第48話 炭鉱の町カルザマン
「もう、行ってしまわれるんですね……」
アミールは肩を落とし、悲しそうに俯いている。
朝を迎えた俺たちは、早々に村を発とうとしていた。
メイさんたちをこれ以上待たせるわけにはいかないのだ。早くベルセフォネを見つけてユリア様を治療してもらわないといけない。
フェリドゥーンは、少しでも長くアルムレット様の側にいてあげたいと夜中のうちにポートイリスに戻った。俺は快くそれを承諾した。
正直、彼には後悔のないように元主を見送ってほしい。
俺は、悄然としているアミールに声をかけた。
「またすぐに会えるよ、用事が済んだらすぐに迎えに来るから。そうしたら、すぐにでもエブンズダールに行こう」
「ほ、本当ですか勇者様!」
「うん。――あと、勇者様じゃなくて凛人と呼んでもらえるとありがたいかな。勇者って柄じゃないし」
「……リント、様。――じゃ、じゃあ、私のこともアミールちゃんじゃなくてアミールって呼んでもらえますか?」
「えっ!? ――そ、それじゃあ、また迎えに来るからね、アミール」
「はいっ!!」
村の人たちが総出で俺たちを見送りに来てくれた。
「本当にありがとうございますじゃ、勇者殿」
「俺がたまたま近くにいたのも、偶然じゃなく何かの縁だと思うんです。また村に寄りますので、その時はあのお酒をまたごちそうしてください」
「ほほ、なかなかいける口ですのう、勇者殿は」
次は二人の若い男女が近づいてきた。男性の方は、あの時ティーレに助けを求めてきた人だ。
「勇者様、あんたのおかげで無事に安心してシーラが出産できそうです。ありがとう」
「元気な子が生まれると良いですね」
「ああ、俺とシーラの子だから、男でも女でも元気で可愛い子が生まれるさ」
「はい、そうですね。生まれたら何かお祝いでもしましょう」
そろそろ出発だ。飛び立とうとした時、アミールが走ってきた。
「リント様!!」
「どうしたの?アミール」
アミールが俺のもとに来て耳元でささやいた。
『セレイナさんとセフィリアちゃんには負けますけど、私もリント様のこと、諦めませんから』
そういうと、アミールは走り出した「じゃあ迎えに来てくださいね!リント様!!」
「ええ!? アミール、それって――」
「一度の人生で後悔したくないんです!それに、西のタイリース王国やアベリーゼ共和国では一夫多妻制が認められているんですよ!私、何番目でもいいですから!」
「!!!!!!!!――」
セレイナがふわりと浮かび上がる。
「ウフフ、じゃあ行きましょうか。凛人さん」
情報の整理が追い付かない俺を乗せ、感謝の声に見送られながらセレイナとセフィリアは東へと飛んだ。
「なんか疲れた…… さてと、ベルセフォネは東の、 ――ん?どうしたのセフィリア」
セフィリアが俺の顔を見て頬を膨らませている。
「リント様っておモテになるんですね」
「えっ!そ、そんなことないって、セフィリア」
なぜか不機嫌そうなセフィリアの顔色をうかがいつつ、俺たちは順調に飛行を続けた。
♢
「一時間くらいたったかな。こっちでいいの?セレイナ」
「はい、少し速度を落としますね。反応はこの少し先にあります」
山々を越えさらに飛行すること10分。海岸線が見え始め、その手前の山のふもとに街らしきものが見える。
小規模だが、そこそこ栄えていそうな雰囲気の街だ。その少し先となると、海って事になるけど……
「いったんあの街に寄ってみよう。何か聞けるかもしれない」
「はい」
街の前に降り立った。入り口には、一応衛兵らしき姿をした人が一人立っている。
「あの、ここはなんという街でしょうか」
「ん? ここはカルザマンだ。お前たちはどこから来た?冒険者か?」
「はい、北西のデレノバから来ました」
「そうか、長旅だったな。この町にも冒険者ギルドはあるが、まあ騒ぎだけは起こすんじゃないぞ」
なんかちょっと嫌な態度の衛兵だ。あくびばかりしてやる気も感じられない。
入ってみると、街の発展度と比べて人もまばらで、活気というものが感じられない。
昼間から、大の男が酒瓶を片手にフラフラと歩いている姿もちらほら。
衛兵の話だと、ギルドがあるみたいなので俺たちは行ってみることにした。情報と言えばやはり冒険者ギルドが一番だ。次点で酒場か。
