第40話 回り出す歯車
「……うーん。――ん、おはようございますリント様」
見知らぬ女性は、目をこすりながら目を覚ました。
頭が混乱してるのもあるけど、明らかにサイズの合っていない服を着ているその女性の姿に、俺は……その……とにかく目のやり場に困る。
「どうかなさいましたか?」
首をかしげながら不思議そうに問いかけてくる女性に、俺は返答に窮した。
「あの……ど、どちら様でしょうか?」
「ふえ?」
その時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「凛人さん、どうかしましたか!?」
「リント様!」
セレイナとフェリドゥーンが俺の声を聞きつけて駆けつけてきたが、やはり二人の視線は、俺よりベッドに座っている女性に向いた。
「――あらあら」 セレイナは口元に手をやり、一言つぶやいた。
「……これはリント様、従者として主に対してのご配慮にかけてしまい申し訳ございません。では」
「ちちち、違うから!変な気を使わないでフェリドゥーン!!」
このままではまずい、セレイナにも変な誤解をされてしまう。
そう思った俺は、経緯を二人に話した。
「――なるほど。セフィリアと寝ていたはずが、朝起きたらその女性が隣で寝ていたと」
フェリドゥーンがそういうと、セレイナがクスリと笑った。
「どうしたの?セレイナ」
「多分、彼女はセフィリアさんだと思いますよ、凛人さん」
「え!? この子がセフィリア!? 」
確かに、よく見ると耳も長くて尖がってるし、どことなくセフィリアの面影はある。
でも、だとしたら何で一晩でこんな姿に……?
「彼女から感じるマナはセフィリアさんのものと同じです。凛人さんも落ち着いて感じてみてください」
――このマナは確かにセフィリアのものだ。
昨日よりも大分マナの量が上がっている感じだが、成長したせいかな?
「ね、ねえセレイナ、エルフって急にこんな成長する種族なの?」
「そのような話は聞いたことはありませんけど……」
「私も聞いたことはありません。 エルフは人間種よりもゆるやかに成長し、100歳ほどで成人すると言われてはおりますが」
セフィリアはまだ23歳。エルフとしてはまだ子供のはずなんだけど……
今のセフィリアは人間でいえば高校生くらいの見た目だ。ってことは一気に50歳くらい歳を取ったってこと!?
そんな会話が続いている中、庭の方もなんか賑やかな感じだ。
この声は…… もう一人の若い男の人だ。なんか嬉しそうな笑い声が延々と部屋に聞こえてくる。
俺は庭の方へ向かうことにした。
「セフィリアさんはお着替えをしましょう。とりあえず私のものしかないので、それで我慢してくれますか?」
「うん!」
――庭では、あの若い男性が木の棒を振り回して走り回っている。
「どうかしたの?」俺は駆け回る男性に声をかけた。
「ああ! ご主人様!!」
男性は動きを止め、俺の方へ走ってきた。
「これを見てください!」そういうと、男性は庭に植えてある木の前に移動した。
「はあっ!!!!」
男性が棒で殴りつけると幹が大きく抉られ、庭の木はメキメキと音を立てて、枝から生えた無数の葉を揺らしながらゆっくりと倒れて行った。
へえ、なかなかの腕だ。
彼はそれなりのランクの冒険者だったのだろうか。
ってか、ここ借り物の家なんだけど……
「すごいじゃないですか、高ランクの冒険者だったんですか?」
「いえいえ。 お恥ずかしながら、15歳から10年冒険者をやってましたが才能がなかったのかDランク止まりで。ですが、今の俺ならBランクパーティ推奨の魔物も単独で行けそうな気がします!日課だった朝の稽古をしようと木に向かって振ってみたらこれですよ。急にどうしたんだか!」
確かに、今の彼からはAランクパーティに所属していても不思議ではないマナを感じる。
いや、しかし――
「リント様。 これもセフィリアの急激な成長と無関係ではないかと」
「うん、俺もそう思っていた」
――朝食の用意ができ、全員が揃ったところで食事をとり始めた。
セフィリアがセレイナの服を着ているけど、とても良く似合っている。セレイナの方が身長が高いので、少し長い丈を気にしている仕草がなんとも愛おしい。
セフィリアに服を買ってあげないとな。
そういえばまだみんなの名前を聞いていなかったな、食事をしながら自己紹介でもしてもらうか。
「今更ですけどみなさんの自己紹介をしてもらっても良いですか? まだ名前も聞いていなかったので」
そういうと、先ほどの若い男性が手を上げた。
「俺の名前はマッシュです! 歳は25、元冒険者をやっていました」
続いて、料理人の男性が自己紹介をした時にそれは起こった。
「えー私はリゲルです。昔は料理―― ぐわああぁぁぁ――――――っ!!!!」
男性は急に叫び声をあげ、苦しみながら倒れ込んでしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」俺は慌てて駆け寄った。
女性陣たちも驚き、席を立ち上がっている人もいる。
「う、ううう…………」
男性の奴隷紋が鈍く光っている。
なんらかの禁止行為に抵触したってことか!?
「リント様、おそらく名前を偽ったからだと思われます」
「名前を? そうなんですか?」
男性はさきほどの苦痛のせいか顔をゆがめながら、「……はい、すみません」と答えた。
「――事情は聞かないほうが良いですか?」
俺は男性に尋ねた。聞いてしまうと、俺に対して嘘は禁止行為になっているためすべてを正直に話さなければならなくなる。彼の意思を尊重しての配慮だった。
「……はい、できれば」
男性はか細く答えた。そして「名前はフェルナンドと申します。申し訳ありません」と顔を下げた。
「あー…… ま、まあせっかくの食事も冷めちゃいますし、気を取り直して自己紹介を続けましょう! お待ちかねの女性陣どうぞー!」
マッシュが重くなった場を取り持ってくれた。彼はこの奴隷チームのムードメーカーになってくれるかもしれない。
「み、ミーナと申します。年齢は19で、ここから南のナカデ村の出身です」
「レイナです。20で、ミーナの姉です」
「ロディと申します。17歳で、エイラ村の出身です」
「レギーナと申します。17で、同じくエイラ村出身です」
「ミカエラと言います。24歳で、南の国境の街ザミルバルタの出身です」
「私はソフィといいます。21歳で、エンドラの出身です」
「マイネです。アルギスの出身で15歳です」
奴隷になった理由は、親の借金の身請けだったり、孤児や辺境の村などを狙った、野盗や犯罪組織による誘拐などだった。
自ら望んで奴隷になる人間なんていない。
誘拐など犯罪に巻き込まれた女性たちは、なんとしても故郷に返してあげたい。
それもこの国での旅のプランに入れておこう。
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その後は美味しい朝食をいただき、各々が持ち場へと散って行った。
女性たちには掃除や買い出し、食事の支度などの雑務を任せている。おやつ等の購入も許可しているので、空いた時間は自由にティータイムでも楽しんでもらおう。
俺にとっては、彼らは一人の人間であって奴隷ではないからだ。
そして、俺たちも歩を進めよう。ヴォルフ・ガーナインで待っている人たちがいる。
「セレイナ、ベルセフォネの反応はどのあたり?」
「はい。――ここから南東の方角に反応があります。飛んでいけば半日ほどで着く距離です」
「色々と見て回りたかったけど、それは後回しにして急いでいこう」
席を立とうとしたその時、通信魔導具が鳴った。
それは、先に入国してもらっていたアルマからの通信だった。
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