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第42話 野盗、レヴィアタン

 アルマは今回の潜入調査で知りえた情報を話し始めた。


「まずはオルディアの経済状況についてですが、数年前から非常にひっ迫している状況にあります」

「ひっ迫? オルディアは世界有数のミスリル鉱山で潤っているって聞いてたんだけど」

「はい。 ですが、鉱山はオルディアと武力紛争中である西のアルディス公国内にありますので、数年前からオルディアへの供給は止まっている状態です」

「王国と公国の争いか……」



 アルマの話によると、元々オルディアの西を広く領土として治めていたマーリンウッド公爵は、民をないがしろにし、王族、貴族優遇の偏り過ぎた政策を取るオルディア王に不満を持っていたそうだ。


 そして、数年前に決定的な事件は起こった。


 オルディア王国領内の南には、エルフ国であるゼムリア自治領がある。


 現オルディアの王であるエメリエル・マセル・オルムデイア18世は、こともあろうか、初代国王がエルフ国の長と結んだ不可侵条約を破り、エルフ国に攻め入った。


 目的は、エルフ国ゼムリア自治領にある光楼石の採掘地を手に入れるため。


 光楼石は、大気中の魔力を吸収し暗闇で光る特性があり、街の街灯や家の照明などに広く使われているが、一度土から掘り起こし大気の魔力に触れると、約1年でただの石となる。


 消耗品であるがゆえ需要が尽きず、採掘地も多くはゼムリア自治領内にしかないため、掌握できれば世界中の明かりをオルディアに依存させることができる。


「元々あそこは我が国の領土ではないか。我々が手にして何が悪い」


 そんな手前勝手な理由でエルフ国に攻め込んだオルディア王に愛想を尽かしたマーリンウッド公爵は、認可を得ることなくアルディス公国を名乗り反旗を翻す。


 このことで、オルディア王国はエルフ国とアルディス公国の両方を相手取って戦争をすることとなった。


 エルフ国の住民たちも、その長い寿命から手練れのウィザードが多く、侵攻に苦戦している中でのマーリンウッド公爵の謀反はまさに大打撃で、財源の多くを絶たれたオルディア王国の情勢は悪化の一途をたどり、兵糧攻めにでもあっているかのように食糧の供給も経たれ飢えた兵士たちは、守るべきはずの自国の村々を襲い食糧を強奪しているという。



