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エルドラ プロローグ

――――――「そろそろ時期が来たわね。流れ始めたというのが、正しいかしらね。色々と伝えたいことがあるけれど、遅くはないはずよ。できれば連れて帰って欲しいのだけど、あなたも大事。良ければ一緒に帰ってきてほしいわ」夢の中。彼女の声がとぎれてゆく「頼んだわ」その声で、私の役目は予定された。



 静かなものだ。とても静かな夜を過ごしたのは久しぶりだ。


「こんなに違うのだな」


 普段の夜は、野宿に近いものだが、エルフの地形探知能力のおかげなのか、その力以上の何かなのか、周辺の音はとても落ち着いており、聞こえる獣の声はとても少ないものだった。

 役目を渡され、今回私はとある少年の回収に、このエルフの里へと足を運び一夜を過ごさせてもらった。大言造語を吐かないためにも、この約束を果たすべく私は動いている。


 役目の目的は、エルフとの交渉。祭りの日までに里にご案内。二つの役目と共に生きて帰る事。


 今朝、祈りの歌が綺麗にまとまった音程で聞こえてくる。この音程と願いは何年たとうとも、綺麗に造られていることからも、これらは長続きすることがわかる。とても愛され大事に扱われていることも、感じ取れる。


 夜の出来事を思い返し、果たして彼女エルフの族長は正しい判断ができるだろうか?我が主の旧友であり、この地の安定を望んでいる人。それはその時代に住んでいた者たちの悲願であるため、私は信頼することでしかできていないが、心はどの時代もうつろな物。変わってないとよいが……。


 部屋でゆっくりしていると、小さな入り口から、コンコンと、壁を数回たたく音が聞こえる。


「はい?」


「おはようございます。朝食をお持ちしました」


 幾分か早い食事、朝日が昇り始めたタイミングにできるだけ合わせた食事が用意された。


「早いな。何時もこの時間に?」


 持ち運ばれた木の食器と、肉料理に、葉で包まれた魚料理。最後に飲み物を置いて、そのまま何も言わずに下がってゆく。給仕係は忙しそうな足取りだ。

 再度目を通す。果物と獣の肉、半分にちぎられた魚……半分にちぎられている事に、考えをとがらせる必要があった。何せ夜に渡した魚は6匹持ってきていた、足りないなら出さなくても、少しは日持ちするはずだ。

 半分で出せば、なおさら変だと思うことだって明らかなもので……そう見せている。


 優しいエルフの族長は、決して愚かではないが、優しさが彼女の邪魔をしてしまうのは事前に聞いていた。必要であれば、手伝ってあげて欲しいとよくわからなかったが伝言をお願いされたほどだ……これはその迷いの見え、判断するべきか?


 少し怖がらていたのか、給仕に礼を言いそびれたが、朝食だ「いただきます」と、言葉を静かに発しながら焼き魚を慎重に頂く。

「何もない」初めにどうしても手を付けたかったのは、何かあるのではないかと思っていたのもあった。そんなわかりやすい内容を探したかったが、そういった事ではないようだ。

 小さく空いている穴は、朝日を差し込んでくれている。朝日を拝むのではなく、朝日の線を感じ取るように、ゆっくりと眠っていた頭を動かしてゆく。


 小さな二つの飲み皿には水と、酒。朝からいただく必要はないが、これも何故。優しさと、引き離せない思いがある事。やらないといけない事を知っている。その不安感を教えてくれている。

 酒……。


 入り口近くにいた、見張りに声をかける。


「どうした。何かあったのか?」


 昨日の夜、私の見張りは女性だと思っていたが、男性だったようで硬い感じを思わされる。


「すまない、酒は何の時に飲むものだ?」


 何となく用途を聞いてみることにした。普段であれば、貴重な物。祭りなど、それ専用の製造場所がない限り造りは多くない。

 私の村でも、多くは出回ってない事もあるために、貴重さがよく理解できる。

 男は笑いながら「あぁ?なんだそういう事か」と一言おいて、ゆっくりと壁に寄りかかりながらしゃべり始める。


「それは、基本祭の時だな。もしかしたら、あなたが来たから歓迎しているかもしれないな……まぁ、欲を言えば、本当は好きなときに、好きなように飲めるのがいいのかもしれんな。俺は好きだし、そのほうがいいな」


 良く喋る監視だ。エルフはもう少し無口なイメージが実はあった。あまりしゃべることがない事もあったが、何かを守ることで、役割を果たしている印象だった。こういった良く喋るやつは、印象とは違うな。


「不思議な奴だ。お前、私の監視か?」


「たぶんな。もともとこういった性格でね。自分では気に入ってるんだがね」


 しれっとしているが、崩すことのない身なりに姿勢の良さ。動ずることのない受け答え。気になって小さな廊下を覗きに行くが、他に見えるエルフはいない。男が手を振って、軽い挨拶をされるぐらいで、周りのエルフがいない事は、彼は私に任される理由があるという事。質問をしてみるか。


