第32話 料理人、見つけた!!
俺はドアを開けた。
目の前には、人相は悪いがそれなりに身なりの整った男と、屈強な男二人が立っていた。
「ん? あんたは誰だ? この家のもんじゃないだろう」
確か、残金は金貨2枚と端数。
とりあえず、この場はこれで交渉してみようと俺は思っていた。
「俺は知り合いのものです。――今持ち合わせが金貨2枚しかないので、今日の所はこれでなんとかなりませんか? 残りは数日中にお支払いしますので」
「…………ダメだな」
くっ、やっぱりだめか。
「これでも半年は猶予をやったのだ、親父を見つけてこいってな。 これ以上は待てん、今日中に耳を揃えて払ってもらうぜ」
……どうする。 不当な取り立てなら実力行使で助けられるけど、この人たちは見た目に反して筋が通ってる。誘惑に負けてお金を借りたのも父親だ。この人たちが無理やり貸したわけでもない。
「まあ、待ってやった利息分として金貨10枚払うなら考えてやっても…… ん?」
男の目は家の中のメルティナを見ている。
……なんかやばい感じがするぞ。よく当たる俺の勘が警鐘を鳴らしている。
「おい、そこのお姉ちゃん。ちょっと来なさい」
無表情のメルティナが男の前に歩いてきた。
「なんだよ、おっさん」
「おお、これは上玉じゃないか。気の強そうなところもそそる!」
男がメルティナを舐めまわすように見て、口の奥で唾液の糸を引かせながら理性の抜け落ちた笑みを浮かべている。
「よ、よし!こうしよう。 このお姉ちゃんをワシが買おう! それで借金はチャラだ。その上で金貨5枚払わせてもらうぞ!」
め、メルティナの拳に力が入っている。
これは早めに止めたほうが良さそうかも……
「てめえ……」
「どうだ? 金貨5枚だぞ、悪い話ではな……ぐえっ!!」
メルティナが男の胸ぐらをつかみ、宙に浮かせている。
「ぐええ! は、離せ!! お前たち、ワシを助けろ!!」
屈強な男二人がメルティナに襲い掛かるも、炎を纏った軽い手の一振りで男たちは吹き飛ばされた。
「な、なんだと!? わ、わかった!! 金貨2枚で良い!それで借金はチャラだ!!」
「おいおっさん。 私が………… 金貨5枚なわけねーだろぉぉ!!!!」
「ぎゃああああああああ!!!!」
メルティナは男を投げ飛ばし、向かいの家の壁を突き破って吹っ飛んで行った。
っておい! 怒ってる理由そっち!?
「フン、私を買うなら嘘でも金貨1万枚くらい言え、タコおやじ」
メルティナが笑顔で俺の方を振り向いた。
「金貨2枚で良いそうです! 凛人様!」
「いや良くないから!! こういうことはちゃんとしないと後々困るんだよ!!」
後ろでは、母親とエルマが抱き合って目を丸くしている。
ちょっと二人には刺激が強すぎたかな。メルティナもやり過ぎなんだよなぁ。
「あの人生きてるかな…… メルティナには手加減を覚えさせないと」
「リント様、でしたら止めたほうがよかったのでは?」
「あはは、メルティナを買うとか、俺も少し腹が立ってたからちょっとね」
「私はちゃんと手加減しました、偉いですか?凛人様!」
それはそうと……
父親が腕のいい料理人か。エルマや母親はどうなんだろう。
もしそうだとしたら――
「あの、お二人は料理とか得意だったりしませんか?」
「わ、私は家庭料理なら。 エルマは幼いころから父親の手伝いをしていたので、それなりにできると思います」
「母ちゃん、それなりじゃないよ。親父がギャンブルにハマってる時、ほとんど俺が料理を出してたんだぜ?」
「ってことは、料理が得意なのか?エルマ」
「うん、いつか俺も料理屋をやってみたいんだ」
よし! ビンゴ!!
仕事を探してるけど雇ってもらえず料理が得意。今のところ、これ以上の人材はいない!
もちろん給金もきちんと出すつもりだ。
「なあエルマ、俺のところでさ、住み込みで料理人として働く気はないか?」
「え!? 俺が兄ちゃんの所で?」
「ああ。 ちゃんと給金も出すし、うちには医療に長けた侍女もいるから母さんのことも見てもらえる。 悪い話じゃないと思うぞ」
「母ちゃん」 エルマは母親の方を振り返った。
一人では決められないので、母親の言葉を待っているんだろう。
「そんな…… そこまでお世話になってよろしいのでしょうか。 借金のことも……」
「いえいえ。ちょうど料理人を探していたのでこっちとしても助かります」
「――では、よろしくお願いします。私はエリーダと申します」
「瀬川凛人です。よろしくお願いしますね」
よし、これでこの件は解決だ。
あとは……何か忘れているような。 ――あ! あの男のことを忘れていた!
俺はメルティナに投げ飛ばされた男の下へ急いだ。
「し、失礼しまーす」
壁を壊された民家に頭を下げながら入らせてもらう。 突然のことで驚き、慄いている住人に謝罪をしながら、倒れている男へ歩み寄った。
「あ、あででででで……」
よかった、何とか生きている。
頭から血を流し腕や足が変な方向に折れ曲がってはいるが、意識はあるようだ。
俺は男を治療してあげた。
「あでで…… あれ? い、痛みがなくなった!」
「うちの侍女がすみません。 ちょっとだけ短気なもので」
「――き、貴様!! ワシにこんなことをしてタダで済むと思っているのか!? うちの組織を敵に回すとはいい度胸……だ…… あわわわ」
ん? 男が怯えている。
後ろを振り返ると、渦巻く炎を纏ったメルティナが男を睨みつけていた。
「組織だと? 数は1000か?2000か? いつでも吹き飛ばしてやるからかかってこい。一度出した言葉は引っ込めるんじゃねーぞ?」
「ひ、ひやああ――!!」
男は失禁をして怯えている。
そりゃ、この攻撃的なマナにあてられたら、普通の人はたまったもんじゃないな。
それなりの冒険者でも戦意を削がれるだろう。
「お金はきちんとお支払いします。 2日だけ待ってもらえますか?」
「わ、わかった!! わかったからその女をワシから遠ざけてくれ!!」
これで全て解決だな。
買い物を済ませたら、さっそくエルマに腕を振るってもらおう!




