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第19話 凛人、覚醒の片鱗

 地下道には、彼女の泣き続ける声が響いていた。

 パーティの二人は、固まり合ってイーレの復活を喜んでいる。 ……ん? 三人?

 そういえば、ナイルの姿が見えない。彼は別任務なのだろうか。


「すごいです凛人さん!アストラル・ヒールでも無理な怪我を治癒するなんて!」

「いやぁ……なんかコツを掴んじゃってさ。ハハハ」


 ってそんな場合じゃない!ユリア様だ!

 ユリア様も大怪我をしている。早く見て差し上げないと。


 二人の元へ俺たちは駆け付けた。セレイナは、彼女の傷を見て神妙な顔をしている。


「どうしたの?セレイナ」

「この傷には、闇属性の魔力が大量に混ぜ込まれています。私のヒールでは……」


 じゃあ、俺のはどうだろう。もしかしたら……

 そう思って俺流の治癒を試そうとしたが、黒い魔力に阻まれ、マナを同化しようとしても弾かれてしまう。


「クソ!だめだ!」


「ママの目…… 治らないの?」

 フローラ様が不安そうに尋ねてきた。

 こんな時、どう気の利いた言葉をかけていいのか俺にはわからなかった。ただ一言。


「絶対に治すから!」


 と俺は答えた。根拠はない、ただ、そう答えるが精いっぱいだった。

 フローラ様は薄く微笑んでくれた。その返答は、その場に限っては間違いではなかったと思いたい。


 落ち着いた銀狼の二人がこちらに歩いてきた。巨漢の男性はイーレを抱きかかえている。まだ目を覚ましてはいないようだ。


「リント君、本当にありがとう。この恩はいつかきっと返すわ、何があっても」

「いえ、これも何かの縁ですから、気にしないでください」

「そんなわけにはいかないわ! あ、そういえばギルドでも自己紹介してなかったわね。私はアイラ」

「モントンだ。本当に感謝している、ありがとう」


 二人が言うには、俺はイーレにただ触れていただけに見えたらしい。

 周りからはそう見えるのか。確かにセレイナが使うヒールは、光が出たり神々しいもんな。

 俺のは……性能の割に見た目はちょっと地味なのかもしれない。


「そういえば、ナイルさんの姿が見えないんですが」


 アイラは深刻な顔つきに戻り、経緯を話してくれた。


「ナイルは、自分を身代わりに、私たちを逃がしてくれたの……」

「じゃあナイルさんは!?」

「ええ…… 魔族の女と戦っているはずよ」

「じゃ、じゃあ早く戻らないと!」

「わかってる! わかってるけど…… 私たちじゃ、戻っても共倒れになるだけ…… 戻ったら、ナイルの覚悟が無駄になってしまう……」


 アイラさんは悔しそうに涙を流し、震える拳を握り締めている。本当は今すぐにでも戻りたいんだろう。


 だとしても、ナイルさんにはエレオナさんと言う奥さんもいる。助太刀しないわけにはいかない。


「俺が行きます!」

「だ、ダメよリント君!あなた、剣士かパグナリスト(拳闘士)でしょ!?あの魔族には物理攻撃は無駄なのよ……」


「大丈夫です」


 俺は空中に炎の塊を何個か出して見せた。


「俺はウィザードです。ナイルさんは俺が助けます!」


 二人は口を開けて驚いている。


「私もご一緒します。凛人さん」

「いや、セレイナはみんなを守ってあげて」

「ですが……」

「これは俺の()()だよ。頼むセレイナ、みんなを守ってあげてくれ」

「……わかりました。本当に……お気をつけてください。凛人さん」

「ありがとう。セレイナ」


 俺は松明(たいまつ)を受け取り、地下道を奥に向かって走り出した。


「ウィザードなのに、スナッシュを殴り飛ばして勝ったの?……それに空中に炎だなんて」

「うむ。不思議な青年だ」


 



