第9話 女神の顕現
会場はもう大騒ぎだ。スナッシュって人はそんなに嫌われていたんだろうか。
そんなに悪い人ではないように見えたんだが。
「すごい……でも、初めて戦いってものを見ましたけど、もっとこう、キンキンキーン!!って戦うものかと」
カウンターのネイルさんの言葉に、エンデルさんが口を開く。
「ハハハ。実際の盾を持たない剣士同士の一騎打ちはこういうものさ。仕方なく受ける時もあるが、激しく剣を打ち合う派手な立ち回りは、客を楽しませるための演劇の演出だ」
「そ、そうなんですね。リントさんは殴りつけてましたけど」
「ハ、ハハ。そうだな。彼は剣士ではなく己の身体を武器に戦うパグナリスト(拳闘家)の方が適正があるのかもしれない」
俺に肩を組んでいるナイルが興奮した顔で言った。
「お前すごいな! 正直戦いはあんま見えなかったけど……お前があいつをぶん殴った所はしっかりと見えたぜ!」
「ははは……どうも」
「それより、胸の部分、服が切れて少し血が付いてるじゃねーか、大丈夫か?」
う、ヤバい……傷がないとこれは不自然すぎる。俺は咄嗟に誤魔化した。
「あ、ああこれはですね。自分で治せるので。ハ、ハハ」
「え……おまえ、マジかよ」
あ……やっぱまずかったか。そういえば回復魔法って凄く珍しいんだった。
だがこれの他に誤魔化しようがない。
「傷を治せるってピュアヒール使えるのか!? お前登録したてのソロなんだよな!俺のチーム入ってくれよ!!!!」
「え!?」
「是非! そうしてもらえる非常に助かるわ」
目元が涼し気な、レイピアを携えた女性が同調してきた。チームのメンバーだろうか。
「ウン。ウン。 ――ナイルの取り分から、報酬もはずむよ」
背の小さい女の子が続いて口を開いた。ナイルが「おい!」と突っ込んでいる。
15歳以上が登録できるみたいだから15歳以上なんだろうけど、見た目は幼い。
巨躯の男性は「うむっ!」と一言だけ発した。
周りの冒険者たちも、うちに来てくれ!と俺を勧誘してくる。一気に人気者になってしまった。
するとメイさんが「ハイハイ一旦落ち着いて!」と手を叩きながら一言で場内を鎮めた。
「彼は忙しいのよ、その話は後でゆっくり話しなさい」
またざわざわとし始めているが、メイさんの声にはみんな従順だ。
「お疲れ様リント。さっきのはさすがに一瞬肝を冷やしたわよ。戦いを扇動しちゃった立場としてね。スナッシュもいつの間にか腕を上げたようね」
「ハハハ……面目ないです」
「良いのを貰ってたみたいだけど、傷が見当たらないのはどういうマジック?」
「そ、その話は後でお話しします」
この人は誤魔化せそうにない。でも、不死であることはさすがに言えないけど、この人にならある程度なら話しても大丈夫なんじゃないかと俺は思った。
メイは「そうわかったわ」と言い、明日屋敷に来るようにと言い残して二階へと上がって行った。
エンデルさんたちが声をかけてきた。
「お疲れ様ですリントさん、タダものではないとは薄々思ってましたが、まさかここまでとは」
「いや~、偶然ですよ。ははは」
「謙遜なさらずに。それに少しスッキリしました。ありがとうございます。」
あんな風に言われてちゃな……冷静を装ってたけどエンデルさんも悔しかったのだろう。
「オルボイさん、剣をありがとうございました。その、剣が欠けちゃったみたいで……」
「いえいえ、高くはない剣ですし予備はまだありますから、気にしないでください。それに良いものを見せてもらいました」
オーリスが笑いながら拳でコツンと胸を叩いた。
「リント君、あんた何者なんだよ。Sランクをぶっ飛ばす商人なんて見たことも聞いたこともないぜ」
「ま、まあ色々とありまして」
「リントさん、そういうえば登録がまだでしたよね、手早く済ませてしまいましょう」
俺とエンデルさんはカウンターへと向かった。
「リ、リントさん!凄かったですね!速くて良くわからなかったけど私感動しちゃいました!」
「それはよかったです」
「さっきのはEランクからの申請だったので、こちらにもう一度ご記入をお願いします」
紙を渡すと、ネイルは腕輪を持ってきた。そこにはBランクという刻印が刻まれてある。
「これでリントさんはBランクと言うことになります!くれぐれもお気をつけて!」
場内がまたざわついてきた。ギルドの奥から、大剣を背負った男に肩を貸され支えられながら、スナッシュがこちらへと歩いてきた。
両脇にはウィザードらしき女性と、フードをかぶった軽装の男が付いている。
ちっ、生きてやがったか、とナイルが不吉なことを口走っている。
スナッシュは、支えられていた手をのけると、一人で歩き俺の前に立ち止まった。
斬撃で衣服がパックリと割れた俺の胸を凝視している。
「薄気味の悪い奴だ、BでもSでも好きにしろ。次は覚えておくことだ」
そう一言だけ言うと、ギルドの外へと出て行った。
大剣の男が近づいてきた。
「ごめんな…… 不思議な奴だ。BでもSでも君なら問題ない、また今度戦おうってスナッシュは言ってるんだ。あんた本当にすごかったぜ、じゃあな!」
と彼はニコッと笑いスナッシュを追っていった。
通訳だろうか?やはり悪い人ではなさそうだが、大剣の彼は大変そうだな。と俺は思った。
それに、不死の身体じゃなかったら負けていたのは俺だ。勝った気なんて全然しない。
Sランクってやっぱりすごいなと俺は思った。
これで晴れてBランクの冒険者になったわけだが、今後どうしようか。と考えていると
緊張から解放されたからなのか尿意が襲ってきた。
「あれ?玉は玉は……あった」
俺は石の玉を拾いトイレへと向かった。
俺は排泄をするために石の玉を胸に抱え込んだ。 俺の胸に付いていた血が石の玉と触れ合ったその時である。
突然石の玉が脈動を始め、光り出した。
「あわわわわわ!! な、なんだなんだっ!!!!」
石の玉はひび割れはじめ、光の柱が個室に広がる。
俺は光からの波動によって、ドアの方に吹き飛ばされた。
光の中から出てきたのは、真っ白い翼を生やし、神々しい輝きを纏ったとても美しい女性だった。
女性はゆっくりと目を開く。
「――――やっとお目にかかれましたね。凛人様」
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