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エルフの母 プロローグ

―――――――新月の夜。約束の日が近づいている。満月までに、里へと送ると、約束をしている中でさえ、私はこの時間を失うことを拒んでいた。


 心で感じ、今を懐かしむように、「あの日から、だいぶたったわね」と、静かさに身を寄せながらも、頭の端に焦りを感じていた。

 数週間の時間を経て、あの子の体調も良くなった。初めは心配ではあったものの、回復速度は想像を超えていた。

 見えない月を見るように、今夜も、静けさが、鳥たちなどの獣の声を押し殺し、食料を求めて徘徊する獣の声へと変わっていく。そこは、人の声はなく、ただ朝日を待つ。

 そんな日は日々でさえ、時間の変化を教えてくれるのに、私は、この時間が長く続く、心のどこかでは「そうなればいいのに」とさえ思っていた。


 拒みながらも、私は約束を思い出していた。復唱するように、新月が来たことで「次の満月までに準備をしたいから」と、引き渡しを約束している事が、頭の中で思い浮かぶ。

 私は、家族は大切な存在だと思っているわ。それは、どんな役目を持っていたとしても、その人物が信頼できるのであれば、私は……その子を信じると、私自身がそう信じている。


「お母様、」


 深夜、見回りの者だけが、地形を利用して、あたりに散らばっている時間。小さい声で私の元へと、呼ぶ声は、闇夜に溶けるような、かすかな声で我が子が訪ねてきた。


「あら?どうかしましたか?」


 私は、この声が深夜で来ることを、拒んでいた。わかっていたわ、来てしまったのね。遠方からの、受け渡し人は、約束を果たすべく、足を運んできているに違いない。


「里の外で、不審な里の近くでただ立っておりまして、怪しく聞いてみたところ、お母様を尋ねに来られたとの事。こんな時間に怪しく思い、追い払おうとも思いましたが、念のため聞いてからでもと」


「来たのね……」


「約束がおありでしたか?」


 自分が言った言葉を、一度と目はしたが、言ってしまっているのはしかたがない事。夜に対応ができない事で、返してしまってもいいかもしれない。……無駄でしょうね。

 風貌を聞いてお茶を濁すように、聞いてみることにした。


「はい、長槍を持ち、不思議な服を身に着けています。私たちエルフのような服でも、一般的に知られる人間のような衣装とは違うのが気になります。どうも気になるのが、魔法石を埋め込んでる、へんぴな服を着てきています」


 魔法石を埋め込んでいる、不思議な服。基本的に普通の人ではない事がただ事ではない事を伝えるには十分すぎる情報。わかってはいたけど、確証できてしまった。

 静かに考えている中「お母様」と、少し困って待っている声が私を焦らす。


「そうね。約束をしていたの……けど確信がないから、腕よりの子を数名、その人を囲って私の元まで呼んで欲しいわ。良ければだれにも感づかれず、静かにゆっくりと、案内してちょうだい」


 簡単な返事を残して、私は去る子を見ながら「来なければいいのに」とも心の奥から思っている。彼女の事は、初めて会った時の印象が良くなかった。一方的な言葉を言伝に、人の意見を聞かないあたり、私はきっと彼女の事を好きではない。内心で何を考えているかわからない。

 ただ、その役目に準じているために生きている者たちとして、私たちは喧嘩をしていいわけではない。

 鼻を鳴らすように、肩を降ろしながら、ため息がこぼれる。

 外で、小さな明かりが、物音を立てず近づいてくる。


「来たのね」


 考える時間も本来は必要ないのでしょう。私の考えをまとめる必要がないとばかりに、時間は過ぎてゆく「お連れしました」簡素な声は、時間の残酷さを教える。


「どうぞ」


 返事をし、そのまま中へと案内される。6人に囲まれながらも、けっして動じていない女性は、私の前まで歩き続ける。私の視線と合わせながら、目をそらすことはなく、自信に満ちた、あの目は、あの女性に似ている。


「ようこそ。初めましてですね。こんな時間での来訪は珍しい事。時間にあった用向きがあることを、教えていただけるかしら?」


「初めましてエルフの母。この里の族長であり、我が主の友であるとお聞きしてここまで立ち寄りました。新月の約束を告げに来た……無粋ながらそう伝えるように頼まれました」