 ――ナイルは、セルドの鋼鉄の鞭を剣で受け続けていた。

 全身に、痛ましい切り傷が無数に刻まれている。


 しかし、セルドが全く本気でないことはわかっていた。


 あの女はただ単調に、一定のリズムで帯の鞭を打ち続けてきているだけ。

 それなのに近づくことさえできない…… まあ、近づいたとして、どうしようもないんだけどな。ナイルは自分の無力さを笑った。


 またセルドの鞭が、鋭い風切り音を鳴らし襲い掛かる。なんとか剣で受け止めるが、一発一発が、岩でもぶつけられているように重い。

 ナイルの剣は、持ち主の反撃を待たずして、すでにボロボロになってきていた。

 自身も同じだ。息も切れ、無数の切り傷からの出血で、立っているのもやっとの状態だった。


「……あの意気込みからして、何か秘策でもあるのかと思って様子を見ていたが。何もないのか?Aランクと言うのはこんなにも弱いのだな」

「くっ…… クソがぁ――!!!!」


 挑発されたナイルが、決死の反撃に出る。

 しかし、セルドは鞭を振るのをやめ、無防備な状態でそれを見ている。


 ナイルの剣がセルドの身体を切り裂いた。しかし、案の定セルドは何事もないように、その場に立っていた。


 ナイルはフラフラと数歩下がると、ついに膝をつき、うなだれる様に肩で息をしていた。


「クソったれ……なんなんだよお前の身体は!」

「私の身体は()()()()()だ。斬撃も打撃も、私には意味を成さない」


 そう言いながら、セルドは自分の手を身体の中にズブズブと入れて見せた。


「冥土の土産に一太刀入れさせてやったのだが。満足したか?」

「へっ……好きにしやがれ、化け物め」


 セルドの帯の鞭が生き物のように動き出し、ナイルの腹部を貫いた。





「…………誰だ?」


 セルドは俺の方を振り向かずに尋ねてきた。


 少し遅かったか。俺が着いたのは、ナイルさんが前のめりに倒れた瞬間だった。だけど……


「お前は誰だと聞いている」


 自分の横を無言で通り過ぎる俺に、セルドはもう一度尋ねた。


 俺は松明(たいまつ)を置くと、伏しているナイルの身体に手を触れ、立ち上がった。

 少し遅れてナイルが身体を起こす。そして、その場に胡坐をかいて座った。


「お前……いったい何をした?」

「治させてもらった。知り合いには、なるべく死んでほしくないんだよ」

「……治した?」


 この世界は過酷で残酷だ。これから先、全員を救うことはできないだろう。でも、せめて手の届く範囲の命は拾い上げたい。


「お、俺は死んだんじゃなかったのか……?」


 ナイルさんは少し混乱している様子だ。致命傷を負い意識が途切れ、目覚めたら無傷の自分がいる。

 混乱しても仕方がない。


「無事でよかったです。ナイルさん」

「お、お前、リント……なのか?」


 ギルドの時と装備している鎧が違うので、声を聴くまで気づいていなかったようだ。


「あいつは俺が何とかします。下がっていてください」

「何とかって。リント!あいつは……!!」


 俺は強く地面を蹴り、飛び出していった。スピードは速い方だと自負している。

 セルドも帯を鞭のようにしならせて俺を迎え撃つ。


 セルドの鞭は予想よりも速かった。紙一重でかわしたつもりが俺にかすり、鎧の肩当てが吹き飛んだ。

 俺は拳を握り締め突進する。セルドは、またもや無防備な状態となり、俺を迎え撃つ。


 渾身の右ストレートがセルドに直撃する。セルドの腹部は弾け飛び、大きな風穴が空いた。


 俺は違和感を覚えた。スナッシュの時と違い、拳に手ごたえがない。

 セルドがにやりと笑うと、真横から意志を持ったような動きで、帯状の鞭が俺を襲う。


 何とか回避の体制を取ったが、帯状の鞭は、俺の左腕を貫通する。


 「くっ……!!」痛みに顔を歪ませながら、俺はセルドの顔をめがけて拳を打つ。しかし、またも顔が液体のように飛散し、俺の拳は空を漂うだけだった。


 一旦距離を取り、自分を落ち着かせる。


「リント!あいつには斬撃も打撃も効かねえんだ!」

「……その通りだ」


 セルドの顔がどろどろと元に戻っていく。


「鎧を着ているから剣士だと思ったが、パグナリスト(拳闘士)だったか。どちらにせよ無駄な事だ」


 俺は、「ふぅ……」と息を吐いた。


「なるほどね。みんなのお礼に一発殴りたかったんだけど、やっぱり無理か。 あとさ……」


 俺は空間に無数の炎の玉を出した。



「俺は、パグナリストじゃない。 ウィザードだ!」


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