第27話 五百年でも千年でも一緒にいてよ
彼から放たれている電撃が爆ぜるたび、空気を鋭く振動させる。
凄すぎる…… 魔族との戦いで、光の矢を放った時のセレイナを凌駕する覇動。
そして彼から感じる、荒れ狂う暴風のように渦巻くマナ。
彼と敵として対峙した五百年前の魔族は、さぞ絶望しただろうな。同情する。
――彼から放出されていた雷電が収束していき、やがて空が青さを取り戻していく。
フェリドゥーンは俺の下へ降りてきて跪いた。
「――我が新しき主よ。私はあなたを護り、敵を屠る迅雷の矛となりてお傍に仕えさせていただきます」
彼は、本当にこれでよかったのだろうか……
俺に跪く彼を見て、切なくやるせない感情が胸を少しだけ重くさせた。
だから……
「――俺からの最初の望みを言うね」
「はい。なんなりと」
跪くフェリドゥーンの目線の高さに、俺も合わせる。
「フェリドゥーンがそうしたいと思った時、いつでもリンスデール伯爵の力になってあげてほしい」
「――かしこまりました。リント様」
彼は、「よろしいのですか?」なんて聞き返すこともなく、ただ一言、そう言葉を返してきた。
俺がフェリドゥーンにできることは、今はそんなことしかない。命令や使命に縛られず、彼自身の感情で生きてほしい。そう思った。
結界を解いたセレイナが俺の所にやってきた。
「私は、凛人さんと出会えて本当に良かったと思っています。心から――」
その言葉。向うでの四十年の人生でも誰かに言ってほしかった……
笑顔の裏で、孤独だった中年の心が涙を流していた。
でも、――でもだ。今それを言ってくれたのは何を隠そうセレイナである。彼女からの一言はこれまでのモテなかった人生をすべて清算しても、大量のお釣りがくる。
「最後に良い物を見せてもらったよフェリドゥーン。僕の所にいた君も無類の強さだったけど、今の君はその何十倍もすごい存在だ」
フェリドゥーンは、アルムレット様に対する接し方に少し戸惑っているようだった。
主が俺に代わったからだろう。彼らにとっての主ってのはそれだけ重要なんだ。
だから、俺はそっと伝えた。
「フェリドゥーン。人間のさ、一度つながった絆って簡単に切れたりしないんだよ。アルムレット様は君の親みたいなもんだろ?今まで通りに素直に接すれば良いと思うよ」
「――ありがとうございます。そうさせて頂きます」
フェリドゥーンはアルムレット様に近づき、跪きはしないものの優しく、真摯に声をかけた。
「アルムレット様、今後も何かあれば必ず俺が力になります」
「ありがとうフェリドゥーン。――力になるというのなら、さっそく元主のお願いを一つ聞いてくれるかな」
「なんでしょうか」
「このレイリアス家を、君に継いでほしいんだ」
突然のアルムレット様の申し出に、フェリドゥーンは驚きを隠せないでいた。
もちろん俺も驚いたよ。
フェリドゥーンがリンスデール伯爵に!? ってことは、その主である俺は……いったい何なんだろう。
「君は街の人々にも好かれているし信頼も厚い。きっと私よりもいい領主になると思う。君のその人柄と人知を超えた力で、この領地を守ってくれないかい?」
フェリドゥーンは何か引っかかっているような、浮かない表情をしていた。
「アルムレット様、俺は役目を終えたらまた封印され消えていく存在です。そんな俺に領主なんて……」
俺はフェリドゥーンの肩に手を置いた。
「大丈夫。俺はセレイナもフェリドゥーンも封印なんてしないから」
「リント様――」
「仮にこの星を救うことが出来ても、そのあと俺一人じゃ寂しいしさ。一緒にいてほしいって言うのも、主の俺が必要としてるって事でしょ? 五百年でも千年でも一緒にいてよ」
俺の言葉に、フェリドゥーンは黙ってうなずいた。
それに、それはフェリドゥーンの為だけっていうわけじゃない。俺自身の願望でもあるんだ。
この星を救う。その役目が終わった時、セレイナと会えなくなるなんて俺が嫌だった。
一緒にいたい。五百年でも千年でも……
星を救ったんだ、それくらいのわがままは聞いてもらうつもりだ。
「話はまとまったようだね。この体では王都への旅は無理だから、フェリドゥーンのことについては、王へ上奏文を送るよ。アルメデウス王ならわかってくれるはずだ」
「あ、それなら俺が持って行きます。ちょうど、約三日後に王城へ呼ばれているのでその時に」
「それなら話が早い。今書いてくるから少し待っててもらえるかな?」
アルムレット様は、イリアに車椅子を押されながら屋敷へと入って行った。
俺たちも応接室へと移動して待っていると、十分ほどで手紙を携えたアルムレット様が応接室へとやってきた。
俺は手紙を受け取る。
白い紙に封蝋がされているシンプルなものだ。
「頼んだよ、リント君」アルムレット様の言葉に、俺は「はい」と力強く返事をした。
フェリドゥーンも、アルムレット様と短い会話を交わした。
そして、イリアへ目くばせをして二人はうなずいた。
言葉はなくてもって感じだ。そういう関係性ってうらやましいなと俺は思った。
庭園へ出た俺たちはさっそく出発の準備をする。
俺はまたセレイナの肩に掴まり、セレイナはふわりと羽のように宙へ浮かぶ。
「フェリドゥーンは大丈夫?」
「私なら心配いりません。エブンズダールでしたよね、向うでお待ちしております」
「え、向こうでって――」
そういった刹那、静電気のようなスパークを残し、フェリドゥーンの姿は忽然と消えていた。
「き、消えたよ!」
「フフ。フェリドゥーンならもうエブンズダールに着いています。私たちも急ぎましょう」
「え! も、もう!?」
情報の整理が追い付いていない俺をしり目に、セレイナはエブンズダールへと向けて飛びあがった。
屋敷の扉の前では、アルムレット様とイリアが飛び去る俺たちを見上げていた。
「イリア。僕はね、フェリドゥーンがこの先何を成し遂げるのか、見てみたかったよ」
「はい…… お体に障りますのでお部屋に戻りましょう。アルムレット様」