――街の人に尋ね向かった先には、古びた建物が建っていた。
小規模に見えるのは、多分エブンズダールの冒険者ギルドと比べてしまっているせいだ。俺はそこしかまだ知らないからね。おそらく大体のギルドはこんなものなんだろう。
扉に付いているベルの音で、多くの冒険者たちが一斉に俺たちの方を向いた。街のようにここも閑散と……と思いきや、意外とギルド内には多くの冒険者がいた。
ここもあまりいい雰囲気とは言えないな。閉鎖的というかなんというか……
まあよそ者には違いないので仕方がない。
俺は目線を冒険者たちの手首へと送り、リングを確かめる。CランクとDランクの冒険者が多くて、チラホラとBランクの者たちを見かける程度だ。
まずは情報の収集だ。俺は真ん中のテーブルを囲んでいるBランクパーティに声をかけた。少しでもランクの高い冒険者の方が情報を持っていると思ったからだ。
「あの、すみません」
「あ? なんだ」
「この辺りで、変わった石というか、そういうのを見たという噂や話を聞いたことはありませんか?」
「変わった石だぁ?」
男はそういうと、パーティの面々で顔を見合わせ手を差し出してきた。
「どうだったかなぁ。まさかただで情報を貰おうなんて思ってねえよな?」
「――まずは知っているのか知らないのかだけ教えてもらえますか?」
「ああ知っているとも。変わった石のことだろ?」
俺はフウッとため息をつき、男の手に銀貨一枚を乗せた。
「おほ!羽振りがいいじゃねえか兄ちゃん。変わった石といやあ、街の北にある炭鉱の地下に何かがあるって聞いたことがあるな」
「炭鉱?」
「ああ。ここは炭鉱夫が集まる炭鉱の街でまあまあ栄えてたんだがよお、数ヵ月前から炭坑内にダークリカントが巣食っちまって仕事にならねえのよ」
「ダークリカント?」
「獣人だな。知能も割かし高くて狂暴な奴さ。本来ここいらにいる魔物じゃないんだが、どこからやってきたのか急に現れて、作業中だった炭鉱夫が四人犠牲になった」
「獣人族は比較的穏やかな種族だと聞き覚えがありますが」
セレイナが男に尋ねた。
「まあ人間とサルみてえなもんさ。獣人と獣人族は似てるが違う」
「街が閑散としてるのもその影響で?」
「まあそうだな。炭鉱が掘れなきゃ炭鉱夫は仕事が出来ねえ。やけになって酒浸りよ」
「そんな状況なら、なんで冒険者たちで討伐隊とかを結成しないんですか?」
「バカ言っちゃいけねえ、ダークリカントは推奨ランクがS+の魔物だ。ここの連中が束になっても奴らの餌にしかならねえよ。今の状況じゃ国に要請しても動いちゃくれねえだろうしな。石がどうとか言ってたが、あんたらも絶対に行くんじゃねーぞ」
「そうですか、ありがとうございました」
ギルドの掲示板にも、ダークリカントの討伐依頼が貼ってあるが、それには誰も見向きもしていない。
俺はカウンターへと向かった。
「依頼を受けたいんですが」
カウンターの受付嬢はだるそうにこちらを向いた。
「はいよ、なんの依頼を受けるんです~? 薬草の採取?ラピッドマウスの駆除?」
「ダークリカントの討伐を受けたいんですけど」
「え~とそれから……え……今なんて?」
「ですから、ダークリカントの討伐です」
「だ、ダークリカントの討伐ぅ!!??」
その声に場内の全員が驚きの声を上げた。場内はもう大騒ぎだ。
「一応Sランクなので」
俺はリングを受付嬢に見せた。
「Sって……ダークリカントはS+パーティ推奨の魔物ですよ!? そのような自殺行為は受理はできません!」
やっぱり正規の方法では無理か。勝手に行くしかないか、考えてみれば、依頼としていく必要もないしな。
帰ったらルーガスさんにS+にしてもらおうか。その方が色々と便利そうだし。
「おいあんた!間違っても勝手に行ったりするなよ?いくらSでもあんたとそのお嬢さん二人じゃ死にに行くようなもんだ」
さっきの男性が血相を変えて言ってきた。なんだ、金にがめついだけで悪い人ではないんだな。
「いいか?同じ冒険者として忠告はしたぞ?――そのお嬢さんたちが食い殺されるなんてそんなもったいない話しねえって!」
俺の心配はしてないのかよ!!!!