「狩りでは大きな獣を狩ることはあるか?」


「たまにな。おっかねぇ奴を狩ることがある……そん時は、さすがに怖かったなぁ。獣も見た目によらないって事かもな」


「その時、目的があるだろ?酒は初めに飲むのか?」


「そうかもな。だけど……」


「だけど?」


「やっぱり、酒は飲みたいときにのめ、」


「それはいらない」


 答えか。礼を言い残し、酒以外の朝食を手早く腹に入れた私は、身支度の準備をする。長槍はご丁寧に部屋を出る場所にかけてある。

 言伝なのだな……エルフは自然界の中では相手にするのは厄介。下手をすれば簡単に殺されてしまう……うまくしろよと言う事か。

 迷いを無くすために正座をしながらゆっくりと時間を待つ。鳴るはずだ。音か?流れか?あるいは別の事でわかるはずだ。


「なぁ、あんた」


「私か?」


「今返事して話してんだから、あんたもわかってるんだろ?……そうだろう。生き物ってのは、感情がどうしても来るよな」


「そうだな。だが、私たち役割を持つ者は、その感情を後回しにすることが多いいが……貴様は違うように見えるようだが?」


「どうかなぁ?かなぁ……家族ってエルフにとってはすごい広い区分でよ。信頼できる奴や、恩があるやつ、一度受け入れたものは見捨てはしない。それはどんな小さくてもだ。だからこそ、偉大な母は、優しい事でそれでよく迷う」


「族長の話か」


「それで、感情はどうしても愛情が深いのか、自分から切り離すのが下手なんだろうな。スパッと決めればいいと思うこともあるが……それはきっと生物としてはいけないんだろうな。それか、俺が男だからか、雑多な考えを好まないってだけの事か。あんたは、手放せるか?」


「個人によるかもしれないな……で?何が言いたい」


「つまり、どんな奴でも、どんな立場でも、何で迷うかはわからんが、誰でも迷ったり、困ったりするって事が伝えたい」


「当たり前のことだが」一度ため口は「覚えてくれよ」と会話を立つように小さく切った。

 その直後に、トタトタと軽い足音と魚の匂いが近づいてくる。軽い会話が聞こえる。


「スミ兄様。お魚と言うらしいのです!私だけ頂いては何ですし皆さんにお配りしてます……良ければ一口どうですか?」


 甘えたような声が入り口から聞こえる。一口軽く食べたのだろう「うまいなぁ」と声が聞こえた時、足音は何処かへと離れていった。


「ハハッ、なぁ!いい子だろ?あれは、俺の妹でもあり、皆の、妹だ」


「すまない、見えていなかった」


「凛々しくて可愛いんだって、狩りもできて剣術もできる。いい子なんだ、覚えといてくれ」


「……エルフはどれもきれいで、見分けがつかないが、覚えておこう」


 みんな自分の仕事を全うしているのか、私もうまくできるだろうか。不器用な私だが、不安があったのか、私のほうからこの男に声をかけていた。どことなく安心感がる不思議な男に、良い回答が返ってくると思っていた。


「聞いていいか?」


「今更だろ?」


「私はどうなると思う?」


「さぁな、そういうことは誰も、教えちゃくれないしな」一言おいて、沈黙した中で言葉は続く「……そういえば、誰もが役回りを持ってるって母様はよく言うな、あんたはどう思う?」


「私はその役回りでここにいるんだが、それでも聞くのか?」


「はは、バカにしたいわけじゃない。誰でも持ってていいもんで、けどその役周りは、時に嫌な事や良くない事へ行くことがあるもんだ」


「?」


「嫌な役回りの時は、場合によっては危険で、そうならないように、俺はよく頑張るんだよなぁ。できる限り良いほうへって、持っていけるようにさぁ……そうやって生きてる」


 何も言ってはくれてなかったが「全うしろよ」と、言われてる気がした。

「そうか。私は今回の役周りは、どぅ」一言続けようとしていたが、男は簡単にあしらいながら廊下で横になり始める。私の声を聴く気はないようで「そうだった。俺の役回りは、さぼる事……眠れるっていい役回りだよな?」つぶやいたと思えば「ぐががー」と棒読みで寝始める男をしり目に、一人、広間で食事をしている男が見える。その男はエルフのような耳はなく、若く小さい。


 見張り役の護衛が職務を放棄する、普通はあり得ない事だ。となると、これが合図なんだ。直感的にもわかる、この場所に居ない風貌の男。男が動く前に、動かないといけない。考えるのはもうおしまい、私は残っていた酒を飲みほし、礼を器にして、長槍を持ち入り口の広場に向けて歩き出す。


「不器用は、どうやら私だけではないようだな」


 途中寝ている男を横切るとき、小さく言葉を残したことで、少し笑われた気がしたが、振り向くことはしなかった。

 広間からは、どもるような問答が、言い訳をするような声が聞こえる。

 ここで『出ろ』って言われているようだ。嫌な厄介ごとを任されたものだと、内心思いながら注意を引くように、槍の音を響き渡らせる。喋ることは、男と話していて何となく決めていた。



「おはよう!素敵な歌で目覚めれたことを私は、とてもうれしく思っている」わざとらしく、大きく言葉を発するように、私は彼の前に立つ。

 お願いされていた少年にあったことはなかったが、何となくわかった。初めて見る感じの少年は、どこかあったことがあるような、不思議と懐かしい感じで私は見ていた。



――――――やぁ、初めまして……元気かな?


 私は、引けない物語の流れを作ったことを、自覚した。

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