表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校で成績優秀生の完璧超人の義妹が俺に隠れて、VTuberとしてネトゲ配信してたんだが  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

テスト後の休憩

「疲れた……疲れた……」


 五時間目のテストが終わった瞬間、俺の体はスライムのように机に崩れ落ちた。


 数学、英語、国語、理科、社会。一日で五教科全部とか、正気の沙汰じゃない。最後の社会なんて、途中から何を書いてるのか自分でも分からなくなった。


「そうだね〜、疲れたね〜」


 不知火が俺の隣に来て、心配そうに覗き込んでいる。


「京極くん、大丈夫? 顔色悪いよ?」


「大丈夫じゃない……脳みそ溶けた……」


「ははっ、お前弱すぎだろ!」


 一方、優作は自信満々な表情で胸を張っている。


「俺は余裕だったぜ! 満点間違いなし!」


「その自信はどこから来るんだよ……」


 俺は呆れながら顔を上げる。


 教室を見回すと、みんな疲れた顔をしている。ある者は机に突っ伏し、ある者はぼんやりと窓の外を眺めている。


 その中で――一人だけ、異様に余裕のある人物がいた。


「それにしても、お前の妹さんは相変わらずの人気だな。それに、すごく余裕そうだし」


 優作が視線を向けた先には、涼香がいた。


 友人たちに囲まれて、優雅に微笑みながら談笑している。疲れた様子など微塵もない。背筋はピンと伸び、所作の一つ一つが品がある。まるでテストなど朝の準備運動程度だったかのような余裕ぶりだ。


 ……あいつ、昨日夜中まで配信してたよな?


 確か、配信が終わったのは夜の十時過ぎだった。それから勉強したとしても、そんなに時間はなかったはずだ。しかも、配信中は「お兄ちゃん」「お兄ちゃん」言いまくってたくせに。


 どうなってるんだよ、あいつ。


「涼香さん、本当にすごいよね」


 不知火が感心したように言う。


「勉強もできて、スポーツもできて、みんなから慕われて……完璧超人って感じ。それに、すごく上品で」


「……まあな」


 俺は曖昧に答えた。


 完璧超人。確かに、周りから見ればそうだろう。でも、俺は知っている。涼香の別の顔を。夜中にゲームをして、視聴者を笑わせて、時々ゲームオーバーになって悔しがる、普通の女の子の顔を。そして、俺への想いを配信中に隠さず言葉にする、ブラコンな妹の顔を。


「そういえば」


 不知火が思い出したように言った。


「今日はもう終わりだけど、帰りにどこか行ったりする?」


「おっ! それじゃあファミレスにでも行かね?」


 優作が即座に反応した。


「昼飯まだだし、腹減ってんだよ!」


「いいな、それ」


 俺も頷く。テスト後にみんなでファミレス。定番だけど、悪くない。


「じゃあ決まりだね。三人で行こう」


 不知火が嬉しそうに笑った。


 俺たちはカバンを持って、教室を出ようとした。


 その瞬間――。


 視線を感じた。


 振り向くと、涼香と目が合った。


 一瞬だけ。本当に一瞬だけ。


 涼香は何か言いたげな表情をしていた。優雅な微笑みの裏に、どこか寂しそうな光が宿っている。でも、すぐに友人の方を向いて、完璧な笑顔を作った。


 ……気のせいか?


