縄に引かれたように斜め前に向きを変えて前の火柱と交わり、強い光を放った。

 

 そのクライマックス、歌雁は飛び上がって両腕を広げると、その身は光り輝く羽衣に包まれた。腰の後ろでリボン結びされた帯が伸び、2つの尻尾のようにひらひらと揺らめきながら地上に降り立った。両手を左右から前に向けて手を合わせると、それに合わせて周囲の火柱が集まって一つになり、穴の上に大きな火柱ができあがった。


「まさか…」

 白部は検知器の画面を見たが、毒ガスは検出されなかった。穴から外に出たが最後、全て焼き尽くされたのだ。


 歌雁は歌い終え、息を切らして膝に手をついた。

 羽衣は徐々に薄れて消えていき、衣装も変わって元の姿に戻ったが、炎は消えることなく毒ガスを燃焼し続けた。


「やった!」


 周斗はその光景を見て最後の一押しされ、勇気を貰った。車から飛び降りて歌雁のもとへ走った。

 負けたくない、勝ちたい、一番を取りたい、そう思うことは悪いことじゃない。頂点を目指そう。それで大丈夫だと周斗には十分に伝わった。


 歌雁は周斗に気づき、顔を上げて笑い、背筋を伸ばした。


「やったー!ボクの勝利!イエーイ!」


 歌雁は周斗を抱きかかえてくるくると回った。周斗は運動後のムシムシと熱を帯びた歌雁の豊満な胸で顔が圧迫されて苦しくなり、手で叩いて離してもらった。


「あっ…ごめん、つい…。汗かいたし臭いよね」


 歌雁は顔を赤らめて目を逸らし、髪の毛先を指で弄りながら謝った。


「い…いえ…全然大丈夫です」


 周斗は未知の体験に脳が追いつかず、ぼんやりと虚空を眺めた。


「何で敬語に戻ってるのさ?」


 こうして歌雁の力によって毒ガスは無害化し、この場にいる人たちの命も、街の住民の命も守られた。

 これが四歌の巫女が一人、火の巫女、歌雁の力。

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