第47話 新たな予兆と村の夜
USAコール。
これはアメリカ人が愛国心を込めて合唱したり、スポーツなどに関しては自国選手を鼓舞するために行ったりするチャント。――だったと思う。
なぜこの異世界でUSAコールが?
いや、もしかしたら偶然似たようなものがあるだけかもしれない。
「ね、ねえ君たち」
「ん?なぁに勇者様」
「そのUSAってのは何なのかな」
「うんと、これはね、西の勇者様がドラゴンを倒して国を救った時に言ってたんだって。吟遊詩人の人が教えてくれたんだ」
「へーそうなんだ。その吟遊詩人は、勇者がどんな人なのかは言ってなかった?」
「うんとね、勇者様は3人のパーティで、1人黒い人がいたんだって。あとはわかんない」
「そっか、ありがとう」
3人で黒い人?――もしかして黒人?いや、まだ断定するのは早計だ。
でもこの時、俺は思い出した。俺がこの世界に転生する前、日本の他にアメリカのシアトルでも光の柱が目撃されていたことを。
もしその光がストレイアのものだとしたら――――
アメリカ人の勇者たちか。少し会ってみたい気もする。いや、会わなきゃいけない気がする。
でも、ここで疑問が残る。
俺の役目は文明のリセット。
『Ruin《破滅》』『Purge《浄化》』『Genesis《創世》』
これが俺がストレイアに与えられた役目。
だとしたら、彼らに与えられた役目はなんなんだろう。
――なんにせよ、国は違えど同じ地球人だ。俺は彼らに会ってみたい。
俺は一人じゃないのかもしれない。そう思うと、少し胸が躍った。
「凛人さん? 勇者に何か心当たりでもあるんですか?」
「え? いや、まあちょっとね」
**********
日が沈み、村総出の宴が開催された。
肉の焼ける香ばしい香りが村を包んで行く。村の人たちは笑顔で酒を酌み交わし、子供たちの楽しげな声があちこちから聞こえる。
俺たちが守った村だ。そう思うと、少しだけ誇らしい気持ちになった。
「勇者様、あなた方が主役の宴ですじゃ、ごゆるりと楽しんで行ってください」
「はい、ありがとうございます」
俺たちのために用意されたテーブルには、次々と料理が運ばれてくる。
「勇者さま!村自慢の酒です、ささ!遠慮せずに」
「お代わりはいくらでもあるからね、たんと召し上がっておくれよ。お嬢さんたちにはフルーツもあるからね」
あっという間にテーブルは料理で満たされた。
「ふわぁ、お料理が一杯」
「これは食べきれませんね、凛人さん」
なんか、フォアグラを作るために餌付けされているガチョウやアヒルの気分だ。
「勇者様!」
アミールが息を切らせながらやってきた。
「ちゃんと食べてます?」
「ああ、もうお腹がパンパンだよ」
「よかった。お部屋の準備ができたので、いつでもお休みになれますよ」
「ありがとうアミール」
アミールは椅子を持ってくると、俺の隣に座った。
「……えへへ」
「アミール、顔が赤いけどお酒でも飲んだの?」
「え!?私お酒飲めないですし。やだ、そんなに赤いですか?」
「うん、真っ赤だよ」
セレイナがフフッと笑うと、「私たちは少し村を見てきますね」とセフィリアを連れて席を立った。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
な、なんか、この沈黙が気まずい……
何か気の利いたことを話さないとと思ったけど、いかんせん俺にはあまり女性と二人きりになった経験がない。
チラッと横を見るとアミールと目が合い、一瞬驚いた顔をした彼女はニコッと微笑み下を向いた。
近くでよく見ると、目が大きくて目鼻立ちもはっきりしていてとても可愛らしく、それでいて綺麗な女の子だ。俺は余計に顔が熱くなった。
セレイナとは普通に話せるのになぜ言葉が出て来ない!!
「――あ、あの!」
気まずい沈黙を破ってくれたのは彼女だった。
「勇者様はこの国の方なんですか?」
「あー…… 詳しく話すとややこしくなっちゃうけど。ヴォルフ・ガーナインから来たんだ。家はエブンズダールにある」
「え!?エブンズダール!?」
アミールが大きな声を上げた。
「うんエブンズダール。どうかしたの?」
「私、エブンズダールの冒険者ギルドで働くのが夢なんです!」
「そうなんだ、俺もそこの所属だけどとってもいい所だよ、みんな良い人たちだし」
「いいなぁ! あそこって東の国々の中じゃ一番大きくて、腕の立つ冒険者も多いって有名なんですよ!そのために、学校へは行けないけど文字の勉強もしてるんです。いつか働きたくて」
「そっかぁ。ギルド長のルーガスさんも知ってるから、雇ってくれるように俺から話しておくよ」
「本当ですか!?やったぁ!! ――もしそこで働けたら、その…… 勇者様にもまた会えますか?」
「うっ……」
顔を赤らめ、潤んだ瞳で見つめてくる彼女に俺の心は熱を帯び揺らぎ……
い、いやこれは違う!酒のせいだ、そうに違いない!!!!