 首を傾げながら、俺は教室を出た。


 ※ ※ ※


 学校から歩いて十分ほどの場所にあるファミレス。放課後の時間帯だから、学生でそれなりに混んでいる。


 俺たちは窓際の四人席に座った。俺と優作が向かい合って、不知火が俺の隣に座る。


「何食べよっか」


 不知火がメニューを開く。俺と優作もそれに続いた。


 ハンバーグ、パスタ、カレー、グラタン。どれも美味そうだ。テスト後の疲れた体には、ガッツリした食事が欲しい。


「じゃあ、俺はボロネーゼのパスタで」


「俺はカツカレー! 大盛りで!」


「私は……エビグラタンにしようかな」


 注文をタブレットに入力する。数分で料理が来るだろう。


「っていうか、健星」


 優作が急に真面目な顔で言った。


「お前、いいよな」


「……なんだよ、いきなり」


「だって、あんな可愛い妹さんがいてさ。羨ましいぜ、マジで!」


 ああ、またこの話か。


 俺はため息をついた。


「あのなあ……」


「いや、マジで! あんな美少女と一つ屋根の下で暮らせるんだぜ? 言うなれば、女優と暮らしてるようなもんじゃん!」


「お前、想像力豊かすぎだろ……」


 優作の興奮ぶりに、俺は頭を抱える。


 確かに、傍から見れば涼香は完璧超人で美人な妹だ。そう見られても仕方ない。


 でも、当事者にしか分からない苦悩ってものがあるんだよ。部屋にカメラつけられてるとか。


「あのな、こっちも妹に色々言われたりして大変なんだぜ」


「京極くんの言う通りだよ」


 不知火が優しくフォローしてくれる。


「男の子と女の子の兄妹って、色々と大変らしいよ。思春期だと特にね」


「でもよお!」


 優作は諦めない。


「あんな美少女が家にいるってだけで、俺なら毎日幸せだぜ!」


「はいはい、分かったから……」


 この話題、いつまで続くんだ。


 そんな時、店員さんが料理を運んできた。


「お待たせしました。ボロネーゼのパスタ、カツカレー、エビグラタンです」


「ありがとうございます」


 俺たちは料理を受け取って、「いただきます」と手を合わせた。


 熱々のパスタにフォークを刺す。トマトソースとひき肉の香りが食欲をそそる。


「うまっ」


 一口食べて、思わず声が出た。テスト後の疲れが、少しだけ和らぐ気がする。


「てか、話変わるけどさ」


 優作がカレーを口に運びながら言った。


「昨日の『さすまた』の配信、なんか見やすくなってなかった? しかも、いつもより『お兄ちゃん』って言う回数増えてた気がする」


「……っ」


 俺はフォークを止めた。


 心臓がドクンと跳ねる。


「そう? どんな風に?」


 不知火が首を傾げる。


「なんていうか、配信画面のレイアウトが整理されててさ。コメント欄も見やすくなったし、ゲーム画面も大きく表示されてて。あと、音質も良くなった気がする。それと、『お兄ちゃんならこうする』とか『お兄ちゃんと一緒にプレイしたい』とか、いつもよりブラコン全開だった」


 全部、俺がやったことだ。そして、全部俺のことだ。


 昨日の夜、涼香の配信の裏方をしながら、配線を整理して、画面レイアウトを調整して、音声レベルも細かくチェックした。涼香は俺が部屋にいることで、いつもより嬉しそうだった。


「へえ、そうなんだ」


 不知火が興味深そうに言う。


「裏方でも雇ったのかな? 確か『さすまた』さんって、個人勢だよね? それに、お兄ちゃんって本当にいるのかな」


「だよな! 俺も裏方に回りてえ! それに、お兄ちゃんが本当にいるなら会ってみたい!」


 優作が目を輝かせる。


「いや、無理だろ」


 俺は平静を装って言った。


「あれ、色々とめんどくさいんだぞ。配線とか、音声調整とか、画面レイアウトとか……」


 言いながら、昨日の作業を思い出す。涼香に指示されながら、あれこれ調整した時間。めんどくさかったけど、意外と楽しかった。涼香が俺を頼りにしてる感じが、悪くなかった。


