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第26話 第二の星骸、雷煌フェリドゥーンの復活

 俺とセレイナは、フェリドゥーンと一緒に馬車に揺られていた。

 伯爵家のものだろう、なかなかに豪華な装飾が施されている美麗なキャビンの馬車だ。


 街の中心部を走る馬車の中から、俺は外を眺めていた。

 道行く人たちの顔は明るく、活気のある街だ。


 きっといい領主なんだろう。治めている人間の人柄が、街の雰囲気から手に取るようにわかる。


「あ、フェリドゥーンさんだ!」

「フェリドゥーンさん!」

「フェリドゥーン様!」


 馬車に気付いた人たちが、老若男女問わず笑顔を向け、こちらへと手を振っている。

 女性たちからの黄色い声も聞こえる。


 車内では無言だったフェリドゥーンも、街の人々には笑顔で応えている。

 彼の人徳なんだろうか、住民たちからとても慕われているようだ。



 馬車は繁華街を抜け、開けた場所へ出ると小高い丘を登っていく。


 フェリドゥーンは相変わらず一言もしゃべらないので、なんとなく車内の空気が重く感じてしまい落ち着かない……

 セレイナにちらりと視線を送る…… 彼女は別に気にしていないようだ。

 俺も気にしないようにしようと、窓の外へ視線を向けた。


 ――頂上にひっそりと佇む屋敷が見えてきた。


 馬車は門先に停まった。年季の入った…… 良く言えば歴史を感じさせる外観の屋敷だ。

 庭園は良く手入れが行き届いていて、とても景観が良い。


「応接室に案内しよう」


 そう一言告げると、フェリドゥーンは馬車から降りて行った。

 俺とセレイナもフェリドゥーンの後に続く。


 アプローチを歩いていると、扉から一人の女性が出てきた。


 若緑色の髪を肩まで伸ばした、メイド服がよく似合う綺麗な若い女性だ。


「お帰りなさいませ、フェリドゥーン様」

「ああ、ただいまイリア」


 ――あれ?

 彼女へ向けるフェリドゥーンの目がとても優しく感じる。先ほどまでの思考を読みとれない堅固さはなく、柔らかく慈しむような視線だ。


 フェリドゥーンは屋敷の奥へと進み、イリアというメイドの女性が俺たちを招き入れ、案内してくれた。


 「ここで話そう」フェリドゥーンは応接室の前に立ち止まり、「客人にお茶を」と、イリアに指示をした。


 応接室に入り、フェリドゥーンに促されソファへと腰を下ろすと、彼が口を開いた。


「――俺は、()()君たちと一緒に行くことはできない」

「リンスデール伯爵ですか?」

「そうだ。 ――俺はこのレイリアス家と200年という長い年月を共にしている。エンドール様に復活させて貰ってから今日(こんにち)まで」


 フェリドゥーンは横に視線を送った。

 壁には、歴代の当主と思われる肖像画が飾られている。フェリドゥーンは、何かを思い出しているような眼差しで、その肖像画たちを見つめている。


「現当主のアルムレット様はもう長くはない。俺には、このレイリアス家の最後を見届ける責務があるんだ」

「――その話なんですが、俺の力で何とかならないでしょうか。俺は回復魔法とは違う方法で治癒することが出来ます。病気を治せるかはわかりませんが」

「いや…… アルムレット様は病気ではない。寿命が近いんだ」


 寿命か……

 さすがにそれは無理だろう。若返らせることは俺にはできない……


「なぜ君が落ち込むんだ、俺を仲間にしたいんだろう?主を失えば、君が次の主になれるんだぞ?」

「――フェリドゥーンさんにとって、とても大事な人だと思ったので……」

「……君はどこまでも人が良いんだな」


 フェリドゥーンは、初めて笑顔を見せてくれた。


「俺に再び光をくれたエンドール様をはじめ、レイリアス家は私を粛正する兵器ではなく、個として、一人の男として尊重してくれた。その恩に報いるためにも、最後まで仕えたいんだ」