 まさに地獄絵図である。



 その私欲にまみれた争いから瘴気は国の南方を蝕み始め、南方の貴族や富裕層は北の国境の街や、ヴォルフ・ガーナインなどへ避難をしていっているという。



「なるほど。北のデレノバに富裕層が多かったのはそんな理由が」

「はい。そして追いつめられてきているオルディアは、せめて諸外国の貴族たちへの体裁だけは保とうと貴重なエルフの人身売買に力を入れております」



 愚かな行為だ。そんな形だけ取り繕った体裁に何の意味があるのだろうか。


 これは、セフィリアをただ故郷へ返せば解決とはならないかもしれない。


「セレイナ。ここからだとベルセフォネはどのあたり?」

「ここからですと、東の方角になります」

「そうか。――ありがとうアルマ。俺たちは東に向かうけど、アルマはどうする?」

「私はこのままアルディスに向かおうと思っております」

「そう、じゃあ何かあったらすぐに連絡して。くれぐれも無茶はしないようにね」

「かしこまりました。――ところで、その女性は」

「あ、ああ。セフィリアは、わけあって一時的に同行してもらってるんだ」


「――そうですか。では」一礼をすると、アルマはすぐに宿を後にした。



「フェリドゥーンがまだ来てないけど、俺たちはどうしようか」

「私のマナで場所はわかりますので、ここから移動しても大丈夫だと思います」


 そうか、セレイナがベルセフォネの居場所がわかるように、フェリドゥーンも他の星骸の居場所がわかるのか。


 だったら、すぐにでも動いて大丈夫だ。


「じゃあ、すぐに東へ向かおう。ベルセフォネはすぐそこだ」




 席を立ったその時だった。宿の扉が勢いよく開き、血まみれの男性が息を切らして転がるように宿へと駆け込んできた。


 「おいおいその恰好はどうした!大丈夫か!?」


 宿の酒場にいた男たちも、転がり込んできた男のその異様な姿にみんな驚いている。


「はぁ、はぁ。――お、俺のことより…… 村が! 村が野盗に襲われているんだ!」

「お前さん、そこのエルカデ村の者かい? 」

「あ、ああ! 頼む!誰か村を助けてくれ!このままじゃ若い女は攫われ、村は燃やされちまう!!」


 男の様子からことは一刻も争う状況だった。


「で、でもよお……」


 酒場の男たちは顔を見合わせながら戸惑っている。相手は野盗だ、下手に介入すると自分たちの命も危ない。


「頼む!!誰か!!」

「デール、トーレス。お前ら一応Bランク冒険者だろ、なんとかならねーのか?」


 2人はお互いの顔を一瞥し、当惑の面持ちを浮かべた。


「こ、この辺りの野盗といったら…… なあ」

「ああ。おそらくレヴィアタンだ。俺たち二人ではどうしようもねー」


 その言葉のあと、トーレスは思い出したかのように俺の顔を見た。


「あ、あんたらS級だったよな!? なんとかならねーか!? 領主が逃げてからエルカデ村はこの町に野菜や家畜の乳を卸してくれてんだ。潰されちゃ困るんだよ」


 俺がセレイナの顔を見ると、彼女は俺の目を見て頷いた。どうやら考えは同じようだ。


「俺たちが行きます。レヴィアタンというのは?」

「ほ、本当か!?ありがてえ!――レヴィアタンってのはこの辺り一帯を仕切ってる大人数の野盗グループで、元々は海賊だったって話だ。双子の頭目がこれまた厄介な奴らで、腕利きのウィザードと剣士だ。王国騎士団でもこれまで捕まえることができてねえんだ」

「わかりました。すぐに村まで案内してくれますか? セレイナ、この人の傷を治してあげて」

「はい。――セイクリッド・ヒール」


 白く輝くドームに包まれた男性の傷は、あっという間に完治した。


「か、回復魔法…… 初めて見た」


 周りが驚いているが、こんなのはもう慣れっこだ。


「き、傷が…… ありがとう、ついてきてくれ!」俺たちは男性の後を追い、宿を出た。



********



 村にはすぐに付いた。ティーレからは本当に目と鼻の先だ。


 幸い、村からは火の手は上がっていない。村人が無事だといいんだけど――



 俺たちは村へと入る。


 村は、誰もいない廃村のように静まり返っていた。


 俺は耳を凝らした。すると奥の方から声が聞こえる。


 村人と野盗たちは村の奥にいるようだ。「たぶん奥の広場です、いきましょう!」という男性の声と共に、俺たちは声の方へと向かった。




 ――女性たちは縛られ、周りには数人の男性が血を流し倒れている。


 野盗の数は、見える範囲には……40人ほどか。なかなか規模の大きいなグループだ。


 家の中から出てきた二人がいる。マナの濃度が他の奴らより濃い。

 

 おそらくあの二人が双子の頭目という奴らだろう。



 女性と子供たちが次々と馬車へ乗せられていく。奴隷として売り飛ばすつもりか?


 一気に吹き飛ばしてもいいんだけど、広場には膝をついて座らせられている男性や老人たちがいる。


 彼らを人質に取られたら厄介だ。そんなことを考えていると「シーラ!!」と声を上げ、男性が広場へと飛び出してしまった。


「ああ!? 誰かと思えば、女を置いて一人で逃げ出した腰抜けじゃねーか。戻ってきてどうした?死にに来たのか?」


 野盗たちがゲラゲラと笑っている。


「ケイン!なんで戻ってきたの!? あなただけでも助かればと願っていたのに……」

「そ、そんなことできるわけないだろう!! お前のお腹には俺の!!」


「悲劇の恋人ごっこはその辺にしてもらおうか?」


 頭目のローブを纏った男が前へと出てきた。


「おい、その女は殺せ。腹にガキのいる女じゃ売り物にならねぇ。初物じゃねえと高く売れねえからな」

「くっ!! やめろクソ野郎――――!!!!」


 男は野盗に向かっていくも、ローブの男が杖を振ると風が巻き起こり、無数のかまいたちが男を切りつけた。


「あああああっ!!!!」男は風で後方へ飛ばされ、倒れ込む。「うっ……く、クソ!」

「クヘヘヘヘ。雑魚は引っ込んでいろ。目の前で身ごもったお前の女を殺してやる。少しは楽しい余興になるかな?――やれ」

「ぐっ!や、やめろおぉ――――!!!!」



 俺は我慢の限界だった。


 野盗の手下が斧を振り上げたその時。俺のファイア・バレットが野盗の手下を吹き飛ばした。


「誰だ!! お前は!!」


 策は何もなかったが、あの状況ではこうするしかなかった。


 さて、どうするか――



「俺は通りすがりの旅人だ」


お読みいただき、ありがとうございました!



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