 後ろめたいことは、何一つないと言わんばかりの言葉に、本質を隠しているあたり私の認知の確認をしているのね。


「まがいなりにも、あなたは受け渡し人。主の威厳を落とすことは必要ないと思うわ。隠さず聞きましょう。貴方は、預かりに来たのね?」


「違います。もらいに来ました」


「物の話はないわ。お引き取り願うしかないわね」


「わかっているはずです。私が来た意味を。そして受け取る意味も。意に沿わない話し合いは、この約束に必要ない事も。こちらも役目で動いています。役目を知り、長年役目を務められたエルフの方々は、その意味を無下にしない賢明な方々だと認識しています」


 強く出て、嫌味ではなく、真実を突き付ける勇猛さ。その強さは間違っていないと、人の甘い考えを無下にする。貴方の従者ね、本当に。


「話し合いでこそ私は望んでいます。私の役割があるので、お役目を、果たされる事を望みます」


「そうよね」


 曖昧な返事を続けながら、何かいい方法を考えていた。だが、あの子の従者は、従順だ。


「渡していただかないと、私はここで、ひと騒動起こさないといけなくなる……それはお互い、いやでしょう?」


「はぁ、どこまでもあの人にそっくり。元が良くなかったのね。性格を受け取るにあたっての」


「馬鹿にするほど、落ちぶれましたか?」


 ムッとくちを閉じて、少しイラついていたのかと思い深呼吸をする。それっぽい理由で、夜を終わらせましょう。こちらがいいように終われるなら、私はそれがいい。


「……いいでしょう。けどあの子の意見を聞いてからにしましょう。あの子は生きている。私たちの意見だけではいけないはずよ」


「そうですね。私も交渉に来たので意見は尊重しています」


「では、お客様の部屋に案内させましょう。明日の昼頃、あなたにお伝えしましょう」


「ありがとうございます。では、こちらはお土産です。良ければ口に入れてください。珍しいものですので」


「懐かしい。好みは変わってないようね」



 周りの子たちに、彼女の護衛と言う監視をつけ、部屋へと案内させた。後で一人、頭のさえるものを用意しましょう。眠れそうにない夜が、私をざわつかせる。

 近くで気にすることなく、ゆっくりしている我が子に声をかける。


「ねぇ」


「どうしました?偉大な母様」


 男の嫌味は、今の私を馬鹿にするように聞こえる。それを制止しないと困ることは分かっていた「あなたも、このタイミングで困らせないで」


「で、どうしました?」


 簡単な返事は、私を困らす。どうしたといわれると、正直わかっていたから「どう見えたかしら」濁す言葉は軽い返しを生ませた。考える物ばかりだと思っていたが、くちの周りが速いもので、すぐ返答が来た。


「素直ですね。まっすぐでいいと思いますよ?」


「そうよね。それがわかってるのに、貴方がもう少し機転を利かせて報告に来てくれれば……」私の愚痴が来ると思っていたのか「俺が悪いわけないでしょう。ゆっくりしてたんですから」


「あなたねぇ」


 言葉を続けるのではなく、目を閉じて、今日の私もよくなかったことは理解できていた。落ち着き、今、必要な事を整理しながら伝える。


「いいわ。明け方、監視を交代しなさい。こういった時、頭が回る人が必要よ」


「えぇ~」と、いやそうな目で言いながらも簡単に外に戻っていく姿を見て、了承したことは分かった。「もう少し、母に優しい言葉をかけてもらってもよいのだけど」心で言いながらも、迷っている頭が私を眠らせる事はなかった。



 あの日。目が見えて、純粋な言葉を思い出す。



―――――――「叔母様!」


「どうしたの?」

「この光って見える風のようで、流れてるこれは何ですか?」

「光って見える流れ?」


 指をさしている先にあるものは、いつもと変わらない風景。感じる事を試みてみようとするが、目で見る事はかなわないその空間。紐解こうと、再度聞いてみる。


「よく見えないわ。どこかしら?」


「あっちこっちにある、あの流れは何ですか?」


 空気をさしているようで、その先にあるのは何もない場所。私たちが目で見る事ができないもので、ただ純粋に見えている変わった場所。きっとそうなのね。


「それは、きっとマナね」


「マナですか?」


「そう。そこにあって、いろんなことを起こせる物。マナ。貴方はその流れが見えるのね、素敵ね」


「素敵ですか……良ければ、マナって名前で名乗ってもいいですか?」


「どうかしら?いいと思うけど。本当にいいの?」


「ええ。素敵とおっしゃってましたし。良ければ使いたいなと思いまして。ダメでしたか?」


「いいえ。いいと思うわ。素敵よ、マナ」

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