 俺の中に葛藤が生まれた。

 彼を兵器のように扱おうとは思わない。だけど、俺の行こうとしている道には、避けて通れない戦いがあるかもしれない。

 平穏を手にした彼を、再び戦いの場へ連れ出してもいいのだろうか――


 その時、部屋のドアが開いた。


「ついて行ってあげなさい。フェリドゥーン」


 イリアに車椅子を押されながら、アルムレット様が部屋へと入ってきた。


「アルムレット様!横になっていなくては、お体に障ります」

「大丈夫だよフェリドゥーン。話は聞かせてもらっていた、彼らについて行ってあげなさい」

「で、ですが……」

「人には、必ず与えられた使命というものがある。君たち星骸は尚のこと特別な存在だ。自らの使命を全うしなさい、彼にならついて行ってもきっと大丈夫だよ、フェリドゥーン」


 アルムレット様は、セレイナの所へ自分を連れて行くようにイリアに頼んだ。


「おお……」


 セレイナを見ながら、アルムレット様は感嘆の声を漏らした。


「なんて素晴らしいんだ。――これが星骸と呼ばれる存在の本当の力なんだね」

「アルムレット様、セレイナの力がわかるんですか?」

「――私の一族はね、自然のマナを借りることができる特殊な力を持っているんだ。だから相手のマナを感じ取れるし、フェリドゥーンのこともこの世界に維持できているんだ」


 自然のマナを借りる。俺と似たような感じなのかな?


「でもね――」


 アルムレット様はフェリドゥーンを見ながら話す。


「それは人の域を逸脱した範囲ではなくて、あくまで人が内包できる範囲内での力でしかないんだ。だから、フェリドゥーンの力はそこの女性よりだいぶ弱いだろう?」


 なるほど。自然のマナを借りられるから星骸を維持はできるけど、星骸が本来の力を出せるほどのマナを提供できないというわけか。

 星骸の力は、主のマナの受け入れ量に依存するらしい。


 ――だとすると、俺が内包できるマナの総量を上げることが出来れば、セレイナ達はもっと圧倒的な存在になれるのかも。


「フェリドゥーン。私はね、死ぬ前に君の真の力を見てみたい。本当の君を見てみたいんだ」

「……アルムレット様」

「主の最後の()()を聞いてくれるかい?」

「――わかりました。最後の望みに……応えさせていただきます」

「ありがとう。ずるい頼み方をしてすまないね、フェリドゥーン」


 アルムレット様が両手を広げて息を吐くと、身体から薄い緑色の粒子が舞い始めた。

 フェリドゥーンはアルムレット様の前に来て跪く。


 アルムレット様の手の平がフェリドゥーンの額に触れたその時、フェリドゥーンの身体が眩い光に包まれ、その光がアルムレット様の手の平へと移動していく。


 それと共に、フェリドゥーンの身体は徐々に透明になっていき、アルムレット様の手の平の光の中へと消えていった。


 ――ゴトン


 光が落ち着くと、見覚えのある石の玉が床に転がっていた。

 セレイナの時と同じものだ。


「はぁ……」


 アルムレット様の肩と頭が、力なく前に垂れた。


「アルムレット様!無茶はおよしになってください!」イリアが肩を支える。


「大丈夫だよイリア。 ――庭へ移動しようか」



 俺たちは庭園へと移動した。


 俺は紋様が刻まれた石の玉を庭園の中央に置いた。


「少し離れていた方がいいかもしれません」セレイナがアルムレット様たちに声をかけ、二人は庭園の端へと移動した。


「いくよ」


 俺は犬歯で親指をかみ切り、血を滴らせながら石の玉へと触れた。



 ――石が光出す。

 そして、セレイナの時と同じく、生きているかのように脈動を始めた。


 その瞬間、石の玉から激しい稲妻が天へとほとばしり、俺は後方へと吹き飛ばされた。


 晴れていた空が曇天に沈み、そして暗雲が垂れ込める。


 天へ駆けた稲妻は四方へ拡散し、庭園全体を、轟音とともに激しい落雷が襲う。


「おわあぁ――――!!!!」


 俺は慌てて大気中のマナを纏い、身を守った。


 セレイナは白透明なシールドで二人を保護している。



 落雷により地中深く抉られた地面から、彼は四散する稲妻と共に宙へ浮かび上がってきた。




 雷神……




 まさにそう呼ぶに相応しい姿。


 彼の金色の瞳は雷光のように輝き、目の前のすべてを無自覚に威嚇する。



「ああ…… 素晴らしい。これが、本当の君なんだねフェリドゥーン」

「はい。 ――これが、雷煌と呼ばれた彼の姿です」



 アルムレット様は涙を流し、渇望したフェリドゥーンの雄姿に少年のような眼差しで心を奪われていた。


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