第33話 謁見前夜はエルマの料理で活力を!
「すっげえ…… でっかい屋敷」
エルマは俺の屋敷を見て口をあんぐりと開けている。
そうだろうそうだろう。 一目惚れして買った俺の自慢の屋敷だからな!
もっと驚きたまえ。
まあ、残金は金貨2枚ほどと、この屋敷の主には相応しくない額なんだけど……
調理器具は、元から備え付けられていたものがあるようだけど、これから炊事場を仕切ってもらうエルマのために彼に選ばせて色々と買ってきた。
彼が使いやすい物の方が作業も捗るだろうしね。
店に並ぶ食材を品定めする彼は、すでに立派な料理人の目をしていた。
血は争えないものだなと考えさせられる。
でも、頼むから父親のようにギャンブルと女にハマる大人にはならないでくれよ?
受け継ぐ血は、料理人としてのものだけでいい。
「凛人様、フェリドゥーン様、お帰りなさいませ」
屋敷の扉を開けると、フロリスの5人が俺たちを出迎えてくれた。
エルマは、少し戸惑いながらフロリスたちを見ている。
「こ、この姉ちゃんたちも、メルティナさんみたいに強いの?」
「ああ、みんなとんでもなく強いぞ。だからここにいれば何が来ても大丈夫だ」
「ふえ~……」
「凛人さん、おかえりなさい」セレイナが2階から浮遊して下りてきた。
「ただいま、セレイナ」
ふわりと優雅に降り立つセレイナを見て、エルマは頬を赤らめて呆けている。
「どうした? エルマ」
「え!? みんなすごく綺麗だけど、何か……この人は女神様みたいだなって思って」
「フフ、ありがとうございます。 でも、女神で大体あってますよ」
「ええ!? この人って女神様なの!?」
「ま、まあ近からず遠からず……かな!」
この屋敷で働くエルマには話してもいいような気はするけど、俺は咄嗟に誤魔化してしまった。
「わ、私はどうしたらいいのでしょう」
「エリーダさんは二階の奥の部屋で休んでいてください。医療担当のアキノが後で部屋に行くと思います」
「すみません。 エルマをよろしくお願いします」
「では、行きましょう」
「は、はい……」
エリーダさんはフェリドゥーンにお姫様抱っこをされながら2階へと運ばれて行った。
フェリドゥーンをチラチラ見ながら、頬を赤らめているのは気のせいだろうか?
エリーダさんには奥の角部屋を使ってもらうことにした。
日当たりや景色も良くて、静養にはもってこいだと思ったからだ。
「じゃあ、さっそく厨房を案内するよ、エルマ」
「わかった!」
俺とエルマは厨房へと向かった。
もう空腹でお腹と背中がくっつきそうだ……
「すげえ! うちの食堂の倍以上あるぜ!」
俺も初めて入ったけど、広々としていて、テレビで見かけたレストランの厨房のようだ。
魔導コンロも備えられていて、火おこしをしなくても魔石に火魔法を込めておけば、スイッチ一つで火が付く。
俺がいるうちは俺が魔石に込めるとして、旅に出たらこの役はメルティナに任せよう。
「よし! さっそく作るから、兄ちゃんは向こうで待っててくれよ」
「わかった、楽しみにしてるよ」
エルマは「任せとけって!」と腕まくりをしてやる気満々だ。
食材を前に、包丁を持ったエルマは目を爛々と輝かせている。
本当に料理が好きなんだろうな。
嬉しそうに包丁を握る彼のその希望と素質にあふれた手を、スリという犯罪で汚すことは俺がもう二度とさせない。
ダイニングルームへ移動すると、フェリドゥーンの指示のもとフロリスの面々が食事の準備などをしている。
いつもは寡黙なフェリドゥーンが、メチャクチャてきぱきと指示を出していて少し面白い。
さすがは200年執事をしてきた男である、体に染みついている。
彼に任せておけば、経験の少ないフロリスたちも色々と勉強になるだろう。
ところで……
あれ? アルマの姿が見えない。
彼女は日本人ぽい顔をしているので、なんか懐かしいというか親しみを感じるのだ。
「フェリドゥーン、アルマの姿が見えないんだけど」
「――アルマならリント様の後ろに」
「お呼びでしょうか」
「うわぁっ!!!!」
全然気が付かなかった……
そしてメチャクチャ驚いてしまった。女性に対して失礼だったかな……
「申し訳ございません。 隠密行動がクセになっておりまして」
「い、いや。こっちこそ驚いちゃってごめんね」
「――凛人様。 ご相談があるのですが」
「相談?」
そう言うと、アルマは膝まづいた。
「オルディア王国へ行かれると聞いたのですが、僭越ながら私もご一緒させて頂けないかと」
「一緒にかぁ。 何か気になることでもあるの?」
「いえ、特には。ただ、 私たちはまだ知識に乏しいので見聞を広めたいのと、私の隠密と狙撃の能力は凛人様のお役に立てると思います。私の魔力狙撃銃『グローアイズ』は、3km先の小石も狙撃可能ですので」
うーん……
確かに、オルディアは情勢も荒れてると聞くし内情も知らない国だ、情報などの面でも彼女の隠密能力は強力な武器になるかもしれない。
「わかった、前向きに考えておくよ」
「ありがとうございます。 凛人様」
屋敷はにぎやかだ。
バタバタとせわしないダイニングルームを眺めながら、自然と笑みがこぼれた。
俺はこの世界に来た時、荒野で一人ぼっちだった。
それから、エンデルさんたちや銀狼、メイさんたちと出会って
今は家族と呼べる人たちが俺を慕って側にいてくれる。
セレイナとフェリドゥーン。
フロリスのみんな。
そして、エルマとエリーダさん。
俺は主として、みんなをより良い未来へと導いていかないといけない。
そう思いながら、覚悟と決意を拳と一緒に握りしめた。
――フロリスたちが、料理をテーブルへと運んできている。
夕食が出来たようだ!