「う、うん。会えるんじゃないかな」
俺は彼女から顔をそらし、若干声を裏返しながら答えた。
「エヘヘ、うれしいな…… ――私、両親や弟を土地に縛り付けられている農奴から解放してあげたいんです。弟を学校にも行かせてあげたいし」
「……アミールちゃん」
「そのために、私頑張ります! ――勇者様にも会えるなら、さらに嬉しいですし……」
「えっ!? そ、そうだね!応援してるよ」
「はい!ありがとうございます!」
彼女は、夢と希望にあふれた、弾けるような笑顔を俺にくれた。
♢
宴も数時間が過ぎ、活気と喧騒に満ちていた村も落ち着きを取り戻してきた。
「勇者様、そろそろお休みになられますか?」
「うん、そうさせてもらおうかな」
俺たちはアミールに案内され、家へと向かった。
アミールの家は村の外れの方にあった。他の家屋と比べて大きく作られていて、なかなか立派な家だ。
「へえ、アミールちゃんの家大きいんだね」
「お父さんが自分で建てたんですよ。エブンズダールに引っ越せたら建築の仕事とか、好きなことをしてもらいたいなって思ってます」
「いいかもね、こんな家を建てられるなら立派な大工になれるよ」
「ただいまー。勇者様たちも遠慮せずに入ってください」
家に入ると、アミールちゃんの父親と母親、そして弟がテーブルを囲んでいた。
「勇者様、命を助けて頂き本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいのか」
「私からも、夫を助けて頂いて感謝の言葉もございません」
「いえいえそんな、お体の方はなんともないですか?」
「ええ、この通り何事もなかったかのように」
「それは良かったです」
「勇者様、宴の方は楽しんで頂けましたか?」
「はい、料理もお酒もおいしくて最高でした」
「そういってもらえると嬉しいです、あなた方は村の英雄ですから。あ、申し遅れました、私はユーノリアと申します」
「妻のソフィアです。この子は息子のエリオです、ほら、勇者様にご挨拶して」
「勇者様!オレ、勇者様たちの戦いを見て冒険者になろうと決めたんだ!今度剣とか教えてよ!」
「エリオ!まずは勇者様たちにご挨拶でしょ!?」
「なんだよ、お姉ちゃんなんか顔真っ赤にして勇者様から離れなかったくせに」
「こ、こらぁ!!赤くなんかなってないわよ! ――すみません勇者様、生意気な弟で」
「ははは、いいっていいって。エリオ君、冒険者は死と隣り合わせの危険な仕事なんだ。それよりも一杯勉強して安全な仕事に就いた方がみんな安心すると思うよ」
「えー…… 冒険者ってすごくカッコいいのに」
「ほら、挨拶もできないなら歯を磨いてもう寝なさい。子供の時間は終わり」
「ちぇ、わかったよ。じゃあ勇者様お休み!今度剣とか教えてね!」
そういうと、エリオは何度も大きく手を振り部屋へと入って行った。
いい家庭だ。でも、向うでは天涯孤独だった俺にも、こっちには家族と呼べる存在が出来た。
俺はちょっとエブンズダールの家が恋しくなった。
「ねえねえお父さんお母さん、勇者様がエブンズダールのギルド長に私のこと話してくれるって!」
「まあ、そうなの? ――でも、主人の命や村を救って頂いてそんなことまで……」
「ええ…… とてもありがたいことなのですが、そこまで甘えさせてもらってもよろしいんでしょうか」
「全然かまいません。用事が住んだらエブンズダールに戻る予定ですし、ギルドにも顔を出すつもりなので。――それに、アミールちゃんなら絶対ギルドの看板娘になれますよ」
「何から何までどう感謝していいのか…… 本当にありがとうございます」
三人は深々と頭を下げた。
「あ、私勉強してこなくちゃ!――まだ勇者様とお話ししたいけど…… ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうアミールちゃん。また明日」
アミールは少し照れながら可愛らしく手を振り、家の奥へと消えていった。
「いい子ですね、アミールちゃん」
「ええ、自慢の娘です。親の私が言うのもあれですが、綺麗に育ちましたし、妻と精一杯いい子に育てたつもりです。こんな田舎の村じゃなく都会へ出て幸せを掴んでほしいと思ってはいるんですが、農奴に生まれてしまうとなかなかそういうわけにもいかず……」
そう、特にこの世界では生まれは大事だ。
農奴や貧困層に生まれれば最低限の教育を受ける機会もほぼないに等しいし、街へ移るにしても、高額な報酬でBランク以上の冒険者を雇わないと移動すらままならない。無策に逃げ出しても魔物の餌食だ。そして、農民にとってその報酬を支払うのは難しい。
生まれはその人の人生を決定づけるものになってしまう。
しかし、彼女にとって今がチャンスなんだ。
土地に縛られた農奴は自分の意思で自由に移動したり、職業を選択したりする権利を持たない。でも、領主が北へ逃げ出している今ならそれが可能だ。
ヴォルフ・ガーナインへの移動も俺たちがいれば問題はないし、住む家も俺の伝手があればどうにかなる。
「アミールちゃんは、家族を農奴から解放してあげたいと言ってました。お父さんには好きな建築の仕事をしてほしいとも」
「――そんなことを」
「俺が何としてみせます。みんなでヴォルフ・ガーナインへ行きましょう」
「――ありがとうございます…… 本当に、ありがとうございます」
「うう……」
二人は手を取り涙を流していた。
俺はここに来てから特に縁というものを大事にしている。俺と関わったからには、誰一人として不幸にはさせない。
そんなことをあらためて思った夜だった。
そう、この時は……
お読みいただき、ありがとうございました!
♦筆者イットより♦
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