第41話 宿場町ティーレ
「久しぶりアルマ、そっちは大丈夫だった?」
『はい。お久しぶりですリント様』
「うん。どう? なにかわかった?」
『はい。王宮へ潜入しておりましたので、だいたいの事情はつかめました』
一国の王宮へ潜入できるとは。アルマの隠密能力はとんでもないな。
アルマは続けていった。
『この通信も魔法術式が組み込んであるゆえ、傍受される可能性もあります。どこかで落ち合うことはできますでしょうか』
どこかでか……
この国の地理もわからないし、どうしたものか。
「うーん。地図でもあればいいんだけど、どこで売ってるのかな」
『地図でしたら、途中立ち寄った街で目にしたので手書きでよければお送りすることもできます』
「それは助かる!送ってもらえる?」
「それでは、大まかな物でよろしければ今から書いて送らせて頂きます」
「うん、頼むよ」
しばらくすると、魔道具に地図らしきものが浮かび上がってきた。
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こ、これは…… なんとも大まかな。
アルマは絵心があまりないようだ。でも、なんとなく地理は理解できる。
『――記憶を頼りに書いてみました』
「あ、ありがとう。アルマはいま王都?」
『いえ、王都から南にすぐのティーレという小さな宿場町におります』
王都から南か。だったら――
「俺たちはデレノバにいるんだけど、今から南東に向かう所だから俺たちがティーレに向かうよ、少し待っててくれる?」
『わかりました、ディーンズ・インという宿屋の1階に酒場がありますので、そちらでお待ちしております』
よし、ひとまずアルマと会うためにティーレに向かおう。
その間この屋敷が無防備になっちゃうけど、マッシュさんがいれば多分大丈夫だ。
一応マッシュさんにも予備の通信魔導具を持たせておけば、緊急事態でもフェリドゥーンが1秒とかからずに駆け付けられる。
護りは万全だ。
――俺たちは今、屋敷を空けることをみんなに伝え、出発前の準備をしている。
セレイナとセフィリアは洋服を買いに出かけた。留守中の護りの要であるマッシュさんには、お金を渡し武具一式を買いそろえるように伝えた。
それよりもなんだ?今度はダイニングルームの方がなにやら騒がしい。
声のする方へ行ってみると、女性陣たちが俺の姿を見つけ集まってきた。
「どうかしたの?」俺が尋ねると、最年長のミカエラさんがやや興奮気味に口を開いた。
「リント様、私たち、なにかおかしいんです」
「おかしいって、何かあったんですか?」
そう尋ねると、女性たちは次々と口を開いた。
なんでも、昨日は運ぶのに苦労していた水汲み用の大きな桶を軽々運べるようになった。
数十キロはありそうな動物のはく製の隙間を掃除しようとしたら、片手で動かすことが出来たなど、身体的な変化が主だった。
「見てください!」
15歳のマイネの方を見ると、華奢な彼女が、100キロはありそうな大理石のテーブルを持ち上げている。
こ、これはもはや疑いようがない。やっぱりあれが関係しているのかもしれない。
そう、俺の血を用いた奴隷契約の儀だ。
セフィリアを始め、みんなの変化を鑑みるに、俺の血が彼らになんらかの影響を与えているのは確実だ。
これは、いろいろと試してみたくなる。俺の中の予想が当たっていればもしかしたら――
外からセレイナ達の楽しそうな声が聞こえてくる。帰ってきたみたいだ。
さて、どんな服を買ってきたのかな?セフィリアにはどんな服も似合いそうだ。俺はいそいそと玄関ホールへ二人を迎えに行った。
「ただいま帰りましたー」
「おかえり、どんな服を―― あれ?」
セフィリアを見ると、俺と同じようなフードマントに身体を動かしやすそうな軽装の服を着ていた。
早く言えば、旅人のような格好だ。
「セフィリア、そんな服でよかったの?」俺が尋ねると、セフィリアは首を縦に振った。
「あのね、――セフィリアも、リント様たちと一緒に行きたいの」
「え、俺たちと一緒に?」
「凛人さん、セフィリアさんがどうしてもというので…… 私たちが付いているので大丈夫ではないかと」
「あ、あのね!セフィリア魔法も使えるんだよ!迷惑はかけないから、リント様と一緒に……」
まあ、夜も寂しがって俺のところに来たしな。それに、甘えられるのは素直にうれしい。
「わかった、いいよ。一緒に行こう」
「え!いいの!?」
「その代わり、俺たちのそばを離れないって約束だぞ?」
「はい!」
それで問題は移動手段だ。
セレイナに二人を背負わせて飛んでもらうのも申し訳ないし、何より背に二人は窮屈だ。
「でもどうやって移動しようか。3人となると飛んでいくのも――」