「……なんでお前、そんなこと知ってんの?」


 優作が不思議そうな顔で俺を見た。


 しまった。


 裏方の仕事なんて、当事者しか分からないことだ。


「え、いや、その……」


 俺は言い訳を探す。頭がフル回転する。


「まあでも、私もテストが終わったら見てみるよ」


 不知火がすかさずフォローを入れた。


「『さすまた』さんの配信、面白いって聞くし。京極くんのおすすめとか、教えてね」


「あ、ああ……」


 助かった。


 ナイス、不知火。


「絶対面白いから! 気になったら、いつでも聞いて!」


 優作が熱く語り始める。


 俺は内心でホッと息を吐きながら、再びパスタを食べ始めた。


 そんな会話をしていた時だった。


 ファミレスの入口から、チャリンとベルの音が鳴った。


 それ自体は、何の変哲もない日常の音。


 でも――。


 店内の空気が、一瞬で変わった。


 ざわざわとした話し声が、急に静まる。


 何人かの視線が、一斉に入口の方を向く。


「……なんだ?」


 優作が不思議そうに振り向いた。


 俺も、釣られるように視線を向ける。


 そして――固まった。


「な……!?」


 思わず立ち上がりそうになる。


 入口に立っていたのは――涼香だった。


 数人の友人を連れて、涼香がそこにいた。


 制服姿のまま。長い茶髪を風になびかせて。優雅な歩き方で、まるでお嬢様のように。周囲の視線を集めながら、堂々とした足取りで店内に入ってくる。


 涼香の視線が――俺と合った。


 一瞬、涼香の表情が柔らかくなった。いや、確実になった。


 嬉しそうに、微笑んだ。


 でも、すぐに友人の方を向いて、いつもの完璧な笑顔に戻る。


 ……なんで、あいつがこんなところに!?


 心臓が早鐘を打つ。


 涼香たちは、店員に案内されて、俺たちから少し離れた――でも、俺の視界に入る絶妙な位置の席に座った。四人席。涼香と、見覚えのある女子生徒たち。


「わあ、京極くんの妹さんだ」


 不知火が小声で言った。


「偶然だね」


「偶然……かな」


 俺は小さく呟いた。


 偶然? 本当に?


 涼香がこのファミレスに来るなんて、今まで一度もなかった。それなのに、よりによって今日。俺たちと同じ時間に。しかも、俺が見える位置に。


 涼香は友人たちとメニューを見ながら、優雅に談笑している。上品な笑い方。丁寧な言葉遣い。完璧な優等生。


 でも、時々――チラリと、こっちを見ている。確実に見ている。


「おいおい、マジかよ」


 優作が興奮気味に言った。


「涼香さん、こんな近くにいるじゃん! ラッキー!」


「ラッキーって……お前な」


「いや、だってさ! あんな美少女が同じ店にいるんだぜ? これは神の采配だろ!」


「神関係ないから……」


 俺はため息をついて、再びパスタに向き合った。


 でも、フォークを口に運ぶ手が、微妙に震えている。


 落ち着け。落ち着け。


 涼香は友人たちと来ただけだ。俺たちとは関係ない。


 ……本当に?


 もう一度、チラリと涼香の方を見る。


 涼香は――こっちを見ていた。


 目が合う。


 涼香は、少しだけ困ったような、それでいて楽しそうな、そして少し寂しそうな表情をしていた。優等生の仮面の下に、本当の感情が透けて見える。


 そして、優雅に、でも小さく手を振った。友人たちに気づかれないように。


 ……おい。


 俺は慌てて視線を逸らした。


「京極くん、大丈夫? 顔赤いよ?」


「だ、大丈夫……ちょっと暑いだけ」


「そう? じゃあ、水飲む?」


 不知火が心配そうに水の入ったグラスを差し出す。


「あ、ありがとう……」


 俺は水を一気に飲み干した。


 冷たい水が喉を通って、少しだけ頭が冷える。


 ……ダメだ。動揺しすぎだ。


 涼香は、何を考えてるんだ?


 なんで、わざわざこんなところに?


 俺と不知火が一緒にいるのを見て、嫉妬してるのか?


 それとも、ただ単に俺の顔が見たかっただけなのか?


 頭の中が混乱する。


 そして――涼香の席から、優雅な笑い声が聞こえてきた。


 完璧な優等生の笑い声。


 でも、俺には分かる。


 その笑顔の裏で、涼香はこちらを意識している。


 『お兄ちゃん、私を見て』


 そう言っているような気がした。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