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第44話 グラトニー・デスクランプス

 騎士たちの馬の蹄鉄の音が遠ざかり落ち着きを取り戻したセフィリアは、障壁を解除した。


 しかし、まだ不安と警戒心をぬぐい切れていない女性や子供たちは、身を寄せ合い悄然(しょうぜん)とした面持ちをしている。


 それも仕方がない。平和な村に突然現れた野盗たちが村を蹂躙し、自分たちは奴隷として売られようとしていたんだから。


「野盗は去りました。もう大丈夫です!」


 俺の言葉に少し間を置いて安堵の顔が見え始めたが、それとともに、血を流し倒れている男性たちに駆け寄る女性や子供たちの姿も散見された。


「パパ!死んじゃやだ!」

「あなた!しっかりして!あなた!!」


 悲痛な声が響く。容態の悪そうな人も多数見受けられる。


「重体の人もいる、早く回復してあげないと!」


 そういうと、セレイナが光を発した。


「一人一人診ていては間に合わない方もいます。ここは私にお任せください――」


 セレイナから発せられた光が辺りを優しく包み、そして、セレイナは両手を広げた。




「アストラルヒール! ――ホール・ディバインド!」




 降り注ぐ光の粒子が怪我人たちの傷をふさいでいく。


「うわぁ…… すごく綺麗だ」


 その場にいた村人全員が降り注ぐ光の粒子を見上げ、言葉を失っていた。


 まさしくセレイナの容姿も相まって、言葉では女神の奇跡としか形容できないだろう。




「――――あれ。俺は……」


 酷い手傷を負っていた村の男性たちが起き上がっていく。


「あなた!!」

「パパ――!!」


 村は歓喜の声に包まれていった。 



 ――かのように見えた。



「お父さん!! なんで目を開けてくれないの!! なんでお父さんだけ!!」

「父ちゃん!! 目を開けてよ――!!」

「ユーノ!!しっかりして!!私たちを置いて死んだりしたら許さないんだから!!」


 奥にまだ倒れている人がいる。俺たちはその家族の下へ駆け寄った。


「どうしたの!?」

「――お父さんの傷が、塞がらないんです!!」


 17、8歳くらいの女の子が、父親の腹部を必死に押さえている。


「この傷では、魔法の効果じゃ回復は不可能です。 ――凛人さん」

「うん、大丈夫。ありがとうセレイナ」


 相当に深い傷だ…… 刃は内臓の奥深くまで腹部を切り裂き、止血のために押さえているというより、中身が出ないように押さえている感じだ。


 押さえていても手の下からは血が溢れだし、地面の色を黒く変えている。


 しかし、俺は冷静だった。


 ヒールの効果には限界があるのはわかっていたし、そして、この人はまだ生きている。


 生きているなら俺の力でどうとでもなる。俺は泣いている彼女の肩に手を置いた。


「大丈夫。お父さんは俺が助けるから」

「――え? 助かるん……ですか……?」

「うん。お父さんが必死に生きていてくれたからね」


 俺はいつも通りの工程を踏み、あっという間に傷をふさいで見せた。


 男性の顔の血色がみるみる戻っていく。


「――すごい、あんなひどい傷が一瞬で……」


 男性のまぶたがかすかに動いた。



「――――お、俺は」



「お、お父さん!!」

「父ちゃーん!!」

「ああ!ユーノ!!」


 家族4人はガッチリと抱き合って、父親の生還を喜んでいた。


 ――家族ってやっぱ良いもんだな。……俺の父さんと母さんも生きていてくれたら……

 親孝行も何もしてやれないうちに死んじゃったからな。


 俺の視界が少し滲んだ。



「助けてくださったのはあなた方ですかな!?」


 感傷もつかの間、高齢の男性が若い男性を二人つれて俺の下へやってくると膝をついた。


「ええ、まあそうですけど」

「私はこの村の村長をしておりますジーベルと申します。矢継ぎ早に申し訳ないのですが、あなた方の腕を見込んで、今一度私たちを助けて頂けないかと」

「助ける?」

「はい。この地にはグラトニー・デスクランプスという恐ろしい魔物が生息しております。奴らは血の臭いを敏感に嗅ぎつけ、集団で襲ってくるのですじゃ。大勢が怪我をし、おそらくはもう嗅ぎつけられたのではないかと――」


 名前からはどんなモンスターなのか想像できないな。集団でって言うことは、また狼とかその類のモンスターだろうか。


「わかりました。では、その魔物の特徴などを――」


 その時だった。大地が激しく揺れ、立っている人は揺れの激しさからしゃがみこんだ。


「や、奴らだ!!奴らが襲ってきたぞ――――!!!!」


 村長が叫んだ。


「これがその魔物の仕業ですか!?」

「そ、そうですじゃ!私も子供のころ一度だけ襲われたことがありまして、私は運よく生き残れましたが、その時は村が壊滅いたしました!」


 地響きと揺れが激しさを増していく。こんなのもう災害じゃないかと俺は思った。


「り、リント様――」


 セフィリアが俺にしがみつき不安そうな顔をしていたので俺は、


「大丈夫だよ、セレイナと一緒にいて」とセフィリアの頭を撫でた。


「俺が片を付けるから、セレイナはセフィリアと村の人たちを守ってあげてくれる?」

「わかりました。お任せください」



 地鳴りを纏いそいつらは姿を現した。


 前方でも後方でも、空からでもない。地中からそいつらは顔を出した。


 ズルズルと地面から伸びてくる巨体を俺は見上げた。



 見上げた。



 み、見上げ――――





 で、デカッ!!!!!!!!





 あまりの巨体に俺は驚きを隠せないでいた。


 こんなの、魔物と言うよりウルトラマンが空から登場して戦う怪獣だ。


 さらに地面が大きく隆起し、もう二体が顔を出した。


 これはもうカタストロフだ。例えエブンズダールでも襲われたら壊滅は必死。こんなのに村長は襲われたのか?よく生きていられたもんだ。


「そそ、そんな!こんなことがぁ――!!」


 村長がまるで初見のような反応をしている。一度襲われたのではないのか?


「どうしました!?」

「わわ、私が襲われたグラトニー・デスクランプスはこれの半分以下の大きさで……こんな巨大では!!」


 まさかこれも瘴気の影響なんだろうか?いや、今はそんな場合じゃない、これじゃあティーレの町も危ない。



「うおおおおおおお――――――――!!!!!!!!」



 俺は空中にありったけのフレイムバレットを展開し、それをグラトニー・デスクランプスに向けて発射した。


 三体の巨体に無数のフレイムバレットが炸裂し、轟音と衝撃波が村を揺らす。


 さながらテレビやネットで流れてくる、爆撃機による戦火のような光景が目の前に広がる。


 一体が、低い唸り声を上げながらその巨体を地面へと倒れさせた。だが、まだ奴らのマナにそこまでの変動はない。相当頑丈なようだ。



 俺は、剣へありったけのオーラを込め構えた。



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