セフィリアが「見てください!」とにこりと笑った。
すると、セフィリアが1メートルほどだが宙に浮きあがった。
「セフィリアさんは覚えが早くて、少し教えたら浮けるまでになったんですよ」
「すごいじゃないかセフィリア!これだったら!」
「はい。私と手を繋いでおけば、速度を上げすぎなければ一緒に飛んでいけると思います」
浮遊魔法は複数の術式を重ねて発動する高度な魔法のはずなのに、とんでもない資質だ。
エルフ族っていうのも関係してるんだろうか。
「よし、じゃあ急ごうか。アルマが待ってる」
「じゃあ、セフィリアさん行きましょうか。ゆっくり飛ぶので大丈夫ですよ」
「はい!」
ティーレに向かい、俺たちは飛び立った。
俺もそろそろ浮遊魔法を覚えようかな。いつまでもセレイナにおぶさっているわけにはいかないからね。
********
――3時間ほどたっただろうか、左手に王城が見えてきた。
あれが王都だろう。ヴォルフ・ガーナインと並ぶ大国なだけあって、なかなかに街も大きい。
王都を通り過ぎると、すぐに小さな町が見えてきた。あれがティーレに違いない。
そして、その近くにも農村のようなものが見える。
フェリドゥーンは屋敷に残った人たちに少し指導をしてから向かうと言っていたけど、おそらくもう着いているだろうな。
「――ここが宿場町ティーレか」
大きくはない町ながら、そこは商人や旅人たちで賑わっていた。
冒険者パーティの姿もあちこちに見受けられる。商人などの護衛の依頼で来ている人たちだろう。
この国は特に魔物が多いから、商人や一介の旅人が護衛なしで街の外を歩くのは自殺行為だ。
フェリドゥーンの姿は見えない。まだ屋敷で何かやっているのだろうか?
俺は町を見渡した。
大きな都会も悪くないけど、こういった下町っぽい活気のある町の方が俺には合ってるな。
パン屋を開くならこういう町がいいかな。と俺は考えていた。
アルマに言われた、ディーンズ・インという宿屋を探し町を歩く。
この町にはホームレスのような貧困層の姿はなく、比較的安定しているように見えた。王都に近い影響なのかな?
あちこちに宿屋があってよくわからないので、俺は町の人に聞くことにした。
「ディーンズ・インならそこの角を曲がればすぐにわかるよ。他の宿屋より大きな建物だから」
言われた通りに角を曲がると、若干大きめの建物が目に入った。
看板には"ディーンズ・イン"と書いてある。ここにアルマがいる。
1階の酒場の扉を開くと奥に人だかりができている。なんだろう?
「なあお嬢さん、俺と一緒に飲もうぜ、な? 驕っちゃうからよお」
「何言ってんだ!この子は俺と飲むんだよ!テメ―の面見てから誘えや、デール」
「んだとこらぁ!おめーだって人の事言えた面かよ!トーレス!」
な、なんかアルマがゴロツキに囲まれてる……
2人の喧嘩を周りの客たちも嬉しそうに煽っている。これは割って入ったほうが良さそうかな。
「ちょっとすみません。この女性に用があるので少しどいてもらえませんか?」
「なんだ! テメ―は!!」
2人が青筋を立てて俺に凄んでくる。
あーめんどくさい…… ここは俺にとって水戸黄門の印籠とも言える、S級の冒険者リングを見せて落ち着いていただこう。
「俺はこういうものです」
「――え、S級の冒険者リング!?」
やっぱり効果てきめん!冒険者リングを見せた途端、男たちの顔色が変わった。
本当に便利だなぁこれ。ルーガスさんに感謝だよ。
「ええ。この女性は俺たちの仲間でして」
「……ってーことは、この嬢ちゃんもS級なのかい!?」
「あー…… まあそんな感じです(実力はS級どころじゃないんだけどね)」
男たちがアルマから距離を取る。
「良かったなぁ2人とも、無理やりどうにかしようってもんなら、今ごろ命なかったんじゃねーか?」
後ろで飲んでいた客が茶化すように声をかけ、周りも楽しそうに笑っている。
「い、いやぁ、こんな綺麗な姉ちゃんなんかこの町に滅多に来ないもんだからよ。興奮しちまって」
「ああ、ちょっと調子に乗っちまったかな…… ははは」
「フラれた男同士で飲みなおすか!」男たちは肩を組みながら向うへと去って行った。
アルマが俺に跪く。
「ありがとうございましたリント様。殺そうか迷っていた所でした」
「こ、殺しちゃだめだよ?アルマ。――じゃあ、話を聞かせてもらってもいい?」
「はい」
俺たちは席に着き、アルマの話を聞くことにした。
少し間延びしている感はありますが、ここからはスピーディに話が進むように心がけていきたいと思います。
読んでいただきまして、ありがとうございました!
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