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第34話 アルメデウス・ヴォルフ・ガーナイン

 謁見当日、午前7時。

 俺たちの姿は冒険者ギルドにあった。


 まだ早朝だというのに、ギルドには数パーティの冒険者たちの姿が見受けられる。


 クエストに向かう準備をしているようだ。


 今俺は兜は被っていない。軽鎧とフード付きマントでこれからはいようと思う。


 理由は、顔を隠すのもめんどくさくなったというのもあるけど、なにより兜ではかゆくても頭が掻けないのだ。

 掻くにはいちいち外さないといけないんだけど、これが地味にストレスになる。


 それに、この街のギルドでそれなりに名が売れたおかげで、俺を特異な目で見る人もほとんどいなくなった。


「おお、リントさんじゃないか。 国王様と謁見なんだって? がんばってな」

「あ、はい。 ありがとうございます」


 こうやって冒険者から声をかけられることもあるが、ほとんどが誰だかわからない……



「オゥッ! 来たか」


 2階へ上がると、ルーガスさんが待っていた。


「エディアノイとメイは昨日早くに出発してるぞ。 王都まで馬車で急いでも1日はかかるが、本当に大丈夫なのか?」

「ええ。 セレイナの飛行魔法なら1時間かからないと思います」

「まあ、そんならいいんだけどな。 謁見は10時だ、遅れるなよ? 」

「はい。 じゃあ、いってきます」


 フェリドゥーンは、王都でお待ちしております、とまた消えてしまった。

 消えたと言っても稲妻のような速さで移動しているだけらしいけど、本当に便利で凄い能力だと思う。


 俺たちはギルドを後にし、セレイナと共に王都へ向けて飛び立った。




 ――凛人達を見送ると、ルーガスは通信魔導具を用意した。


「おうアル、俺だ。 起きてるか?」

『――ルーガスか?』

「リントたちは今そっちに向かったぞ、時間には着くそうだ」

『そうか。 それじゃあ、俺も準備運動でもして待つとしよう』

「張り切りすぎて腰痛めるなよ? 引退して長いんだ。もう若くねーんだからよ」

『はっはっは。鍛錬は怠っていないしそこまで衰えてないさ、楽しみで久々に身体が疼いてるよ』

「そうかよ。そんじゃあ、また今度飲もうぜ」

『ああ、また』


 通信を切ると、ルーガスは笑みをこぼしながらタバコに火をつけた。


「――ったく。 肩書きは変わっても、冒険者はいつまでも冒険者か。 俺も老け込んでいられねーな」




********




 ――――あれが王都かぁ。


 エブンズダールよりも堅牢で壮観な城壁。

 広大な敷地には、さすがは王都だと思わせる建物の数々が建ち並んでいる。


 奥には、湖のほとりに佇む豪壮なお城が見える。


 俺は今からあそこに行くんだ。そう思うと、不思議と緊張よりも心の高揚を抑えきれずにいた。



 まだ8時前だというのに、街は人であふれている。

 通勤途中と思われる人、店の準備をしている人、学校に行くのか鞄を背負った子供たち。


 人々に活気がある。

 やはり、争いが絶えないというこの世界でもこの国の幸福度は高いようだ。


 その裏で、エルマたちのような恵まれない境遇の人たちがいるのも事実だが、全ての人たちが幸せになんて言うのは無理なんだ。


 俺のいた日本でさえそうだったし、仕方のないことなのかもしれない。


 歩いていくのも少し遠いので、俺たちは辻馬車を拾い、王城まで乗せて行ってもらうことにした。

 そのまま飛んでいけば早いんだろうけど、飛行魔法は高度な魔法らしく使える者が限られているみたいなので、あまり目立ちたくないのだ。


 出る杭は打たれる理論が染みついた、日本人の悪いくせがまだ抜けていないらしい。

 いや、日本人と言うより、俺の気質か……




 ――馬車は俺たちを乗せて走る。


 街を抜けると、今までの風景とは打って変わって自然豊かな景色が広がった。

 小さい森を抜け、大きな湖が目前に現れる。


 王城はすぐ目の前だ。

 湖の湖畔に、アーバンデイル家の家紋が入った馬車が止まっているのが見える。

 メイさんたちはもう着いているみたいだ。



 馬車を降りた俺たちは城の守衛に事情を説明し、冒険者リングを見せた。

 守衛は、通信魔導具で誰かとやり取りを交わすと、俺たちを城内へと通してくれた。


「お待ちしておりましたリント様。ようこそバーレンヘイム城へ!」


 緊張の瞬間だ。俺は生まれて初めて、王城というものに足を踏み入れた。



「うわぁ、すげえ……」



 俺は思わず息を飲んだ。

