幼馴染とのデート?
夕暮れの商店街を、俺たちは並んで歩いていた。
赤く染まる空の下、行き交う人のざわめきと焼き鳥の香りが混じる。
不知火は俺の隣で、肩が少し触れそうな距離を保ちながら歩いている。
その表情はどこか照れくさそうで、それでいて、どこか楽しげだった。
「こうやって二人きりで帰るのも、なんか久しぶりだね」
「あ、ああ……そうだな」
不知火の頬がうっすらと赤く染まっていた。
その横顔に、ほんの少しだけ心臓が高鳴る。
昔の記憶が、ふとよみがえった。
子どものころ、くだらないことで笑い合って、気づけば日が暮れていたあの時間。
あの頃から、俺と不知火はいつも一緒だった。
――だからこそ、今の距離感がやけにくすぐったい。
「な、なぁ。不知火。どこに行くんだ? 行きたい場所があるって言ってたけど」
「えっとね……もうすぐ着くよ」
そう言って、不知火は俺の手を軽く取った。
その一瞬、指先が触れただけなのに、頭が真っ白になる。
……今、手、握ったよな?
案内された先は、商店街の端にあるこじんまりとしたカフェだった。
外観は木目調で落ち着いた雰囲気。窓越しに見える柔らかな照明が、なんとなくロマンチックだ。
俺が固まっていると、不知火は微笑みながら、そのまま俺の手を離さずにドアを開けた。
「いらっしゃいませ! 二名様ですか?」
「はい、お願いします」
スタッフに案内され、二人で窓際の席に座る。
外の光がゆるやかに差し込み、テーブルの上には水の入ったグラスが置かれる。
不知火はメニューを開きながら、楽しそうに視線を泳がせていた。
その横顔を見て、俺は落ち着かない心臓を抑え込む。
デート……って、こういう感じなんだな
「ねぇ、京極くん」
「な、なんだ?」
「京極くんはさ……涼香さんのこと、どう思ってるの?」
唐突すぎて、息が詰まった。
なぜここで妹の話題を出すんだ。
視線を落とすと、水の表面が微かに揺れている。
「涼香は……俺の妹だ。それ以上でも、それ以下でもない。今のところはな」
「そうなんだ。でもね――」
不知火はコップを指先でなぞりながら、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「京極くんがそう思ってても、いつかは“決める”時が来ると思うよ」
「……言われなくても、わかってるさ。
あいつが俺をどう思ってるのか……本人から聞いたからな」
自分で言っておきながら、胸の奥が痛んだ。
すると不知火の手が、メニューのページで止まった。
「これ……可愛いね」
そこには、“カップル専用チョコパフェ♡”の文字が踊っていた。
デカデカと書かれた「恋人限定・チョコ増量」の文字が目に刺さる。
え、待て。それを、今、選ぶのか?
「ねぇ、私たちカップルっていう設定でこれ食べない? チョコ増量もできるって」
「そ、そうだな……お、お前がそれでいいなら……」
完全に押し切られた。
店員がオーダーを取りに行くと、テーブルの間に微妙な沈黙が流れた。
カトラリーの音と、カップルの笑い声が遠くに響く。
不知火はいつものおっとりした雰囲気を消して、テーブルの木目を見つめていた。
――まるで何かを言い出そうとして、迷っているように。
「……なぁ、不知火」
「ん?」
「なんで俺をデートに誘ったんだ?」
少し間があって、不知火がゆっくり顔を上げた。
その頬は桜色に染まり、瞳が揺れていた。
「それは……その、涼香さんを見てたら……我慢できなくなっちゃって」
「それ、どういう意味だよ」
「さぁ? どういう意味なんだろうね」
ふっと、悪戯っぽく笑う。
けれどその瞳の奥には、確かな決意のような光があった。
「でもね、私、京極くんといると安心するの。
だから今日は、勇気を出して……デートに誘ったの」
――勇気を出して? 俺を?
胸が一瞬、強く跳ねた。
だけど言葉が出ない。
沈黙が流れる。お互いの視線だけが交わっていた――その時。
「あら、奇遇ですね。兄さん」
柔らかな声が、空気を切り裂くように響いた。
その声の主――京極涼香が、カフェの入口に立っていた。
笑顔。完璧な優等生スマイル。
だけど目の奥は、笑っていなかった。
「私もご一緒してもよろしいですか? せっかく会ったのですから」
まるで、この瞬間を狙っていたかのように。
俺は椅子から立ち上がりかけ――言葉を失った。
不知火は一瞬だけ驚いた表情を見せたものの、すぐににっこりと笑う。
「もちろん。人は多い方が楽しいしね」
――パキン。
ガラスの割れるような、目に見えない音が響いた気がした。
不知火と涼香の視線が交錯する。
静かな笑顔の裏で、見えない火花が散る。
俺……この場所から、生きて帰れるのか?
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