「夕飯が出来たぞー!」
エルマがダイニングルームへとやってきた。
「待ってました!!」
部屋はたちまち、運ばれてくる料理の匂いで満たされていった。
もう匂いだけでわかる、これは絶対に美味しいやつだ!
空腹すぎて待ちきれず、料理の香りを堪能している俺にフェリドゥーンが声をかけてきた。
「リント様、従者と使用人とは部屋、もしくはテーブルを分けたほうがよろしいのでは?」
「いや、みんなで食べようよ。 別に俺は貴族じゃないしさ、それにみんなで食卓を囲んで食べた方が楽しいだろ?」
「かしこまりました。 そのように致します」
俺は意気揚々と席へとつき、目の前に並べられた料理に喉を鳴らした。
貴族や金持ちが食べるようなコース料理のように洒落た感じではないが、どれも丁寧に調理されていて食材が生き生きとしている。
料理とは作った人間を写し出す鏡でもあるのだ。
「みんな席に着いて!冷めないうちに早く食べよう!」
俺が手を合わせると、みんなもそれを見ながら不思議そうな顔をしてマネをする。
「いただきます!!」
「い、いただきます!」
真向いの席に座っているコラールが俺に尋ねてくる。
「凛人様、今のはどういう意味なのですか?」
「ん? 肉は動物だし野菜も生きてるだろ? その命を頂くよ、ありがとうって意味なんだ」
「そうなんですかぁ! 良い言葉ですね」
「だろ? 俺のいた日本って国の挨拶なんだ」
まずは…… 目の前にある肉だ!!
俺はナイフで切り分けて自分の皿へと移した。
そして、待望の料理を口の中へと運んだ瞬間、あまりの香りのよさに思わず感嘆の声が漏れる。
咀嚼すると、肉汁が溢れ、肉の香ばしい香りとの相乗効果で俺の嗅覚と味覚を天国へと誘う。
ちょっと言いすぎかな? でも、それくらいおいしい料理なのだ。
「うんまっ!! エルマ、最高だよこの肉!」
「それはテルスバードの香草焼きだよ。 うち秘伝のソースを付けるともっとおいしいぜ!」
チキンぽいと思ってたけどやっぱ鶏肉か。
俺はエルマの言う秘伝のソースとやらを付けてもう一口食べた。
うん! ちょっとピリ辛でまた別の料理のような感じになる。サルサソースに似てるかも。
「このスープも優しい味でおいしいですね」
セレイナがスープを飲んで頬に手を当てている。
「それは季節野菜をふんだんに使ったんだ。 乾燥させた海草とメイラスって魚の干物から出汁を取って、アクセントに腸詰めを薄く切って風味付けしてる。肉料理がこってりしてるから味はあっさり目にしたよ」
どれもこれも文句なしの味だ、彼に来てもらって本当に良かったと思う。
エリーダさんも食卓へきて一緒に食べている。 顔色も赤みがかっていて血色がいい。
「エリーダさん、体調はどうですか?」
「ええ、アキノさんが持ってきてくれた薬を飲んだら、咳も落ち着いて身体がポカポカしてます。歩いてもふらつかなくなりました」
「私の生命調整にかかれば、大抵の病気はちょっとした風邪みたいなものです!」
アキノが胸を張って得意げにしている。
本当に俺の従者たちは心強い、みんな最高だ。
「なんだアキノ、それ食わないのか? いただき!」パクッ
「あ―――!! メルティナ!! 最後に食べようと取っておいたのに!! 返せ!!吐き出せ!!」
「こら二人とも! 凛人様の前よ、食事は静かに取りなさい!」
「リヴィア隊長! メルティナがあたしの取った!!」
み、みんな最高だ。
――賑やかな食事も終わり、俺は窓を開けて涼んでいた。
「リント様、沐浴の準備が整いました」
「ありがとう。 フェリドゥーンはなんで食べなかったの?」
「私は片づけ次第、後から頂かせてもらいます」
「そう、執事の習慣かな?」
「そのようなものです」
明日は王様との謁見だ。
メイさんやエディアノイさんから星骸のことは聞いてるだろうし、何を聞かれるのか少し緊張する。
ただの平の編集者だった俺が王様と謁見だなんて、なんだか笑えるな。
吉と出るか凶と出るか。明日は主らしく気合いを入れて頑張ろう。




