第6話 冒険者ギルドへ
エディアノイの言葉の後、部屋はまた静寂に包まれた。
俺は言葉が出なかった。なんて答えたらいいのか、というのもあるが
彼の気迫に圧されていたのが大きい。
「……そうか」
と、一言呟くと、エディアノイの身体が薄い金色の被膜のようなものに包まれていく。
「パパ、ちょっと待って」
メイが声を上げた。
「そうよエディ。お待ちになって」
ドアの方から気品のある声が聞こえた。
そこに立っていたのは、優しい笑みを浮かべた金髪の淑女だった。思わず見とれるほど美しい。
「ユ、ユリア!二人の時以外はそう呼ぶなとあれほど」
あ、あれ?エディアノイからさっきまでの威厳や気迫はあまりなくなっている。
「彼は私たちに仇なす者ではありません。私が保証します」
「し、しかしだなユリア!彼はあの瘴気の森から出てきたのだ。普通ではないんだよ」
「だからと言って、問答無用で命を奪おうとするあなたは少し嫌いです」
「ユ、ユリア~」
ユリアは俺に近づいてきて「あなたの目を見せて」と言ってきた。
数秒間見つめ合う二人……俺は照れて目をそらしそうになる。本当に美しい。
「うん、とても素敵な瞳ね。彼は大丈夫です」
な、なんかさっきより怖い視線をエディアノイから感じるんだが……俺は気づかないふりをした。
「ありがとう、ママ」
エディアノイは額に手を置き「ふぅ~」とため息をついた。
「ママの目は人を見抜くのよ。今までその直感を外したことはない。魔族の変装だって誤魔化せないわ」
「そ、そうなんですか。なんにせよ命拾いしました」
「それより、その石の玉は何かしら?兵士に拘束されてまで大事そうに抱えてるけど」
「あ、これはとある方からのもらい物でして」
「不思議な文様が彫ってあるわね、ちょっと見せてもらえる?」
俺はメイに石の玉を手渡した。
石の玉を持った瞬間、メイの表情が一瞬驚いたように見えた。
「はい、ありがとう。返すわ」
「パパ、もう用は済んだわよね?」
エディアノイはまた窓の外を見ながら答えた。
「ああ、興が削がれたしもう帰ってもらっていい。その代わり」
振り向いたエディアノイは、また鋭い視線でこちらを見た。
「監視はさせてもらう。妙な行動を起こしたらその時は、わかってるね?」
ひゃ、ひゃい!と情けない返事をしてしまって少し恥ずかしかった。
「監視ならちょうどいいわ、あなた、私と冒険者ギルドに行ってみない?」
「あ、ぜひ行ってみたいです!」
またエンデルさんたちに会えるかもしれない。俺は期待を込めて二つ返事で返した。
それに、冒険者と言うものに興味がある。
部屋を出た俺たちは階段を降りる。
ギルドに行くにあたって、俺の容姿はやはり不安が残る。多分この世界に東洋人顔の者はいない。
ギルドで絡まれるのも嫌だし、向かう途中の街でまた好奇の目にさらされるのも勘弁してほしい。
俺はメイさんに相談してみた。
「メイさん、何か顔を隠す方法ってありますかね」
「顔?ああそうね。あなたの顔、目立つわよね。」
フフッとメイが笑う。
「アベリーゼ出身って言うのも嘘でしょ?そんな人種アベリーゼで見たことないもの」
やっぱりバレてたのね……バレてるのがわかると必死で嘘をついていたのがなんか恥ずかしい。
「そうね、ついてきて」
俺はメイの後についていった。屋敷の奥の方に大きな扉がある。
メイは扉を開けて中に入って行った。俺もその後を追う。
そこは倉庫、というよりもはや宝物庫だった。あらゆる高価そうな品々が並んでいる。
「これなんかどう?」
メイが指したのはシルバーに輝く鎧だった。兜から足先までの大部分が覆われているフルプレートアーマーだ。青いマントがかっこいい。
しかし、可動部分はうまく作られていて動きやすそうだ。
「かっこいいですけど、これって高いんじゃ……」
「これは5年前に私がダンジョンで拾ったものだからタダみたいなものよ。それに顔も下半分は隠れてるから、これならわかりにくいでしょ?」
「頂けるのならありがたいんですが、こんな立派なもの誰かが使ったりとかはしないんですか?」
「誰も使わないわよ、私は着られないし、試しにセドリックに装備させてみたんだけど重くて動けなくなったのよ。100キロ以上はあると思うわ。でも、あなたなら大丈夫でしょ?」
メイは俺を見てにやりと笑った。
「ひゃ、100キロ!? 無理ですよそんなの!」
「いいから着てみなさい」
そう言われたので一応着てみることにした。あれ? 100キロというなら兜とかもかなりの重量があるはず。
胴の部分もそうだ、でも持ってみるとさほど重さは感じない。俺は難なくすべての部位の装着を完了した。
「どう?」
「は、はい。別に重くは感じないです」俺はぴょんぴょんと跳ねてみた。
「これで問題なしね。 さ、行くわよ」
――――日暮れとはいえ、まだまだ人通りの多い道を歩いているが誰も俺のことを気にしなくなった。
いや……隣をこんな人が歩いてるから誰も俺のことを気にかけないだけかもしれない……
街の人々は「メイ様だ!」「メイ様よ!」と歩みを止めて手を振っている。
この街のメイさん人気は凄まじいものだ。そりゃそうだ、この地方を治める貴族の娘で世界に10人もいないオリハルコンランクの人なんだもんな。
メイがこちらを見ている。「どうかしましたか?」と俺は尋ねた。
「リント、あなたどこからその石を持って歩いてきたの?」
この人ならある程度喋っても大丈夫だ。そう思った俺は素直に答えた。
「気づいたらあの森のずっと向こうにある荒野で目が覚めて、そこから歩いてきました」
「森の向こうって、リベラ地帯じゃない。そんなところからその石を抱えて歩いてきたの?」
メイが少し驚いている。
「はい、狼に襲われたりメチャクチャ大変でした」
「そしてあの死の森を抜けてきたわけね? ふーん、なかなかやるじゃない。あなた」
またもやメイがにやりと不敵に笑う。
俺は、かねてからの疑問をメイに聞いてみた。
「あの……メイさんはなんで俺のこと受け入れて良くしてくれるんですか?色々と気になると思うんですけど。素性も明かしていないですし……」
「だって、あなたから出てるオーラはとても綺麗だし、ママも認めた人間よ?それに」
メイは空を見つめた。
「不思議なことが沢山あったほうが面白いじゃない?世界は広いんだから」
この人、凄くかっこいい人だな。俺は素直にそう思った。
「あなたなら特別枠でグッド・ルッキング・ガイのメンバーにしてあげてもいいわよ」
「あ、ありがたいお誘いですがそれは遠慮させて頂きます……」
5分ほど歩くと、メイが足を止めた。
「ここがこの街の冒険者ギルドよ」
なかなか壮観な建物だ。ちょっと古びた感じも相応の歴史を感じさせる。
俺はギルドの扉に手をかけた。
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