「ま、まあ耳には入れておきます」
俺たちはギルドを後にした。まあ行くしかないしね。
「さあ行こうか。でも、海じゃないかもしれないだけで助かったよ」
「すみません凛人さん。フェリドゥーンのように復活していれば正確な位置がわかるんですけど、封印石のままだと大まかにしか感知できなんです」
「ううん、大まかな位置がわかるだけで大助かりだよ。――セフィリアはどうする?一旦宿でも取って留守番してる?」
「セフィリアも一緒に行きます!」
「じゃあ、俺とセレイナの側を離れちゃだめだよ」
「はい!」
俺たちは炭鉱へと向かった。
♢
炭鉱は街から一キロほど離れた場所にあった。
入り口は物々しく厳重に封鎖されている。
「凛人さん、入り口には中位レベルの結界が張ってありますね」
「魔物が出て来ないように誰かが張ったのかな」
「はい、おそらくは」
俺の袖にしがみついているセフィリアの手が震えている。
「やっぱり怖い?」
「違うんです…… 魔物の気配も強く感じますが、それ以上に別の何かの気配が……」
「これは、ベルセフォネの気配です。彼女はここに眠っています」
「よし行こう」
ベルセフォネはすぐ目の前だ。
セレイナは結界に干渉をし、物の数秒で結界を解いて見せた。
「うっっ!!!!」
炭鉱の中は酷い死臭と獣の臭いで満たされていて、思わずむせそうになる。
そして、臭いに顔をゆがめながら奥へ進んだ俺たちは、広場で凄惨な光景を目の当たりにした。
狼のような、それでいて熊のような外見の獣人たちが互いに争い、共食いが発生していた。
当然のことだろう。少なくても一月以上は結界によりこの炭鉱に閉じ込められていたんだから、飢餓が進んでいても仕方がない。
人間ですら、事故による過酷な環境下で人の肉を食べ生き延びたという実話もある。
「うっ、気持ち悪い……」
セフィリアが口を押えてうずくまった。まだ子供の彼女には刺激が強すぎたかもしれない、やはり宿で待たせておくべきだったか。
鼻をひくひくとさせて、一体がこちらに気付いた。そして間髪入れずに襲い掛かってきた。
手には炭鉱夫のから奪ったものか、つるはしを持っている。知能はやはり他の魔物より高いようだ。
「セレイナ!結界を!」
体調を崩したセフィリアをセレイナに守ってもらい、俺は前へと飛び出す。
つるはしと俺の剣が、鼓膜を刺す金属音とともに激しくぶつかる。
そして、つるはしを受け流し、オーラを纏わせた俺の剣がダークリカントの胴を両断した。
激しい断末魔が炭鉱の広場に響き渡り、その場にいた全員がこちらに異常なまでの殺気を向けた。
数にして五十体はいるであろうダークリカントが束となって襲い掛かる。逃げ場すらない状況で、一旦セレイナの結界内へ避難するとセレイナが声を上げた。
「あの魔物たちは闇属性なので私が弱体化をします。そのあとは凛人さんがお願いします。ここでは大きな攻撃魔法は使えませんので」
「頼む、セレイナ!」
セレイナの純白の両翼が開く。
「ルミナスシールド!」
光り輝く盾を出現させたセレイナは、魔物たちを突破し、一気に中央を陣取った。
「ホーリーサンクチュアリ」
まばゆい光が広場全体に展開し、その場を浄化領域へと変えた。魔族との戦いでも使っていた、味方を癒し敵を弱体化させる結界だ。闇属性なら効果抜群だろう。
ダークリカントたちは膝をつき、頭を抱えもだえ苦しんでいる。
「凛人さん!今のうちに!」
俺は全力で剣にオーラを纏わせ、次々と斬り伏せて行った。
――――そして、広場に静寂が戻った。
「ふう。――ここはセフィリアに毒だ。早く地下へと行こう」
広場から通路へ進むと、右側に下へと降りる階段を発見した。おそらくここがそうだ、下からはベルセフォネのものと思われるプレッシャーが漏れ出ている。
俺たちは階下へと足を進めた。
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♦筆者イットより♦
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