 王のいるお城とはこういうものだろうという、俺の想像を裏切らない豪華な造り。

 そして、王宮に仕える大勢の使用人たちや役人たち。


 別世界に迷い込んだかのような錯覚に囚われる。



 田舎から初めて東京に来た観光客のように城内を眺めている俺の下に、一人の高齢の男性が近づいてきた。


「リント様とその従者の方々、ようこそおいで頂きました。 どうぞこちらへ」


 執事だろうか、俺たちは男性の後をついて行った。



 城の城壁内にある中庭が見えてきた。

 色とりどりの花が植えられていて、奥に見える無骨な城壁がかすむほどの光景だ。


 使用人の女性たちが水やりをしたり、花の手入れをしてる。


 お姫様が真っ白なテーブルを置いて、貴族令嬢たちとお茶会を開いているのが似合いそうな場所だが、残念ながらお姫様はいないようだ。


「あら、リントじゃない、こっちよ!」


 お姫様ではなく、筋骨隆々のメイさんが花々の間から俺を呼んでいる。

 まあ、貴族令嬢は合ってるな、うん。 フローラ様ならすごく絵になりそうけど。


 などという、恩人に対して大変失礼なことを考えながら、俺も笑顔で手を振った。



「まだ時間があるわ、あっちのテーブルでお茶でもして待ってましょ」

「そうですね」

「私はお花を見てきますね」


 セレイナは嬉しそうに中庭へと歩いて行った。


 メイドさんが用意してくれた豪華なお菓子と紅茶を楽しんでいると。一人の男が現れ、俺たちの前で立ち止まった。


 だ、誰だ?


 風格からして只者ではないことが一目でわかった。

 鍛え抜かれた身体、いくつもの修羅場をくぐってきたと思われる目と顔付き。


 この城の兵士だろうか、いや、兵士だとしたら騎士団長か?



「あらアルメデウス王、ご機嫌麗しゅうございます。 また訓練でも?」

「え……!?」


 こ、この人が王様!?


 いやいや! 只者じゃないのはわかってたけど、何で王様がこんな所に一人で!?

 しかも、練習着みたいな格好してるし、初見殺しにもほどがあるよ……


「久しぶりだな、メイ。 エディアノイはどうした?」

「父は訓練場へ顔を出してますわ。 懐かしいのでしょうね」

「そうか、それなら丁度よかった」


 王様がこちらへ視線を向ける。

 俺は上から強引に引っ張られたような速度で立ち上がった。


「お、お初にお目にかかります、国王様! 瀬川凛人と申します!」

「君が星骸の主か。思ったより普通の青年なのだな」

「こ、これは…… ご期待に沿えなかったようで、申し訳ありません……」

「まあそう硬くならないでくれ。あの星骸たちの主である君は、私と同等以上の存在なのだからな」

「そんな! 滅相もないです」


 「リント様、アルムレット様の書状を」と、フェリドゥーンが小声で話しかけてきた。


 あぶないあぶない。 アルムレット様の遺言とも言える大事なものを忘れるところだった。

 俺は預かった書状を王様へ渡した。


 王様は真剣なまなざしで、アルムレット様の上奏文へ目を通している。


「そうか…… アルムレットはもう長くはないのか。残念だ。 ――して」


 王様の鋭い目つきがフェリドゥーンを捉える。


「星骸フェリドゥーンよ。 お(ぬし)にとってリンスデールの民とはなんだ」

「――民とは宝。 俺の恩人であるレイリアス家が200年守り続けてきたかけがえのない者たちだ」


 ええっ!? 王様にいきなりタメ口はヤバいんじゃないのフェリドゥーンさん!


「フェリドゥーン、王様に失礼だろ!」(小声)

「はっはっは、構わんさ。 彼の主は君なのだろう? 主以外の者に尻尾を振る奴こそ信用できないというものだ」


 よかった。 アルメデウス王はとても寛大な人のようだ。

 一瞬だけど肝が冷えたよ。 ここまできて面倒事はごめんだ。


「わかった。 アルムレットの頼みを聞き入れよう。 こちらとしても、あの伝説の星骸がこの国で領地を持つことは頼もしいからな。 まあ、反対する者もいるやもしれんが」

「アルムレット様の意思を汲んで頂き感謝する。 アルメデウス王よ」

「その代わりと言っては何だが、星骸の主リントよ」

「な、なんでしょうか」



「今から私と、本気で手合わせをお願いできるかな?」

「―――― へ?」


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次回で第一章は完結となります。

二章からは話がよりスピーディーに、急展開に進みます!(予定)

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